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第三章 幸せの連鎖
71 愛し子
しおりを挟むアルさんを含めたあの話し合いの後、姉と兄を呼び、改めてクーパー家の家族会議が開かれた。
そして、正式に私の両親の異世界への移住が決定する。
なんと頼もしい事に、こちらの世界の事は全て自分に任せてくれ、という若葉兄の言葉に皆んながホッとする。
両親や私の事は合法的に良いようにしてくれるという。その代わりに両親の資産を運用させて欲しい、という事だ……抜け目がない。
一方で楓姉だが、どうやら独立して会社を起こそうか迷っていたという事で、両親の老後の心配がなければ、色々と思いきってみる、と意気込んでいた。
そしてウキウキのダディは早々に会社に退職の意を伝えたが、全力で引き止められてしまったそうで、話し合いの末、相談役として数ヶ月に一度顔を出すだけの雇用形態に変わったという。
さすが私のダディだ。
母は母で専業主婦の傍ら色々と交友関係があり、そっち方面のの挨拶周りに追われていた。
そんな感じで、両親が慌ただしくも異世界移住の準備をしているうちに、私の悪阻は落ち着き、少しお腹も膨らみを見せてきていた。
そして両親の準備が整った大安吉日、私とロイ、私の両親の4名は異世界へと旅立ったのだった。
○○●●
「ようこそお越しくださいましたっお義父さんお義母さんっ、おかえりミーナ、ロイっ待ってたぞっ!」
この日は私の家族全員がドランティスの城に勢揃いだった。
事前の夫達との話し合いの結果、やはりうちの両親にはドランティスが住みやすくていいだろう、という事になり、サイモンがやる気をみせる。
最近俺の出番がなかったからな、とかなんとか言いながら、忙しい中こちらを優先して張り切ってくれ、わずか数日で屋敷を建設してしまった。
それを可能とした真相は、なんてことはない、SBDSの精鋭であるスヴェンをこき使い、贅沢に魔法を駆使した結果の完成らしい。
その屋敷の立地は私のログハウスの隣。
サイモンがデザインしたその屋敷は、日本にある私の実家に似た造りだった。それにゲストルームやパーティールームなどが増えた感じのとてもお洒落で贅沢な邸宅が出来上がっており、両親は大喜び。
頼んでおいた執事と侍女さんも、ドランティスの城で勤務していたダッジ族の高齢のご夫婦とその娘さんが、是非にと、名乗り出てくださった。とても有難い。
護衛はなんとブラックシールズの精鋭3名……いいのかアルさん……まぁ、ある程度の秘密厳守や上級魔法の使い手となると、そうなってしまうわけで……選ばれた3名には悪いが頑張ってもらいたい。
それでも、アルさんなりに希望者を募ったそうで、スヴェンのように前線で活躍したいタイプの奴らではない、と聞いているのでちょっぴり安心。
是非とも打ち解けてもらいたい。
両親の屋敷には、お決まりの転移陣を設置し、ドラリトアとドランティス、ドランファリーナの各ベビールームとキッズルームへの転移が可能だ。
と、ここで私の中で問題が発生する。
「ねぇ、ロイ、愛し子の実家になるロイのドラニェッリ邸は?」
ロイは護衛としてドラリトアのランドラー公爵家の一室で生活していた……しかし愛し子の子育てはどうするつもりだったのだろうか。
私は別に三つ子と一緒にあのベビールームでもいいと思うが、危険を考えるとどうしたものか……。
「奥様、本当のドラニェッリ公爵家はボスのお兄様が恋人とお住まいですので、私は別に用意してみました、どうぞこちらです、皆さんもどうぞ」
そうロイに言われ、ぞろぞろと家族全員が移動し案内されたのは、サイモンが用意した両親の邸宅の隣の……私のログハウスの……隣。
