【R18・完結】その美しき牡丹は龍の背で狂い咲く

hill&peanutbutter

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第一部

41 龍と桃

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「……牡丹、昨日の夜は大変だったみたいだね。でもお願いだから俺の心臓を止めないでくれるかな」
 
 
 賀来さんとの話が弾み、お酒も進んだ0時過ぎ……きちんと自分の脚で帰宅した私は、きちんとシャワーを済ませたが、それ以外はわりと酔ってやらかしていた。
 
 いつも寝ている一八さんの寝室のベッドではなく、ほとんど使っていない自分の部屋のベッドで眠ってしまったのだ。
 
 さらには、まるで誘拐でもされたかのようにリビングのテレビや間接照明をつけたまま、飲みかけのコップを放置したまま……。
 
 さらには、スマホは玄関に落ち着いており、靴は散乱していたらしいのである。


 朝三時過ぎに帰宅した一八さんは、その異様な惨状に何かあったと思い自分の寝室を確認するも私の姿は当然の如く無い。

 ほとんど使っていない私の部屋のベッドの存在など忘れていた彼は、夜勤のコンシェルジュのもとへ行き確認し、さらには防犯カメラまで確認させたという。

 しかし私の帰宅後、ペントハウスには誰一人として出入りはないとわかり……
 ──と、ようやくここで私の部屋の確認をしていない事に気付いたのだそうだ。

「面目もありません……コンシェルジュさんにもご迷惑を……」

 ──ん? 大変だったみたい?

「実は昨日の夜、“ももくん・・”から連絡をもらったんだ……あと、一次会でのラウル先生達との一件もね──」

「っえ、つまりあの後のバーも、ももちゃんの店だったんですか?! それよりいつの間に連絡先を?!」

 ──なになに、いつの間に二人は仲良くなったの? いや、その、別に悪い事ではないんだけどっ……心配性がタッグを組んだみたいで、逆に私にとっては不穏な気が……。

「その後は逆に俺が連絡したよ……飲み会に行った婚約者に送ったメッセージが、終電を過ぎても既読にならなければ心配するに決まってるだろ?」

 私の情報を提供し、さらには“ももくん”呼びまで許しているなんて、桃一郎はよほど一八さんをお気に召したようだ。

「すみません……色々あって……」

 いや、賀来さんとの二人の二次会では別に色々はなかった。ただ、楽しくて連絡するのを忘れてしまっただけである。

「今回はたまたま、ももくんの店だったから良かったけど……」

「はい、大変ご心配おかけしました……」

 もうしませんっ、と頭を下げる。

 私は、親兄弟にだけではなく、夫となる人にもこうして平謝りキャラになるのだろうか……いつか一八さんにも正座させられるかもしれない。

 過剰に心配性な彼らが問題であって、自分では何一つ悪い事などしていない気がするんだが……解せぬ。

「謝る必要はないよ牡丹、お願いしただけ。外では気を付けてね、カタギだとは言え虎谷組と龍地会の関係者ではないといい切れないんだから俺達は……」

「……一八さん」

 そうなのだ。

 組長である父や若頭である柚一郎、桃一郎には、その立場ゆえに彼らを貶めようとするイカれた奴等が少なからずいる。
 そのため、彼らが私を溺愛しているなどと噂が流れたら、私の身が危ない為に大学生から今まで、外では大した接触をしてこなかったのだが……。

 ここにきて私の見合い相手探しで“虎谷組の一人娘”という存在は公になり……自分でいうのもアレだが、それなりに旨味のある存在である為、募集を終了した今でも、見合いの話が絶えないのだ。

 もちろん、募集終了の理由は今はまだ極秘だ。

 龍地組と虎谷組の縁談がまとまったと知られれば、それなりに脅威だと思う者達もいるため、入籍前に私を手籠めにしようとする奴が出てくるかもしれない、と一八さんは警戒しているのである。

「でも、そんな時のために私は一応黒帯持ってたりするわけでして……下っ端の半グレくらいなら負けな──」

「牡丹、過信はよくない……現に君は油断していたとは言え、ラウル先生に腕を掴まれてしまっただろ? ももくんが外したと言っていたけどね……俺達は──パッパッ、と二手で女性一人誘拐するくらいは簡単だ」

 ──ははは……さようでございますか……凄いね。

「うん、今回は迂闊でした……気をつけてたつもりなんですけど……極道の家に生まれた以上、こればかりは宿命なので、引き続き気を付けます……」

 と、少し反省し、再度ペコリと頭を下げながら言った。

「俺が守るから」

 一八さんは前で組んでいた腕を解き、そっと私を抱きしめた。

「うん」

「だからね牡丹、君は嫌かもしれないけど、やっぱりGPS系はスマホ以外もいくつか持ち歩いて欲しいんだ、電源のon・offが関係ないやつ」

「……あ、はい……了解です」

 ──仕方ない、自分の身の安全のためだぞ牡丹、耐えろ牡丹、頑張れ牡丹……。
 





 ○○○○○○


(一八視点)


『義兄さん、牡丹ちゃんが脱走してるけどもちろん把握してるんですよね?』

 “副業”中、そんなメッセージが牡丹の弟桃一郎から入った。

 ──脱走?

