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第二章 異世界転移の意味

61 里帰り

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「大変な事が判明したよウィーちゃん、旦那様方」
 
 マイドクターマッサンが定期検診で深刻そうに私達に告げた。
 ちなみにあと20日で生まれる予定だ。
 
 なんと今更だが心臓の音が2つ聞こえるのだという。
 だが、前回までは本当に1つしか聞こえなかったと言い張るマイドクター。
 早くエコーを開発しないと、とブツブツ言っていた。
 
「えぇー双子ちゃん? だからこんなにお腹大っきいのかぁ」 

 私のお腹はすでに臨月の妊婦さんのように膨れ上がっている。 
 
「待て待て待て、双子? 赤ん坊は2人産まれてくるのか?」
 
「……一気に2人の父親か、悪くないな」
「やっぱり、俺達の子じゃね? なぁファオ」
  
 ん? アルさんの所にベビーベッドが2つあったのって……
 
「アルさんもしかして知ってたの?」
 
 私はアルさんに疑いの眼差しを送る。
 
「いや私が知るはずないだろう、念には念を入れただけのつもりだったんだが……私の子かどうかもわからないしな」
 
 まぁ、確かに知るはずないか……。

 アルさん以外の夫達は、こうしちゃいられんと、慌ててベビーベッドをもう一つ手配しに帰っていった。

「アルさん……最近ね、ちょっと不安になるの……」

 私が母親になれるのか、自分がまだ子供なのに子供を育てられるのか……不安なのだ。マタニティブルーだろうか。

「私だって同じだ、父親になれるか不安だ」

 いや、アルさんは今でも十分父親だよ……心配ご無用。

「サクラ、私達なりに愛をもって育てていけばいいさ、サクラのご両親も愛情いっぱいにサクラを育ててくださったのだろう、だから、サクラはこんなにも人間味溢れる愛情深い素晴らしい女性に成長したんだ」

「私の両親……」

(ああ、ヤバい……)

 私はアルさんと別れ、ドランティスのログハウスで一人、ロイに相談を持ちかける。

「ロイ……私、こんな状態だけど、ちょっと里帰りしてみたいの……不安だから一緒に来てくれない?」

「……里帰り、とは……?」

 ロイは少し深刻そうな表情で私に聞き返した。きっと、正しく理解しているがゆえのその表情なのだろう。

「家に帰りたいのっ私の家族がいる家にっ!」
 
 私は密かに水の竜のもとへ通い、神力で日本に帰る方法を教えてもらったのだ。ロイの目を欺くのはとても難しかったが、なんとか3回の訪問でマスターできたのである。

 つまり、私は帰ろうと思えば、いつでも日本に帰れたのだ。
 でも、そんな事を夫達に言えば不安にさせてしまうかと思い、言えなかった。
 私はちょっと行って帰ってくるつもりでも、夫達は、もし私がやっぱり元の世界がいいっ、と言って、こちらの世界に戻ってこなかったら? と心配させてしまう事を考えたら、いたたまれない。
 逆の立場なら私はきっと不安で不安で頭がおかしくなる。

「ですが、あと20日で出産だと言うのに世界を渡るのはあまりにも危険では?」

「危険じゃないよ、むしろ、あっちの世界なら医療技術も進歩してるし、輸血も出来るし、万が一があっても多分大丈夫……それに、ロイが一緒ならなんか大丈夫かなって……」

 今なら夫達と夜一緒じゃなくても怪しまれない。
 もっとお腹が大きくなる前に決断すれば良かったのだが、いかんせんどう説明したらいいか悩んでいたら、ここまで来てしまった。

 でも今は、ものすごく母に会いたい。説明とかもうどうでもいい、とにかく早く母に会って、出産について相談したい、母親になる前に……誰かの親になる前に、最後に子供のまま母に甘えたい。