何となく視界には入っていたが、とてつもなく巨大な邸宅が出来ていた。しかもその外観はこの世界には存在していないような、あちらの世界の近代的建築。
さらによく見たら、両親の屋敷とログハウス、ロイの邸宅の三軒が一つの敷地のようになっており、正面ではなく、裏の庭などはすべて共有といった感じの作りになっているようだ。
「夢のマイホームです、家具家電もあちらで買いそろえて転送いたしました、電力の変換も済んでます……が、なぜかすでにドラガードが住み着いております……」
「……」
メイド・イン・ジャパンと言う事か……つまりこの家には、家族とマッサン以外誰も呼べないという事ではないか……。
と、ここでジェイと子供達、そしてダディが何かに気づく。
「おっ! いいねぇ、ロイお前、温泉ひいたのか!」
「わぁ! グラっ見てみてっ滑り台のプールがあるぅ!」
「グリっこっちも見てっプールが川みたいに流れてる! え、このプールあったかい!」
「父上! 見てください! こちらの石造りの池には色鮮やかな魚が泳いでいます! こんな美しい魚は初めて見ました!」
「ねぇっハイト見て! 木の上に小さな家がある! 僕らの秘密基地にしようよっ!」
「ママ見て! 狙ってた本格BBQセットだっ! お、こっちにはサウナがあるよっ使わせてもらっちゃお~っと」
「「「「……」」」」
私、アルさん、サイモン、ファオ、母は苦笑い。
ロイ……どんだけ夢を詰め込んだんだ……まぁ、いいけどね、夢のマイホームなんだから……。
ロイの邸宅の庭はまさに和と洋のスペシャルコラボレーションだった。
和室の庭には日本の素晴らしい庭園、池には錦鯉。
ゲストリビングの庭には広いフリースペースと美しいイングリッシュガーデン。
ファミリーリビングの庭にはBBQやプールにツリーハウスまで……。まるでテーマパークのような庭となっていた。
そしてさらに驚いたのは邸宅の中だ。
ゲストリビングとダイニングキッチンはこちらの世界によくある感じでホッとしたが、問題はファミリーリビングとダイニングキッチンだ。
キッチンを見た母が頬を染めて羨ましがっていた。
とてつもなく広い室内のアイランドキッチンに、巨大な冷蔵庫に冷凍庫、最新家電の数々……パン作りやそば打ちまで可能だという。
前面ガラス張りの解放感抜群の自動ドアによって、調理の臭いがリビングに行かないようになっている。
ぶつからないようにしなければ……。
リビングはL字になっており、リラックスできる座面の広いソファーセットのほか、巨大なビーズクッションが数個転がっており、さらにはこの世界では映らないはずのTVまで壁に埋め込まれていた。一体、何を見るんだ、と思ったが、写真を映し出すのだという。なるほど、デジタルフォトフレームなわけね。
そしてキッチンから外に出られる扉を開けると、直に温室につながっており、その中には家庭菜園スペースや、水耕栽培のシステムまで構築されていた。
「少し行けば、果樹園もありますよ、旬の果物を収穫して食べることが出来ますし、子供たちは果物の収穫体験もできます」
そして、庭にあった温泉施設からも想像できるように、夫婦の寝室にはもちろん半露天風呂。
ゲスト用にも温泉が引いてあり、内風呂と露天とが用意されていた。
そのほか快適そうなベビールームにキッズルーム、いくつものゲストルームが存在している。
ロイ曰く、いつか楓姉や若葉兄も遊びに来るかもしれないから、という事のようだ。それにしても過剰過ぎないだろうか……。
「ロイ……この家、総工費いくらよ……?」
旅行で一千万円使う男だ、一体いくらかけたんだ……。
「……秘密です」
でたっロイのエロけしからん、秘密です!
