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しおりを挟む「──桃歌!」
新大阪駅の中央口改札前に、伊沢くんが私を待っていた。
「久しぶり」
「ああ、久しぶり。来てくれてありがとう」
付き合う前には見たことのない、はにかんだ笑顔を見せられ少し戸惑う。この人、こんな表情するんだ。一瞬にして表情をすんと戻した彼は当然のように手を握ってきた。
私、今日この人にお別れを告げるんだよね。なのに今、手を繋いでいる。ドキドキするというよりは、やっぱり戸惑いがある。手、離したらまずいかな?
「どこか遊びに行く?それとも、とりあえず俺の家行ってみる?」
俺の家、ですって……?俺の家、ということは、伊沢くんの家、だよね?大阪で一人暮らししている、その、家のことだよね?勿論ご両親がいるわけじゃない。部屋で2人っきりになる。そういうことだ。
「い、伊沢くんの、家……?」
「そう。今日桃歌が来るから掃除頑張ったんだよ」
えー……。掃除頑張ったとか言われると断りづらいじゃん。仮にも付き合ってる男女が部屋で2人きりってさ。かなりの確率でそういうことになるよね?てか伊沢くん、自然に振る舞ってるけど狙って言ってる……?そんなこと、無いよね?付き合ってすぐそんなこと、しないよね??
伊沢くんの視線を私の胸元に頻繁に感じた。私の持ってる春物のカットソーはデコルテが開いたものが多い。今日もデコルテが開いたものを着ていた。
しまった。何も考えてなかった。お母さんが洗濯して畳んでくれていた、重なった服の一番上にあったものをそのまま着てきただけなのに。谷間がぎりぎり見えるかどうかの服で、バストのラインが綺麗に出るもの。私のお気に入りだった。だってシャーリングが可愛いから。
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