37 / 43
第一部
37 ラウル先生の帰国
しおりを挟む(ラウル視点)
「「「おはようございます! ラウル先生! おかえりなさい!」」」
「「おかえりなさいラウル先生!」」
「きゃーっ! ラウル先生お会いしたかったですぅ♡(小声)本物やばすぎでしょ!」
「私も楽しみにしてましたぁ! (小声)やばっ超イケメン!」
数年ぶりに父の経営するSENBA法律事務所へ戻ってきた。
変わらないメンバーに加えて、初めて見る顔もいくつかある。
「おかえりなさいラウル先生、また今日からよろしくお願いします」
「ええ、こちらこそよろしくお願いします犬飼チーフ。ところで、ぼた……虎谷さんは?」
事務所内を見回しても、一番見たかった人の姿が見えない。
「あら?メールお読みになりませんでしたか? 虎谷さんは今月末で退職が決まっておりまして、昨日から有休消化に入っているんです」
「……え? 退職? 誰が?」
「ですから、虎谷さんの話ですよね?」
──牡丹が退職? どういうことだ。あんなに仕事が好きだった彼女が辞めるはずないだろ。何があったんだ……?
「……有休ということはまだうちの社員ですよね、連絡して私の所に来るように伝えてください」
「え……ですが、引継ぎなどは完了しておりますし、有休は権利なので……」
「では、強制はしないと伝えてください。ただ、私が仕事の件で話があると言っているとだけ伝えてくれればいいです」
俺は一方的に犬飼チーフにそう指示を出し、そのまま自分の個室へと入った。
「──っ……」
綺麗に整ったデスク回り……資料や備品などの配置や種類、室内の香りまで完璧だ。
おそらく牡丹が整えておいてくれたに違いない……彼女以外にここまで俺の嗜好を熟知している者などいるはずがないからな。
そこまでしておいて……なぜ本人がいない?
まぁ、責任感の強い牡丹の事だ、有休だろうが何だろうがすぐに呼び出しに応じるだろう。
俺はここで待っていればいい。
(……ラウル視点end)
○○○○
「え?! ラウル先生が?!」
心機一転、“龍虎先生”の新しい職場で仕事を始める準備を始めたと言うのに、突然かかってきた犬飼チーフからの着信……。
一抹の不安を覚えつつも、未だ籍をおき、有休中という身であるためしかたなく通話ボタンを押せば、要件は“ラウル先生が出社するなり私に話があるから来いと言っている”という信じられない内容だった。
“ラウル先生”という単語に、側にいた一八さんも怪訝そうな表情をしている。
私は一旦電話を切り、新しい職場の上司である彼に相談することにした。
「……元カレのラウル先生が、なんだって?」
私が話すより先に聞かれてしまう。
「私に話があるので会社に来いと言っているそうです。ただ、強制はしないと……ですが、チーフの話では相当不機嫌なご様子みたいで……」
何年かぶりとなる出社から、ものの数分で不機嫌になるだなんて、彼はアメリカで性格が変わってしまったのだろうか。
少しでも気持ちよく仕事をしてもらえればと思い、昨日帰る前に彼の個室を整えておいたのだが、もしかして、それが気に入らなかったのだろうか……アメリカに行って嗜好が変化していてもおかしくはない。
「強制ではないなら、行かなくていいんじゃない?」
「……ですが、まだ在籍している以上、上司からの要請を断るのも……」
こんな事を言えば、また星ノ友出版の常務さんに連絡しそうなので注意しなければ……。
「その上司が強制はしない、と言ったんだろう? そもそも、数年ぶりに帰国して急に名指しで話だなんて……俺の予想では、元カノが退職する理由を直接聞きたいとか、その程度だろうな」
確かに、一八さんの言う通りだ。昨日の時点ではラウル先生のデスクには彼に任せる案件などは置かれていなかったし、仮にあったとしても私の関わったクライアントについてはすべて引継ぎを完璧に済ませてあるので、後任者に確認すればわかるはずである。
「……」
「牡丹、行くの?」
私がそんな事を考えていると、一八さんに心配そうに尋ねられた。
「……行きたくはありません、会いたくないんです彼に……」
「それはどうして?」
「……正直に言えば、くだらない理由なんです……彼と私との過去をネタにひがんで誹謗中傷を言ってくるあの女子二人に一緒にいるところを見られたくないんです」
「……そうか」
くだらない子供っぽい理由に、あきれられてしまっただろうか……。
「牡丹、さっきのチーフに電話をかけて、行けないと言えばいいよ。理由は、そうだな……新しい職場で研修中だと言えばいい」
「……っえ?」
「俺の勘では、ラウル先生は自分が呼べば牡丹なら有休だろうか何だろうか来ると思っている。それで、牡丹が来ればそれで満足なんだよ。どうせ大した話もないと思うよ」
「……」
なんとなく、一八さんの言っていることは合っているような気がする。彼は私が自分に従順であることにすごく満足していたから。
「っ……わかりました!」
私は案ずるより産むが易し、とすぐにチーフに電話をかけ、行けません、とだけ伝えた。
私が何のためにわざわざ狙ったように有休をとったかを知っているチーフは、わかったわ、とだけ言い、それ以上は追求しないでくれた。
申し訳ないが、あとはチーフに任せよう。
しかし数分後、再びチーフから着信が入った。
『虎谷さぁん! ごめんっ! ラウル先生が……来ないなら俺が行くって言って、出てっちゃった!』
「っぇえ?!」
ど、どこに行く(来る)つもりなのだろうか……?
