【R18・完結】復讐を誓った亡国の王女、召喚した悪魔が正解だった

poppp

文字の大きさ

大中小

9 / 27

人間界編

09　執事設定

しおりを挟む

　
「街の様子を見に行きたいのですが、外見を変えたほうがいいと思うのです」

　それから数日後、連合軍が撤退した後、騒がしかった城下街は、静けさを取り戻しつつあった。
　ユリウス達は今頃、国に戻り帝国となる準備でもしているに違いない。

　──第一王子は、結局この侵略に参加されていたのかしら？　ご存命だといいのだけれど……。

「そうだな、ついでに一人は危険だから俺も一緒に行ってやろう」
　
「大丈夫ですよ、国内ならば、私も元素魔法くらいなら使えますから」
　
　元素魔法とは、炎、水、風、土、雷などなど、物質や現象を再現する魔法だ。

「いいや、俺も行く。まともな統治者ならば、反乱の危険性を考えて騎士か兵士を置いて行くはずだからな……それに、侵略されて無法地帯となった街に女一人で行ってみろ、すぐに路地裏に引きずり込まれるぞ」

「っ……そ、それも一理ありますわね……」

　──アスモ様はやたらと人間に詳しいのね……。

「よし、なら決まりだな。お前は貴族の娘、俺はイケてるちょいワル執事だ」

　──パチンッ

　
　馬達は全て奪われたため、アスモは魔法でその辺にいたネズミを立派な馬に変え、馬車も目立たないリビアングラドのものでは無いデザインに変えた。
　街に向け出発した際に、城を振り返ると、あったのはただのがれきの山だった。

「……あっ……」

「城がいきなり建て変わったらおかしいだろ。城の周囲は俺の結界を張ってある。幻影魔法も組み込んであるから、ああ見えるんだ」

「何から何まで、本当にありがとうございますアスモ様……」

「んっ」

　アスモは、アンネリーゼがお礼を言う度にキスを要求するようになった。

「っそう、でしたね……ありがとうございますアスモ様っ（チュッ）」

　イケてるちょいワル執事は、ご満悦だ。

　二人は街の商店街は馬車から見るのみにして、少し先にある工場地帯で馬車を降りた。

「っ……酷い……！」

　多くの技術者や職人のいる工場は荒れ果てていた。沢山の者達が抵抗したのだろう。
　遺体は見当たらないが、あちこちに血痕や乾いた血溜まりが見受けられる。
　従業員達は片付けに追われているようだった。

　一人の従業員に尋ねれば、若い技術者や職人は捕虜の如く連合軍に連れて行かれ、今は年寄りしか残っていないという。
　さらには、どの工場の社長達も殺されてしまったと言い、どうしたらいいかわからない、と言っていた。

　アンネリーゼは、素性を明かすこともできない自分の状況が情けなかった。

　──こんな人達が沢山いるはずよね、一刻も早くリビアングラドを再建しなければ……。

　
　アンネリーゼの隣で黙って話しを聞いていたアスモは、人間は愚かだな、と感じていた。

　──パチンッ。

　──アスモ様からの大サービスだ。

　アスモはこっそりと残っているという年寄りの職人や技術者達の持病や足腰の痛みを取り、元気にしてやったのだった。

　馬車の中に戻り、アンネリーゼは俯いたまま呟く。

「おそらく、領地を持つ貴族達は領地へ逃げているでしょうが……そのまま領地で大人しくしていてくれると良いですが……あの日に城に来ていなかった大臣達が何かしら動いてくれている様子もありませんね……」

「誰だって、自分が一番大事だからな」

　アスモの言うとおりだ、と感じたアンネリーゼは決意したように顔を上げた。

「アスモ様、このままベンチュリンへ行きます！　姿を戻してくださいますか？」

　アスモはニヤリと笑みを浮かべる。

　──パチンッ

「……なぜ、アスモ様までお色直しを？　髭を無くされたのですね」

「なぜって、ベンチュリンでは執事じゃ困るからな、俺は今からアスモルト・カーネリアン、カーネリアン侯爵家の病気がちだった長男で、アンネリーゼ王女の婚約者という設定でいく」

「っカーネリアン侯爵家のご長男をご存知なのですか？！　それに、私はまだ一応表向きにはモルダバインの王子妃なのでは……」

　アンネリーゼはアスモの考えに思考が追いつかず困惑していた。

　カーネリアン侯爵家と言えば、リビアングラドならず各国でも大変有名な資産家で、その恵まれた領地では、ルビーを主として沢山の宝石が採掘され、さらにはワインの製造に適した気候を有し、“カーネリアンルビー”と“カーネリアンワイン”と言えば、いずれも最高級品とされている。

「まず、カーネリアン侯爵家の長男は今、本当に病気だが、悪魔がついて生かしている。まぁ、詳しい経緯は秘密だ。そして、この俺アスモ様の最初情報によれば、アンネリーゼ・モルダバインは死んだとして、すでに葬儀まで済んでいる。ユリウスの王子妃の後釜にはヘレーネ・ローコモンがついたぞ」

「っ！　遺体もないのに、そ、葬儀まで？　それに、こんなに早くヘレーネが……」

「ヘレーネはユリウスの子を身ごもったと、発表しているが、本当は身ごもってなどいない。まぁ、そういう事だから、お前は何も気にしなくていい（ニヤリ）」

　アンネリーゼは、ここまできたら裏設定はアスモに任せて、自分はベンチュリンですべき事にだけ集中する事にした。

「執事では、ベンチュリンでアンネと一緒の寝室で寝れないし報酬をもらうにもコソコソするのは面倒だからな」

　……そんなアスモの呟きは、聞こえないふりをした。

　

しおりを挟む