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人間界編

16 フュージョン

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 月日は流れ、ユリウスとヘレーネの結婚式の日……つまり、モルダバインとローコモンが併合し帝国となる日が数日後となる中、アンネリーゼは初めてカーネリアン侯爵家を訪れていた。
 
 
 カーネリアン侯爵もその妻も次男も、悪魔に魂を売ったなど、言われなければ全くわからない、至って普通の貴族に見える。
 
「アンネリーゼ王女、わざわざご足労頂き感謝申し上げます……どうぞ、長男の顔を見て行ってください」

 カーネリアン侯爵からそう言われ、アンネリーゼはアスモと共に本物のカーネリアン侯爵の長男と対面する。


「っ?!」

 ベッドに横たわる男性の容姿を見たアンネリーゼは、驚いた。

「アスモ様、これは一体……っ」




「こいつは、自分が病気で長くないと知り、悪魔召喚を行った。その身体に魔力を持たない者が悪魔を召喚するためには何が必要かわかるか?」

 アンネリーゼは知っていた。

「生命力……」

「そうだ。こいつは残り少ない生命力を悪魔召喚に使い、いざ召喚された悪魔に願いを伝えることなくこの状態になったんだ」

 アンネリーゼがチカラ尽きて意識を失った時に近いのだろう、となんとなく状況を察した。

「……死んだならば、魂を頂いて終わりだが、こいつはまだ生きている。意識を失ったまま心臓が必要最低限、ゆったりと動いているだけだ。もうかれこれ十年になる」

 目の前で眠るカーネリアン侯爵の長男は、アスモと瓜二つだった。

 目は閉じられてはいるが、しなやかな黒髪に眉の位置や形、顔の造形などが、アンネリーゼにはほとんど同じに見えた。


「息子は今、本来なら30歳になります……十年前の写真がこちらです……どうぞご覧ください王女様。左が弟のヘンドリックで、右が長男のアスモルトでございます」






 侯爵からアンネリーゼに渡された写真立ての中には、アスモとはあまり似ていない青年が写っていた。
 名前が似ているのは偶然だろうか……。


「……その時は俺には似てないだろ。俺様の方が断然イイ男だからな! ……だが今は、十年間俺様の魔力で、命を繋いでるからか、だんだん似てきたんだ」

 当時、アスモルト・カーネリアンが召喚したのは、アスモの配下だったのだが、召喚主が長期意識不明というイレギュラー事案に、上司であるアスモが動いた。
 召喚主の様子を見に来たアスモは、その場にいたカーネリアン侯爵とその妻、弟に問いかけた。

『こうなった今、頂いた生命力分は願いを叶えてやる。望みを言え』

 その時、カーネリアン侯爵がアスモに願った事が──命が自然に尽きるその瞬間まで、このまま生かしてやって欲しい──だったのだ。

 そんなわけで、アスモはアスモルトの命が尽きるまで放おっておく事にしたのだが、召喚主死亡の場合は最後に魂を頂くのが決まりだ。
 そのため、ちょくちょく様子を見に来ていたのだが、なかなかアスモルトの命は尽きなかった。

 アスモは未完の仕事が残り続けるのが嫌だったため、悪魔の職権で、アスモルトを殺して魂を奪う、と侯爵に告げると、カーネリアン侯爵は待ったをかけた。
 
 侯爵は、アスモに自らの死後の魂をかけ、このままアスモルトを生かして欲しいと願ったのだ。

 始めは断ったアスモだったが、カーネリアン侯爵の妻と、アスモルトの弟までもが、同じように自らの魂をかけてそれを願ったのである。

『生かしたからと言って、こいつが目覚めるかはわからないぞ』

 アスモはそう伝えたが、それでも一縷の望みをかけて、可能な限り生かしておいてやりたいと願うカーネリアン侯爵家の三人の願いを、アスモは死後の三つの魂と引き換えに、渋々今も引き受けているのだ。


