一樹の陰

碧 春海

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十九章

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「川瀬、どうしても考えは変わらないのか」
 ハンドルを握る両手に力を込めて坂東が尋ねた。
「折角のお話ですが、キャリア組の人とは仕事どころか、まともに接した事さえもありません。噂では当面その現場経験の全く無いキャリアと二人だけでの捜査になるそうですよね。俺にはとてもそんなキャリアとずっと付き合ってゆく自信はありません」
「確かにキャリアは、俺たちノンキャリアの人間を見下したところがあるよな。有名大学を卒業し国家公務員試験に合格して入庁した途端に、巡査、巡査部長を飛び越して警部補なんだよな。俺のような高卒の人間が一生懸命頑張って手柄を挙げても警部止まりだ。それどころか、警部補にもなれず巡査部長のまま定年を迎える人間が殆どだよな。だからこそ、お前に頑張ってほしい。今回はキャリアとノンキャリアのガチンコ勝負なんだからな」
 キャリアに対しての敵対意識が如実に表現されていた。
「警部の悔しさは良く分かります。全国の警察官の九十九パーセントは我々のような地方公務員で、日夜を問わず市民のために駆けずり回っているのです。そんな中、たった一握りの人間が、自分の威厳を保つために踏ん反り返って捜査の指揮を執り、成功すれば自分の手柄に、失敗すれば部下に責任を押し付けて平気で切り捨て、兵隊としか思っていない我々を踏み台にして出世して行くのですからね。俺だって、そんな奴らに負けたくありません」
「その気持ちがあるのなら、是非新しい部署に行くべきだ」
「しかし、今の俺にキャリアを打ち負かすような力があるでしょうか」
 なぜか大神の顔が頭に浮んで来た。
「それなら俺が保障する。結果的には間に合わなかったが、貴田准教授の危機に気付いたのはお前一人だった。それに、西村副部長の居所も突き止めた実績は誰もが認めているのだ。頼む、俺の望みを叶えてくれ」
 通常であれば有無を言わさず辞令を出せば済むことなのに、川瀬の気持ちを第一に考えてくれる坂東の気遣いが嬉しかった。
「警部がそこまで言われるのでしたら・・・・・・・」
 熱心に語る坂東の言葉に心が大きく揺れた。
「そうか、考え直してくれるのか」
「但し、今自分が担当している事件を解決してからです」
「えっ、何を解決するつもりだ。前にも話したが、松坂雄一は自殺に間違いないし、清水優作、貴田准教授を西村副部長が殺害して、自ら死をもって罪を償ったって事で既に決着済みだ」
「澤田裕司の殺害についてはどうですか」
「確かに、その事件についてはまだはっきりしていないが、亡くなった貴田准教授だったかも知れない。まぁ、それも直ぐに解決できるだろう。だから、お前は何も考えず県警に行けばいいんだ」
「警部はまだ西村副部長が二人を殺害したと考えているのですか。動機はなんですか」
「それは、贈収賄の事実を清水優作に知られ、貴田准教授はおそらく仲間割れに因るものだろうな」
「贈収賄だとすると、昭和製薬側は誰が担当していたと考えているのですか」
「ああ、それは松坂雄一だったのだろう。ああそうか、松坂雄一も西村福部長が殺害したのかも知れないな。でも、その西村副部長も自殺してしまったのだから、まぁ、死人に口無し、証明するのは難しいな」
 中村区から南下して港区へと向かった。
「澤田さんを毒殺した手口や、大神を犯人と見せ掛けて清水医師を殺害した事を考えれば、とても西村副部長や貴田准教授が考えたとは思えません」
「まぁ、その事は後でゆっくりと話し合うとして、目の前の事件について打ち合わせをしておこう」
「その前に、次の交差点を過ぎたところで止めてもらえませんか」
「えっ、何かあったのか」
「ちょっと買いたいものがありますので」
「おい、そんなのは仕事が片付いてからでもいいだろう」
 それでも川瀬の言われるままに車を停めた。
「明日は彼女の誕生日なのです。明日一番でプレゼントを渡してやりたいものですから。すみません」
 顔の前で両手を合わせた。
