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エピローグ
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一連の事件の処理も終え落ち着いたある日の夜、大神は『ゼア・イズ』で早目にアルバイトを終えた朝比奈と食事をすることになった。
「今回の事件、俺が気付かなかったら全て暗闇の中、解決に随分貢献したんだから今夜はお前の奢りでいいんだよな。風の噂では、今回の活躍で警視総監賞が授与されたそうじゃないか。これでまた警視総監への椅子が近づいたんじゃないですか」
2人が席に着くと朝比奈が声を発した。
「お前が近くにいる限り、県警の刑事部長の椅子だって夢のまた夢だよ。でも、今日だけは俺の奢りだが、それでも常識の範囲で遠慮して注文してくれよ」
いきなりの言葉に呆れ顔で答えた。
「それでは、取り敢えず生中を2つと、ふぐの刺身を2人前・・・・・・」
注文を聞きに来た、朝比奈の部下でもあるアルバイトの女性に伝えた。
「おい、ふぐ刺ってメニューに載ってないぞ。それに、確かふぐを調理するには免許が必要だろ」
大神がメニューを見ながら言い返した。
「ああっ、ふぐ条例等に基づき、各都道府県によってふぐ包丁師、ふぐ取扱者、ふぐ処理師、ふぐ調理士、ふぐ取り扱い登録者、ふぐ調理者と呼ばれているけれど、愛知県ではふぐ取扱い規制条例第2条第2項でふぐ処理師を認め、マスターは勿論、俺も調理師免許を持っているよ。県の条例だから県内のみでしか通用しないけどね」
ちらりとマスターの顔を見た。
「うんちくは結構ですので注文を続けてくれ」
大神がマスターの方を見ると、右手の親指を立てていた。
「それでは、取り敢えずうな重を3人分お願いしようかな」
「おい、ちょっと待てよ。何で3人分なんだ」
朝比奈の注文に即座に突っ込みを入れた。
「うな重には関東風と関西風があるのはお前も知っているよな。皮のパリパリ感が好きなお前は関西風で、折角だから俺はその関西風と一度蒸しあげて、身も皮もふっくらした関東風も食べ比べてみたいからな」
そう言って、朝比奈は準備もあるのでマスターに声を掛けると大きく頷いた。
「おいおい、関東風とか関西風ってそんなに違うのか」
勝手に自分の分まで注文されて戸惑っていた。
「まぁ、そんなことより、北川さんの身柄が無事に確保されてよかったな。切羽詰れば、殺害されていたかもしれないからな」
朝比奈は早速他のアルバイトが運んで来た生中を手に乾杯のポーズを取ると、大神は慌ててジョッキを合わせた。
「ああっ、黒田の別荘に身を隠していて、事件が収まるまで大人しくしているようにと言い含められていたそうだ」
そう言うと、生ビールを喉へと流し込んだ。
「黒田議員については、今のところ新聞やテレビでも何も報道されていないけど、現状はどうなっているんだ」
朝比奈は生ビールをテーブルに置くと、運ばれてきたふぐ刺へと箸を伸ばした。
「ああっ、まだマスコミでは報道されていないが、黒田は名古屋地検で聴取を受け、裏金や『ニューランドリー』との不正取引などで逮捕されたよ。まさか法務大臣が査察を受けるとは思いもしなかったのだろう、裏帳簿など証拠書類が次々と見つかり観念したんだろう。まぁ、秘書の井上さんが残してくれたデータが決め手になって査察の令状が降りたそうなんだが、あれはフリーライターの大野さんが捜査1課のお前の名前で送って来た郵便物の中に入っていたものだろう」
大神は箸を止めて疑わしい目で朝比奈を見た。
「ああっ、あれは大野さんが勝手に誤解していたんだ。事務所に訪れて誤解を解こうと思っていたんだけれど、その前に殺害されてしまったんだよ」
大神の言いたいことを察して慌てて言い訳した。
「その証拠を俺には知らせずに、わざわざ東京まで出向いて父親に直接渡したってことなんだよな」
嫌味を込めて言い返した。