すると、通話中の私のスマホにキャッチが入る。
「チーフ! ラウル先生からキャッチが! ご迷惑をおかけしてすみません、一旦切りますね!」
チーフとの通話を終了すると、自動的にラウル先生の着信につながってしまった。
「は、はいっ虎谷です!」
『牡丹! 今どこだ、お前が来ないなら俺がそっちに行く』
「困りますっ今は次の職場の研修中で……」
『次の職場だと? どこだ、迎えに行く』
「ですから、困りますっ! なんの権限があってそんなこと!」
『お前の恋人としての権限だ! 俺に一言の相談も無しに会社を辞めるなんてありえないだろ!』
「はぁ?! 私達、付き合ってませんけど?! 別れてますよね?! え?! ちょっと、怖いんですけど!」
『っ! だから、会って話そうと言ってるんだ! それをお前がっ──』
お互いに声を荒げて通話をしていると、見かねた一八さんがスッと私のスマホを手から抜き取った。
「お話し中失礼、虎谷牡丹さんは現在すでに私の所で入社前研修中ですので、私用の電話はご遠慮ください、では──プッ」
──切っちまった。いやでも、正当な理由だから文句は言えない。
「牡丹……俺の言ったとおりだったろ。ラウル先生は牡丹に言い寄ってる。何年も顔を合わせていないのに記憶の中の牡丹に対して未練タラタラな男を、グレードアップした今の牡丹に会わせるわけにはいかないな。断固阻止だ」
なんだろう、いつもはほんわかな一八さんが、キリッとピリッとしている……私のために……キュン♡
「……返すお言葉もございません……ですが、これは未練というよりも、自分の所有物を取り上げられた子供の癇癪みたいなものだと思いますけど……」
「仮に今はそうだとしても、顔を合わせれば女として惚れ直すに決まってる」
「……」
正直、わからない。ラウル先生が何を考えてのさっきの“恋人”発言をしたのか理解に苦しむ。
だから、今私がすべき事は──。
「……一八さん、ちょっとラウル先生の頭がおかしいみたいなので、私、明日少し顔を出してきます。あのイカれた勢いで、社内で復縁したとでも発表されたら面倒ですから」
彼はちょっとそう言う周りを巻き込む所があるので心配だ。
チーフに復縁などあり得ないと言った手前……誤解されたくはない。
「……俺が送って連れて帰る。それが条件……恋人としてそれくらいのわがままを言ってもいいだろ?」
なんて可愛いわがままなのだろうか。私の気持ちを尊重して駄目とは言わない彼の気遣いが嬉しい。
「もちろん、お願いしますっ!」
私はラウル先生に連絡し、明日出社すると伝えると、彼も渋々納得してくれたのだった。
51
お気に入りに追加
273
あなたにおすすめの小説
年上彼氏に気持ちよくなってほしいって 伝えたら実は絶倫で連続イキで泣いてもやめてもらえない話
ぴんく
恋愛
いつもえっちの時はイきすぎてバテちゃうのが密かな悩み。年上彼氏に思い切って、気持ちよくなって欲しいと伝えたら、実は絶倫で
泣いてもやめてくれなくて、連続イキ、潮吹き、クリ責め、が止まらなかったお話です。
愛菜まな
初めての相手は悠貴くん。付き合って一年の間にたくさん気持ちいい事を教わり、敏感な身体になってしまった。いつもイきすぎてバテちゃうのが悩み。
悠貴ゆうき
愛菜の事がだいすきで、どろどろに甘やかしたいと思う反面、愛菜の恥ずかしい事とか、イきすぎて泣いちゃう姿を見たいと思っている。
上司と雨宿りしたら種付けプロポーズされました♡
藍沢真啓/庚あき
恋愛
私──月宮真唯(つきみやまい)は他社で働いてる恋人から、突然デートのキャンセルをされ、仕方なくやけ食いとやけ酒をして駅まであるいてたんだけど……通りかかったラブホテルに私の知らない女性と入っていくのは恋人!?