「ロイ、お願い……夫達にはナイショにして……2、3日で必ず戻るからっ!」

『必ず戻るんやろな?』

 ドラガードが口をはさんできた。
 そうだった、おしゃべりマンのコイツがいたんだった。コイツも連れて行くか? でも竜だしな……トカゲくらいの大きさだけど……。

「必ず戻るよ、だって私は旦那様と一緒に子育てしたいもん、むしろ、竜の子を向こうじゃ育てるのは無理でしょ?」

『せや、わかっとるんならええ……ロイ坊、任せたで、愛し子はんの好きにさせてやったらええわ』

「……ドラガード、いいのか?」

『愛し子はんは決めたら曲げんからな、ちゃっちゃと行って帰ってきたらええんや、ここはワイがまかるわ』

「……わかりました、奥様がどんな方法で帰ろうとなされているかわかりませんが、俺はドラガードの特殊能力も受け継ぎました、そのチカラです奥様をご実家へお連れいたします、その方が奥様の御身体への負担が少ないはずです」

 そ、そうだったのか……でもドラガードのチカラってなに? あ、竜だから特殊能力もってたのか。

「ドラガードの特殊能力って何なの?」

「……あらゆる空間への干渉です」

 なにそれ……空間干渉? ……空間転移の究極版みたいなやつ?
 そうか、好きな空間へ自由自在に行けるのだろう、異空間でもって事ね。

「通常の転移では世界を渡れませんが、ドラガードのチカラならば神力ほどの膨大なチカラを消費せずに簡単に移動出来ます、発動にも時間はかかりません」

 実を言うと、水の竜に教わった神力での異世界転移は凄い量の神力を消費するため、貯まるまで帰ってこれないのが不安だったのだが、ロイの話ならば本当にすぐに行って帰って来れるという事だろう。

「最高のチカラ持ってたんだねドラガードっ……ならさ、ロイ、行こうっ! 今すぐっ!」

 こうして私達はドラガードから受け継いだチカラで、ロイと2人、異世界へと転移するのだった。
 行き先の指定は私がロイのチカラにほんの少し神力を混ぜ込むことで可能となると、ドラガードから教えてもらった。


 ○○●●


 よく考えたら、数年間行方不明だった娘がお腹を大きくして帰ってきたら、家族は気絶してしまうかもしれないな、などと考えながら、私は懐かしい自宅の前にロイと立っていた。

(帰ってきた……私の家……)

 あの頃と変わらない私の自宅……懐かしい。

 私はロイの手を握り、震える手でインターフォンを押す。

 ピンポーン……

「はい」

(お母さんの声だ……ヤバい、泣きそう)

