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第一部

31 牡丹と熊 R18

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 ──金曜日……。

 職務放棄と言われようがなんだろうが、私の中で彼女達の存在を消し去り、もう気にしないようにした。

 実に平和な一日だった。
 もう、このまま退職日まで有休消化でいいかもしれない。

 そんな事を企みながら帰り際に休暇簿を記入していると、代表に呼び出されたため、代表の部屋へと急ぐ。

「虎谷です、失礼します」

「ああ、悪いね帰り際に……」

 代表の部屋の応接スペースには、代表と副代表と向かいあうように、私と同世代くらいの見知らぬ容姿の整った(つまりイケメン)男性が一人座っており、彼らの前には飲み物が置かれていない。

「あ、すぐにお飲み物をお持ちしますね」

「いやいやいやっ、いいんだよ! 彼は違うから!」

 てっきり飲み物係で呼ばれたものだと思ったのだが、違ったようだ。副代表に止められてしまった。

 ──彼は違う、とは?

「虎谷さん、熊谷くんだ」

「……はい」

 ──クマガイくんだ? どこのクマガイくんですか?

 
「はじめまして虎谷さん、熊谷 飛彩くまがい ひいろと言います」

「虎谷牡丹と申します」
 
 私達が挨拶を交わし終えると、代表が口を開いた。

「彼はね、来週からあの二人の指導に当たってもらう倫理指導員だ」

「っ? 倫理指導員?!」

 ──なんだそれは……そんな人が存在するのか……いや、あの二人には凄く必要な事だと思いますけども!

「虎谷さん、この度はお辛い思いをされてご退職にまで踏み切られたとの事、心中お察し致します……」

「あ……はい、ありがとうございます」

 そうか、どうしても辞めさせられない事情があるのか、ついにプロにを依頼したのか。

「それでですね、問題のお二人の勤務態度及びモラルハラスメントの状況などを虎谷さんにお伺いしたいんです」

「……はぁ」

 しかし、私は思った。

「代表、副代表……差し出がましい事を言いますが……その……熊谷さんは、容姿が整い過ぎていらっしゃるので、彼女達は違う意味で“お利口”な“フリ”をするかと……」

「「……え?」」

 あの二人がイケメンに指導されて、悪の本性を出すはずがない。むしろ、ご褒美でしかないだろう。

 熊谷さんは何故か顔を真っ赤にして照れている。

「は、初めて言われましたそんな事は!」

 ──あら、随分と可愛らしい反応だこと……。

「せっかく指導員をつけるなら、年配の男性か厳しめの女性がいいかと思いますよ」

「「「……」」」

 私が至極真っ当な事を口にすると、代表と副代表は頭を抱え始めた。

「やはりそうか……実は副代表にも言われたんだよ……」

「ですが、熊谷さんがいらっしゃる事で本性を出せずにきちんと仕事はするかもしれませんね。私はラウル先生が戻られればそうなると考えておりましたが、職場に二人も素敵な方がいらっしゃればあちらも二人ですのでより相乗効果があるかもしれません」

「虎谷さん……つまり、現時点では“素敵な男性”がいないから、彼女達二人があのような状態であると?」

 いつも事務所にいる男性の一人である副代表を傷付けてしまったようだ……。

「……あ……いぇ……決してそういった意味では……」

「なら、ラウルの帰国も早めさせるか」

「──え……?! そこまでする必要はないのでは?!」

 代表がとんでもない事を言い出したが、そんな事は絶対にあってはならない。なんとしてでも阻止しなければ!

 ──せっかく会わずに辞められるのに! 早く帰国されたら退職日に会うことになるじゃないっ!

「いや、あいつ自身も早く帰国したがっていたから丁度いいかもしれない、連絡してみるよ」

 ──だ、代表! いいですってば余計な事しなくて!

