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魔界編
23 リビアングラドの秘密
しおりを挟む(アスモデウス視点)
「……ルシファー様……お尋ねしたい事が……」
アンネがリリス様に連れていかれ、ルシファー様と二人残された俺は例の件について尋ねてみることにした。
「アスモデウス、腹をくくれ、リリスちゃん♡はもう止められないぞ」
俺が本題に入る前に、なぜか結婚についてなだめられたが、俺はアンネとの結婚に文句はない。
むしろ、結婚という形でアンネを俺だけの者として自分のそばに置いておけるのならば、願ってもないことだと以前から思ってはいた。
「あ、いえ、走り出したリリス様を止められない事は存じておりますし、結婚についてどうこう言うつもりもありません。曖昧になっていた、私の階級の件です」
「ああ、階級な……言ったとおり、お前は今、私と同じ“Sランクのステルラ”だ」
悪魔の階級は全て、Sランクから下にBランクまでの三階級ずつ存在するのだが、俺は今まで、“王”の中でも最も上の“Sランクの王”のうちの一柱だった。
ルシファー様の階級である“王”階級の上となる“ステルラ(星)”階級は、魔界において彼のみの、彼のために存在する階級であるようなものであり、同様に三階級ありはするが、ルシファー様以外存在していない。
「その件ですが、私とルシファー様が同じになるなどあり得るのですか? Sランクの“ステルラ”など、貴方様以外になり得ないですよね」
あり得るわけがない。元天使であられるルシファー様と俺達悪魔とでは、存在自体がそもそも異なるのだから。
「あり得る。──ただし、可能性としてはたった二つだ。リビアングラドの魔女の純潔のチカラを得るか、はたまた天使長クラスが堕天するか……知っての通り、私は堕天組だからな。つまり、お前はラッキーボーイだったと言う事だ」
──ラ、ラッキーボーイ? そんな簡単に……済ませるような事案なのか? いやしかし、リビアングラドの魔女の純潔とはそんなにすごいものなのか?
「いいかアスモデウス。私はリリスちゃんの純潔はもらえなかった……出会った時にはすでに済んでいたからな……」
「……」
──その話、今重要ですか?
「リビアングラドの魔女の純潔によってチカラを得ると言ってもな、簡単な事ではない。相思相愛である事が必須という、なんともロマンチックな条件設定が隠されている」
「っな! なんですかその胡散臭い条件は!」
──言葉にした通りだが、なんだその胡散臭いふざけた設定は……だが、つまりあの時点ですでに、俺達は相思相愛だったという事か? まぁ、アンネは俺に惚れていただろうが、俺まで? まったく自覚は無かった……。
「まぁ、十中八九……リリスちゃん♡が決めた設定だろうな……自分の血に秘められたチカラを悪用させないために」
──やはりリリス様がここで登場するわけか。
リビアングラドの魔女と呼ばれたリリス様はアンネの先祖であることは間違いないわけで、で、あれば、その血に隠された秘密を知るのもリリス様とその夫であるルシファー様だけだろう。
「ルシファー様、リビアングラドの魔女とは一体何者なのですか?」
聞いて素直に答えてくれるかはわからないが、一応尋ねてみる。
「リビアングラドの魔女か? リリスちゃん♡そのものだ……彼女を見ていればわかるだろう」
──いや、わかるようなわからないような……恐妻? 鬼嫁? ……やはりわからない。
「リリスちゃん♡は人間界で始めてチカラを持って生まれた人間だ。つまり……始祖だな。さらに彼女は、女児にしかチカラが発現しないように自身の血に呪いをかけた……なぜだかわかるか?」
「……わかりません」
「男はあちこちに簡単に種を蒔くことができるが、女性はその身に宿し、命をかけて子を産む……その違いは一目瞭然だろ」
なんとなくだが、話しの意図はわかる気がする。
理由はわからないが、要するに、リリス様は魔力を持つ人間が増えることを懸念していたのだろうか。
「なぜリリス様は、そこまでしてリビアングラドの魔女の血を増やしたくなかったのですか?」
「──リビアングラドの魔女はな……“魔女”と言われてはいたが、実際のそのチカラは“女神”のものだからだ、奇跡のチカラでもある」
「“女神”……? リリス様は神だと?」
「そう、リリスちゃん♡は女神なんだ」
とんでもない事実が飛び出してきたが、ルシファー様の様子を見ていると、冗談に聞こえてくる。
「……念の為お聞きしますが……ルシファー様にとって、っという意味ではないですよね?」
「当たり前だろ」
──急に真面目モードやめてくれ、怖い。
「“女神”のチカラを、悪魔である私達が得るなんて、それこそあり得るのですか?」
──そもそも、神のチカラは俺達悪魔の魔力と同じ次元なのか?