「お母さん、桜です……」

「……イタズラはやめて下さい! ガチャっ!」

 ……あれ? そうか……そうだよね……普通なら信じられないよね……さてどうしようか。

「信じていらっしゃらないようですね」
「うん、そりゃあそうだよね……モニターには映ってるとは思うんだけど……私も少し大人になったしね」

 こんな事になるとは思わず、ロイと私は今思えばコスプレかのような場違いな服装のまま、自宅の前に立っているほかなかった。

 しかしその時……。

「……本当に……桜、なの?」

 玄関のドアが少し開き、中から母が顔を出している。

「っ! お母さんっ! 本当だよっ! 私、桜だよっ!」

「……っ桜……?」

「お母さんっ!」
「桜っ!」

 母はサンダルのまま、門の前にいる私の方へ駆け出した。

「桜っ! 桜っ……! もう二度と会えないかと……」
「お母さぁぁんっ! ぅわあぁぁん!」

 母に抱きしめられた私は、近所迷惑お構いなしに大号泣、母もその華奢な身体が震えている。

 夕方の帰宅時間帯だった事もあり、近所の通行人にジロジロと見られただろうが、そんな事はどうでもよかった。

 しばらくの間、抱き合い感動の再会をした私と母は少しクールダウンし、家に入る事に。
 と、その前に……

「お母さん、紹介するね、今、私の護衛をしてくれてるロイだよ、一緒に家に入れてあげて」

 母はもう誰でもいい、と言わんばかりに嬉しそうに、ほら早く中へっと案内してくれた。

「奥様、私は少し見回りをしてからお邪魔いたしますね」

 見回り? こんな治安のいい住宅街で? 逆にロイみたいなスーパー異世界クオリティイケメンがうろついてたら、通報されそうだけど……まぁ、いいか。

「うん、わかった、家の中に入れば私は大丈夫だから、いざとなればSEC○Mさんが駆けつけてくれるし」


 私と母は家に入り2人になると、お互いに少し落ち着きを取り戻し、何となく照れくさくなった時、母が私のお腹に気づいた。

「桜っ、貴女まさか妊娠してるの!? それに、なにそのミュージカルの衣装みたいなワンピースは……」

「えへへ……話せば長くなるの……その前に喉乾いたなっルイボスティー飲みたい!」

 懐かしい我が家……何一つ変わってない。
 でも、何故か大量に飾られていたはずの家族写真が一つも無くなっていた。

「写真は、見る度に貴女を思い出して辛いからってパパが片付けてしまったのよ」

 そう口にする母を改めて見ると、ずいぶんと老け込んでいた。

「ごめんなさい……心配かけて……」

 もっと早くにこうして帰ってくるんだった。

「パパもだけど、かえで若葉わかばもずっとどこか元気がないわ、あまり顔も見せなくなったの」

 楓はアパレルメーカー勤務の姉、若葉は伝次郎をプレゼントしてくれた税理士の兄だ。

「あ、伝次郎も元気にしてるよ、奥さんが3頭もいて子供も5頭いるの」

 ルイボスティーを入れる母は少し手をとめ考え込む。

「……桜、貴女と伝次郎に一体何があったと言うの? あ、でも皆んなを呼んで、揃ってからにする? パパはもうすぐ帰ると思うわ、最近早いの」

 それなら姉と兄も呼んで貰おうか、私は母に姉達も呼んで貰う事にした。

 母が必死にスマホでメッセージを入力している横で、ルイボスティーをちびちびと飲んでいると、玄関から物音がした……きっと父だろう。

 母はスマホを置き、私に静かにしててね、といい、いつものように父の出迎えをしに行った。

「ママ……我が家の前にハリウッド俳優みたいな黒髪のイケメンがいて、話しかけられたんだけど、誰だろう……新手の詐欺師かな?」

「おかえりなさいパパ、あら、何て話しかけられたの?」

「それがさ、サクラさんのお父上でございますか? って……嫌がらせかな……思わず逃げて来ちゃったよ……」

 父は扉一枚挟んだ向こうにいる私の存在にまったく気づかずに、スーツを脱ぎに行ってしまった。なんかウケる。

 それにしても、ロイがサクラさんのお父上ですか、なんて話しかけるかなぁ……そんな事言うのはアルさんくらいな気が……まさかね。

 アルさん……バレたら怒るかな……。

「パパ、リビングにね、ビックリするお客様がいるのよ……」
「お客様? まさかママ表にいる詐欺師の仲間でも家にあげたのかい!? よし、私が追い出してやるっ」

 父の張り切る声がする……娘を追い出さないでね。
 そしてリビングのドアが開く。

 ガチャっ

「ちょっとっ! 一体どういうつもり……っ……!?」

「……」

 父は私と目が合うなり固まった。父もすっかりグレイヘアになっている、でもますますイケおじになったように見える。

「桜……か? 私の愛する娘なのか?」

「……ダディっ!」

 私は父に抱きついた。

 ああ、懐かしい……変わらないコロンの匂いがする。

 泣き虫な父と、泣き虫の私の再び大号泣の再会。

 こうして、無事に父とも感動の再会を済ませたのだが、やはり父も真っ先に私のお腹に気づき、パニックになる。
 姉と兄が帰って来るまで待てないと、性急に説明をもとめられたため、仕方なく私の長い長い異世界転移の話しをしようとした、その時だった。

 ピンポーン……

 玄関のインターフォンが鳴る。

「あら、ロイ君かしらね桜」
「そうかも」
「ロイ君って誰だいママ!?」

 母、すでにロイをロイ君呼びである。さすがは私の母親。父、さらにパニック。

 ロイを迎えに玄関まで行くと、何故か大人しく待っていられない両親もついてきた。

「はーい、ロイ、安全は確認できたかなっ……って……」

 玄関を開けると、そこにいたのは……。

「あ、あ、あ、アルさんっ!?!?」

「「アルさん?」」

「サクラ、酷いな……私に黙って里帰りとは……私にもご両親にご挨拶をさせてくれないか?」

「あ! さっきの怪しいイケメンだ!」

 父、アルさんを見て叫ぶ。

 もはや、この場はカオスである。

「やはりサクラさんのお父上でいらっしゃいましたか、私はアドウェール・ウォルター・ランドラーと申します、ドラリトア竜王国の公爵の位を賜っております、そして、サクラさんの第一夫として婚姻を結ばせていただきました、ご挨拶が遅くなりました事、お詫び申し上げます」

