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七章
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昨日、優子から渡された『空満』の会員名簿には、有名大学の講師や富田合成、トミタデンツーなどのトミタ自工関係、東洋特殊鋼、松山電工など一部上場企業に勤める、肩書きの付いたエリート社員であった。
「人間形成か」
ライバルたちの一歩でも半歩でも先を歩み、昇給や昇進は勿論のことエリートとしての生き残りを賭けて、ビジネスでの成功者や経営コンサルタントの講演に耳を傾け、有名大学の教授などの招くパネルディスカッションに率先して足を運んでは、他人の力を借りて自らの潜在能力の覚醒を期待し、一ランク上のビジネスマンを夢見る。
終身雇用や年功序列などの雇用形態が崩壊し、リストラや不況の波が押し寄せる今の時代、信じられるのは自分自身だけになり、藁にも縋りたいと言う気持ちは分からないでもないが、他人の自慢話や成功例に感心したり、画一的な討論やマニュアル通りの指導など、他人の手によって作られたカリキュラムで、どんな素晴らしい人間が出来上がると言うのであろう。今でこそ、大学入試などでは一芸に秀でた人間が評価されるようにはなったが、社会に於いては、全ての科目に対して平均点以上を取れる人間の方が、まだまだ価値が高いのである。
平均点至上主義の最たるものに、野球の指導方法がある。高校野球では、ピッチャーは誰もが同じフォームで投げ、バッターは同じスウィングで球を捕らえる。昔は、アンダーハンドや変則モーションのピッチャーが沢山居たし、極端なオープンスタンスやクローズドスタンスの構えを取ってみたり、蟹股でバットを担ぐような格好で投球を待っていた打者も居た。誰もが自分に合った投球フォームや独特のスウィングがあるだろうに、コーチや監督に因って矯正されてしまい、野茂のトルネード投法やイチローの振り子打法は、本人の意志の固さが生んだ、現代では極めて稀な技法だと言えるのである。
つまり、人間形成に必要なことは、他人の言葉や指導などに頼るのではなく、自分自身を自分自身の頭や心によって磨き、輝かせることではないだろうか。残念ながら、今の政府は伝統を引継ぎ守って行く人間が好まれ、官僚になり大臣となっているのが実態だろう。
選挙の時には国民の代表になると言って当選した人物が、市民の願いに耳を貸さず自分の為だけに口を閉ざし平気で嘘をつき罪を犯す。そんな人間ばかりでなく、初心の時の気持ちを忘れず日本を良くしたいと改革してくれる人が現れると信じたい。
大神は色々な思いを馳せながら、『空満』の会員である清水優作氏のマンションに向かっていた。名古屋市千種区五番町、一戸建ての家が立ち並ぶ住宅街に足を踏み入れしばらく歩くと、背が高く壁面がパール色に輝く建物が、威風堂々と姿を現した。
土曜日の午後三時と言う時間帯ではあったが、近くの公園で遊ぶ子供の姿は無く、七階の一番奥にある清水の部屋に辿り着くまでに擦れ違う人も無かった。大神は部屋の前に立ち、清水優作と書かれたプレートの文字を確認して呼び鈴を二度鳴らした。しかし、しばらく待っても室内からは反応は無く、もう一度呼び鈴を鳴らして様子を見た後でドアのノブを回してみると、鍵は掛けられていなくて外側に少し開いた。
「失礼します」
何かの用事で出て来られないのだと思い、ドアを開けてゆっくりと室内に足を踏み入れて声を掛けてみたが、何の反応も無く静まり返ったままであった。それでも、鍵を掛け忘れたとは思えず、次第に脳細胞が活発に動き始め五感をフルに稼動させて室内の異常を察知しようとしていた。部屋に上がり込んで状況を確かめたいと言う好奇心と、君子危うきに近寄らずの言葉の通り、この場から立ち去るように訴える防衛本能の狭間でしばらく動けない状態が続いたが、それでも好奇心には勝てず意を決して靴を脱ぐとゆっくり奥の部屋へと向かた。
