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8.
しおりを挟む改札の向こうに洗練の具現ともいえる長身が見える。私の彼氏様だ。怜は私を待たせるということをした事がない。私も早めに動く方だけど、怜より早く待ち合わせ場所に辿り着いたことがない。
彼には待たされているという意識は無いらしい。早めに着いて待ってた方がストレスが無いって言われた時には、なんて出来た人なんだろうと驚いた。
我儘放題だった健二。マウント取ることしか生き甲斐を感じてないだろう疑惑のある理不尽な紗香。この2人に長い時間をかけて私の自己肯定感を下げられ続けてきた私には、怜の気遣いが新鮮だった。
「おかえり」
「へへ……ただいま」
「んー……ちょっと酒臭いか?」
「女子飲みの帰りなんだから。しょうがないでしょ」
改札を出るなり視界が幸せだ。この人の笑顔って浄化作用あるよね。紗香から受けたディスりなんて本当にどうでも良くなる。
肩を抱かれ、怜にくっつきながら歩き出した。明るい時間だったら人目が気になるこの歩き方。今は夜中で人もまばらだから、私も遠慮なく彼の背中に右手を回した。
「ん?唯、ちょっと積極的?」
「人、あんまりいないから」
顔を上げて怜の顔を見上げると、触れるだけのキスをくれた。
「怜⁈」
「人、あんまりいないから。問題無いだろ?」
「え、ちょっ……」
念の為後ろを振り返る。地下鉄の出口に続く通路には私達しかいなかった。
「もう……人が来たらどうすんの」
「もっとしていい?」
にっとわらって顔を近づける怜。何でこの人楽しそうなのよ。
腰に手を回して更に身体を密着させる怜に抵抗しながら歩く通路は、いつもより何故だか楽しい。
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