 玄関先で、バカ丁寧な挨拶を述べる豪奢な正装姿のアルさんに、私も両親もポカンとしてしまった。ロイはどこ行ったんだ。

「「「……」」」

 意外にも、沈黙を破り口をひらいたのは母だった。

「……まぁ、なんて素敵な方……桜、旦那さんなの? お腹の子のパパ?」

「ああぁぁぁっ! 桜がっ私のっ私の桜ちゃんが結婚しただとぉぉ!? こ、子供までぇぇ?! ごらぁぁ! このっこのっイケメンめぇ!」

 ……父、弱いな……イケメンに屈したか。

「まぁまぁ、パパ、落ち着いて、こんなに素敵な方が旦那さんで、きちんとご挨拶に来てくださったのだから、上がっていただきましょう? さぁ、どうぞ、アルさん・・・・

「ママぁ! 私より素敵だと思うかい?! やはりママも若い男がいいのかい?!」

 あら……? 話が違う方に行ったぞ、さすが私の母。父の扱いはお手の物である。それにしても、母、ロイに続き、すでにアルさんをアルさん呼び……さすがだ。

「アルさん……ロイから聞いたの?」

 私はアルさんにコソッと話しかける。

「ああ、久しぶりに何かに動揺したよ……ロイのチカラでここまで連れて来てもらったんだ」

 やはりロイか、まぁ、ロイかドラガードしかあり得ないわけだが……。

「ありがとう……挨拶してくれて……」
「何を言っている、当たり前だ、それに父親になる前にサクラのお父上にお会いしてみたかったから願いが叶ったよ」

 私のお父上……お会いしてガッカリしたのでは?

「サクラのお父上のような父親に、私もなろうと思う」
「だっ駄目だよアルさん! アルさんは威厳を持たなきゃっ! ああいうキャラはサイモンの役目だからさっ」

 じーっ……

 いつまでも玄関から中に入って来ない私達を扉の影からひょっこりと見ている4つの目があった。

「ほら早くっ」
「は、はぁーいっ今行くからっ」


 こうして、謎のメンバーで私の異世界転移物語を話し始めようとしたのだが……またもや……。

 ドタドタドタドタッ……バーンっ!!

「ママっ! 緊急事態、集合せよ、ってあのメッセージなに?! ってか、家の前で超絶イケメン王子拾った! ちょっと挙動不審だったけど面白いから連れてきたっ!」

 楓姉の登場である。

「さ、さ、サイモン!?」

 楓姉が拾ったというイケメンとは、なんとビックリ……サイモンであった。

「え……あんた……まさか……桜?!」
「お姉ちゃんっ!」

 こうして、三度の感動の再会の横には、ロイに我が家の門の前に置き去りにされ、どうしたらいいか分からずにいたという、これまた正装姿のサイモン。

「ミーナっ! アドウェールさんっ! 良かった、俺、いきなり正装に着替てついて来いってロイにすごまれて、ついて来たはいいけど、すぐにロイはどっか消えるし……そしたらミーナにそっくりなこの女性に有無を言わさず引きずられてっ」

 サイモンが楓姉の腕から逃げ、アルさんの影に隠れる。

「あはは……」

「サイモン、きちんとご挨拶しろ、サクラのご両親と姉上だ」

「っぇえ!? ……ご、ゴホン……ご挨拶が遅れましたが、私はサイモン・エメット・ドランティスと申します、ドランティス公国を統治しております、以後お見知り置きください、ウィルヘルミーナさんの第二夫としてすでに入籍させていただきました、宜しくお願い致します」

「あら、まぁ、桜、アナタ2人も旦那さんがいるの? ならお腹の子のパパはどちらなの? どちらにしても、可愛い子が生まれそうね」

 マイペースな母、そして、何故かサイモンには強気にでる人物が現れた。

「君っ、サイモン君と言ったかな? 君もイケメンだが、なんだか親近感のわくイケメンだな、気に入ったぞ」

「光栄です、お父上っ! 宜しくお願い致しますっ」

 父、サイモンを気に入る。
 母、アルさんを気に入る。
 姉、状況が読めず困惑する。

 なんだか、この調子だとあの2人も現れそうな予感……。


 そして私の予感は的中する。


 ドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタっバターン!