お前の会社はラブホテルにあるんかい、とツッコミつつSNSでお別れのメッセージを送りつけ、本格的にやけ酒だ、と歩き出した所でバケツをひっくり返したような豪雨が。途方に暮れる私に声を掛けてきたのは、私の会社の専務、千賀蓮也(ちがれんや)だった。
ああだこうだとイケメン専務とやり取りしてたら、何故か上司と一緒に元恋人が入っていったラブホテルへと雨宿りで連れて行かれ……。
ええ?私どうなってしまうのでしょうか。
ちょっとヤンデレなイケメン上司と気の強い失恋したばかりのアラサー女子とのラブコメディ。
2019年の今日に公開開始した「上司と雨宿りしたら恋人になりました」の短編バージョンです。
大幅に加筆と改稿をしていますが、基本的な内容は同じです。
【続】18禁の乙女ゲームから現実へ~常に義兄弟にエッチな事されてる私。
KUMA
恋愛
※続けて書こうと思ったのですが、ゲームと分けた方が面白いと思って続編です。※
前回までの話
18禁の乙女エロゲームの悪役令嬢のローズマリアは知らないうち新しいルート義兄弟からの監禁調教ルートへ突入途中王子の監禁調教もあったが義兄弟の頭脳勝ちで…ローズマリアは快楽淫乱ENDにと思った。
だが事故に遭ってずっと眠っていて、それは転生ではなく夢世界だった。
ある意味良かったのか悪かったのか分からないが…
万李唖は本当の自分の体に、戻れたがローズマリアの淫乱な体の感覚が忘れられずにBLゲーム最中1人でエッチな事を…
それが元で同居中の義兄弟からエッチな事をされついに……
新婚旅行中の姉夫婦は後1週間も帰って来ない…
おまけに学校は夏休みで…ほぼ毎日攻められ万李唖は現実でも義兄弟から……
【R18】国王陛下はずっとご執心です〜我慢して何も得られないのなら、どんな手を使ってでも愛する人を手に入れよう〜
まさかの
恋愛
濃厚な甘々えっちシーンばかりですので閲覧注意してください!
題名の☆マークがえっちシーンありです。
王位を内乱勝ち取った国王ジルダールは護衛騎士のクラリスのことを愛していた。
しかし彼女はその気持ちに気付きながらも、自分にはその資格が無いとジルダールの愛を拒み続ける。
肌を重ねても去ってしまう彼女の居ない日々を過ごしていたが、実の兄のクーデターによって命の危険に晒される。
彼はやっと理解した。
我慢した先に何もないことを。
ジルダールは彼女の愛を手に入れるために我慢しないことにした。
小説家になろう、アルファポリスで投稿しています。
【R18】絶倫にイかされ逝きました
桜 ちひろ
恋愛
性欲と金銭的に満たされるからという理由で風俗店で働いていた。
いつもと変わらず仕事をこなすだけ。と思っていたが
巨根、絶倫、執着攻め気味なお客さんとのプレイに夢中になり、ぐずぐずにされてしまう。
隣の部屋にいるキャストにも聞こえるくらい喘ぎ、仕事を忘れてイきまくる。
1日貸切でプレイしたのにも関わらず、勤務外にも続きを求めてアフターまでセックスしまくるお話です。
巨根、絶倫、連続絶頂、潮吹き、カーセックス、中出しあり。
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
【R-18】愛されたい番は貴公子達に溺愛される
ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらもこの作品📝も(8/25)HOTランキングに入れて頂けました🤗 (9/1には26位にまで上がり、私にとっては有り難く、とても嬉しい順位です🎶) これも読んで下さる皆様のおかげです✨ 本当にありがとうございます🧡
〔あらすじ〕📝現実世界に生きる身寄りのない雨花(うか)は、ある時「誰か」に呼ばれるように異世界へと転移する。まるでお伽話のような異世界転移。その異世界の者達の「番(つがい)」として呼ばれた雨花は、現実世界のいっさいの記憶を失くし、誰かの腕の中で目覚めては、そのまま甘く激しく抱かれ番う。
※設定などは独自の世界観でご都合主義。R作品。ハピエン♥️
[R18] 18禁ゲームの世界に御招待! 王子とヤらなきゃゲームが進まない。そんなのお断りします。
ピエール
恋愛
R18 がっつりエロです。ご注意下さい
えーー!!
転生したら、いきなり推しと リアルセッ○スの真っ最中!!!
ここって、もしかしたら???
18禁PCゲーム ラブキャッスル[愛と欲望の宮廷]の世界
私って悪役令嬢のカトリーヌに転生しちゃってるの???
カトリーヌって•••、あの、淫乱の•••
マズイ、非常にマズイ、貞操の危機だ!!!
私、確か、彼氏とドライブ中に事故に遭い••••
異世界転生って事は、絶対彼氏も転生しているはず!
だって[ラノベ]ではそれがお約束!
彼を探して、一緒に こんな世界から逃げ出してやる!
カトリーヌの身体に、男達のイヤラシイ魔の手が伸びる。
果たして、主人公は、数々のエロイベントを乗り切る事が出来るのか?
ゲームはエンディングを迎える事が出来るのか?
そして、彼氏の行方は•••
攻略対象別 オムニバスエロです。
完結しておりますので最後までお楽しみいただけます。
(攻略対象に変態もいます。ご注意下さい)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる