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epilogue 〜未熟な私達〜

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顔を上げた。そうちゃんと目が合った。そうちゃんの顔を、目を、ちゃんと見たのはいつ以来だろう?

涙が止まらない私を、そうちゃんは胸に閉じ込めた。

そうちゃんの体温に包まれた。ああ、私はまたここに、戻ってこられたんだ。

「そうちゃん、私」
「うん」
「離れたくない」
「俺も」

彼の背中に腕を回した。私を包む彼が力を込めた。

「もう一度……俺の彼女になって、くれないか?」

また目の前がぼやけた。まばたきすると、大粒の涙がひと筋こぼれた。

どうする?私はまた、そうちゃんの彼女として彼の側にいるの?

NOを選んだ場合、私以外の誰かがそうちゃんの腕の中で彼の胸に額を当てることになるんだ。

そんなの、嫌だ。

そうちゃんの目を見る。彼もまた、私のじっと見つめ返した。

一度、大きく頷いた。

もう一度頷こうとしたところで顎に指をそっと添えられた。引き寄せられるように唇が重なった。

ああ、これだ。この感触が、そうちゃんだ。私は戻ってこられたんだ。

唇を離してはまた重ねる。啄むような口付けが控えめな音を立てて、次第に深くなってきた。

「そ……うちゃ……ここ、公園……」
「そんなの、どうでもいい」

私を包む腕の力は、より強くなった。止まらない口付けに、私の脳の奥は溶け始めた。

そうちゃんがいれば、何でもいい。今は、この唇に、体温に溺れたい。
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