正面にある扉を開けてリビングに入った瞬間、首筋に強烈な痛みを感じ後ろから羽交い絞めにされ口と鼻を塞ぐようにして液体の滲み込んだ布が当てられて意識をなくした。それからどれ程の時間が経っただろうか、悪い夢から覚めた時の不快感の為に全身がけだるく、その状態の改善の為に頭を左右に何度も振って額に左手を当てた。身体がなかなか目覚めてくれなくて思うように動かない手足に苛立ちながらも、首だけをゆっくりと動かして左隣に目を移すと、体格の良い男性がまるで市場の冷凍マグロのように横たわり、慌てて自分の右手を見ると血の付いた真新しい包丁をしっかりと握っていた。
「参ったな」
左手を床に慌てて立ち上がろうと試みたが、身体を支えきれずに再び床に倒れこんだ。
「何だろう」
右側を向いた拍子にソファの下に何かを発見して必死に手を伸ばし、左手にしっかりと握り締めると、重い頭、言う事を聞かない身体に鞭打って、やっとの思いで立ち上がったまさにその時、警察官たち数人が部屋に押し寄せ、その後ろから現れた川瀬刑事と視線を交わす事になった。
「大神、この状況では抵抗しても無駄だ。大人しくしろ」
川瀬は身構えながら、包丁を手に近付いて来る大神に向かって叫んだ。
「四時を過ぎているのですね」
立ち止まって掛け時計を見た大神は、包丁の刃の部分を左手で持ち替えて柄の部分を川瀬に向けた。
「あっ、ハンカチか・・・・・川瀬さん手袋持っていますよね。大切な証拠品ですからね」
素手で受け取ろうとした川瀬は、慌ててポケットからハンカチを取り出した。
「今度は言い訳出来ないな」
代わりに言葉を返し、顎で連行を指示した。
「あの、五分程時間を頂けないでしょうか」
手錠を掛けようとする若い刑事を制して川瀬に頭を下げた。
「五分間で何をするつもりだ」
意外な申し入れに流石に戸惑っていた。
「殺害現場なんて滅多に見られないじゃないですか。それに、こうして死体をじっくりと見る機会もありませんから、話のタネに色々観察しておこうと思いまして」
「残念ながら、そんな経験は何の役にも立たないな。これからはずっと拘置所の中、しばらくは娑婆の空気も吸えないだろうな」
遺体を前に殺人犯と話をする経験など殆ど無いけれど、刑事を相手にして殺人を犯したと言う罪悪感や悪びれた様子は全く無くて、右手を血に染めているにも関わらず、恐怖に身体を震えさせ怯えることも無い。それどころか、第三者的な視線で殺害現場や死体を観察したいとは、夢を見ている気分で他の刑事も呆気に取られていた。
「これだけ刑事さんが揃っていらっしゃれば証拠の隠滅なども出来ませんし、勿論遺体に触れるつもりもありませんので、もう少し現場の状況を見させては頂けないでしょうか」
怒鳴る川瀬に対してゆっくりと穏やかに話す大神に、刑事達は互いに顔を見合わせた。
「まぁ、いいじゃないか。抵抗せず凶器も素直に渡したのだから、納得するまで見てもらえばいいだろう。但し、取調べではきちんと話して頂きますよ。いいですね」
遅れてやって来た坂東が、若い刑事たちを押し退けて顔を出した。
「はい、勿論捜査には協力させて頂きます」
大神は坂東に頭を下げると早速と遺体に近付いたが、他の刑事達は二人の会話に驚きを持って立ち尽くした。
「捜査に協力ですか」
坂東は苦笑し、他の刑事は聞こえない振りをしていた。
「正面から心臓を一突きですか。残念ながら、抵抗する余裕は無かったのでしょうね」
坂東の許可を得て早速遺体に近付いた大神は、致命傷となった傷と手や爪を観察した。
「澤田裕司さんが毒殺され、松坂雄一さんが殺害されたのですから、清水優作さんにも危険が及ぶ可能性が有る事を考えておかなければならなかったのに、本当に申し訳なく思います」
大神は血まみれの手を合わせた。
「もう、それ位で良いでしょう」
坂東は渋い顔で大神の肩を叩いた。
「出来ればもう一か所、書斎を見てみたいのですが、よろしいでしょうか」
「書斎ですか・・・・・」
坂東は周りの刑事に目配りをしたが、誰も視線を合わそうとはしなかった。
「そうですよね。これ以上無理を言える立場ではありませんね」
大神は諦めて両手を差し出し、それを待っていたように若い刑事が手錠を掛けた。
