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「俺、まだ誘ってもいないのに……。唯ちゃん。もうちょっと俺に優しくできない?」
「ナンパされた女は警戒心が強いものなんです」
営業スマイルの私とは対照的に、星宮さんはわかりやすくしょぼんとした。感情表現が豊かなだけなのか、それとも上手いだけなのか。

どちらにしろ、色っぽい会話にだけはならないようにしないと。ホテルに誘いにくい空気を維持したまま、無事に駅まで辿り着かないと。

居酒屋の入っていた黒いビルは、階段の傾斜が大きい。ヒールを履いている身には手すりが必須なのに、この階段には手すりが無い。ゆっくりゆっくり降りていると、星宮さんが振り返った。

「ほら」
「大丈夫です」
階段の下段から手を差し出すその様。王子様ポジションじゃないの。これも狙ってやっているのだろうか。狙ってやっていないとしたら、この人は天性の人たらしか筋金入りのチャラ男なのだろう。

一段ずつ壁に手を添えて、ゆっくりゆっくり降りていく。よし、あと一段……。

「……っ‼︎」
予想していた所に足の裏がついていない。と、いうことは。今まさに私、バランスを崩して地面に身体が倒れかけている。

「っ‼︎」
衝撃に備えて身を硬くしていた、のだけど。いつまで経っても痛みが来ない。

「……?」
「大丈夫……?」
私の身体は、星宮さんの腕に支えられていた。彼のおかげで、私は怪我をしないで済んだ。ただ……。

「あの……ありがとう、ございます」
足の裏が地面に着地しているというのに、彼の腕は私の身体から離れない。

「あの、星宮さん……。もう、大丈夫、なので……」
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