「お前に渡しても上層部に揉み消されるだけだし、黒田議員の不正を暴露して欲しかったから、この方法が一番手っ取り早いと判断したまでだ」
涼しい表情で答えた。
「まぁそれは仕方ないとして、本当お前はとんでもないことを考えるよな。もし、西村元警視正が発砲していたらどうするつもりだったんだ」
現場に駆けつけた時の状況を思い出して問い質した。
「奴の拳銃の握りを見なかったのか。サポートハンドの親指を交差するように後ろへ回り込ませる握り方。クロストサムスと呼ばれスライドが後退する自動式拳銃では接触して怪我をする為、原則として回転式拳銃のみの形なんだ。奴は警察学校で少し拳銃の扱いを習った程度だろう。それに、現場に出ることもないエリートの警視正だっただろうから、まともな射撃訓練なんてしてないし、あの距離で命中率の低いSIG P220を使いこなして俺の体に当てられるとは思えなかった。おれは基本通りウィーバースタンスでサムスロックダウンで構えていたから、もし彼が外せば正当防衛を主張してあいつの心臓にドバンと弾丸を撃ち込んでいたかもな」
朝比奈は右手で拳銃の形を作り発砲のアクションを取った。
「おいおい、お前が発砲していたら、銃を貸した俺の首が飛んでいたし、それでなくても西村元警視正が自白の際にその話をしても、俺の懲戒は免れなかったかもしれないんだからな」
その状況を想像して大神は身を震わせた。
「まぁ、可能性は0%じゃないけど、エリートの警視正が素人に銃を突きつけられて投降したなんてカッコ悪くて言えないだろうよ。それでも、もし彼がそう自供したとしても、銃刀法違反程度だし、拳銃の出処についてはお前を襲って銃を奪ったと、警察には話すつもりでいたから、責任を負わされることは無かったと思う。まぁ、隠蔽するのは警察はお得意だからな公表はされないと思うけどな」
ハイペースで生中を飲み干すとマスターに向かって空のジョッキを見せてお代わりを催促した。
「本当にお前は・・・・・・・あっ、美紀さんから聞いたんだけど、『Go ahead meke myday』と言った途端に、西村元警視正が急に態度を変えて投降したと話してくれたのだけど、俺はたまたま知っていた『ダーティーハリー4』でのハリー刑事の台詞なんだよな。年代的に彼がその台詞や場面を知っていたとは思えないけど、どうしてそんな台詞を使ったんだ」
美紀から聞いた話に理解が付いて行かないでいた。
「実を言うと、西村元警視正は姉貴の大学時代の元彼氏で、ダーティーハリーが好きだったと知っていたから、対面した時に犯人が西村元警視正だと分かったので、彼ならその言葉がとのような場面で、どの様な意味を持っているのか分かっていると思ったんだ。何せ『Go ahead meke myday』はAmerican Film Instituteが2005年に公表した『映画の名台詞100』では、全100位中第6位に位置づけられたくらいだからな」
朝比奈は左の顳かみを叩きながら答えた。
「えっ、そうだったのか。供述では、西村の父親と黒田が大学の同期で親しく、警視庁に入庁してからは色々便宜を図ってもらっていたそうだ。だからあの若さで警視正になれたんだろうな。でも、今回はたまたま上手くいって、西村元警視正の自供を元に黒田法務大臣を殺人教唆で追起訴出来たからいいけど、余りハラハラさせないでくれよ」
そう言ったものの、朝比奈の性格を知り尽くしている大神は、これからもハラハラドキドキは続くのだろうと諦めていた。
「お前は勿論、美紀や父さんまで巻き込んでしまったからな。それは仕方ないとして、直接迷惑を掛けていない姉さんにも叱られて、罰として高級フレンチに美紀を呼んで3人で反省会をさせられたんだぜ。勿論俺の奢りだったから、東京に行った時に親父が珍しくお金をくれたから良かったげれど、その援助がなかったらアオアオファイナンスで借金してただろうな。くどいようだけど、俺のお蔭で事件解決できて、お前の株も上がったんだからせめてこの店のつけだけでも精算してもらえないかな」
本当に切羽詰っているのであろう、いつになく猫撫で声を使って大神を見た。
「今回の事件、俺が気付かなかったら全て暗闇の中、解決に随分貢献したんだから今夜はお前の奢りでいいんだよな。風の噂では、今回の活躍で警視総監賞が授与されたそうじゃないか。これでまた警視総監への椅子が近づいたんじゃないですか」
2人が席に着くと朝比奈が声を発した。
「お前が近くにいる限り、県警の刑事部長の椅子だって夢のまた夢だよ。でも、今日だけは俺の奢りだが、それでも常識の範囲で遠慮して注文してくれよ」
いきなりの言葉に呆れ顔で答えた。
「それでは、取り敢えず生中を2つと、ふぐの刺身を2人前・・・・・・」
注文を聞きに来た、朝比奈の部下でもあるアルバイトの女性に伝えた。
「おい、ふぐ刺ってメニューに載ってないぞ。それに、確かふぐを調理するには免許が必要だろ」
大神がメニューを見ながら言い返した。
「ああっ、ふぐ条例等に基づき、各都道府県によってふぐ包丁師、ふぐ取扱者、ふぐ処理師、ふぐ調理士、ふぐ取り扱い登録者、ふぐ調理者と呼ばれているけれど、愛知県ではふぐ取扱い規制条例第2条第2項でふぐ処理師を認め、マスターは勿論、俺も調理師免許を持っているよ。県の条例だから県内のみでしか通用しないけどね」
ちらりとマスターの顔を見た。
「うんちくは結構ですので注文を続けてくれ」
大神がマスターの方を見ると、右手の親指を立てていた。
「それでは、取り敢えずうな重を3人分お願いしようかな」
「おい、ちょっと待てよ。何で3人分なんだ」
朝比奈の注文に即座に突っ込みを入れた。
「うな重には関東風と関西風があるのはお前も知っているよな。皮のパリパリ感が好きなお前は関西風で、折角だから俺はその関西風と一度蒸しあげて、身も皮もふっくらした関東風も食べ比べてみたいからな」
そう言って、朝比奈は準備もあるのでマスターに声を掛けると大きく頷いた。
「おいおい、関東風とか関西風ってそんなに違うのか」
勝手に自分の分まで注文されて戸惑っていた。
「まぁ、そんなことより、北川さんの身柄が無事に確保されてよかったな。切羽詰れば、殺害されていたかもしれないからな」
朝比奈は早速他のアルバイトが運んで来た生中を手に乾杯のポーズを取ると、大神は慌ててジョッキを合わせた。
「ああっ、黒田の別荘に身を隠していて、事件が収まるまで大人しくしているようにと言い含められていたそうだ」
そう言うと、生ビールを喉へと流し込んだ。
「黒田議員については、今のところ新聞やテレビでも何も報道されていないけど、現状はどうなっているんだ」
朝比奈は生ビールをテーブルに置くと、運ばれてきたふぐ刺へと箸を伸ばした。
「ああっ、まだマスコミでは報道されていないが、黒田は名古屋地検で聴取を受け、裏金や『ニューランドリー』との不正取引などで逮捕されたよ。まさか法務大臣が査察を受けるとは思いもしなかったのだろう、裏帳簿など証拠書類が次々と見つかり観念したんだろう。まぁ、秘書の井上さんが残してくれたデータが決め手になって査察の令状が降りたそうなんだが、あれはフリーライターの大野さんが捜査1課のお前の名前で送って来た郵便物の中に入っていたものだろう」
大神は箸を止めて疑わしい目で朝比奈を見た。
「ああっ、あれは大野さんが勝手に誤解していたんだ。事務所に訪れて誤解を解こうと思っていたんだけれど、その前に殺害されてしまったんだよ」
大神の言いたいことを察して慌てて言い訳した。
「その証拠を俺には知らせずに、わざわざ東京まで出向いて父親に直接渡したってことなんだよな」
嫌味を込めて言い返した。
「お前に渡しても上層部に揉み消されるだけだし、黒田議員の不正を暴露して欲しかったから、この方法が一番手っ取り早いと判断したまでだ」
涼しい表情で答えた。
「まぁそれは仕方ないとして、本当お前はとんでもないことを考えるよな。もし、西村元警視正が発砲していたらどうするつもりだったんだ」
現場に駆けつけた時の状況を思い出して問い質した。
「奴の拳銃の握りを見なかったのか。サポートハンドの親指を交差するように後ろへ回り込ませる握り方。クロストサムスと呼ばれスライドが後退する自動式拳銃では接触して怪我をする為、原則として回転式拳銃のみの形なんだ。奴は警察学校で少し拳銃の扱いを習った程度だろう。それに、現場に出ることもないエリートの警視正だっただろうから、まともな射撃訓練なんてしてないし、あの距離で命中率の低いSIG P220を使いこなして俺の体に当てられるとは思えなかった。おれは基本通りウィーバースタンスでサムスロックダウンで構えていたから、もし彼が外せば正当防衛を主張してあいつの心臓にドバンと弾丸を撃ち込んでいたかもな」
朝比奈は右手で拳銃の形を作り発砲のアクションを取った。
「おいおい、お前が発砲していたら、銃を貸した俺の首が飛んでいたし、それでなくても西村元警視正が自白の際にその話をしても、俺の懲戒は免れなかったかもしれないんだからな」
その状況を想像して大神は身を震わせた。
「まぁ、可能性は0%じゃないけど、エリートの警視正が素人に銃を突きつけられて投降したなんてカッコ悪くて言えないだろうよ。それでも、もし彼がそう自供したとしても、銃刀法違反程度だし、拳銃の出処についてはお前を襲って銃を奪ったと、警察には話すつもりでいたから、責任を負わされることは無かったと思う。まぁ、隠蔽するのは警察はお得意だからな公表はされないと思うけどな」
ハイペースで生中を飲み干すとマスターに向かって空のジョッキを見せてお代わりを催促した。
「本当にお前は・・・・・・・あっ、美紀さんから聞いたんだけど、『Go ahead meke myday』と言った途端に、西村元警視正が急に態度を変えて投降したと話してくれたのだけど、俺はたまたま知っていた『ダーティーハリー4』でのハリー刑事の台詞なんだよな。年代的に彼がその台詞や場面を知っていたとは思えないけど、どうしてそんな台詞を使ったんだ」
美紀から聞いた話に理解が付いて行かないでいた。
「実を言うと、西村元警視正は姉貴の大学時代の元彼氏で、ダーティーハリーが好きだったと知っていたから、対面した時に犯人が西村元警視正だと分かったので、彼ならその言葉がとのような場面で、どの様な意味を持っているのか分かっていると思ったんだ。何せ『Go ahead meke myday』はAmerican Film Instituteが2005年に公表した『映画の名台詞100』では、全100位中第6位に位置づけられたくらいだからな」
朝比奈は左の顳かみを叩きながら答えた。
「えっ、そうだったのか。供述では、西村の父親と黒田が大学の同期で親しく、警視庁に入庁してからは色々便宜を図ってもらっていたそうだ。だからあの若さで警視正になれたんだろうな。でも、今回はたまたま上手くいって、西村元警視正の自供を元に黒田法務大臣を殺人教唆で追起訴出来たからいいけど、余りハラハラさせないでくれよ」
そう言ったものの、朝比奈の性格を知り尽くしている大神は、これからもハラハラドキドキは続くのだろうと諦めていた。
「お前は勿論、美紀や父さんまで巻き込んでしまったからな。それは仕方ないとして、直接迷惑を掛けていない姉さんにも叱られて、罰として高級フレンチに美紀を呼んで3人で反省会をさせられたんだぜ。勿論俺の奢りだったから、東京に行った時に親父が珍しくお金をくれたから良かったげれど、その援助がなかったらアオアオファイナンスで借金してただろうな。くどいようだけど、俺のお蔭で事件解決できて、お前の株も上がったんだからせめてこの店のつけだけでも精算してもらえないかな」
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毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
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