それから一時間が経った頃、先日と同じ名古屋中央署の取調室。調べる人間も調べられる人間も全く同じで、殺風景な空間で向かい合っていた。
「現場では好き勝手な事を言われましたが、私は坂東警部のように甘くはありませんから、覚悟をして下さい」
物静かな口調ではあったが、リターンマッチに燃える川瀬の意気込みは十分大神にも伝わっていた。
「今日は黙秘ですか。しかし、坂東警部との約束では、現場を見せる代わりに捜査に協力するとあなたは言われたのですよ」
川瀬は、腕を組んで目を瞑ったままの大神に業を煮やして強い口調で質した。
「勿論忘れた訳ではありませんが、何を何処からお話すべきか今考えているところです。あの状況では信じてもらえないでしょうが、部屋に入ってからあなた達が掛け付けて来られるまでの記憶が全く無いのです」
「記憶が無い、冗談じゃない。清水さんを殺害したのは、誰がどう考えてもあなたしか居ないのですよ。いい加減犯行を認めたらどうですか」
素直に自白すると思い冷静に話を始めた川瀬であったが、次第に苛立ちが募り声も大きくなっていた。
「川瀬刑事が憤慨されるのもごもっともです。協力するとも言いましたが、残念ながら記憶の無いことをお話しすることは出来ませんからね」
対照的にゆっくりとした口調で答えた。
「もう一度現場の状況を思い出して下さい。あなたは右手に凶器の包丁を持ったまま立っていて、床には被害者が血まみれになって倒れていた。誰がどう考えても、あなた以外に犯人が居るとは思わないでしょう」
「それは迂闊でした。右手に凶器の包丁を握り締めたまま、遺体の傍に佇んでいたのですから、状況からすれば犯人と思われても仕方のないことだと認識しています。実際にはテレビドラマのように毎日殺人事件が起きている訳ではありませんから、殺人現場に居合わせることは滅多にないでしょ。そんな希少価値的経験を得るという誘惑に勝てなくて、つい長居をしてしまいました。しかし、川瀬刑事、もし僕が犯人ならどうして殺害して直ぐに現場から立ち去らなかったのでしょ、凶器を持ったままですよ。今の科学技術では殺害時刻も分刻みで解るのではないでしょうか」
「それは警察に捕まることを覚悟していたか、何か現場に探し物があったとか色々あるだろう。それは後からじっくり調べるさ」
苦し紛れに思いついたままを口にした。
「色々ですか。血まみれの包丁を持ったままですよね」
大神は右手の感触を確かめるようにじっと見詰めた。
「それは・・・・・・でも、あなたが犯人であることは間違いありません。こんな紙切れがあなたの上着に入っていました」
川瀬は小さなビニール袋に入った一枚の紙切れを差し出した。
「包丁を購入した時のレシートですか。随分用意が良いのですね。勿論僕の指紋も付いていたのでしょうね」
大神は川瀬がからレシートを掴み取ると、嬉しそうに微笑んだ。
「それはまだだが・・・・・」
川瀬は奪い返して答えた。
「購入した店には監視カメラは有りましたか。店員に僕が本当に買ったのか確認を取る必要がありますね。証拠を残さないように現金で払われていましたけれど、販売時刻や担当した人まで印字されていましたので、確認すれば直ぐに分かると思いますよ」
大神はゆっくりとレシートを川瀬に返した。
「どうしてそんなに落ち着いていられるんだ。あんたは一人の人間の命を奪ったんだよ。まさか、犯行を認めなければ起訴されないとでも考えているのじゃないでしょうね」
自白の決め手となると自信を持って見せたレシートに、思っても見ないリアクション。川瀬はショックを隠し切れず、大神の思考を読み取ろうと必死であった。
「自供がなくてもこれだけの状況証拠が揃っていれば、起訴されない訳がないでしょうね。起訴されれば、その有罪率は九十九、九%殆ど有罪ですからね。でも、日本の警察はとても優秀ですから、きっと僕の無実を証明して下さると信じています」
「大神さん。信じるのは勝手ですが、それならば記憶が無かったなんて嘘を言わないで正直に真実を話して下さい」
大神の一言一言に怒りが込み上げて来た。
「真実ですか、それは困ったな、真実を話してもきっと信じてもらえないでしょうからね」
川瀬とは反対に穏やかな口調ではあったが、進展しない状況に流石に焦りが見え始めていた。
「それでは、この住所録はどうされたのですか。上から順に松坂雄一、澤田裕司、そして今回あなたが殺害した清水優作です。まさか、これは殺人リストじゃないでしょうね」
初めて見せる大神の感情の変化を感じ取った川瀬は、追い風が吹くのを信じて勝負に出ることにした。
「それは『空満』と言う会のメンバーの住所で、松坂さんと澤田さんの死について調べる為に、清水さんに連絡を取って会う約束をしていたのです」
深く息を吸い込み静かに少しずつ吐いて呼吸を整えてから答えた。
「何を調べに行こうとされていたのかは知りませんが、ホームセンターで包丁を買ったのはお土産じゃないですよね。初めから清水さんを殺害するつもりだったのでしょう。きっと、あなたにとっては邪魔な存在だったのかも知れません」
「邪魔な存在って・・・・・僕は清水さんとの面識は無いのですよ」
「例えば、他の二つの殺人事件にあなたが関わっていたことを清水さんが気付き、あなたを脅迫していたとすればどうでしょう。そして、その口封じの為に清水さんを殺害したのです」
「何をどう説明しても分かってはもらえないのですね。警察が、そう川瀬刑事が僕の話を信じて無実を証明してくれない以上、自分の手でこの難関を突破するしか方法はないようですね」
「あの状況であなたの無実を信じろと言われる方がおかしいでしょう。私たち警察は、白を黒に塗り替えることはしません。本当にあなたが無実であれば、今直ぐにでも釈放させて頂きます」
「その言葉に嘘は無いと信じても良いでしょうか」
「勿論です」
「それでは申し訳ありませんが、紙とボールペンを貸して頂けないでしょうか」
「紙とボールペンだけであなたの無実が証明出来るとは思えませんが、まぁ良いでしょうお手並みを拝見させて頂きます」
もう一人の刑事に合図を送って用意させると、大神の目の前に便箋を右手側にボールペンを置いて、どんな言葉が書かれるのか期待して待つことになった。
「被害者である清水さんは包丁で正面から左胸を刺され、その傷は心臓まで達していた。そして、僕はその包丁をしっかりと右手に握り締めていた。川瀬刑事、今の説明で間違いないですよね」
「だからあなたが犯人なのです」
「それでは、今から文章を書きます。良く見ていて下さい」
大神はボールペンを手に取り『清水さんを殺害したのは僕ではありません』と力強く書き終えた。
「そんな馬鹿な・・・・・・」
川瀬は便箋を取上げて書かれていた文章を一文字ずつ確認した。
「人間形成か」
ライバルたちの一歩でも半歩でも先を歩み、昇給や昇進は勿論のことエリートとしての生き残りを賭けて、ビジネスでの成功者や経営コンサルタントの講演に耳を傾け、有名大学の教授などの招くパネルディスカッションに率先して足を運んでは、他人の力を借りて自らの潜在能力の覚醒を期待し、一ランク上のビジネスマンを夢見る。
終身雇用や年功序列などの雇用形態が崩壊し、リストラや不況の波が押し寄せる今の時代、信じられるのは自分自身だけになり、藁にも縋りたいと言う気持ちは分からないでもないが、他人の自慢話や成功例に感心したり、画一的な討論やマニュアル通りの指導など、他人の手によって作られたカリキュラムで、どんな素晴らしい人間が出来上がると言うのであろう。今でこそ、大学入試などでは一芸に秀でた人間が評価されるようにはなったが、社会に於いては、全ての科目に対して平均点以上を取れる人間の方が、まだまだ価値が高いのである。
平均点至上主義の最たるものに、野球の指導方法がある。高校野球では、ピッチャーは誰もが同じフォームで投げ、バッターは同じスウィングで球を捕らえる。昔は、アンダーハンドや変則モーションのピッチャーが沢山居たし、極端なオープンスタンスやクローズドスタンスの構えを取ってみたり、蟹股でバットを担ぐような格好で投球を待っていた打者も居た。誰もが自分に合った投球フォームや独特のスウィングがあるだろうに、コーチや監督に因って矯正されてしまい、野茂のトルネード投法やイチローの振り子打法は、本人の意志の固さが生んだ、現代では極めて稀な技法だと言えるのである。
つまり、人間形成に必要なことは、他人の言葉や指導などに頼るのではなく、自分自身を自分自身の頭や心によって磨き、輝かせることではないだろうか。残念ながら、今の政府は伝統を引継ぎ守って行く人間が好まれ、官僚になり大臣となっているのが実態だろう。
選挙の時には国民の代表になると言って当選した人物が、市民の願いに耳を貸さず自分の為だけに口を閉ざし平気で嘘をつき罪を犯す。そんな人間ばかりでなく、初心の時の気持ちを忘れず日本を良くしたいと改革してくれる人が現れると信じたい。
大神は色々な思いを馳せながら、『空満』の会員である清水優作氏のマンションに向かっていた。名古屋市千種区五番町、一戸建ての家が立ち並ぶ住宅街に足を踏み入れしばらく歩くと、背が高く壁面がパール色に輝く建物が、威風堂々と姿を現した。
土曜日の午後三時と言う時間帯ではあったが、近くの公園で遊ぶ子供の姿は無く、七階の一番奥にある清水の部屋に辿り着くまでに擦れ違う人も無かった。大神は部屋の前に立ち、清水優作と書かれたプレートの文字を確認して呼び鈴を二度鳴らした。しかし、しばらく待っても室内からは反応は無く、もう一度呼び鈴を鳴らして様子を見た後でドアのノブを回してみると、鍵は掛けられていなくて外側に少し開いた。
「失礼します」
何かの用事で出て来られないのだと思い、ドアを開けてゆっくりと室内に足を踏み入れて声を掛けてみたが、何の反応も無く静まり返ったままであった。それでも、鍵を掛け忘れたとは思えず、次第に脳細胞が活発に動き始め五感をフルに稼動させて室内の異常を察知しようとしていた。部屋に上がり込んで状況を確かめたいと言う好奇心と、君子危うきに近寄らずの言葉の通り、この場から立ち去るように訴える防衛本能の狭間でしばらく動けない状態が続いたが、それでも好奇心には勝てず意を決して靴を脱ぐとゆっくり奥の部屋へと向かた。
正面にある扉を開けてリビングに入った瞬間、首筋に強烈な痛みを感じ後ろから羽交い絞めにされ口と鼻を塞ぐようにして液体の滲み込んだ布が当てられて意識をなくした。それからどれ程の時間が経っただろうか、悪い夢から覚めた時の不快感の為に全身がけだるく、その状態の改善の為に頭を左右に何度も振って額に左手を当てた。身体がなかなか目覚めてくれなくて思うように動かない手足に苛立ちながらも、首だけをゆっくりと動かして左隣に目を移すと、体格の良い男性がまるで市場の冷凍マグロのように横たわり、慌てて自分の右手を見ると血の付いた真新しい包丁をしっかりと握っていた。
「参ったな」
左手を床に慌てて立ち上がろうと試みたが、身体を支えきれずに再び床に倒れこんだ。
「何だろう」
右側を向いた拍子にソファの下に何かを発見して必死に手を伸ばし、左手にしっかりと握り締めると、重い頭、言う事を聞かない身体に鞭打って、やっとの思いで立ち上がったまさにその時、警察官たち数人が部屋に押し寄せ、その後ろから現れた川瀬刑事と視線を交わす事になった。
「大神、この状況では抵抗しても無駄だ。大人しくしろ」
川瀬は身構えながら、包丁を手に近付いて来る大神に向かって叫んだ。
「四時を過ぎているのですね」
立ち止まって掛け時計を見た大神は、包丁の刃の部分を左手で持ち替えて柄の部分を川瀬に向けた。
「あっ、ハンカチか・・・・・川瀬さん手袋持っていますよね。大切な証拠品ですからね」
素手で受け取ろうとした川瀬は、慌ててポケットからハンカチを取り出した。
「今度は言い訳出来ないな」
代わりに言葉を返し、顎で連行を指示した。
「あの、五分程時間を頂けないでしょうか」
手錠を掛けようとする若い刑事を制して川瀬に頭を下げた。
「五分間で何をするつもりだ」
意外な申し入れに流石に戸惑っていた。
「殺害現場なんて滅多に見られないじゃないですか。それに、こうして死体をじっくりと見る機会もありませんから、話のタネに色々観察しておこうと思いまして」
「残念ながら、そんな経験は何の役にも立たないな。これからはずっと拘置所の中、しばらくは娑婆の空気も吸えないだろうな」