「分かった。しかし、時間が迫っているから、早くしてくれよ」
「プレゼントをする品物は決めていますので、直ぐに戻って来ます」
 川瀬は頭を下げるとシートベルトを外して勢い良く車から飛び出して行った。
「お待たせしました」
 腕時計を見詰める坂東の元へ息を切らして戻って来た。
「彼女と付き合ってどれくらいになるんだ」
「もう三年になります」
「三年か、一度も紹介してもらってなかったな」
「今度紹介しますよ。奥さんも誘って一緒に食事でもしましょう」
「それは楽しみだな。その前に、仕事をしっかりと済ませなきゃな」
「そうですね。でも、拳銃の密売の摘発なんて初めてです。二人だけで本当に大丈夫なのですか」
「まぁ、ガセネタの可能性もあるし、もし本当だったらお前の手柄に出来るのだからな。なに、もし相手が多ければ、直ぐに応援が来るように手配はしてあるから大丈夫だ」
「拳銃の所持も許可して頂きましたから、いざと言うときには心強いです」
 胸に提げた拳銃を右手で確かめた。
「発砲しなくて済めば一番だがね」
「俺は、上司に恵まれていると本当に思っています。県警の話を断ってこのまま中央署に残りたかったのは、もう少し警部の下で働きたいと思っていたからです。でも、警部の親心も良く分かっていましたから、どうしたら良いか本当に悩みました。でも、もう少し、中央署での最後の事件を解決するまで頑張らせて下さい」
 話が途切れた後、川瀬が神妙な表情で言い出した。
「分かった。心配しなくてもいいさ。渡辺警視正にはうまく話しておくよ」
 車を倉庫の脇に停め、川瀬の背中を叩いた。
「ありがとうございます」
 素直に頭を下げた。
「それじゃ、行こうか」
 二人は車から降りると、坂東を先頭に二つの倉庫を早足で通り過ぎ、三つ目の倉庫では辺りを見渡し気配を読み取ろうとしながら慎重に進んだ。目的の倉庫の入口を注意しながら通り抜けて薄暗くて自分の心臓の音が聞こえそうな静寂の中を、息を殺し一歩一歩確かめるように光が漏れる方向に向かった。目で合図を送られた川瀬は、坂東と別れて大きな木箱と木箱の隙間から覗き込み、胸のホルダーから拳銃を抜いた。
「動くな、鞄を机に置いて手を挙げろ」
 坂東の頷きを待って飛び出すと、黒尽くめにサングラスを掛けた男に向かって銃口を向けた。
「ご苦労様でした」
 男はゆっくりサングラスを外して微笑んだ。
「新宮司一成。どうしてお前が・・・・・・・・」
 川瀬の右手の人差し指に意識が宿った瞬間、左胸に激痛が走り倒れ込んだ。

「臨時役員会議はいつ開かれるのだ」
 中村区にある昭和製薬の社長室。渡辺警視正は、本皮製のソファに身体を沈めて尋ねた。
「明日の午後二時からよ」
 コーヒーカップを受け皿に戻して新宮司紀子が答えた。
「会議には社長も出席するのだな」
「午前中に退院して昼食を摂った後、二階の会議室での会議に出る予定になっているわ」
「まさか自分が社長を解任されるとも知らないでな」
「退院の許可が下りても、社長業務はもう無理よ。暫くは会長職に就いてもらって、いずれは相談役に退いてもらう予定よ」
「楽隠居って事だな」
「お金を使って役員の過半数は抑えてあるから、一成が社長になるのは間違いないわ。そうなれば、あなたには顧問として一成を引き立ててもらうことになるわね」
「しかし、こんなに上手く事が進むとは思っても見なかったな。会議に出られないのが本当に残念だ」
 美味しそうに煙草を燻らせた。
「そう上手く行くかな」
 扉を開けて新宮司正勝が姿を現した。
「あなた」
 紀子は慌てて立ち上がると正勝に駆け寄ろうとした。
「見苦しい、近寄るな。どういう魂胆か知らんが、私の目の黒い内はお前たちに勝手な事はさせない」
「勝手はどっちよ。三十年も前に勘当した和也さんの子供を探し出して跡取りにしようとするなんて、本当に身勝手よ」
 憤慨して新宮司に背を向けて元の席に腰を下ろし、渡辺警視正も社長の椅子から立ち上がって紀子の隣に座った。
「それは仕方のない事だ。後を継ぐべき達也が飛行機事故で亡くなってしまったからな。新宮司の血を絶やさない為には、和也の子供に託すしかないだろう」
