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私の住んでいるアパートが近づく度に、身体がどんどん強張っていく。怜が隣にいてくれなかったら。怜が手を繋いでくれていなかったら。怜の体温を側で感じていなかったら。私は自宅に帰ることすら、叶わなかったのかもしれない。


何かあったらいけないからと、駅前で客待ちのタクシーを拾ってくれた。いつも歩いてるから大丈夫と言っても聞いてくれず、強引に乗る形になった。

視線の先に、私の部屋のあるアパートがあった。

「その、三角屋根のアパートです」

タクシーは静かに停まった。2階の突き当たりが私の部屋だ。黙視出来る範囲では、人影は見当たらない。

「行こう。唯、俺がついてる」
今の私は100%不安でできている。その私にとって、怜の存在は命綱そのものだった。

目を細める怜の顔に向かって、頷いた。行くしかない。

ここでどうして、駐車場から私の部屋の窓を確認しなかったのだろう。私達は迷う事なく、階段を上って部屋の前まで来た。

鍵を出そうと、鞄の中を探る。

「待って、唯。俺の後ろに下がって」
「え?」
「声は小さく。換気扇からカレーの匂い。これ、唯の部屋の換気扇だよな?」

血の気が引いた。換気扇が動いている。微かにカレーの匂いが……する……。

「唯、一度一階に降りるぞ。窓から光が漏れてたら警察呼ぶよ?」
「う、うん……」

足音を立てないように、私達は一階へと向かった。



願い虚しく。私の部屋からは光が漏れていた。
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