上 下
27 / 27
魔界編

27 アスモの次の仕事

しおりを挟む

 
「ようやく寝室から出てこれましたね」
 
「……ええ……まぁ、そうね……」
 
 
 初夜から一週間が経過したその日、アスモデウスはルシファーに呼び出され、渋々寝室から出て支度をして城を出ていった。
 
 残されたアンネリーゼは、食事を済ませ、エマとティモと城の中を案内を頼んだ。
 

 アスモデウスの城では、行く先々で懐かしい顔ぶれに出会い、アンネリーゼは度々涙を浮かべる事となった。

 城の庭では、リビアングラドのクリスタル城で庭師をしていた者が手入れをしており、人間界では見たことのない美しい魔界の花を、自慢気にアンネリーゼに説明してくれる様子に、アンネリーゼは心が軽くなっていく。

 アンネリーゼのために悪魔となったかつての城の者達が、アスモデウスの城で笑顔で働くその様子は、感謝の気持ちと同じくらいにあった罪悪感を解していった。



 咲き誇る花々を見ながら、庭のガゼボでティータイムをとっていると、エマが尋ねてきた。

「奥様、不躾ではございますが、あの罪人二人はどうされたのですか? ティモもアスモルト様も、誰も教えてはくれないのです……」
 
「ああ、ユリウスとヘレーネの事ね? あの二人には、罰を与えたわ……」
 
 
 アンネリーゼが女王として、ユリウスとヘレーネの二人に命じたのは、“墓地清掃”だった。

 侵略により命を落とした者達の眠る墓地だ。

 “一人一人の墓を丁寧に磨きながら、大きな声で謝罪の言葉を述べ続けよ”と、指示した。

 さらには、その監視役は日替わりで被害者の遺族に希望者を募り選出した。

 “死ななければ、何を言ってもしても良い”──と、監視役の遺族達に伝えてあった事から、ユリウスとヘレーネはその身をもって、遺族達の怒りや悲しみ、絶望感を感じたはずである。

「両親や兄、親しい者達を殺されて、復讐をしたいと思ったのは、私だけではないはずだと……ふと思ったの……それで行き場のなかった遺族達の苦しみが、少しでも軽くなったり、気が済むのなら、とね」

「……すぐに処刑してしまうよりも、より効果的な復讐だったと思いましたよ……遺族の中には、涙を流しながら二人に恨み辛みを言いながら、命が危ない際どい所まで殴り続けた者もおりました」

 ティモには、復讐心の強い危険そうな遺族の日には、念の為に立ち会ってもらっていた。

「ならば、私の墓をアレらが磨いたのですか?」

「そうね、二人が死ぬまでの50年間、毎日毎日雨の日も雪の日も磨かせたわ……途中、亡霊にうなされていたようだと報告を受けたけど、いい気味だと思って放おっておいたのだけど、もしかして悪魔になった誰かがイタズラしていたのかしら?」

 アンネリーゼは当時、亡霊でもいいから両親に会いたい、と願った事を思い出した。


「ソレは有り得ませんね……城の者達はずっと訓練を受けておりましたから……自由に人間界を行き来する事も我々下級悪魔には出来ません……イタズラをしていたとすれば、旦那様かと……」

 アンネリーゼはエマの言葉に、ハッとした。


「そうよね……アスモ様はずっと人間界で私を見守っていてくださったようだし……」


 その時だった。


『奥様ぁ~ピ』
「……」

 もふもふ黒獅子状態のポピーとアスモルトが姿を現した。


「あら、ポピーさん、まだ獣化したままなの?」

 まさか、ヒト型に戻れないのだろうか、とアンネリーゼは心配するも、どうやら違うようだ。

「奥様……ポピーさんは奥様に会うから、と、わざわざ獣化したのです」

『アスモルト! ソレは言わんでよろしいピ!』

「毛並みを整えろと言われ、僕はこちらに伺う直前まで、この巨体を隅々までブラッシングさせられましたよ。奥様、どうか僕のブラッシングの成果をご堪能ください」

 そんなアスモルトの言葉に、アンネリーゼは嬉しさから笑みを浮かべ、では遠慮なく……と、ひと声告げ、ポピーの身体にボフンッと抱きついた。


「……ふふっ……ふわふわもふもふね……っこのままポピーさんに埋もれてお昼寝したいわ……」

『ほわぁ~……チカラが漲るようですピ』

 アンネリーゼに抱きしめられているポピーは、恍惚な表情をしたまま腹天で横たわる。

 腹天のポピーのお腹部分によじ登ったアンネリーゼは、うつぶせに跨り、ポピーの腹部を掻きながらもふもふを堪能していた。


「おい、そこの駄犬」

『ひぃっピ!』

 ポンッ!