「その望みも絶たれた今となっては、せめて新宮司の名前を残す事が最後の仕事。もうあなたの時代は終わったのよ。後のことは一成に任せてゆっくり静養すればいいのよ」
「いいや、最後の、そう最後の手段があるさ。どうせ調査済みだろうが、和也にはもう一人子供が居たのだ。その子が跡を継いでくれれば、新宮司の血も名前も絶えることはないのだ」
「何を馬鹿な事を言っているの。その子は、はっきりと胸を張って新宮司の血を引いているとは言えないでしょう。それどころか、強姦魔の血を引いている可能性が高いのよ。そんな人間を昭和製薬の社長になんて考えられないわ」
「あなたたちにとっては残念な報告ですが、その可能性はありませんでした」
「崇さん」
 声に反応して紀子が振り返った。
「和也さんは、子供が生まれてからもその事を随分気にされていたようです。それで、いつか親子である鑑定が出来るのを期待されて、自分とそのお子さんの髪の毛を残されていたのです。その二人の髪の毛を使って親子鑑定をしたところ、九十六パーセントの確率で親子だと断定されました」
 扉を大きく開いて澤田光洋と優子を招き入れた。
「それで、その子供は誰だったのか分かったのか」
 思っても見ない人物が思っても見ない情報をもたらしてくれて、新宮司の表情も明るくなっていた。
「名古屋中央署の川瀬刑事です」
「はぁ、まさか川瀬刑事が新宮司社長の孫だったとは驚かされました。しかし、その話が本当ならば、尚更川瀬君を後継者と認める訳には行きませんね」
 渡辺警視正が笑みを浮かべて二人の話に割り込んだ。
「どう言う事ですか」
 大神は渡辺警視正の前に腰を下ろすと、澤田親子に隣の席を勧めて新宮司は自分の席にゆっくりと向かった。
「川瀬刑事は、西村副部長と貴田准教授の殺害容疑で今日指名手配されました。まぁ、大きな声では言えないが、川瀬刑事は犯罪者の可能性が高いのだ。そんな男がこの会社の社長になれる訳がないだろう」
「ああっ、そういう事ですか。殺害動機は医療ミスで亡くなった母親の復讐ですね」
「その通りだ。清水医師が残した血液パックから、二人の医師の医療ミスに気付いたのだろう」
「まぁ、西村副部長と貴田准教授の事件の第一発見者でもあり、動機があるとなれば疑われても仕方ないでしょうね。まさか、清水医師も川瀬刑事の仕業なんておっしゃるのではないでしょうね」
「まだそこまでの調査は進んではいないようだが、いずれははっきりするだろう」
「県警の警視正ともあろう人が随分悠長な事をおっしゃいますね。犯人が川瀬刑事でなければ他に犯人が居ることになりますよ」
「堂々と警察の批判をするとは、本当に良い度胸をしていますね。そこまでおっしゃるからには、事件の全貌が分かっての事なのでしょうね」
 皮肉を込めて言い放った。
「七年程前、大神奈津海と言う女性が三人の男に襲われ、抵抗はしたものの男三人には敵う訳もなく結果的に命を落としました。そして、昭和製薬に勤めていた片桐葉月さんも同じ男たちに三人に乱暴され、それが原因で自ら命を絶ちました。渡辺警視正は勿論覚えていらっしゃいますよね」
「・・・・・・・・・」
「三人の内の一人は、西村衆議院議員の孫であり、西村副部長の息子でした。そして、残りの二人は、渡辺警視正のご子息と、紀子さんの息子さんの新宮司一成だったのです。片桐葉月さんの場合は、おそらく新宮司一成が部長と言う地位を利用して呼び出したところを襲ったのだと思います。本当に酷い事件ではありましたが、葉月さんの死によって告訴されることはなくなり、大神奈津海の事件では警察は自首して来た暴力団組員を身代わりと分かっていて逮捕してしまいました」
「まさか一成がそんな事件の犯人の一人だなんて、紀子お前は知っていたのか」
 我慢出来ずに新宮司が大声で怒鳴り付けた。
「勿論知っていました。ですから、渡辺警視正に依頼して事件の揉み消しを謀ったのです。警察内は勿論の事、片桐家には告訴を諦めさせるのは当然ですが、名前がマスコミなどに流れないように甘い誘惑と脅迫に近い言葉で圧力を掛けたのです。それに、会社内では紀子さんが伯父さんの耳にも入らないように手を打っていらしたのでしょうね。その為に、葉月さんは自分の意思と娘の将来を思う両親の板挟みに苦しみ、自殺と言う道を選ばざるを得なかったのです」