「母さん! 何だよあの緊急事態、集合せよっ、てメッセージは! ってか、家の前に伝次郎がいたんだけどっ! 知らない双子のイケメン2人と黒髪のイケメンに連れられてたから、とりあえず桜に繋がる手がかりかと思って全員連れてきた!」

「伝次郎っ! ジェイファオっ! ロイっ!」

 伝次郎は意外だったけど、やはり……ジェイファオも来たか……サングラスを外し、ヘテロクロミアが目立っている、楓姉が好きそうだ。

「あら、ロイ君遅かったわね」

 母、自分の息子よりロイに話しかける。

 それにしても、我が家の子供達は見ず知らずの人を家に上げすぎではないだろうか。いささか心配である。
 
「って、桜!? お前、桜か!? なんてこった!」

 四度目ともなると、さすがに涙は枯れ、出なかった。すまん、若葉兄、会えて嬉しいよ。

 チャラキャラのジェイはすぐに私の家族に打ち解け、特に楓姉に気に入られている。ファオは紳士的にきちんとした挨拶をし、若いのにしっかりしている、と若葉兄の心を掴んだ。

 こうして、ロイの頑張りにより何故か異世界で私の旦那様ァズと家族一同の初顔合わせが実現したのだった。

 そして、全員が落ち着いた頃、ようやく私の長い長い異世界転移物語を話し始めることが出来たのである。


 話しの途中……アルさんと結婚したあたりで父親はワインを開けちびちびの飲み始めた。お酒、弱いくせに。

 何故かサイモンが酌をしている。ウケる。

 兄は話しに飽きたのか、すぐさま伝次郎と遊び始め、母は話しを聞きながら父のおつまみを作りにカウンターキッチンへ行き、ロイはお手伝いします、と母について行く。
 姉は私の逆ハーレムに初めは食いついていたが、やはり飽きたのか、ジェイとファオに自分のブランドが手掛けるメンズファッションを着せて、本当の双子コーデだといいながら2人を着せかえ人形にしてスマホで写真を撮りまくり遊びだした。

 結果、私の話しを真面目に聞いてくれているのはアルさんだけ。

 自由すぎる私の愛すべき家族。


 自由なのは私も同じで、さすがに妊婦である事もあり、今日は疲れてしまったのか、いつの間にかアルさんの膝に頭を置き眠ってしまっていた。


 ○○●●
 

(サクラ以外の皆)
 

「……あらあら、桜はアルさんのお膝で寝てしまったのね、母親になるというのに甘えんぼうなんだから……」
「……今日は色々あって疲れたのでしょう」

 サクラが眠った後、各々自由にしていた家族達はようやく真面目に向き合い、話しをし始めた。

「まずはロイ君、桜のわがままを聞いてくれてありがとう、ロイ君のおかげで私達家族は終わりの無いどん底の暗闇から抜け出す事が出来た……我々は正直、もう二度と桜の顔を見る事は出来ないと思っていたんだ……」

 サクラの父親がロイに頭を下げる。

「とんでもございませんっお父上、頭をあげてくださいっ!」

 焦り立ち上がるロイに、アドウェールがそっと手を差し出し受け入れるように促す。

「パパの言うとおり……色々と驚く事ばかりだったけど、桜の幸せそうな顔が見れて良かったわ、ありがとう、ロイ君、そして桜の旦那様方」

 母親も父親に続きお礼を述べた。

「まさか桜に先を越されるとは思ってなかったけど、私もそろそろ結婚しようかなっ桜達見てたら、恋がしたくなっちゃったぁ私も異世界行きたいなぁ」

「何ぃ!? 楓まで?!」

「親父、落ち着けよ、冗談にきまってんだろ……アドウェール君、サイモン君、ジェイファオ君、貴方達は皆若いのに国を背負っているようだが、桜は寂しい思いはしてないか? その……やっぱり、普通の夫婦生活とは違うんだろ?」

