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草萌え 8
しおりを挟む動揺しない、動揺しない…。
冷静に、冷静に…。
心の中だけで唱え、Tシャツと短パンに着替える。
ダボっとしているけど、これならなんとか大丈夫そう。
ベランダの戸を再び開ける。
「…できました」
ん、とだけ言ってこちらを振り返って口元を綻ばせ、携帯灰皿に煙草を押し付けた。
「じゃあ、出るか」
部屋を出て悠さんが鍵を閉める。エレベーターのボタンから、悠さんの部屋は最上階であったことがわかった。
「では…お世話お掛けしました」
深々と頭を下げる。
「悠さん、お借りした服はどうやってお返ししましょうか?」
「普通に洗濯してくれればいいよ?」
「そうじゃなくて。…私、悠さんの連絡先、わからないので」
「教えてなかったか。スマホ、出して」
メッセージアプリのQRコードを互いに読み合う。
「これで大丈夫だな」
「はい。…悠さん、名字、黒瀬さんなんですね」
「お互い、名前もちゃんとわかってなかったな」
2人してくすくす笑うと、沈黙が訪れる。
「…では、ありがとうございました」
再び深々と頭を下げて、道路に向かって歩き出す。
「なあ、美咲…さん」
「悠さんにさん付けされるの、なんか変な感じですね」
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