 葉月の笑顔を思い出し、涙が溢れて来て思わず上を向いた。
「自分の息子とは言え、そんな男を会社の社長になんて、何を考えているのだ」
 新宮司は感情が抑えきれず右手で机を大きく叩いた。
「片桐葉月さんには、同じ会社に勤める将来を約束していた恋人が居ました。総務部経理課に所属していた松坂雄一さんです。松坂さんは自分の会社の重役ではありましたが、亡くなった葉月さんから犯人の一人だと聞いていた新宮司一成の不正行為をについて調べ、億単位の使途不明金を発見しました。そのお金の一部は、新薬が承認される為に必要な臨床データーなどに便宜を図ってもらった見返りに西村副部長に渡ったり、そのお父上である西村衆議院議員の政治資金にも使われていました。勿論、色々な意味で協力していらっしゃる渡辺警視正も相当な金額を手にしていらっしゃる事でしょうね」
「何を馬鹿な事を、名誉毀損で訴えられたいのかね」
「まぁ、そんなに興奮しないで下さい。あなたに聞いて頂きたい話はまだあるのですから」
「冗談じゃない。私を愚弄する話などに付き合っている暇はない。失礼させて頂く」
 渡辺警視正は大神を睨み付けて席を立つと、出口へと向かった。
「弁解があれば聞きましょう。名誉毀損で訴えるのであれば受けて立ちます。しかし、今この部屋を一歩でも出れば、自分自身で不正を認めた事になりますよ」
 大神の言葉に、渡辺警視正渋々席に戻った。
「松坂さんは、使途不明金の全容を調べ上げると、その資料をどのように使えば良いのかなどを信頼する人物に相談したのです。そしてその人物は、仕事が終わった後で会社の屋上で会う約束をして、やって来た松坂さんを屋上から突き落としたのです」
「その人物、松坂君を屋上から突き落とした犯人は誰なのだ。会社の関係者なのか」
 堪らず新宮司が尋ねた。
「その人物は松坂さんだけでなく、澤田裕司さんの事件にも関与していました。紀子さんに依頼されて、新宮司和也さんの二人目の子供についても調べていたのです」
「澤田裕司君が和也の子供と分かったのは、裕司君が亡くなった後の事。確か、間違って殺害されたのだったな」
「伯父が言うように、裕司さんは和也さんの友人である澤田光洋さんの子供であり、随分前からリストアップされていたのにも関わらず、戸籍上では澤田御夫妻の実子となっていた為に除外されてしまいました。そして、裕司さんが亡くなってしまった後で、西京大学の小雑誌のプロフィールに載った澤田夫妻の血液型から、裕司さんがお二人の子供ではないことが分かったのです。しかし、松坂さんを殺害した人物は、その小雑誌が発刊される以前に、内容を知っていた可能性があります。その上、名古屋城北大学の関係者や同僚から裕司さんの事を聞いて、裕司さんが村正の短刀を所持している事を突き止め、裕司さんが和也さんの子供であると確信したのです」
「まさかその人物は・・・・・・」
「はい、島田邦夫さんです」
「どっ、どうして島田がそんな事を」
 大神の言葉ではあったが、信じられなかった。
「島田さんのお孫さんは、先天的な心臓疾患で心臓移植でしか生きる望みはなかったそうです。残念ながらまだまだ日本国内でのドナーの数は少なく、特にお孫さんの心臓に適合する心臓を待っている時間もない事から、アメリカに渡ることになりました。しかし、それには莫大な費用が必要で、とても島田家が用意出来る金額ではありませんでした。そのお孫さんの病気の事を知った紀子さんは、手術に掛る費用を出す代わりにと島田さんに、話を持ち掛け残念ながら紀子さんの企みに手を貸してしまったのです」
「すると、薬瓶の摩り替えも」
 紀子を睨み付けて新宮司が尋ねた。
「多分、島田さんだと思います。ただ、毒物が入っているとは知らされていなかったと思います」
「孫の為とは言え、私を裏切り慕っていた松坂君を殺害するとは・・・・・・」
「僕も信じられなくて島田さんについて調べてみると、二、三ヶ月程前から体調を崩しておられまして、以前から親しくさせて頂いていた島田さんの奥さんに直接お聞きしたのですが、末期のすい臓がんだそうです。自分の余命が殆ど無い事を知って、悪い事とは知りながら紀子さんの言いなりになる道を選んでしまったのです。それに、先程屋上から松坂さんを突き落としたと言いましたが、島田さんは松坂さんを呼び出しただけで突き落としてはいないと思います」