 俺はすぐに彼へ電話をかけた。

「ももくん、牡丹が脱走とは? 彼女は今、会社の飲み会に顔を出しているはずだが……君の店だよ」

『あ、それは知ってたんですね。良かった。ちなみにさっき、店の前で僕と出くわしてましてね──』


 彼からの情報はなかなか有り難いものだった。

 それにしても……ラウルめ……弁護士のくせに婚約者がいる女性に向かって、二人で抜けようなどとは……。
 相変わらずのクズっぷりだな。


 ──────


 ──あの男が牡丹と交際を始めた事を知った数年前、俺は人生で始めてと言っていいほどの絶望感に苛まれ、なかなか立ち直れずにいた。

 だが、なんとか気持ちに折り合いをつけて、喫茶店でたまに彼女の幸せな顔を確認をしながら見守ろうとしたのだ。

 それなのに、あのラウルという男はSNSなど一切しない俺の目にすらその情報が入ってくるほどに、くだらない女共と浮き名を流していたのだ。

 ……牡丹という恋人がいながら、何を考えているんだ、と頭にきた俺は、彼が担当だと知った後、星ノ友出版との付き合いをやめてやろうかと思ったほどである。

 しかし俺は閃いた。

 ──そんなに女が好きなら牡丹じゃなくてもいいんじゃないか? と。

 俺は牡丹以外考えられないし、牡丹以外の女など色欲満々で近付かれると吐き気がするような男だ。

 俺は“ヤヒト”になっている時、店で情報収集を行うついでに“今話題の弁護士”の話をした。
 ただ……それがきっかけかはわからないが、以降、夜の街でもラウル先生の名前を聞くことが増えたような気がしないでもない。

 さらにはそれ以来、ラウル先生のゴシップ記事も増えた気がする。

 しかし、火のないところに煙は立たないというが、あまりにもクズ過ぎるラウル先生の行動に、俺はやはり彼女の恋人の浮気を許せずにいた。

 例え身体の関係がないとしても、だ。

 少し心配になり、牡丹の様子を確認できれば、と喫茶店に行けば、彼女はマスターに愚痴をこぼしていた。

 しかし、その内容は想像したものとは少しちがった。

『マスター、ついに世の中に彼が見つかりましたよ……もう彼は、私一人が独り占めしていい男性ではなくなりました……まぁ、でも遅かれ早かれって所ですけどね……彼の結婚の匂わせも、そろそろ躱すの限界だし、潮時かなぁ……はぁ~』

 独特なその言い回しが、すぐに理解出来なかったのもあるが、ただ、その時俺は彼女が恋人の浮気に傷付いているようには見えなかった。

 ──もしかして……別れるかもしれない?


 一瞬頭をよぎった自分自身のそんな汚れた感情を気持ち悪いと感じ、それから俺は執筆活動に集中する事で感情をシャットダウンして過ごした。



 ──────




「……今更戻ってきて、プロポーズだなんて看過できるものではないぞラウル先生……」

 桃一郎との電話を切り、俺の中でハッキリとラウル先生に対して敵意に似た感情が生まれた。

 幸い、牡丹の気持ちは俺にあるからラウル先生にはなびかないだろうが、そういう問題ではない。

 俺の牡丹にちょっかいをかけられる事が耐え難いのである。さらには牡丹にも煩わしさを感じさせている事も許せない。

 俺は牡丹にメッセージを送った。

 “このメッセージ見たら電話して”

 しかし、いつまでたっても“既読”がつかない。


 俺は牡丹の位置情報を確認し、虎谷組のシマのバーにいる事がわかったため、桃一郎にメッセージを送った。まずはそのバーが安全かどうかを確認するためだ。

 すると──

『もし、義兄さん? そのバー僕の店ですよ。牡丹ちゃんそこにいるんですか? マスターもバイトもまともな人間だし、客層もそう悪くないから安心して大丈夫ですっ。一応店の奴にも注意して見とくように連絡しておくので、くれぐれもお仲間連れて突入しないように頼みます♡』

 と、慌てて連絡をいれてきた。

 仲間を連れて突入などしないが……するような男だと思われてるのだろうか……心外だ。

「わかった、ありがとうももくん」

『気にしないでください、義兄さんが僕と同じ種類・・の人間で安心しました! 牡丹ちゃんをよろしくお願いしますね』

 “僕と同じ種類の人間”? とはなんだ?

 ……あ……位置情報か?


 
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