遺体を前に殺人犯と話をする経験など殆ど無いけれど、刑事を相手にして殺人を犯したと言う罪悪感や悪びれた様子は全く無くて、右手を血に染めているにも関わらず、恐怖に身体を震えさせ怯えることも無い。それどころか、第三者的な視線で殺害現場や死体を観察したいとは、夢を見ている気分で他の刑事も呆気に取られていた。
「これだけ刑事さんが揃っていらっしゃれば証拠の隠滅なども出来ませんし、勿論遺体に触れるつもりもありませんので、もう少し現場の状況を見させては頂けないでしょうか」
怒鳴る川瀬に対してゆっくりと穏やかに話す大神に、刑事達は互いに顔を見合わせた。
「まぁ、いいじゃないか。抵抗せず凶器も素直に渡したのだから、納得するまで見てもらえばいいだろう。但し、取調べではきちんと話して頂きますよ。いいですね」
遅れてやって来た坂東が、若い刑事たちを押し退けて顔を出した。
「はい、勿論捜査には協力させて頂きます」
大神は坂東に頭を下げると早速と遺体に近付いたが、他の刑事達は二人の会話に驚きを持って立ち尽くした。
「捜査に協力ですか」
坂東は苦笑し、他の刑事は聞こえない振りをしていた。
「正面から心臓を一突きですか。残念ながら、抵抗する余裕は無かったのでしょうね」
坂東の許可を得て早速遺体に近付いた大神は、致命傷となった傷と手や爪を観察した。
「澤田裕司さんが毒殺され、松坂雄一さんが殺害されたのですから、清水優作さんにも危険が及ぶ可能性が有る事を考えておかなければならなかったのに、本当に申し訳なく思います」
大神は血まみれの手を合わせた。
「もう、それ位で良いでしょう」
坂東は渋い顔で大神の肩を叩いた。
「出来ればもう一か所、書斎を見てみたいのですが、よろしいでしょうか」
「書斎ですか・・・・・」
坂東は周りの刑事に目配りをしたが、誰も視線を合わそうとはしなかった。
「そうですよね。これ以上無理を言える立場ではありませんね」
大神は諦めて両手を差し出し、それを待っていたように若い刑事が手錠を掛けた。
それから一時間が経った頃、先日と同じ名古屋中央署の取調室。調べる人間も調べられる人間も全く同じで、殺風景な空間で向かい合っていた。
「現場では好き勝手な事を言われましたが、私は坂東警部のように甘くはありませんから、覚悟をして下さい」
物静かな口調ではあったが、リターンマッチに燃える川瀬の意気込みは十分大神にも伝わっていた。
「今日は黙秘ですか。しかし、坂東警部との約束では、現場を見せる代わりに捜査に協力するとあなたは言われたのですよ」
川瀬は、腕を組んで目を瞑ったままの大神に業を煮やして強い口調で質した。
「勿論忘れた訳ではありませんが、何を何処からお話すべきか今考えているところです。あの状況では信じてもらえないでしょうが、部屋に入ってからあなた達が掛け付けて来られるまでの記憶が全く無いのです」
「記憶が無い、冗談じゃない。清水さんを殺害したのは、誰がどう考えてもあなたしか居ないのですよ。いい加減犯行を認めたらどうですか」
素直に自白すると思い冷静に話を始めた川瀬であったが、次第に苛立ちが募り声も大きくなっていた。
「川瀬刑事が憤慨されるのもごもっともです。協力するとも言いましたが、残念ながら記憶の無いことをお話しすることは出来ませんからね」
対照的にゆっくりとした口調で答えた。
「もう一度現場の状況を思い出して下さい。あなたは右手に凶器の包丁を持ったまま立っていて、床には被害者が血まみれになって倒れていた。誰がどう考えても、あなた以外に犯人が居るとは思わないでしょう」
「それは迂闊でした。右手に凶器の包丁を握り締めたまま、遺体の傍に佇んでいたのですから、状況からすれば犯人と思われても仕方のないことだと認識しています。実際にはテレビドラマのように毎日殺人事件が起きている訳ではありませんから、殺人現場に居合わせることは滅多にないでしょ。そんな希少価値的経験を得るという誘惑に勝てなくて、つい長居をしてしまいました。しかし、川瀬刑事、もし僕が犯人ならどうして殺害して直ぐに現場から立ち去らなかったのでしょ、凶器を持ったままですよ。今の科学技術では殺害時刻も分刻みで解るのではないでしょうか」
