104 / 237
疼き 6
しおりを挟む「それからは…俺は、本妻である黒瀬の母に育てられた。身綺麗にして、高価な服を着せられ、家庭教師を付けられた。習い事には毎日複数のものに通った。食事をする度にテーブルマナーを叩き込まれてたよ」
彼の表情は見えない。でもその声は自嘲している気がした。
「俺、おふくろの味ってのを知らないんだよ。黒瀬の家にいた頃は家に料理人がいてさ。黒瀬の母はいい人だけど、料理を作ったところは見たことが無い」
「もしかして、あの居酒屋に通ってたのは…」
「そう。おふくろの味ってのを食べてみたかったんだ。料理人のご飯は美味しかったけど、大将と女将の作るご飯には勝てなかったな」
「ねぇ、悠さん」尋ねると、ん?と彼は顔を上げた。さっきよりだいぶ表情が柔らかくなったと思う。
「私の作るご飯は…どうですか?」
「最高。美咲のご飯を食べると安心するよ」
目を細めた彼は一瞬、唇を重ねた。
私の作るご飯が、少しでも彼の心を救う事が出来ていたのなら、こんな嬉しい事はない。
「黒瀬の母の息子…異母兄も同じく英才教育を受けていた。学年が上がるにつれて、塾にも行くようになって。公立中学ではなく、有名私立中学に絶対入れるよう、小学校の高学年は勉強ばっかりしていたかな。黒瀬の名前を持つ者は公立中学ではいけないんだとさ。で、異母兄と俺は2人ともK大の附属中学に入った」
「大変そう…ですね」
「大変だったけど、感謝はしてるよ。異母兄と同じように教育受けさせて貰えたんだからな。高校を卒業するまでは平和だった」
「俺の産みの母が、俺の親権を主張してきたんだ。大学に入った頃だ」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
16
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる