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宵 8
しおりを挟むお財布から千円札を数枚取ろうとする私を悠さんの手が制する。
「今日は俺が誘ったから、いいよ」
「そんなわけには」
「いいから」
彼も席を立つと大将、おあいそと告げた。
店を出て、悠さんと向き合う。
「ごちそうさまでした。また機会があれば。失礼します」
矢継ぎ早に別れの言葉を告げ、軽く頭を下げる。悠さんの返事を待たず、早足で来た道を戻る。彼がどんな表情をしていたかなんて、全くわからない。
営業スマイル、もう解除してもいいかな?
不意に、肩を掴まれた。
「なあ、待てって」
「待ちません」
顔は、強張ったままだ。泣きそうなのを堪えているから、声が鼻にかかってしまう。
営業スマイルが、復活出来ない。振り返って悠さんの顔を見るなんて、できない。
私の前に悠さんが立ちはだかる。
「家まで、送るよ」
「大丈夫です。ひとりで、帰れます」
「さっきは、ごめん。言い過ぎた」
「謝る事じゃありませんよ。私は、男に襲われたそうな女なんでしょ?」
何とか営業スマイルを復活させ、悠さんの顔を見上げる。
心配そうな顔、しないでよ。
頭の中、ぐっちゃぐちゃだ。
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