「事情はわかりました……アスモ様は、アスモルト様の身体に憑依する事などは出来ないのですか?」

「……憑依だと? 俺様が人間にか? ……出来ない事はないが……」

「やってみせてくださいませんか?」

「「「っ?!」」」

 アンネリーゼの提案に、カーネリアン侯爵の三人は驚いていた。

「アスモルト様のお身体が人間としての機能を有しているならば……私は本当にカーネリアン侯爵家のご長男と結婚したいと考えております」

「な?! 王女様、それは一体……」

「リビアングラド王家の血を、カーネリアン侯爵家と共に未来に繋げられたら、と考えます」

 アスモが憑依する事で、本当にカーネリアン侯爵家の長男が動き回る事が出来るなら……その身体に生殖機能があるならば……可能ではないだろうか。


「……つまり、アンネリーゼは俺様との子供が欲しいのか? 憑依させてまで?」

 何か不思議な解釈をしたアスモが、ニヤニヤしながら背後からアンネリーゼの腰を抱く。

「私は、リビアングラド王国を再建し、女王となります。その時には、婚約者からそのままカーネリアン侯爵家のご長男に、私の伴侶として王配となって頂きたいのです」

「「っお、王配ですか!?」」

 カーネリアン侯爵夫妻は驚きを隠せていない。
 植物状態の息子を王配に、というアンネリーゼの提案の意味がわからないのだろう。

「残念ながら中身はアスモ様ですが、遺伝子はアスモルト様かと思います。つまり、私とアスモルト様の子は、アスモルト・カーネリアンの血を受け継ぐ子となります」

「……おい、なんだ残念ながらって」

 アスモのツッコミはひとまず無視するアンネリーゼ。


「アスモルトの子? ……この子の子供を見る事が出来る日が来るかもしれないという事ですか?」

「はい。ご本人の意識とは関係ない上、勝手に身体を乗っ取る事になり、さらには私などが相手で大変申し訳なくはあるのですが……」

 アンネリーゼの言葉に、カーネリアン侯爵夫妻は涙を浮かべ、抱き合っている。

「いやいや、アンネリーゼと結婚して子供を作れる上に、王配だなんて、どんな男でも最高に嬉しいだろ」

「そうですよ、兄は私と女性の好みが同じでしたので、アンネリーゼ王女にお会いした一瞬、恋に落ちたことでしょう。間違いありません、私が保証いたします」

 笑顔でそう語る弟のヘンドリックを、アスモがジロリと睨んだ。

「っ……」


「そうでしたら嬉しいのですが……」


 その場がうまくまとまると、カーネリアン侯爵がアスモに頼んだ。

「アスモデウス様、どうか息子の身体に憑依してみてはくださいませんか?」

「……」

 悩むアスモに、アンネリーゼが再度願う。

「アスモ様……お願いいたしますわ」



「……ったく、しょうがねぇな……」








 ──悪魔であるアスモがアスモルトの身体に憑依した。





 元々のアスモの身体は跡形もなく消え、ベッドに横になっていたアスモルトが目を覚ます。



「「アスモルト!」」
「兄さん!」

「……」

 瞳の色が、写真よりもより赤く見える気がするが、その姿はアスモそっくりだった。


「うわっ……やっぱり人間の身体は不便だな……重い……」

 ──パチンッ

「魔法は問題なく使えるようだな」

「それは良かったですわ」

 中身が違えど、目を覚まし、ベッドから起き上がった自分達の息子の姿に、カーネリアン侯爵家の三人は涙を流し喜んでいる。





「では早速……おい、ちょっと二、三日、この身体使わせてもらうからな、じゃ!」

「え?!」




 アスモは感動の場面もそこそこに、リビアングラドの城の寝室へ転移し、アスモルトの身体のまま私をベッドに押し倒した。

「あ、アスモ様? まさかとは思いますが……他人の身体でいきなりそんな……まさかですわよね?」


 ──そのまさかだった。


「アンネリーゼ、この身体は心臓が問題なだけで、生殖機能は正常なようだ。お望み通り、今からたっぷり種付けしてやるからな! 魔力たっぷりの俺に似た可愛い女の子を産むと良い」
 
「……」
 

 
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