「私、ここに住みたい!」
「グラも!」
「僕も……」
「僕も!」
「ダディも!」
「俺も!」
グリグラ、ハイトとアヴ、ダディとジェイが興奮気味にロイにおねだりしている。
「ダメです、ごくたまに遊びに来るのはいいですが、ここは私とサクラさんと生まれてくる愛し子の家ですから」
「ロイたまひどい! でも、もうドラガードが住み着いてるんでしょ?」
「……そうでしたね……ドラガードには小屋でも作って、近いうちに追い出しますか」
そんな感じで、無事? に私達は帰国し、両親は引っ越しを済ませたのだった。
……色々と言ってはいたが、私もロイの家に住むのは楽しみだったりする。
○○●●
その後は、サイモンが両親の紹介を兼ねた歓迎パーティーを開いてくれたり、ジェイファオが早速子供たちと一緒に両親を自分達の国を案内したりと、両親も毎日楽しそうに過ごしていた。
ハイトとアヴもすっかりパリピで明るいダディと美人で優しい母に懐いて甘えており、両親の屋敷に入り浸っている。異世界の話を聞いたり、母がつくる異世界のおやつを食べるのが嬉しいようだ。
ああ、もちろんダディも母も言葉の問題は全くなかった、異世界チートだね。
そんな平和な一方で私は帰国後すぐに、マイドクター・マッサンのもとをロイと訪れ、お腹の子の検診を受けていた。
日本の産婦人科を受診しようか迷ったが、私の身体は7人も産んでいるにも関わらず、ロイの治癒魔法により全くその形跡がないなど、不思議なことになっているため、問診票の記入が不安だったこともあり、受診はやめておいたのだ。
「ウィーちゃん、今回は竜の子じゃないって話だけど……普通の人間と同じと思っていいんだよね?」
「うん、その予定……両親もいてくれるし、成長促進の魔法はかけないつもりだから」
ロイも私の横で頷いている。
「そっか、ではまず診察の結果を伝えようかな……エコーを見る限りでは、現在妊娠16週くらいだね、ウィーちゃんの言った通りだと思うよ、それで……今回もまた双子みたいだ」
「……え……?」
一瞬、私とロイの空気が張りつめた。
愛し子が双子……それはつまり……。
「ろ、ロイ……どうしよう、ドラガードは気付いてるのかな?!」
双子と聞いて明らかに動揺を見せる私に、ロイは落ちつた様子で答える。
「大丈夫ですサクラさん、ドラガードといえど、絶対に俺達の子に手出しはさせません……安心してください」
「双子だとなんかまずいの?」
マッサンは何人も双子を出産している私が、今回に限って動揺する様子に少し驚いていた。
「俺とサクラさんの子が双子の場合、どちらが片方が危険になる可能性があると以前言われたことがあるんです、ですが、気にしなくて大丈夫です、俺が必ず守りますから」
「ロイ……」
「かっこいいね、ロイ君は」
ロイの頼もしい言葉に、少し落ち着いた私は、マッサンから続きを聞いた。
「今回は、二卵性の双生児だね、でも、今回は完全にロイ君の子で間違いないみたいだから、どっちでもいいか……性別もわかるけどどうする? 知りたい?」
「私はどっちでもいいけど、ロイは? 知りたい?」
「名前を考える参考にしたいので教えてください」
「オッケー、性別はね……二人とも男の子だと思うよ」
「っえ?! ほんとなのマッサン!」
「え、う、うん……どちらにもちんちんが見えたからね」
驚いた、愛し子は女なんだとばかり思っていた……。
それならば、ドラガードに一人殺されることもないかもしれない。
ん? でもまてよ? その場合、片方が愛し子で、片方は普通の子なのだろうか? それとも、どちらも愛し子のチカラを持つのだろうか?
ドラガードに聞きたいけど、どうしたものか……迷ってしまう。
確か、ドラガードが片方を殺すとしたら、神力と魔力とに分かれてしまった時だと言っていた。つまり、一卵性双生児であればその可能性はあるかもしれないが、二卵性だという事はもしかすると、そうなる可能性は低いかもしれない。
不安が消え去る事はないが、それでも私は少し、希望を見出すことが出来た気がした。
○○●●
マッサンの診察を受けたその夜、私は久しぶりにアルさんと一緒にベッドに入っていた。
「そうか、双子か……しかも男児二人……愛し子が男児とは、予想していなかったな」
「うん、ビックリしちゃった……サイモンの予言が当たらなきゃいいけど、でもなんか、大丈夫な気がするんだっ」
私は少しポッコリしたお腹に気を付けつつ、アルさんの胸に顔を乗せ匂いを吸い込む。
久しぶりのロイ以外の胸……どんな気分になるか少し不安だったが、やっぱりアルさんの匂いも胸も落ち着く。やっぱり私は大丈夫な人間なんだな。
「サクラ……おかえり……本当にサクラが恋しかった……」
アルさんは自分の胸の上でスンスンと匂いを吸い込む変態な妻をそっと包み込み、そう呟いた。
「ごめんね、何ヶ月も寂しい思いさせちゃって……」
こうして私が無事に愛し子を妊娠出来たのは、アルさんを含めた夫達の理解と協力あっての事だ。感謝せねば。
「サクラがこうして隣で眠ってくれるだけで、心が満たされる……この滑らかな肌に触れ、サクラの甘い香りを感じることで……これまで離れていた時間がリセットされるようだ」
アルさんはそんな激甘な言葉を口にしながら私の頬にそっと触れ、額にチュッとキスをした。
「アルさん……好き」
「私も愛してる、心から……」
私はアルさんの唇に自分の唇を重ね、アルさんの舌を誘い込む。
「……っん……んん」
ああ、アルさんのこのキス……久しぶり……。
私はそっと、アルさんのアルさんに手を伸ばす……思ったとおり、元気いっぱいだ。
私はもぞもぞと下へ潜り込み、アルさんのアルさんを下履きの中から解放すると、そっと手を添えて上下し先をペロリと舐める。
「っ……サクラっ」
これだけで感じてくれるアルさんに、少し興奮してしまった私は、そのままアルさんのアルさんをパクリと咥え、たっぷりの唾液でしごいた。
どんどん固く膨張するアルさんのアルさんがかわいらしく思えた私は、もっともっと喜んでほしくて、さらに気合を入れてご奉仕する。
「っ! 駄目だっサクラ出てしまうっ……っ!」
「いいよ、出してっ」
「……っ!」
直後、すごく濃いどろっとしたアルさんのモノが私の口いっぱいに広がる……一体どれだけ出していなかったのだろうか。
いつものようにごっくんと飲み干すも、さすがに濃厚すぎるせいか、のどがイガイガする……。
私のそんな様子を察したアルさんは、すかさずテーブルの上の果実水をグラスに注ぎ、私に手渡してくれた。
気の利く夫である。
「すまない……妊娠中のサクラにこんなことを……」
「んーん、むしろ、ずっと寂しい思いさせてたのに、これしかしてあげれなくてごめんね、本当は入れてほしいけど……我慢我慢……」
アルさんは果実水を飲みほした私のグラスを受け取り、テーブルへ戻すと、私を抱き寄せそのままベッドに横たわり、しばらくおしゃべりをしながら、いつのまにか二人とも眠ってしまっていた。
それ以降、サイモンやジェイファオとの夜も同じような感じでご奉仕する日々が続き、私のフェラテクはさらに上達していった。
やはり私には夫達の息子が皆んな愛しい。
なんてことはない、それだけでも私にとっては幸せな日々だった。
そして一通り溜まっていた夫達をすっきりさせ終えて落ち着きを取り戻した頃、私は伝次郎をつれて両親の屋敷を訪れていた。もちろんロイも三つ子を連れてついてきてくれている。
「あら、伝次郎じゃないっまだこんなに元気なのね、長生きしすぎじゃない? え、何歳になったの?」
「伝次郎、お前、年取ったなぁ~、私と一緒だなっこら、舐めるなって」
バーニーズの平均寿命を知っている母もダディも、元気に歩く伝次郎の姿にとても驚いている。
そうなのだ、前にも言ったが伝次郎はちょっと異常に長生きなのだ。
「それでも、やっぱり最近は寝てることが多くなったよ……もうすぐお迎えが来ちゃうのかも……それでね、お母さん……伝次郎をここにおいてあげてくれない?」
伝次郎は今ハーレムにいるが、私もそんなに毎日ずっと伝次郎のハーレムにいてあげることが出来ずにいる。
私は伝次郎の終の棲家として、これから一番私が出入りする事が多い屋敷に移そうと決めたのだ。
「いいけど……伝次郎にも家族がいるんでしょ?」
「うん……でも、奥さんはみんな先に亡くなっちゃったの、みんな大型犬だったしね……いるのは子供たちと、その子供達」
そう……ゲスター執事の愛娘達は数年前に虹の橋を渡り、お星さまとなっている。伝次郎は愛する妻を三頭も見送っているのだ。寂しいに違いない。
「そうだったの……」
「伝次郎も、ダディとお母さんとこの屋敷にいれば寂しくないだろうし、私も子供連れて遊びに来れるし、出産してロイとのマイホームにいてもすぐに顔見に来れるし」
そして一番は何かあってもすぐに両親が気づいてくれる。
もちろんハーレムにいても誰かしらが気づいてくれるが、情報の伝達系統が直接的でないため時間をロスしてしまう。
ここなら、ブラックシールズの護衛経由ですぐにロイなり私なりに直接伝わるのだ。
両親の護衛をするブラックシールズの3名のみが私への直接の対話をアルさんから許されている。あと許されているのはSBDSのスヴェンくらいだ。
「わかったわ、伝次郎は私達で預かる、伝次郎、また一緒よ、仲良くやりましょうね」
「わっふっ」
尻尾をふぁさふぁさとふる伝次郎の姿に安心する。良かった、嬉しそうだ。
「ロイ、いつもの結界張ってくれる?」
「御意」
ロイは毎度おなじみの伝次郎の誘拐防止の結界を張る。
一応、私も自分で結界を張れない事はないのだが、私はロイが結界を張る時に見せる、ゴールドの瞳に魔力が一瞬集まりギラつく瞬間がとても好きなのだ。
(やん、今日も素敵っ! )
するとそこへ、リルリムを連れたファオが転移してきた。
「おや、ファオ君、リルリム君、どうしたんだい?」
車を購入してくれて以降、ファオと大の仲良しのダディがすぐに気付き、声をかける。
リルリムはダディに両手を伸ばし、抱っこを強請ろうとしている。
そんな可愛い孫に、ダディもデレデレだ。
二人も抱っこして、腰をやらないといいが……。
「お義父さん、今から例の車にプレゼントしてくださったチャイルドシートを取り付けたいのですが、付け方を教えていただいてもよろしいでしょうか? その後、リルリムと4人でドライブでもいかがですか?」
え、なにそれ聞いてない、ダディ、チャイルドシートなんてプレゼントしたの? ウケる。
「お、いいねぇ、もちろん行くよ~、じゃぁママ、ちょっと行ってくるね」
……仲良しだな。
「ええ、行ってらっしゃい、私はサクラとロイ君と伝次郎と三つ子ちゃんとここにいるわ」
そんなダディと婿と孫の後ろ姿に、母はとても穏やかに微笑んでいた。
「……今みたいな感じで、ジェイ君だったりサイモン君だったり、ハイトとアヴだったりが日替わりで突然来てくれるのよ、パパもすごく嬉しそうなの……この世界に来てよかったわ、このお家もすごく住みやすくて気に入ってるし、リンちゃんもスーザンさんもジョゼフさんも優しいし、護衛の男の子達も皆んな可愛いわ」
なにっサイモンまで? ああ……そういえば、ロイのマイホームを見た後、なんか知らんけど対抗心燃やして、この新築を少し手直ししたいとか言っていたな……それか?
スーザンさんとジョゼフさんはダッジ族のご夫婦で、リンちゃんはその娘さんだ。侍女と執事をしてくれている。
護衛の男の子達というのも、その年齢は16歳、19歳、25歳の3人の黒髪イケメン青年達の事なのだが、上2人にいたっては……何度か母に頬を染めている所を目撃しているので少し心配だ。
それにハイトとアヴも子供だけで来ているというが、いつの間に……。
ハイトもアヴはまだ転移は出来ないはずだ、つまりドランティス城の転移陣を使いこちらに来て、歩いてここまで来ているのだろうか……一応、あの子たちにもアルさんが忍者を付けているが、少し気を付けさせないと。
来るならキッズルームの転移陣を使うように言わなければ。
子供達についている忍者からの報告はすべてアルさんに行くので、アルさんはある程度はあの二人の行動を把握しているのだろうが、アルさんも忙しそうだからな……。