「それは警察に捕まることを覚悟していたか、何か現場に探し物があったとか色々あるだろう。それは後からじっくり調べるさ」
苦し紛れに思いついたままを口にした。
「色々ですか。血まみれの包丁を持ったままですよね」
大神は右手の感触を確かめるようにじっと見詰めた。
「それは・・・・・・でも、あなたが犯人であることは間違いありません。こんな紙切れがあなたの上着に入っていました」
川瀬は小さなビニール袋に入った一枚の紙切れを差し出した。
「包丁を購入した時のレシートですか。随分用意が良いのですね。勿論僕の指紋も付いていたのでしょうね」
大神は川瀬がからレシートを掴み取ると、嬉しそうに微笑んだ。
「それはまだだが・・・・・」
川瀬は奪い返して答えた。
「購入した店には監視カメラは有りましたか。店員に僕が本当に買ったのか確認を取る必要がありますね。証拠を残さないように現金で払われていましたけれど、販売時刻や担当した人まで印字されていましたので、確認すれば直ぐに分かると思いますよ」
大神はゆっくりとレシートを川瀬に返した。
「どうしてそんなに落ち着いていられるんだ。あんたは一人の人間の命を奪ったんだよ。まさか、犯行を認めなければ起訴されないとでも考えているのじゃないでしょうね」
自白の決め手となると自信を持って見せたレシートに、思っても見ないリアクション。川瀬はショックを隠し切れず、大神の思考を読み取ろうと必死であった。
「自供がなくてもこれだけの状況証拠が揃っていれば、起訴されない訳がないでしょうね。起訴されれば、その有罪率は九十九、九%殆ど有罪ですからね。でも、日本の警察はとても優秀ですから、きっと僕の無実を証明して下さると信じています」
「大神さん。信じるのは勝手ですが、それならば記憶が無かったなんて嘘を言わないで正直に真実を話して下さい」
大神の一言一言に怒りが込み上げて来た。
「真実ですか、それは困ったな、真実を話してもきっと信じてもらえないでしょうからね」
川瀬とは反対に穏やかな口調ではあったが、進展しない状況に流石に焦りが見え始めていた。
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初めて見せる大神の感情の変化を感じ取った川瀬は、追い風が吹くのを信じて勝負に出ることにした。
「それは『空満』と言う会のメンバーの住所で、松坂さんと澤田さんの死について調べる為に、清水さんに連絡を取って会う約束をしていたのです」
深く息を吸い込み静かに少しずつ吐いて呼吸を整えてから答えた。
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「邪魔な存在って・・・・・僕は清水さんとの面識は無いのですよ」
「例えば、他の二つの殺人事件にあなたが関わっていたことを清水さんが気付き、あなたを脅迫していたとすればどうでしょう。そして、その口封じの為に清水さんを殺害したのです」
「何をどう説明しても分かってはもらえないのですね。警察が、そう川瀬刑事が僕の話を信じて無実を証明してくれない以上、自分の手でこの難関を突破するしか方法はないようですね」
「あの状況であなたの無実を信じろと言われる方がおかしいでしょう。私たち警察は、白を黒に塗り替えることはしません。本当にあなたが無実であれば、今直ぐにでも釈放させて頂きます」
「その言葉に嘘は無いと信じても良いでしょうか」
「勿論です」
「それでは申し訳ありませんが、紙とボールペンを貸して頂けないでしょうか」
「紙とボールペンだけであなたの無実が証明出来るとは思えませんが、まぁ良いでしょうお手並みを拝見させて頂きます」
もう一人の刑事に合図を送って用意させると、大神の目の前に便箋を右手側にボールペンを置いて、どんな言葉が書かれるのか期待して待つことになった。
「被害者である清水さんは包丁で正面から左胸を刺され、その傷は心臓まで達していた。そして、僕はその包丁をしっかりと右手に握り締めていた。川瀬刑事、今の説明で間違いないですよね」