 突然現れたアスモデウスに驚いたポピーは、咄嗟に獣化を解いた。

「ッキャ!」

 仰向けの状態でヒト型になったポピーの上に跨る格好になってしまったアンネリーゼの姿に、アスモデウスは即座に彼女をポピーの上から抱き上げた。

「アンネ、ポピーはオス・・だ、あまり近づきすぎるな」

 主の嫉妬心に火をつけてしまったポピーは、いそいそとアスモルトの影に隠れた。

「おかえりなさいませアスモ様っ。ルシファー様のご用事はお済みなのですか?」

「ああ、丁度揃っているようだから今皆に伝えるが……俺の後釜の王となるシトリーに、これまでの仕事と配下達を譲る事にした」

 アスモデウスの突然の発表に、アンネリーゼ以外のポピー、アスモルト、ティモ、エマが驚きの表情を見せた。

「シトリー殿が王の後釜に決まったのですかピ?!」

「ああ。あいつも“色欲系”だからな、丁度いいだろうとルシファー様と決めた……ついでに言うと、俺はもう“王”ではないから、ルシファー様のように、アスモデウス様と呼べ」

「「「「かしこまりました」」」ピ」


 何が何だかわからないアンネリーゼだったが、“シトリー”という名には聞き覚えがあった。

「シトリー様は、先日披露宴でご挨拶させて頂いたグリーンの髪をされた方ですよね? ……とても紳士的で素敵な方でしたから、アスモデウス様の配下だった方々を大切にしてくださいますわ」

「……」

 アンネリーゼの発言に、その場にひんやり冷たい空気が漂う。

「……奥様……旦那様の前ではあまり他の殿方を褒めない方がよろしいかと……」

 エマが小声で伝えると、アスモデウスが口を開いた。

「そうだ、グリーンの髪をした紳士的・・・な奴だ。凄いなアンネ、挨拶した者達を覚えているのか? それとも、シトリーが素敵・・だったから覚えているのか?」

 とんでもなく心狭くトゲのある言い方をするアスモデウスに部下達は背筋が凍る思いだったが、当のアンネリーゼはのほほんとしている。

「もちろん、ご挨拶した方々の顔と特徴とお名前は全て記憶しておりますわ。当然の嗜みかと……ですが、そうなると、アスモ様は別のお仕事をされますの?」

 嫌味にすら気づかないほど、夫の事しか考えていない妻に、アスモデウスは毒気を抜かれた。

「……そうだ、俺はルシファー様の仕事を半分受け持つ」

「なんとピ! なんとなんとピ! 素晴らしいピ! さすがはステルラ様だピ! 鼻高々だピ!」

 一人興奮するポピーから、他の四人にルシファーが行っている仕事について説明がなされると、アスモルトとティモも若干熱を上げる。

「魂を魔界の供給エネルギーに変換する……? そんな重要な仕事をアスモデウス様が任されたのですか?」

「そうだ、むしろ、現時点ではルシファー様と俺にしか出来ない仕事だ」

「……危険は無いのですか?」

「心配いらない、危険などないからそんな顔をするな……今すぐ寝室に連れ込みたくなるだろ」

 夫を心配する妻の言葉と表情に気を良くしたアスモデウスは、先ほどとは打って変わり、冗談を言いからかうが、言葉を真に受けたアンネリーゼは頬を染める。


「……ぁ~っと……後はご夫婦でティータイムをお楽しみくださいピ! 皆んな、引き継ぎの手配をするピよ!」

 二人の甘い空気読んだポピーは、部下を引き連れその場を離れた。


「ポピーもなかなか気が利くようになったな……アンネ、まだ飲むか?」

「私はもう十分です……今、アスモ様の分をご用しますわね」

 二人きりになっただけだというのに、照れ臭そうにするアンネリーゼに、アスモデウスは“萌え”た。

「……やはり俺の分はいい、こっちにおいでアンネ」

 ご機嫌なアスモデウスの呼びかけと誘導に、アンネリーゼは手にしていたティーポットをそっと置き、優雅に椅子にかけるアスモデウスの膝の上に座った。

 すると、突然パッと転移魔法が発動し、二人は寝室にいた。

「もうっ! 本当に寝室に連れ込みましたね!?」

「アンネが可愛いのが悪い」

 アスモデウスは文句を口にするアンネリーゼの唇を塞ぎ、瞬く間に蕩けさせる。

「……っ! ……ズルいですわ……キスをされたら私が抵抗出来なくなるとわかって……っんん──」


 結局、アスモデウスの三時のオヤツとして美味しく頂かれたアンネリーゼは、夕食の時間まで眠ってしまったのだった。

 
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!

臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。 そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。 ※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています ※表紙はニジジャーニーで生成しました

お屋敷メイドと7人の兄弟

とよ
恋愛
【露骨な性的表現を含みます】 【貞操観念はありません】 メイドさん達が昼でも夜でも7人兄弟のお世話をするお話です。

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

[R18] 18禁ゲームの世界に御招待! 王子とヤらなきゃゲームが進まない。そんなのお断りします。

ピエール
恋愛
R18 がっつりエロです。ご注意下さい えーー!! 転生したら、いきなり推しと リアルセッ○スの真っ最中!!! ここって、もしかしたら??? 18禁PCゲーム ラブキャッスル[愛と欲望の宮廷]の世界 私って悪役令嬢のカトリーヌに転生しちゃってるの??? カトリーヌって•••、あの、淫乱の••• マズイ、非常にマズイ、貞操の危機だ!!! 私、確か、彼氏とドライブ中に事故に遭い•••• 異世界転生って事は、絶対彼氏も転生しているはず! だって[ラノベ]ではそれがお約束! 彼を探して、一緒に こんな世界から逃げ出してやる! カトリーヌの身体に、男達のイヤラシイ魔の手が伸びる。 果たして、主人公は、数々のエロイベントを乗り切る事が出来るのか? ゲームはエンディングを迎える事が出来るのか? そして、彼氏の行方は••• 攻略対象別 オムニバスエロです。 完結しておりますので最後までお楽しみいただけます。 (攻略対象に変態もいます。ご注意下さい)   

【続】18禁の乙女ゲームから現実へ~常に義兄弟にエッチな事されてる私。

KUMA
恋愛
※続けて書こうと思ったのですが、ゲームと分けた方が面白いと思って続編です。※ 前回までの話 18禁の乙女エロゲームの悪役令嬢のローズマリアは知らないうち新しいルート義兄弟からの監禁調教ルートへ突入途中王子の監禁調教もあったが義兄弟の頭脳勝ちで…ローズマリアは快楽淫乱ENDにと思った。 だが事故に遭ってずっと眠っていて、それは転生ではなく夢世界だった。 ある意味良かったのか悪かったのか分からないが… 万李唖は本当の自分の体に、戻れたがローズマリアの淫乱な体の感覚が忘れられずにBLゲーム最中1人でエッチな事を… それが元で同居中の義兄弟からエッチな事をされついに…… 新婚旅行中の姉夫婦は後1週間も帰って来ない… おまけに学校は夏休みで…ほぼ毎日攻められ万李唖は現実でも義兄弟から……

【R18】助けてもらった虎獣人にマーキングされちゃう話

象の居る
恋愛
異世界転移したとたん、魔獣に狙われたユキを助けてくれたムキムキ虎獣人のアラン。襲われた恐怖でアランに縋り、家においてもらったあともズルズル関係している。このまま一緒にいたいけどアランはどう思ってる? セフレなのか悩みつつも関係が壊れるのが怖くて聞けない。飽きられたときのために一人暮らしの住宅事情を調べてたらアランの様子がおかしくなって……。 ベッドの上ではちょっと意地悪なのに肝心なとこはヘタレな虎獣人と、普段はハッキリ言うのに怖がりな人間がお互いの気持ちを確かめ合って結ばれる話です。 ムーンライトノベルズさんにも掲載しています。

【R18】いくらチートな魔法騎士様だからって、時間停止中に××するのは反則です!

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
 寡黙で無愛想だと思いきや実はヤンデレな幼馴染?帝国魔法騎士団団長オズワルドに、女上司から嫌がらせを受けていた落ちこぼれ魔術師文官エリーが秘書官に抜擢されたかと思いきや、時間停止の魔法をかけられて、タイムストップ中にエッチなことをされたりする話。 ※ムーンライトノベルズで1万字数で完結の作品。 ※ヒーローについて、時間停止中の自慰行為があったり、本人の合意なく暴走するので、無理な人はブラウザバック推奨。

処理中です...