「ただ、犯人に利用されただけなのだな」
 新宮司は念を押した。
「その事実については、何れ犯人の口から語られると信じています」
「それはどうでしょうか。今までの君の話を警察が信じるとは思えんがね。全て君の戯言で、それを裏付けする証拠は何も無いからね」
 渡辺警視正はふてぶてしく言い放った。
「それでは、その戯言をもう少し聞いて頂きましょう。次は清水医師の殺害についてです。清水医師は、偶然萩原幸子の自己血パックを発見しました。そして、自分が担当していた荻原幸子さんの自己血が無くなっている事を知りました。清水医師は、萩原幸子さんの手術の際に血液パックを間違えたのだと直ぐに気づきましたが、病院や手術を担当した西村副部長や貴田准教授の為にも一旦は事実を公表する事を躊躇しました。しかし、その自己血パックを病院から持ち出した清水医師は、姉の経営するレストランに隠れファンでもあり院外者でもあった推理作家の碧春海に託そうとしたのです」
「荻原幸子さんの手術には、保存してあった血液パックのラベルを張り替えて医療ミスが発覚しないように細工をしたのです」
 優子が補足して答えた。
「川瀬刑事は萩原幸子さんの自己血パックを見た瞬間に、自分の母親の手術に医療ミスがあった事を確信しました。その一方、母親の死に疑問を持ち、何度も押し掛けて来た川瀬刑事に悩まされていた西村副部長と貴田准教授にとっては、自己血パックを持ち出していた清水医師の存在は脅威でした」
「先日、大神さんと私は、病院内にある清水先生の研究室の電話機の中から、盗聴器を発見しました。犯人は、病院内で清水先生の行動を監視すると共に、盗聴器を使って殺害のタイミングを計っていたのです」
「僕は、清水医師が亡くなる前日に電話を掛けて、殺害現場となった自宅で会う約束をしました。盗聴で得ることが出来た二人の会話は、犯人にとって千載一遇のチャンスだったのです。当日犯人は、近くのホームセンターで買ったナイフで清水医師を殺害した後、何も知らずに訪れた僕に薬を嗅がして気を失っている間にそのナイフを握らせ、ご丁寧にレシートをポケットに押し込んだのです」
 反論はありますかと言う表情で渡辺警視正を見た。
「それは、盗聴していたのは貴田准教授で、その話を川瀬刑事に・・・・・・」
「母の死に疑問を持っていた川瀬刑事とその手術を担当していた貴田准教授が、手を組むとは考えられないでしょう」
「・・・・・・・・」
「川瀬刑事がこの事件に関与していないとすると、貴田准教授の犯行なのでしょうか。いくら油断をしていたとは言え、貴田准教授が僕を羽交い絞めに出来たとは思えません。それに、羽交い絞めにしていた当人がどうやって僕に薬を嗅がす事が出来たのでしょう」
「西村副部長と二人で君を襲ったのかも知れないな」
「貴田准教授がその場に居たのは間違いないと思いますが、残念ながら西村副部長はその時間、医師会の定例会議に出席されていた事が確認されています。つまり、清水先生を殺害した犯人は二人以上で、貴田准教授の他に僕の体格と同等かそれ以上で格闘に慣れた人物一人は居たと言う事です」
「まさか、一成では・・・・・」
 新宮司は心配そうな表情で大神を見た。
「安心して下さい。一成さんは清水医師の事件には関与していません。そうですよね、紀子さん」
 紀子は、大神の問いに答えることなく横を向いた。
「犯人は清水医師を殺害して、その罪を僕に負わせるつもりだったのですが、その思惑は外れてしまい直ぐに釈放されてしまいました。そして、自分の身を守ろうとしての事ではありましたが、殺人に加担した貴田准教授は、次第に良心の呵責に耐えられなくなって、自首をすると言い出したのではないでしょうか。そして、慌てた西村副部長は、清水医師の時と同じように貴田准教授の処分を渡辺警視正、あなたに依頼したのです」
「もう結構だ。どうせ、その西村副部長も私が殺害したと考えているのだろう。何の権利があって私を侮辱するのか知らないが、ただでは済まないな」
 言葉は穏やかではあったが、敵意に満ちていた。