 退職日までは平和に過ごしたい、という私のささやかな願いすら、どうやら叶いそうにないようだ。













「……た、ただいま戻りました……」

「どうしたの? またあの二人?」

「……ぁあ~……一八さんを見ると癒やされます……」

 私はエプロン姿の彼にギュッと抱きつき、お尻を触る。……隙あらば彼のお尻を撫で撫でモミモミする事が、最近のマイブームなのだ。

「何かあったんだね……明日はやめておく?」

「とんでもない! ヤヒトさんの病院も龍地家にも絶対に行きますっ!」

「無理しないで、疲れに疲れを重ねるような事にならない? ……牡丹に負担をかけたくないんだ」

 ──キュン♡

「負担なんかじゃありません……仕事の方は負担ですが、私達の結婚に関する事は負担どころか幸せな事なんです」

「そう? なら……手を洗って着替えておいでっ食事にしよう。話を聞かせてね」

「はいっ!」


 私の未来の旦那様、最高過ぎる。





 ──カチャン……

「……イケメン倫理指導員に元カレの帰国……?」

 私の話に衝撃を受けたらしい一八さんは、漫画みたいに箸を落とした。

「はい、倫理指導員の熊谷さんは月曜日から、ラウル先生は……もともと来月、私が辞めた後の帰国予定だったんですが、早めてもらおうかと彼の父親である代表が……」

「……やはり星ノ友出版の常務に電話を……」

「ひ、一八さん! ソレは駄目っ!」

 再び裏から手を回し、私の退職日を前倒しにしようとする一八さんのスマホを没収する。危ない危ない。

「何を心配しているか知りませんが、熊谷さんはそもそも私は関わりはないですし、ラウル先生とは別れてから何年も会ってませんし、他人も同然ですから」

「……」

 一八さんは私から視線をそらし、何かを考えこんでいる。

「牡丹、指輪……婚約指輪とあの恋人記念の指輪の両方を両手に着けて行くんだよ!」

「……え」

 あんなに沢山のダイヤモンドのついた指輪を着けて手をキラキラさせた状態で仕事はできない。緊張して肩がこってしまいそうである。

「恋人記念の指輪を着けて行きますね」

「駄目、両手に両方! じゃなければ、毎回行きも帰りも俺が送迎するよ、いやむしろ、もう退職日までずっと有休消化でいいんじゃないかな?」

 そう、私もそのつもりだったのだが……。

『虎谷さんを引き金に問題の二人のモラハラが行われそうですので、すみませんがなるべく出社してください。半日などで結構ですので……』

 と、熊谷さんに言われてしまったのである。

「……熊谷……クマガイめ……牡丹に余計な仕事を押し付けやがって……名前、覚えたぞ……」

「ひ……一八さん? なんか、ヤクザなヤヒトさんな部分が出てますよ」


 
 その後も、送迎すると言ってきかない一八さんをなだめたり、星ノ友出版の常務に電話すると言うのでスマホを返せずにいたりと、色々と大変だった。
 
 
 こんな状態でむしろ、一八さんが明日の顔合わせを無事にこなせるのか心配である。
 
 
 
 
 
 
 
 
 その夜……。
 

「牡丹……心配だ……」
 
 ベッドに入った後も、彼はまだ言っていた。

 気を紛らわせてあげたいが、今夜は明日に備えてエッチはしないと決めている。

 
「具体的に何が心配なんですか?」
 
「イケメン熊谷も、元カレラウル先生も……絶対に牡丹に言い寄ってくる」

 ──あちゃぁ……
 
「一八さん、あのですね、自分が好きなモノを皆が好きだと思わないでくださいね? 熊谷さんもラウル先生も、私なんかに興味を示すはずないでしょう?」
 
「──っ……! 牡丹は自分の魅力に気付いてないだけだよ……そもそもがクールな美女だったけど、俺に抱かれるようになってから、色気のあるクール美女にグレードアップしてるんだから」

 なら、しばらく抱かなければいいのでは? と、喉元まで出かかったが、言わないでおいた。

 色気のあるクール美女を肯定しているみたいではないか。

「大丈夫ですよ……私は一八さんが一番タイプなんです。この顔も声も身体つきも、背中も……貴方はもう、私の好きが詰まった最高傑作なんですっ」

 私は順番に彼の身体に触れていき、最後に唇に自分のそれを重ねる。

「……(チュッ)──ゴムをして、一回だけで終われるなら、いいですよ」

「……っ!」

 その言葉の直後、彼はすぐに私のパジャマを脱がして脚を割り開いた。

「牡丹……君って人はっ! 俺を弄んでっ!」

「……ぁっ……んん……っ!」

 指と舌とであっという間に高みに押し上げられ、私の身体は一八さんの大きなソレを欲しがり中を収縮させている。

「……俺は一回だけど、牡丹には制限はないからね」

 ──え?



 意地悪をしているのか、彼はその後もなかなか挿入してはくれず……私の身体の開発に勤しんでいた。

「牡丹、もうすぐ胸でイケるようになりそうだね」

「──っ……ふぁ……っ……」

 ビクンッビクンッと何度も何度も身体が反応しすぎたせいで、もう頭がおかしくなりそうだった。

「……お願い……一八さんのがいいっ……奥が切ないの……」

 涙ながらに訴え、ようやく彼は避妊具を手に取り開封する。

「牡丹が着けて」

 と、避妊具を手渡され、同時にドドンッと効果音がつきそうなほどに張りつめたソレが目の前に現れた。

 私は、慣れない手つきで被せ、くるくると下に下ろしていく。

 XLサイズだが、だいぶキツキツのようだ。

 なんとかつけ終えると、今度は──

「牡丹が入れて」

 と、あぐらをかいて両方を広げて待ち構えている。

 私は正面から彼の首に腕を回して跨り、上を向くソレに狙いを定めると、ゆっくりと腰を下ろしていく。

「……ぁっ……っ……」

 自分のさじ加減で入っていくソレが、なんともいやらしく思えてくる。

「牡丹、まだまだ入るよ……もっと腰落とさないと……全部入れて」

 煽ってくる一八さんに、ムッとしつつ……ペタン、と彼の上にお尻をつけた。

「──っ! んん……」

「……いい子だ、全部入ったね」


 すると彼は、私のお尻を掴み容赦なく上下する。

 パンッパンッと激しい音が聞こえて来るほどに打ち付けられ、私はしがみついている事しか出来なかった。

「ぁ……っやっ……んん……っ! ぁあ!」


 何度目かもわからない絶頂を迎えると、彼も終わりをむかえたようだ。


「……はぁ──一回じゃ足りない……」

「っだ、駄目! もう、寝ますから! つ、疲れちゃいました!」

「……」


 物足りなさを全面に出してはいたが、さすがに明日の事もあるからか、彼は渋々息子を諌め、私を抱きしめ眠りについた。
 
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