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魔界編

25 ポピー

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 新婚生活一日目……初夜を終えた魔界での朝は、小鳥のさえずりなどではなく、謎の生き物の不気味な咆哮と、謎の爆発音から始まった。
 
 それでも、アンネリーゼは不思議と怖いとは感じない。
 
 
 何故なら……。

「目が覚めたか?」

「アスモ様……」

 ふかふかのベッドの上で、背後から優しくアンネリーゼの身体を包み込むぬくもりがあったからだ。

 これまでは胸に顔を埋められ、抱き枕にされた状態で目覚める事には慣れていたが、今朝のような状態で目覚めた記憶はほとんどないアンネリーゼにとって、なんとも嬉しい体験だった。


 アンネリーゼはアスモデウスの方に向かい合うように身体を回転させ、呟いた。

「──ふふ……嬉しいです……目覚めたらアスモ様の腕の中だなんて……」

「……アンネ……そんな可愛い事を言うとベッドから出してやれなくなるぞ」

 掛布の中は、生まれたままの姿で肌が触れ合っている状況──先ほどまではなかったはずの硬い何か・・がアンネリーゼに腹部を圧している。

「まぁ、“アスモ君”がまた……っ」

 アンネリーゼはイタズラに微笑み、腹部に当たるソレ・・にそっと手を伸ばし、触れた。

「……おい、なかなか言うようになったな」

「ふふっ──私だっていつまでも、何も知らぬ娘ではありませんわ……たとえ、経験したお相手がアスモ様お一人だとしても……」

 アスモデウスはアンネリーゼの身体を再び回転し、背中を向けさせると、彼女の秘部に触れ、しっとりとした潤いを確認すると、もぞもぞと己のソレを太ももに挟み込み、何度か腰を動かす。

 そして、アンネリーゼの蜜を纏ったソレを、ゆっくりと彼女の中に挿し入れた。

「ん……っ」

「スルスルと挿っていくな……」


 アンネリーゼの甘い喘声に、アスモデウスも熱が入り、朝から二人は一度二度では止まることなく、身体を交える。











「……アスモ様……昨日から思っていましたが、悪魔もお腹が空くのですね……」

 ベッドで睦み合い続けた結果、昼を少し過ぎた頃、アンネリーゼは空腹を感じた。
 それもそのはず……新婦であるアンネリーゼは挙式の朝からずっとバタバタしていたため、軽食を摘む程度しかできていなかったのだ。


「……まぁ、そうだな、悪魔とは言え人間だったお前達の身体の造りは人間のままだからな」

「……アスモ様は違うのですか?」

「俺か? 俺達は元々悪魔だからな、人間の見た目を模倣しているだけで本来なら食事も睡眠も不要だ。だが俺は、セックスの気持ち良さを追求するがあまりに人間の身体の再現率を高めたせいで、疲れるし眠くなるし腹もすくぞ」

 それを聞いたアンネリーゼは顔をほころばせた。

「良かった……アスモ様と美味しいものや睡眠を共有出来ないのは寂しいですもの」

「……またお前は……はぁ……俺の妻はあざとくて困るな……」

「……妻……」

 “妻”という響きに、アンネリーゼは頬を染める。

「……っったく!」

 アスモデウスは行き場のない“萌え”の感情が爆発しそうだったが、アンネリーゼを抱きしめる事でなんとか耐え、20時間ぶりにベッドから出て、食事を用意させる事にした。













「ティモ!」
 
 食事を済ませゆっくりしていると、護衛として配属されたティモが挨拶に現れ、アンネリーゼは喜びのあまり駆け寄り抱きついた。
 
 
「……ははっ奥様・・、旦那様の前でおやめくださいっ」
 
 引きつったティモの声と共に、アンネリーゼはスッと引き離されてしまう。
 
 もちろん、ティモはアンネリーゼの背後にいるアスモデウスの恐ろしい嫉妬の視線に気付き、大人の対応をとったのである。

「お亡くなりになった方に言うセリフではないですが、お元気そうで何よりです。今後とも、貴女様のお側に仕えますので、よろしくお願いしますね」

「本当に嬉しいわっよろしくねっ! ……ティモは若い頃の姿にはならないの?」

 背後のアスモデウスがティモに向ける視線に全く気付いていないアンネリーゼは、こりずにティモの両手を取り握る。

「……はははっ二日ほど前までは若い姿だったのですがねぇ……」

「……そうなの? アスモルト様も似たような事を言っていたけど……エマ達は変わらないみたいなのに変ね」

 まさか自分の夫が二人の姿を強制的に変えているなど知らないアンネリーゼは、首をかしげる。


「ティモ、おそらくこれから面倒な悪魔の王奴らが日替わりでアンネリーゼを訪ねて来るだろうから、お前で対処出来なければすぐに俺を呼べ」

「かしこまりました」

「アスモ様……訪ねて来られるというのは、披露宴でご挨拶した方々以外の王達という事ですか?」

 アンネリーゼは、日々気が抜けないな、と気を引き締めつつ、披露宴で挨拶を交わしたアスモデウスと親しげ王達の顔を思い浮かべていた。


「いや、挨拶した奴らは我が物顔で来るだろうし、していない奴らも、それなりに傲慢な態度で来るだろうな……俺の妻をからかい・・・・に」

「……からかいに?」

「……基本的に自由奔放な悪魔の王が結婚なんてものに縛られようとする事自体、珍しい事なんだ。婚姻関係を正式に結んでいるのは、魔界でもルシファー様とリリス様以外に、ほんの数組しかいない……にも関わらず、この俺が人間だったお前と結婚したとなれば……」

 好奇の目にさらされる、と言う事だろうか……とアンネリーゼは考えたが、それがなぜ、“からかい”の対象になるのかが繋がらない。



「奥様、我らが王は……どうやら奥様に出会うまではたいそうな人間嫌いで有名だったのだそうです、なので、配下の数も他の王に比べてとても少なかったとか……」

「え……?」

 突然のティモの言葉に、アンネリーゼは驚いた。

 アンネリーゼに出会う前から、アスモデウスはアスモルトを生かし続けていた事や、召喚した自分の意識がない間に城を復元してくれていた事などから、アスモデウスは人間に寄り添ういい悪魔だと勝手に思い込んでいたからだ。

「そんな事ないわ! っだってアスモ様は始めから私に優しかったものっ……アスモルト様の件だって……っ」

「……カーネリアン侯爵家については、何もせず魂が四つ手に入るのですから、あれくらいはしますよ……奥様に関して言えば……無意識な一目惚れだったのではないでしょうか? もしくは……リビアングラドの血の秘密にお気付きに……」

 “一目惚れ”や“リビアングラドの血の秘密”というティモの言葉に、特に反応する事もなく、アスモデウスは無言でコーヒーを飲んでいる。

「ま、まさか……一目惚れだなんて……」



 アンネリーゼが頬を染めた、その時だった。


「そう、一目惚れですピ! そうに決まってますピ!」

「……ピ?」

 突然室内に転移して現れた人物を、アンネリーゼは何故か知っているような気がした。

「っあ……貴方はもしかして……“ポピー”さん?」

「奥様、お初にお目にかかりますピ。私めが魔界でたった二名の“Sランク・ステルラ”となられたアスモデウス様の最側近、ポピーでありますピ!」

 鼻高々にそう名乗るポピーの様子は、主であるアスモデウスが昇格した事がよほど嬉しいのだと伝わってくるようだ。

 かつてアスモデウスからポピーについて話しを聞いた際、その話し方などから、小さな子供のような容姿をした悪魔を想像していたアンネリーゼだったが、実際のポピーは全く異なっていた。

 ポピーは──。

「なんて事っ! ポピーさん、その……少しだけ、その尻尾・・に触れても……よろしいですか?」

「っえっピ? ……どうぞですピ」

 ポピーは、頭上に真っ黒で大きな狼のような耳と、フサフサの尾を携えた獣魔だったのである。

 基本的な姿は成人男性ではあるが、大きな耳と尻尾のせいか、可愛らしいさが勝っていた。

 許可を得てポピーのフサフサの尾に触れたアンネリーゼだったが、さらに驚く事態となる……。

 アンネリーゼの手が尾に触れた直後、ポピーが獣化したのだ。

「……え?!」

「っな!」
「っポピー殿?!」

 その事態に、アスモデウスとティモも驚き、声をあげていた。

 驚きのあまり静まり返る室内では、とてつもない大きさの真っ黒な狼がフリーズしている。

「あら? ポピーさん、そんな姿にもなれるのですねっふわふわで素敵ですわっ……」

 アンネリーゼだけは、もふもふを堪能する事しか考えていない。


「待てアンネ……ポピーから離れてゆっくりこっちへ来い」

 突然にして始めてのポピーの獣化に、アスモデウスも警戒し、一人ウキウキした様子のアンネを、ポピーから引き離した。


「ポピー、意識はあるか? 会話は可能か?」

『……』

 アスモデウスの問いかけに、ポピーからの応答はない。

「まさか、いつもの事ではないのですか?」

 緊張感のはしる、張り詰めたような空気に、さすがのアンネリーゼも、何か異常事態であると察した。

「ああ、ポピーは獣化出来ないハンパ者とされる獣魔でな……そのせいで一族を追い出された所を、俺が拾ったんだ」

「獣化出来ない半獣魔……」

 しかし今、三人の目の前には立派に獣化を遂げたポピーがいた。

 
 
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