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6.
しおりを挟むずっと百面相を私に見せつけていた彼は、不意に真顔になった。
「あの日のことは、俺も弁解したいと思ってた。唯ちゃん、聞いてくれる?」
無言で頷く私に、星宮さんは静かに語り始めた。
「あの日、唯ちゃんは脚を滑らせた。咄嗟に俺は腕で支えた。ところが、俺が腕で支えた箇所は唯ちゃんの、その……」
「胸だった」
「そう、胸だった。勿論、俺はすぐに気付いたし咄嗟に離れようとした。でも」
「でも?」
でもって何?どんな言い訳を出すつもりなんだろう。
「でも、あの時唯ちゃんの足は着地してなかったろ?そのタイミングで離れたら唯ちゃんはバランスを崩して怪我をするのがわかった」
あの時の記憶を思い返す。──ああ、確かに、あの時は私の脚先が宙に浮いていた。転倒しようとしている最中なのだから、当然といえば当然なんだけど。
「だから、腕を離すのはまずいと判断した。ただ、その先は俺は判断を間違えた。あの日は酔っていて、正常な判断が咄嗟に出来なかったっていうのは、言い訳でしかないんだけど」
「……だから、ごめん。あの時、本当なら違う方法で唯ちゃんが転ぶのを防げたはずだった」
確かに。あの日星宮さんは強めのお酒を結構飲んでいた。
「──星宮さん。もしかして、本当はお酒、そんなに強くなかった……?」
「うん。でもあの時お酒で唯ちゃんに負ける訳にはいかなくて」
「どして?」
「……格好悪いだろ。口説きたい相手よりも弱い酒飲むなんてさ」
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