「だからあなたが犯人なのです」
「それでは、今から文章を書きます。良く見ていて下さい」
大神はボールペンを手に取り『清水さんを殺害したのは僕ではありません』と力強く書き終えた。
「そんな馬鹿な・・・・・・」
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妹の意思を継いで、ワクチンの研究に、後の人生を捧げようと誓った杉下准教授は、政府の推し進めようとするワクチンの有効率の改ざんや不正の追求に、動き出そうとしていたことを感じ取った朝比奈は、杉下准教授は口封じを目的して殺害されようとしたと確信する。そこで、友人である大神刑事の力を借りて、その計画を企んだ人物を炙り出し、事件の真実を明らかにする。
うんちくを語る朝比奈と、彼女の美紀、そして友人の大神刑事との掛け合いを描きながら、難事件を解決してゆく『変人』探偵朝比奈の物語です。
朝比奈優作シリーズ第3弾。
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
オーデパルファン
碧 春海
ミステリー
主人公朝比奈優作は、友人糸川美紀を連れ出して食事をしていると、挙動不審な人物を目にして後を追い、男性が女性をスタンガンで襲い暴行しようとするその時、追いついて彼女を助ける。その後、その事件の犯人として一人の大学生が自首し地検に送検されて来るが、臨時に採用された朝比奈が検察事務官として勤めていて、身代わりによる出頭だと気づき、担当する新垣検事に助言し不起訴処分となる。しかし、今度は不起訴処分となった大学生が自殺してしまう。死亡した大学生の大手電機メーカーに勤めていた父親も半年前に自己死を遂げていて、朝比奈はその父親の死も今回の事件に関係しているのではないかと調べ始めるめるが、それを疎ましく思った犯人により暴力団の組員を使って朝比奈を襲わせる。主人公の運命は・・・・・・
朝比奈優作シリーズ第4弾。
時計の歪み
葉羽
ミステリー
高校2年生の神藤葉羽は、推理小説を愛する天才少年。裕福な家庭に育ち、一人暮らしをしている彼の生活は、静かで穏やかだった。しかし、ある日、彼の家の近くにある古びた屋敷で奇妙な事件が発生する。屋敷の中に存在する不思議な時計は、過去の出来事を再現する力を持っているが、それは真実を歪めるものであった。
事件を追いかける葉羽は、幼馴染の望月彩由美と共にその真相を解明しようとするが、次第に彼らは恐怖の渦に巻き込まれていく。霊の囁きや過去の悲劇が、彼らの心を蝕む中、葉羽は自らの推理力を駆使して真実に迫る。しかし、彼が見つけた真実は、彼自身の記憶と心の奥深くに隠された恐怖だった。
果たして葉羽は、歪んだ時間の中で真実を見つけ出すことができるのか?そして、彼と彩由美の関係はどのように変わっていくのか?ホラーと推理が交錯する物語が、今始まる。
旧校舎のフーディーニ
澤田慎梧
ミステリー
【「死体の写った写真」から始まる、人の死なないミステリー】
時は1993年。神奈川県立「比企谷(ひきがやつ)高校」一年生の藤本は、担任教師からクラス内で起こった盗難事件の解決を命じられてしまう。
困り果てた彼が頼ったのは、知る人ぞ知る「名探偵」である、奇術部の真白部長だった。
けれども、奇術部部室を訪ねてみると、そこには美少女の死体が転がっていて――。
奇術師にして名探偵、真白部長が学校の些細な謎や心霊現象を鮮やかに解決。
「タネも仕掛けもございます」
★毎週月水金の12時くらいに更新予定
※本作品は連作短編です。出来るだけ話数通りにお読みいただけると幸いです。
※本作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
※本作品の主な舞台は1993年(平成五年)ですが、当時の知識が無くてもお楽しみいただけます。
※本作品はカクヨム様にて連載していたものを加筆修正したものとなります。
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