 桜の兄は、4人も夫がいても皆忙しく桜に構ってる暇がないのではないかと心配していた。彼はかなりのシスコンなのだ。

「寂しい思いをさせていない、とは、サクラさんの気持ちですので言い切れませんが……我々夫達は仕事よりも国よりも、サクラさんを第一に考えております、サクラさんがこちらの世界にいたいというのであれば、時間はかかりますが我々は身辺整理をしてサクラさんと共にこちらの世界で生活していく事も考えています」

 アドウェールの言葉に、夫達3人とロイは真剣な表情で頷く。幸い、全員が言語の不自由はないようだ。

「ですが、生まれてくる我々の子供は少し特殊ですので……大人になるまではこちらの世界で生ていく事は難しいと思います……その部分はご理解頂ければ幸いです」

 竜の子は何が起きるかわからない。ましてや、愛し子との子はジェイファオと同じく純粋な竜の子として生まれるからだ。前例を知る者はドラガード以外いない。

「でもさ、今日こうやって集まれたって事はまた集まれないの? ねぇロイ君」

 楓がロイに期待の眼差しを込めて聞くが、全員を転移させる事はさすがにロイも大変だと知っているジェイが、口を開く。

「俺とファオはもう自力で来れるぜ、サイモンとアルさんだけロイが連れてくればいつでも集まれるだろっ」

「そうなのっ?! なら私達は桜は海外にでも嫁いだと思えばいいわけねっどのみち桜は留学予定だったし、同じ事じゃんっね、パパ」

 楓が明るく振る舞う。

 その話しを聞いた桜の家族は皆ホッとしていた。今回を最後にまた桜に会えなくなるのではないか、と心配していたのである。

「でも、赤ちゃん達に会えないのはちょっと寂しいわね……」

「御母上だけであれば私が、国へお連れする事もできるかと……」

 すっかり桜の母親と仲良くなったロイはサービス精神旺盛だ。

「え! ロイ君! 私も連れて行ってよ、ママだけじゃ心配だ!」

 桜の父親が駄々をこねる。

「……御意」

「でた、ロイロイの御意っ、面倒な時の御意逃げっ」

 ジェイがロイをからかう。

「あれ、でもジェイファオ君も自力で来れるなら、私達を連れていけないの?」

「すんません、俺達は自分達しか移動するキャパがないんですよ、チカラを消費してしまうので……ロイとは少し移動方法が違うんです」

 一同、ガッカリ。

「ねぇ、ジェイファオはたまにきてウチの専属モデルしてくれない? ヘテロクロミアの双子とかマジ神秘的で、次のウチのコンセプトにぴったなんだよねぇ」

「いやぁ~楓さん、光栄ですけど、俺達の顔も身体もチェ……サクラさんのものなんで、不特定多数には売れないんですわっすんませんっヤキモチ妬いちゃうんで」

「もう! 桜なんか気にしなくていいのにぃっ! あ~あ~いいなぁ、私もジェイファオみたいな王子様と結婚したぁ~い」

「……元皇子ならウチの研究所にいますよ」

 サイモンはふと、クラウスの事を思い出した。

「サイモンっ! その話し、詳しくっ!」

「楓、お前何本気にしてんだよ、結婚する気もないくせに」

「うるさいわね若葉、あんたこそ、金勘定ばっかりしてないで早く結婚して親に孫の顔でも見せてやりなさいよ」

「はいはい、みっともないから喧嘩しないの、まったく桜が戻った途端また喧嘩するんだからっ」

「よーしっ! 今夜はドン・ペリニヨン開けちゃおっかな! っママ、グラス人数分お願いします!」

「はいはいっ、もう、今夜だけよ?」





 こうして、桜が眠る横で夫達と家族との飲みニケーションが行われ、夜はフケていくのだった。

 
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