「孫達は皆んな可愛いし……ありがとう、サクラ……まさか9人の、もうすぐ11人ね……おばあちゃんになるとは思ってもみなかったわ」
ふと、母を見れば、腕に抱くソルにデレデレになっていた。
まだ一歳と少しのソルミルカルは、普通の子に比べたらしっかりしているがまだまだ赤ちゃんだ。
ちなみにミルとカルはロイが抱っこしている。
「三つ子ちゃんだなんて、大変そう、と思ったけどこの子達は静かね」
「ソルミルカルは、最近チカラの放出を楽しんでするようになったの、そっちで発散してるから普段はご機嫌なことが多いかな」
代々受け継がれてきたアルさんとジェイファオ、ロイのチカラを集結させた、特殊結界……いつでもどこでもブラックホールは今も子供達のチカラを吸収し続けている。
核兵器何百個分になるのかわからないほどのチカラが溜まっていることだろう、何に使うかな……。
「こんな感じなら、パパと私で三つ子ちゃんも預かれそうだわっ……サクラとロイ君もまだまだ先と思ってても、あっという間に生まれてくるんだからね、双子ちゃんの名前、考えておくのよ?」
「名前かぁ、私はロイに任せてるからっ、ね、頼んだよロイっ」
「御意……」
私は知っている……ロイが私の護衛をしていない夜にこっそり子供の名前を考えていることを。
双子の男児は、どんな名前をロイパパからもらえるのか楽しみである。
そうこうしているうちに、季節は移り変わり、母の言う通りあっという間に私は臨月を迎えた。
○○●●
予定日二週間前からは、いつ生まれてもいいように夜はロイとマイホームで過ごしていた。
そしてその時は突然やってくる。
雪こそ降らないがドランティスにしては肌寒さを感じる2月下旬の深夜2時、陣痛が始まった私は、隣で眠るロイを起こした。
さすがに5回目ともなると、手慣れたものといったロイは、テキパキと準備を行い、一瞬転移し消えたかと思ったら、両親のところの護衛に朝になったら両親に伝えるようにと、旦那様方に伝えるように指示をしてきたという。
そして陣痛の感覚が短くなったため、私はいつものようにマッサンの待機してくれている分娩室へと転移した。
するとそこで珍しい奴を見つける。
「ドラガード……きたの?」
『愛し子の誕生やからな、ワイはいつもこの目で見届けてたんや』
人型のドラガードが図々しくも、夫でもないくせに分娩室にいた。久しぶりに人化したの見たが、普通に成人男性の姿だった。ドラゴンモードだとチビだけど、人型だともう元通りのようだ。
「……ふふ……っなら、私が生まれる時も見てたの?」
『見てたで、こっそりな……ほら、くっちゃべってないで、がんばるんやっ元気な子産むんやで!』
「うんっ」
ドラガードは部屋の隅に移動する。
意外な人物からの激励に、私は陣痛に歪む自分の顔にふと笑顔が戻ったような気がした。
そんな私の手を、いつものように握っていてくれるロイが、部屋の外に両親と夫達が全員駆けつけていると教えてくれる。
深夜3時にもかかわらず来てくれたのか……。
みんなありがとう、と声には出ないが心の中でお礼を言う。
「ウィーちゃんっ頭見えたよっ!」
私は今回も自然分娩で双子を産む。
マッサンも双子はすでに慣れたものだろう、いつもスマートに取り上げてくれ、おかげで子供たちのおへそはみんなきれいだ、デベソは一人もいない。
「はいっ一人目っ! 黒髪の男の子! ロイ君っおめでとうっ!」
「ドラガード! 抱いてやってくれ! 俺はまだサクラさんについてるっ!」
『なんやてぇ?! 守護竜使いの荒いやっちゃな……』
そんな風にぶつぶつ言いながらも、人型のドラガードはマッサンから生まれたばかりの赤ちゃんを受け取り、クリーン魔法で浄化しながら、嬉しそうに抱き上げる。
「よしっ次っ! 頭見え……たよ……あれ……?」
なんだ? 今、マッサンの語尾が不穏だったような……。
「……マッサン? なに? どうか、したのっ? っ……」
一人出たとはいえ、私の身体はまだまだしんどい。
「……いや……ちょっとね……」
「なんですかっどうされたんですか?」
煮えきらない返事をするマッサンに対して、ロイがハッキリ言えとばかりに追求する。
「いや……髪の色が……白いんだ……」
「「……え?」」