「その覚悟が無ければ、こんなに偉そうには言えないでしょう」
「大体、どうして私が西村副部長に依頼されて、貴田准教授を殺害しなければならないのだね」
「まさか、西村副部長をご存じないって事はないですよね」
「それは・・・・・・・・」
 渡辺警視正の頭の中で、認めるか口を閉ざすかの葛藤が起きていた。
「あなたの奥様は西村副部長の妹。つまり、あなたと西村副部長は義兄弟ですよね」
「良く調べたものだ。いくら義兄弟と言っても、殺人を依頼されはいそうですかと受ける訳が無いでしょう。私は警察官ですよ。それに、妻の兄である西村さんをどうして殺害しなければならないのですか」
 大神を睨み付けて答えた。
「これは噂なのですが、あなたの義父である西村厚生労働大臣は勇退を考えていらっしゃるそうですね。もしそうであれば、誰が西村大臣の後継者になるのでしょう。子供は二人で、まず考えられるのは長男の西村副部長でしょうが、残念ながら亡くなってしまいました。次に考えられるのは長女の和美さんですが、専業主婦であり全く政治には興味が無いとすれば、その夫である渡辺警視正が最有力候補となるのは間違いないでしょう」
「何を言うかと思えば、ばかばかしい。義兄である西村副部長が亡くなっても、西村先生にはお孫さんがいらっしゃいます。娘婿とは言え、他人の私を後継者にする訳がない」
「まさか、婦女暴行事件の犯人が国会議員ですか。厚生労働大臣まで務められた西村代議士が、そこまで国民を愚弄するとは思いたくありません」
「西村先生から念書でも頂いていれば話は別ですが、私がそんな僅かな可能性の為に殺人を犯すなんて馬鹿ではありませんよ」
「勿論、自分の手を汚すような馬鹿な真似はしないでしょう。それに、本当に僅かな可能性だったのでしょうか。四十年程前、西村厚生労働大臣は先代の西村代議士事務所で秘書として働いていらっしゃいました。先代の西村代議士には後を継ぐ息子さんはいらっしゃらなくて、一人娘の婿が後継者になると言われていました。当時、西村厚生労働大臣は紀子さんと付き合っていらしたのですが、父親の西村代議士に認められて婿養子に入る事となり、紀子さんとは別れ晴れて後継者となり厚生労働大臣へと登り詰めたのです。ただ、西村厚生労働大臣にとって大きな誤算がありました。別れた紀子さんが妊娠されていたのです。当然、西村厚生労働大臣は堕胎を勧めたのですが、紀子さんは出産する事を選びました」
「それが、一成なのだな」
「そうです。紀子さんは一成さんを産んだ後、伯父と結婚されるのですが、紀子さんを紹介したのは誰だったのですか」
「西村だったが」
「隠し子が居たと分かれば、婿養子としては辛い立場になりますからね。口封じを兼ねて伯父に引き取ってもらったって事でしょうか」
「確かにその意味もあったのだろうが、別に強制された訳でもなく紀子の事を気に入らなければ断る事も出来たのだ。しかし、その時私も妻に先立たれ寂しい毎日を送っていたし、紀子と付き合う事に支障はなかったからな。それに、紀子の事を愛することで、あいつが救われるのならそれも良いと思ったのも事実だ」
「友人の代議士になると言う夢の為に、彼女とその子供を引き受けるなんて本当に涙ぐましいですね。まぁ、厚生労働大臣になられて、伯父に少しは恩返しをされたのでしょうから、会社にとっては伯父の行為は間違っていなかったのかも知れません。しかし、一成さんの血液型がAB型で紀子さんはA型、そして西村厚生労働大臣もA型だったとしたらどうでしょう」
「えっ、まさか、一成は西村の子供じゃないのか」
「伯父も西村厚生労働大臣もまんまと紀子さんに騙されていたのです」
「それじゃ、一成は一体誰の子供なんだ」
「渡辺警視正は、一成さんを昭和製薬の社長にするために随分ご尽力されていらっしゃいますね」
「一成の父親は渡辺警視正なのか」
「親子鑑定をすれば分かることですが、今回の一連の事件の根元がそこにあるのだと考えています」
「素晴らしい」
 大神が話し終えるのを待って、渡辺警視正が一人大きな音を立てて拍手を送った。
「何の根拠も無いのに、想像だけでこれだけの話を作るのですから、推理作家も侮れませんね。ただ、残念なのはその推理を裏付ける証拠が全く無いと言う事ですね」
