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十八章
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夕方六時を過ぎた頃、優子は夜勤との引継ぎを終えロッカールームで私服に着替えると、待たせてあったタクシーで名古屋中央署に向かった。車内では何度か携帯電話を取り出して受信メールのチェックを行う度に大きな溜息を吐いた。
「あの、川瀬刑事に伝えたい事があって伺ったのですが」
優子は受付で教わった刑事課の扉を開けて女性警官に声を掛けた。
「川瀬は席を外していまして、今日はこちらには戻って来ないと思います」
「そうですか・・・・・」
婦人警官の言葉に肩を落とした。
「あの、川瀬の上司の坂東と言います。私が代わりに伺わせて頂きます」
二人の会話を耳にした坂東が振り返り、優子に近付いて言葉を掛けた。
「あっ、はい。徳川美術館のレストランで亡くなった澤田裕司の妹です。兄の部屋を片付けている時に見慣れない書類を見つけたものですから、担当されていらっしゃる川瀬刑事に一度見て頂ければ、事件究明の手掛かりになるのではないかと思いまして」
「そうですか。それはわざわざありがとうございます。よろしければ私が預かって、明日川瀬に渡しますよ」
「そうですか・・・・・・でも、直接お渡しして、この書類の事について説明も聞かせて頂きたいものですから、また明日出直して来ます」
優子は手にしていた封筒をカバンに戻した。
「何度も足をお運び頂くのも申し訳ありませんので、一度お預かりして書類の説明は後で川瀬からさせます。もし、本当に事件に関係している書類でしたら、犯人が狙っている可能性もあります。あなたの身に危険が及ぶかも知れませんので是非私にお渡し下さい」
坂東は真剣な眼差しで諭すように言った。
「心配して頂いてありがとうございます。ただ、大神さんから川瀬刑事に渡すように言われていますので、もし川瀬刑事に連絡が取れましたら自宅へ来て下さるようにお伝えして下さい。今から自宅に戻りますので、八時以降でしたら大丈夫です」
「その書類ですが、大神さんは既にご覧になっているのでしょうか」
「本当は見て欲しかったのですが、今日は知り合いの家に行くそうで、会う事が出来ませんでした。少しでも早くお見せした方が良いかとお持ちしたのに残念です」
「そうですね。一度大神さんにも見てもらった方が良いかも知れません。それにしても、一人で帰られるのは無用心ですので、私が車でお宅までお送りしましょう」
「ありがとうございます。でも、ちょっと買い物をして帰りたいものですから、一人で帰ります」
「そうですか、それでは十分に気を付けてお帰り下さい」
「それでは、川瀬刑事への連絡よろしくお願いします」
優子は軽く頭を下げると部屋を出た。
「本当に大丈夫かな」
そう呟きながら中央署を出ると、地下鉄の駅に向かって歩き出した。坂東刑部の言葉が頭に残り、込み合った車両の中では周りの人間に注意を払い、緊張した面持ちでいつもの駅の改札を潜り、駅前のコンビニで買い物を済ませた頃には夕闇が街を覆っていた。
「ちょっと遅くなっちゃったな」
コンビニで女性雑誌の特集記事を読むのに思ったより時間が掛ってしまって、携帯の時刻表示は七時五十五分を示していた。優子は、仕方なくいつもの帰宅道を諦めて近道を選ぶ事にした。その道は、明るく人通りの多い大通りを少し外れて、電柱に小さな街灯が所々に灯ってはいるが、全体的には薄暗い住宅街だった。優子は辺りを見回した後、なだらかな坂道を急ぎ足で登り始めた。小さな公園を過ぎ、白壁の和風の大きな家の角を曲がると、大通りの明りが優子の視界に入り歩みを緩め安堵の気持ちから注意も散漫となり、その時を待っていたかのように優子の死角となっていた斜め後方の茂みの陰から、黒尽くめの男が飛び出して優子の背中越しに左の掌で口を塞ぎ右手に持ったジャックナイフを目の前に差し出した。
「お嬢さん、抵抗すると命の保障は無いよ」
男が耳元で囁くと、優子は小刻みに頷いた。
「まぁ、命だけは保障するけど、少しは楽しませてもらわなきゃな」
男は仲間の車を探して大通りに向けて視線を移し、優子は男の言葉が何を表しているのか理解し、これから起こるであろう事態を想像して体が小刻みに震えた。
「助けて」
優子は目を閉じ微笑む大神に願ったその時、口を覆った犯人の左手が左下に離れて行くと直ぐに大きな背中が身体を覆い、大通りから仲間が応援に駆け付けるのを想定して後退した。
「てめぇ、何者だ。女の前だからって、格好付けていると痛い目に遭うぞ」
男は立ち上がるとナイフを持った右手を前にして構えた。
「勿論、痛い目には遭いたくないですが、このまま無事には帰してはもらえそうにないだろうね」
案の定、同じように黒尽くめの男二人が視界に入って来た。
「えっ」
圧倒的に不利な情況に優子は震えが止まらなかった。
「何とか防ぎますので、走って逃げて下さい」
「でも・・・・」
男三人相手に大神が勝てる訳がない。優子はその後に起こる場面を想像してその場を動くことが出来なかった。
「逃げるんだ」
大神は前を向きながら優子の身体を突き放した。
「大神さん」
優子は二、三歩後退りした後、大神に背を向けて走り出した。先程来た道を後ろを振り向かずに必死に戻ると、肩で息をしながら携帯電話を鞄から慌てて取り出し、震えが止まらない右手で11Oを押して耳に当てた。
「あの、今暴漢に襲われて、友達が、友達が・・・・・」
『事件ですか事故ですか』の女性問いに震える言葉で返すのが精一杯で、大神の無残な姿が頭に浮かんで両目から涙が零れ落ちた。
「落ち着いて、場所を教えて下さい」
冷静に尋ねる担当者の声にもパニックに陥った優子はしばらく答えることが出来なかった。そして、その優子の右肩に軽く重みが加わり、覚悟をしていたことではあったが緊張が体中を巡り背筋を凍らせ言葉を無くした。
「あっ」
恐る恐る振り向いた優子の目の前には微笑む大神の顔があり、優子が手にしていた携帯電話を取り上げて優子に代わって犯人の人数と場所を伝えて切った。
「怪我はありませんか」
優子はその言葉を大神の胸元で聞き大きく頷いた。
「怖い思いをさせて申し訳ありませんでした。間に合って良かった」
大神はゆっくりと優子の背中に手を回した。
「まさか、犯人は逃げて行ったのですか」
このままずっと大神に抱かれていたかったけれど、犯人の事が気になり顔を上げた。
「丸腰の頼りなさそうな男一人に、三人でそれもナイフを持つ圧倒的有利な状況でまさか背を向けて逃げ出す人間が居ると思いませんけどね」
「えっ、でも・・・・・」
「悪い事をしたら罰を受けなければなりません。それに、優子さんもどんな男たちが襲ったのか知りたいでしょ」
大神は優子の目の前に左手の掌を上にして先に進むように促し、二人でゆっくりと歩き出した。先程優子が襲われた場所に戻ると、三人の男達は意識を失い仰向けに倒されていた。男たちの両手の掌は標識や電柱を囲んでぴったりと合わさって、親指同士が柔らかなワイヤーで結ばれていた。優子はここで起こった争いを全く想像が出来なくて思わず右の頬を摘んだ。しかし、痛みは直ぐに伝わって来た。夢ではなかったのだ。
「本当に大神さん一人で三人全員を倒したのですか」
「まあ、人間、必死になれば何とかなるものです。それに、見た目よりもずっと弱かったですから女の子しか襲えなかったかも知れませんね。ああっ、パトカーのサイレンが聞こえて来ましたよ」
優子が死に物狂いで走った後、直ぐに警察に携帯電話で連絡している間に追いついたと言う事は、いくら弱いと言っても三人を相手に、それもナイフなどの凶器を持っていた男達を瞬時に倒した事になる。それに、親指だけを結ぶなんて事とても素人では思いつかない事であった。
「兎に角、大神さんが無事で良かったです。ありがとうございます」
優子の言葉に頷き、到着した警察官の責任者に事情を説明した後、大神は携帯電話で何処かに連絡を取った。
「さぁ、行きましょうか」
疲れた表情で公園のベンチに腰を下ろしていた優子に声を掛けて掌を差し出した。
「えっ、何処へ行くのですか」
しっかりと握った大神の掌から暖かさが伝わって来た。
「恐ろしい思いをさせた償いに、優子さんにはプレゼントを用意しました」
「えっ、私にプレゼントですか・・・・・・」
大神の思いも因らない言葉にただ戸惑うばかりであった。
「僕からのプレゼントでは不安ですよね」
手を離して鋭い表情で尋ねた。
「えっ、それって、まさか、全てが大神さんの思い通りに進んだということですか・・・・・物語を描く為には、色々と餌を撒く必要がありますから、私もその餌の一つ」
助けてもらった感謝の気持ちとは裏腹に、その後の自分が想像も出来ない展開や大神と接した今までのことが優子の頭の中を駆け巡り、悪のストーリーを描く賢いもう一人の大神の姿が心に浮かび上がり、それを確かめる為にもどうしても尋ねずにはいられなかった。
「どんな世界であっても、成り上がる為には利用出来るものは何でもね」
見詰め返して大神が薄笑いを浮かべた。
「そうですよね」
肩を落とし目を閉じた優子の両目に暫くして涙が滲んで来たが、それでも何か決心したように頷くと。
「それでも良いです。大神さんを最後まで信じることに決めました。それは騙された私が馬鹿だったと諦めます。でも、大神さんなら・・・・」
顔を上げ大神の手を握った。
「優子さんは、僕とは違い本当に純な人なのですね。いつまでもずっと信じてくれるのなら、嬉しいな」
「えっ」
大神の言葉の意味が解らなかった。
「姉の死を受け入れられず、あの時は神を恨んだことも有りましたが『一樹の陰』反対にこの事件がなければ、こんな純で素敵な女性にも出会って、そして親しくなることもありませんでた。ちょっぴり神にも感謝しなくてはいけませんね。だからこそ、巻き込まなくて本当に良かった。ああっ、プレゼントとは言いましたが、それは優子さんの心を傷つけることになるかも知れませんけどね」
大神が握り返した。
「あの、川瀬刑事に伝えたい事があって伺ったのですが」
優子は受付で教わった刑事課の扉を開けて女性警官に声を掛けた。
「川瀬は席を外していまして、今日はこちらには戻って来ないと思います」
「そうですか・・・・・」
婦人警官の言葉に肩を落とした。
「あの、川瀬の上司の坂東と言います。私が代わりに伺わせて頂きます」
二人の会話を耳にした坂東が振り返り、優子に近付いて言葉を掛けた。
「あっ、はい。徳川美術館のレストランで亡くなった澤田裕司の妹です。兄の部屋を片付けている時に見慣れない書類を見つけたものですから、担当されていらっしゃる川瀬刑事に一度見て頂ければ、事件究明の手掛かりになるのではないかと思いまして」
「そうですか。それはわざわざありがとうございます。よろしければ私が預かって、明日川瀬に渡しますよ」
「そうですか・・・・・・でも、直接お渡しして、この書類の事について説明も聞かせて頂きたいものですから、また明日出直して来ます」
優子は手にしていた封筒をカバンに戻した。
「何度も足をお運び頂くのも申し訳ありませんので、一度お預かりして書類の説明は後で川瀬からさせます。もし、本当に事件に関係している書類でしたら、犯人が狙っている可能性もあります。あなたの身に危険が及ぶかも知れませんので是非私にお渡し下さい」
坂東は真剣な眼差しで諭すように言った。
「心配して頂いてありがとうございます。ただ、大神さんから川瀬刑事に渡すように言われていますので、もし川瀬刑事に連絡が取れましたら自宅へ来て下さるようにお伝えして下さい。今から自宅に戻りますので、八時以降でしたら大丈夫です」
「その書類ですが、大神さんは既にご覧になっているのでしょうか」