髪が白い? 私とロイの子が白いわけない、アルビノだろうか……。
「アルビノでもなんでもいい、私達の子に変わりはないんだから早く出してあげてマッサン!」
一瞬、時が止まったかのようになったが、私はマッサンに早く取り上げるように頼んだ……。
アルビノならば陽射しのあるドランティスでの生活は難しいだろうか……出産の真っ最中にそんなことを考えていた私だったが、自分の中から赤ちゃんが出たのが分かった。
「はいっ二人目の男の子っ! まだわからないけど肌の色は、さっきの子と変わらないな……アルビノじゃなさそうだよ……?」
すると、その白い髪の子を見たドラガードが、突然驚いたようにロイに一人目の子を押し付け、マッサンから二人目を奪った。
(まさかっ! )
「いやっ! やめてっドラガード! やだっ!」
「ドラガード! 動くなっ!」
出産直後の私は、身体が思うように動かない。
マッサンは何が起きたかと困惑しており、分娩室は静まりかえっている。
しかしさすがはロイ……彼は万が一に備えて準備していた。
ドラガードの首と手足に金色に輝く何か魔法の鎖のようなものが現れ、ドラガードの動きを止めている。
ロイはドラガードを拘束していたのだ。
『ちゃうんや……殺したりせぇへん……この子は……この子は……』
ドラガードが2人目の赤ちゃんを抱きながら、ボロボロと大粒の涙を流している。
なんだ、一体何がどうなっているんだ。
でも待てよ? よく見ると、生まれたばかりの二人目の髪の色は白く輝いている。それは、まさに今その子を抱いている美丈夫の髪と同じ輝きのように見えた。
ドラガードに赤ちゃんを殺す気はないようなので、ひとまずは安心するも、油断はできない。
「マッサン、廊下にいるボスを呼んでくださいっ!」
ロイがマッサンにそう叫ぶと、すぐにマッサンは出て行った。すると、すぐにアルさんが駆けつける。
「どうしたロイっ」
「すみませんボス、奥様の処置をお願いできますでしょうか? 私はドラガードを見張らねばなりませんっ」
「わかった、任せろ」
アルさんは魔法の鎖に繋がれたドラガードが赤ちゃんを抱いて泣いているという不思議な状況にも一切動じること無く、ロイの頼みをとても嬉しそうに引き受けた。
そんなアルさんの様子に、私はなんだかわからないがホッとする。
「……アルしゃん……」
初めてアルさんに産後の処置をされる私は、なんだかちょっぴり恥ずかしかった。
「サクラ、よく頑張ったなっ」
そう言いながら、汗のにじむ私の額にチュッと口づけるアルさん。
アルさんの治癒魔法も大変美しく、ロイの金色の魔力とは異なり、鮮やかに透き通ったパープルの光を帯びていた。
しかしなんだろう……ロイに治癒を施していた時とは少し違うような気がするが気の所為だろうか……。ロイの時はすんごい強そうな真っ黒な感じだったと記憶している。
そして私の治癒もほどなくして半分程度済むと、少し余裕が出てきたので、押し問答をするロイとドラガードを注視した。
「おいドラガード、今すぐ俺の息子を返せっ、何でお前が泣いてんだよ」
『……別にええやろ、返すわ、返すけどな……ちとな……これは生命の神秘やねん』
その時だった。
私の頭の中に走馬灯のようにある記憶が流れ込んできた。
それは、私だけではなかったようで、アルさんも治癒を施しながらも頭を押さえている。
そして、数分後……。
「「空の……白竜……?」」
『っ?!』
「っ?!」
私とアルさんの言葉に二人目を取り合っていたドラガードとロイが驚きこちらを見る。
『今……なんてゆうたんや?』
「奥様っなぜそのことをっ」
「空の白竜……ドラガード、あんた、空の白竜だったの? よくわかんないけど、思い出したというかなんと言うか……」
ロイも驚いている。どうやらロイは、知っていたようだ。
アルさんも、初めこそ少し驚いていただが、すぐにポーカーフェイスをきめこみ私の治癒を続けている。
『なんでや……なんでや竜神……今更……なんでなんや……わけわからへん……』
ドラガードはその場で自分に似た子を抱きしめながら、泣き崩れた。
分娩室は再び騒然となるも、私を治癒するアルさんの美しい魔力だけが輝きを放っていた。
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