 大神の話を聞いている間に平常心を取り戻した渡辺警視正は、自信を持って言い返した。
「崇さんだから我慢して聞いていたけれど、いい加減にして頂戴。渡辺さんは愛知県警の刑事部長なのよ。それをまるで犯人のように言い放つなんて失礼でしょう」
「刑事部長、警視正。そんなに偉いものなのですか。正義感とか誠実さなど人間性を評価しての階級であれば尊敬もします。しかし、そうでなければ、ただ単に警察機構の中の順位付けでしかありません」
「それは警察に対する挑戦と受け取ってもよろしいかな」
「死人に口なし、証拠が何も無いと確信して、随分強気に出られましたね。しかし、松坂雄一さんは、恋人であった片桐葉月さんの妹が刑事と付き合っている事を知っていて、自分が集めた証拠書類を片桐弥生に送っています。当然その書類は川瀬刑事に渡り今も保管しているようですから、まずはそこから捜査を始めれば次々と証拠も証言も得られると思います」
「川瀬刑事ですか・・・・・」
「えっ、まさか」
 渡辺警視正の微笑みの意味を察して最悪の事態が頭に浮かんだ。
「先程も言いましたが、川瀬刑事を一連の事件の容疑者として指名手配しているのですが、ちょっと不手際がありまして川瀬刑事は拳銃を勝手に持ち出していまして、ひょっとすると新宮司一成さんを復讐の為に殺害するのではないかと心配しているところです」
 渡辺警視正は言い終えるともう一度微笑みと、部屋の掛け時計に視線を移した。
「それが分かっているなら、一成さんの居所を突き止めて川瀬刑事の復讐を阻止すべきでしょう」
「それは大丈夫です。坂東警部が一成君の護衛をしていますから」
 携帯電話を取り出して眉間に皺を寄せた。
「どうかしたのですか。何処からか連絡が入る予定なのですか」
「あっ、別に」
 渡辺警視正が無造作に携帯電話を胸のポケットに押し込んだその時、大神の左胸の携帯電話が震えた。
「ちょっと失礼します」
 今度は大神が胸のポケットから携帯電話を取り出して右耳に当てた。
「はい、大神です・・・・・・・そうですか、お疲れ様でした。例の件よろしくお願いします」
 大神は息をゆっくりと吐いて、携帯電話を胸のポケットに戻した。
「私も色々と忙しいものですから、これで失礼させて頂きます」
 これ以上付きあい切れないと、渡辺警視正がソアァから腰を浮かせた。
「もし仮に、川瀬さんが罪を犯していたとしても、もう一人新宮司家の血を引く人間が居ますよ」
「私を引き止める為に必死ですね。しかし、新宮司社長に隠し子でもいない限りそんな事は有り得ません。それに、新宮司家の血を引く明確な証拠が無ければ役員だって納得しないだろう」
「新宮司和也さんが亡くなり、奥さんは二人の子供を手放す決心をしました。長男の萩原浩一さんは、親戚の家に引き取られ川瀬と苗字を変え、もう一人の乳飲み子はご存知のように和也さんの友人であった澤田光洋さんに託されました。澤田さんの家は、当時病院を経営されていましたので、医師であれば戸籍にも実子として載せることが出来るのではないかと考えてのことだったのかも知れませんが、新宮司家の証として和也さんが実家から持ち出した村正の短刀の一振りを一緒に残したのです」
「村正の龍と虎。いつか必ず巡り会えると言う伝説を信じて子供に託したのだろうが、生きて遭うことは叶わなかったようだな」
 新宮司が肩を落として付け加えた。
「西京大学が発行している雑誌の取材を受けた澤田夫妻が、色々な質問を受けた際の血液型について光洋さんはO型、続いて奥様はAB型と答えられたそうですが、その時にAとBの間に少し間があったそうなのです。その時、奥様は何を考えたのでしょう」
「あの、それが事件に関係あるのですか」
 突然、両親の話を始めた大神の意図を計りかねて優子の口から質問が出た。
「想像してみて下さい。澤田裕司さんの血液型はO型で、裕司の妹さんの血液型はB型でした。この取材の質問に答えて光洋さんは何の躊躇も無くO型と答えられました。続けて奥様はAと答えた時点で、娘さんの事が頭に浮かび、もしこの小雑誌を娘が見た時の事を考えてBを付け加えたとすればどうでしょう」
「回りくどい事を言っていないで、はっきりと言わないか」