「だからこその、ロマンチック設定なんだろ? 考えてみろ、リビアングラドの魔女達は、相思相愛で純潔を捧げた所で、相手の平凡な人間の男にとってはただの宝の持ち腐れでしかない。チカラをチカラとして得る事が出来るのは、我々魔力を持つ者か、天使か、神だけだ」
「悪魔や天使、神と人間が相思相愛? ……確実にありえませんね……」
「その“あり得ない事”を、アスモデウス……お前とアンネリーゼちゃんは成し遂げたんだ」
「……」
その説明ありきでは、確かに俺はラッキーボーイなのかもしれない……ブラッドムーンの奇跡を得たのは、俺の方だったのか。
「アスモデウス、お前は少し、こじらせ君気味だからな。もっと素直になれ。アンネリーゼちゃんはリリスちゃん♡によく似ているから、良き妻となりお前を支えてくれるだろう」
「……性格の面で言えば、リリス様には全く似ていませんよ」
アンネの方が、お淑やかで癒し系だ。間違っても、リリス様のような恐妻にはならないだろう。
俺としては、ルシファー様がおっしゃっるように、こじらせているつもりは毛ほどもないわけで……アンネリーゼへの気持ちにも、気付いていないわけでもない。
好きでもない女を60年以上もの間、見守り続けるなんて、気持ち悪い趣味は、俺にはないからな。
「む……今、リリスちゃん♡からテレパシーが入ったぞ。アンネリーゼちゃんを迎えに来いと言っている」
「かしこまりました」
「……アスモデウス、アンネリーゼちゃんみたいな遠慮がちで自分よりも相手を優先してしまうタイプの子は、わかりやすくハッキリとした言葉と態度で示してやらないと伝わらないぞ。──と、リリスちゃん♡から伝言だ」
「……大変貴重なアドバイス、いたみいります。とお伝えください」
──わかりやすくハッキリとした言葉、ねぇ……アスモルトみたいにか? ……ん? ああ、そうだった……城にはアイツがいるじゃないか……アンネの元夫と、忘れちゃならん、ティモお兄ちゃんもな。
アンネが悪魔となり、俺の妻となる事を知ればあの二人は驚くだろうが、それ以上に、あの二人が悪魔となり魔界にいることに、アンネの方が驚くに違いない。
おまけに、この結婚に関しては、ポピーにすら話していない。城の者達も一切知らないので、明日はとんだサプライズウェディングになるはずである。
「あ、言い忘れていた……アスモデウス、さすがにお前はこれまでの“王”のままとはいかない。他の“王”達とは明らかに格が異なったからな。よって、私の仕事を半分手伝ってもらうことにした。手始めに、プルソンとベリアル、ベレトを任せる。あと、お前の空いた穴に誰かを王に昇格させようと思うが、誰がいいと思う? シトリーかイポスあたりかな? セーレも面白いな」
「……っは?!」
ルシファー様の突然の指令に、名前の上がった同僚である王達と後輩達の顔が頭に浮かんだ。
「ルシファー様の仕事とはつまり……私達が回収した魂を魔界の供給エネルギーに変換するという……アレですか?」
「それだけではないぞ、王同士のいざこざの仲介なんかもする、いやはやストレスの溜まる仕事だから、妻の癒しは必要不可欠だ」
──おいおいオッサン……何を言ってんだ……?
「明日のお前達の結婚式で公表し、新体制スタートだ。まぁ、私も新婚夫婦に無粋な真似はしたくない、しばらくはゆっくりするといい」
「いやっあのっ──ルシファー様っ?」
──明日? ……いつ明日に決まったんだ……もう、別にいいけど……なるようになれ。
「さぁて、私もリリスちゃん♡を迎えに行くかな」
夫婦は似てくると言うが、俺が尊敬していたルシファー様はどこへやら……。
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