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6.
しおりを挟む彼の腕が少し上に力を加えたのを感じた。むにってした。むにってしたよね?間違い無いよね?
助けてもらったけど。でもこれ、怒っていいよね?
彼の腕が支えた私の身体の部分。それはちょうど私の胸だった。助けてもらった一瞬なら仕方が無い。でも、腕の力が上に向いたよね。むにっていう感触が彼の腕に伝わったのが感覚でわかる。
ということは。この人、わかっててやってる……!
「いつまで触ってんですか⁈大声出しますよ⁈」
私の怒りを含んだ声に一瞬怯んだ彼は、私の身体から腕をパッと離した。
「ご、ごめん……!そんなつもりじゃ……」
今ので酔いが醒めたのだろう。彼の表情は軽く青ざめていた。
明らかにわかっててやったよね?人の胸の感触楽しんで青ざめる?少なくとも、私とこの人の価値観はだいぶ違うみたいだ。
「ここで失礼します。もう会うことは無いでしょう」
にっこりと、熟練した営業スマイルを浮かべる。言葉を失った彼の視線を背中に感じながら、駅までの道を大股で歩き出した。
大丈夫。夜の街は案外明るい。酔いの覚めた女が一人、急ぎ足で駅に向かっていても問題無い。
「ねえねえ!どこ行くの?」
うっざ。客引きのホストだ。黒いスーツに金髪の、派手な髪。見たところ20歳前後だろう。
興味は皆無。無視して駅までの道をどんどん歩こうとした。道を立ち塞がられて邪魔だ。
構わず、その客引きを避けて歩き出す。私に向かって何か言っている声が聞こえた。たぶん罵声だろう。水商売の客引き、そろそろ公害認定されないかな。
早く家に帰りたい。
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