 新宮司が痺れを切らして怒鳴った。
「実は奥様の血液型はA型だったのです。光洋さんがO型と答えられた時点で、奥様の血液型にBの因子が無ければ娘さんは二人の間からは生まれないことになります。ですから、奥様はAの後に慌ててBを加えてAB型としたのです。そんな些細なことまで気を使われたと言う事は、それ程愛されていたという事なのでしょう」
「そんな・・・・・・」
 優子は信じられないと首を左右に振った。
「しかし、奥様がAB型と答えたことで、今度は裕司さんがお二人のお子さんではないと思われてしまいました。ご夫妻は勿論この記事が息子さんの殺害の引き金になるとは夢にも思っていなかったでしょうから、ショックも大きかったでしょう」
「そうか、和也の子供が二人も・・・・・・・」
 新宮司は感慨深げに優子の顔を見た。
「ああっ、渡辺警視正に紹介するのが遅くなって申し訳ありません。こちらにいらっしゃるのが、澤田光洋さんとその娘さんの優子さんです。新宮司家を継ぐのかどうかは本人が決めることですが、新宮司家の血を引き継ぐ人間が二人は居るということです」
「とんだ茶番劇だ。私にはもう出番は無いようですので、失礼させてもらいます」
 今度は勢い良く立ち上がった。
「どうしても罪を認めては頂けないのですか」
「何度も口説いように言われるが、あなたにどんな権限があって私を犯罪者に仕立て様とするのな」
 渡辺警視正は苦虫を噛み潰したような表情で答えた。
「悪い事を指摘するのに何の権利が必要ですか。もし、警視正として少しでも誇りをお持ちでしたら、今すぐ全ての罪を認めて遺族の方に謝罪すべきです。私は警察官であるあなたの良心に訴えているのです」
 渡辺警視正は大神の言葉には答えず、ただ睨み返すだけだった。
「大丈夫よ。あなたは何も悪い事をしてはいないのだから」
 紀子は慌てて立ち上がり渡辺警視正に寄り添った。
「素人相手に、つい熱くなってしまったようだな」
 紀子の言葉に微笑むと、二人で出口に向かった。
「澤田優子さんですよ」
「えっ」
 大神の言葉に渡辺警視正の足が止まった。
「先程紹介したのは、澤田優子さんです。興奮されていて、思い出されなかったようですね。坂東警部からお聞きになっていませんか」
「まさか、この女性が・・・・・罠だったのだな」
 渡辺警視正の顔が歪んだ。
「優子さんの活躍に因り、あなたと西村副部長の息子さん達二名と他一を先程逮捕しました。でも、驚くのはこれからですけどね」
 大神が言い終えると、扉がゆっくりと開いて部屋に入って来た人物の顔を見た渡辺警視正は、顔を痙攣させ腰砕けとなって床に座り込んだ。
「渡辺警視正。清水医師、貴田准教授、西村副部長の殺人及び殺人教唆の疑いで事情聴取します」
 沈痛な面持ちで見詰める川瀬刑事の眼差しに、渡辺警視正は全てを悟って立ち上がる気力も失くしていた。
「余り遅いので、話を繋ぐのに大変苦労しました」
 大神が笑顔で迎えた。
「申し訳ありませんでした」
 渡辺警視正を立ち上がらせ他の刑事に託すと素直に頭を下げた。
「新宮司紀子さんにも同行してもらって下さい」
 大神は後から入って来た刑事に指示を出し、その言葉に渡辺警視正が振り返った。
「今は休暇で日本に戻っていますが、ABIで仕事をされていたそうです」
川瀬刑事が気持ちを察して答えた。
「FBIだったのか。だから、警視庁、検察庁、警察関係のあらゆる部署を調べても大神崇の名前を見付ける事が出来なかったのだな」
 渡辺警視正が吐き捨てるように言った。
「それは、県警や警視庁の在職者だけを調べられたからでしょう」
「それ以外に・・・・・」
「初めは検察官でしたが、ある人の勧めで研修という形で、暫く国を離れていました」
「まさか、朝比奈か・・・・お前が新設される部署の責任者なのか」
「はい。広域特別捜査班の責任者に任命されました。今回の一連の事件の究明にも参加させて頂くようにお願いするつもりです」
「ふん、出来ればこれ以上関わりたくないな」
 渡辺警視正は向きを変えて出口に向かった。
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