「本当は見て欲しかったのですが、今日は知り合いの家に行くそうで、会う事が出来ませんでした。少しでも早くお見せした方が良いかとお持ちしたのに残念です」
「そうですね。一度大神さんにも見てもらった方が良いかも知れません。それにしても、一人で帰られるのは無用心ですので、私が車でお宅までお送りしましょう」
「ありがとうございます。でも、ちょっと買い物をして帰りたいものですから、一人で帰ります」
「そうですか、それでは十分に気を付けてお帰り下さい」
「それでは、川瀬刑事への連絡よろしくお願いします」
優子は軽く頭を下げると部屋を出た。
「本当に大丈夫かな」
そう呟きながら中央署を出ると、地下鉄の駅に向かって歩き出した。坂東刑部の言葉が頭に残り、込み合った車両の中では周りの人間に注意を払い、緊張した面持ちでいつもの駅の改札を潜り、駅前のコンビニで買い物を済ませた頃には夕闇が街を覆っていた。
「ちょっと遅くなっちゃったな」
コンビニで女性雑誌の特集記事を読むのに思ったより時間が掛ってしまって、携帯の時刻表示は七時五十五分を示していた。優子は、仕方なくいつもの帰宅道を諦めて近道を選ぶ事にした。その道は、明るく人通りの多い大通りを少し外れて、電柱に小さな街灯が所々に灯ってはいるが、全体的には薄暗い住宅街だった。優子は辺りを見回した後、なだらかな坂道を急ぎ足で登り始めた。小さな公園を過ぎ、白壁の和風の大きな家の角を曲がると、大通りの明りが優子の視界に入り歩みを緩め安堵の気持ちから注意も散漫となり、その時を待っていたかのように優子の死角となっていた斜め後方の茂みの陰から、黒尽くめの男が飛び出して優子の背中越しに左の掌で口を塞ぎ右手に持ったジャックナイフを目の前に差し出した。
「お嬢さん、抵抗すると命の保障は無いよ」
男が耳元で囁くと、優子は小刻みに頷いた。
「まぁ、命だけは保障するけど、少しは楽しませてもらわなきゃな」
男は仲間の車を探して大通りに向けて視線を移し、優子は男の言葉が何を表しているのか理解し、これから起こるであろう事態を想像して体が小刻みに震えた。
「助けて」
優子は目を閉じ微笑む大神に願ったその時、口を覆った犯人の左手が左下に離れて行くと直ぐに大きな背中が身体を覆い、大通りから仲間が応援に駆け付けるのを想定して後退した。
「てめぇ、何者だ。女の前だからって、格好付けていると痛い目に遭うぞ」
男は立ち上がるとナイフを持った右手を前にして構えた。
「勿論、痛い目には遭いたくないですが、このまま無事には帰してはもらえそうにないだろうね」
案の定、同じように黒尽くめの男二人が視界に入って来た。
「えっ」
圧倒的に不利な情況に優子は震えが止まらなかった。
「何とか防ぎますので、走って逃げて下さい」
「でも・・・・」
男三人相手に大神が勝てる訳がない。優子はその後に起こる場面を想像してその場を動くことが出来なかった。
「逃げるんだ」
大神は前を向きながら優子の身体を突き放した。
「大神さん」
優子は二、三歩後退りした後、大神に背を向けて走り出した。先程来た道を後ろを振り向かずに必死に戻ると、肩で息をしながら携帯電話を鞄から慌てて取り出し、震えが止まらない右手で11Oを押して耳に当てた。
「あの、今暴漢に襲われて、友達が、友達が・・・・・」
『事件ですか事故ですか』の女性問いに震える言葉で返すのが精一杯で、大神の無残な姿が頭に浮かんで両目から涙が零れ落ちた。
「落ち着いて、場所を教えて下さい」
冷静に尋ねる担当者の声にもパニックに陥った優子はしばらく答えることが出来なかった。そして、その優子の右肩に軽く重みが加わり、覚悟をしていたことではあったが緊張が体中を巡り背筋を凍らせ言葉を無くした。
「あっ」
恐る恐る振り向いた優子の目の前には微笑む大神の顔があり、優子が手にしていた携帯電話を取り上げて優子に代わって犯人の人数と場所を伝えて切った。
「怪我はありませんか」
優子はその言葉を大神の胸元で聞き大きく頷いた。
「怖い思いをさせて申し訳ありませんでした。間に合って良かった」
大神はゆっくりと優子の背中に手を回した。
「まさか、犯人は逃げて行ったのですか」
このままずっと大神に抱かれていたかったけれど、犯人の事が気になり顔を上げた。
「丸腰の頼りなさそうな男一人に、三人でそれもナイフを持つ圧倒的有利な状況でまさか背を向けて逃げ出す人間が居ると思いませんけどね」
「えっ、でも・・・・・」
「悪い事をしたら罰を受けなければなりません。それに、優子さんもどんな男たちが襲ったのか知りたいでしょ」
大神は優子の目の前に左手の掌を上にして先に進むように促し、二人でゆっくりと歩き出した。先程優子が襲われた場所に戻ると、三人の男達は意識を失い仰向けに倒されていた。男たちの両手の掌は標識や電柱を囲んでぴったりと合わさって、親指同士が柔らかなワイヤーで結ばれていた。優子はここで起こった争いを全く想像が出来なくて思わず右の頬を摘んだ。しかし、痛みは直ぐに伝わって来た。夢ではなかったのだ。
「本当に大神さん一人で三人全員を倒したのですか」
「まあ、人間、必死になれば何とかなるものです。それに、見た目よりもずっと弱かったですから女の子しか襲えなかったかも知れませんね。ああっ、パトカーのサイレンが聞こえて来ましたよ」
優子が死に物狂いで走った後、直ぐに警察に携帯電話で連絡している間に追いついたと言う事は、いくら弱いと言っても三人を相手に、それもナイフなどの凶器を持っていた男達を瞬時に倒した事になる。それに、親指だけを結ぶなんて事とても素人では思いつかない事であった。
「兎に角、大神さんが無事で良かったです。ありがとうございます」
優子の言葉に頷き、到着した警察官の責任者に事情を説明した後、大神は携帯電話で何処かに連絡を取った。
「さぁ、行きましょうか」
疲れた表情で公園のベンチに腰を下ろしていた優子に声を掛けて掌を差し出した。
「えっ、何処へ行くのですか」
しっかりと握った大神の掌から暖かさが伝わって来た。
「恐ろしい思いをさせた償いに、優子さんにはプレゼントを用意しました」
「えっ、私にプレゼントですか・・・・・・」
大神の思いも因らない言葉にただ戸惑うばかりであった。
「僕からのプレゼントでは不安ですよね」
手を離して鋭い表情で尋ねた。
「えっ、それって、まさか、全てが大神さんの思い通りに進んだということですか・・・・・物語を描く為には、色々と餌を撒く必要がありますから、私もその餌の一つ」
助けてもらった感謝の気持ちとは裏腹に、その後の自分が想像も出来ない展開や大神と接した今までのことが優子の頭の中を駆け巡り、悪のストーリーを描く賢いもう一人の大神の姿が心に浮かび上がり、それを確かめる為にもどうしても尋ねずにはいられなかった。
「どんな世界であっても、成り上がる為には利用出来るものは何でもね」
見詰め返して大神が薄笑いを浮かべた。
「そうですよね」
肩を落とし目を閉じた優子の両目に暫くして涙が滲んで来たが、それでも何か決心したように頷くと。
「それでも良いです。大神さんを最後まで信じることに決めました。それは騙された私が馬鹿だったと諦めます。でも、大神さんなら・・・・」
顔を上げ大神の手を握った。
「優子さんは、僕とは違い本当に純な人なのですね。いつまでもずっと信じてくれるのなら、嬉しいな」
「えっ」
大神の言葉の意味が解らなかった。
「姉の死を受け入れられず、あの時は神を恨んだことも有りましたが『一樹の陰』反対にこの事件がなければ、こんな純で素敵な女性にも出会って、そして親しくなることもありませんでた。ちょっぴり神にも感謝しなくてはいけませんね。だからこそ、巻き込まなくて本当に良かった。ああっ、プレゼントとは言いましたが、それは優子さんの心を傷つけることになるかも知れませんけどね」
大神が握り返した。
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