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第二章 異世界転移の意味

58 ロイの唇 ◇

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 ロイは4日目も5日目も目を覚まさなかった。

 マッサンはロイを診て、呼吸も血圧も安定しているし、傷口も問題ないと言っており、目を覚まさない原因として考えられるのはやはりドラガードの血のせいでロイの身体の中で何かが起きている、という可能性。

 輸血の途中で光ってたしね。

 あれから私は毎日、一日中ロイの側でひたすら無心で魔導書の翻訳をしている。

 ロイの手は温かく、顔色もいい。
 いつ目が覚めてもおかしくないはずだ。

「……ロイ……起きなされ、何日寝てるつもりだね君は……労災だからってのんびりしすぎだぞっ、回復しているのはわかっているんだぞ……」

 私はこうしてぽつりぽつりと度々話しかけては、頬をツンツンしたりしている。

「ロイって本当に真っ白な肌で綺麗な顔……白雪姫みたい……キスしたら目が覚めたりしてっ……」

 ……魔が差したとでも言っておこう。

 私は、ロイ姫にサクラ王子の奇跡の口付けをと、冗談半分に試してみたのである。
 ……すみません、セクハラで訴えないで下さい。

「ロイ……起きて……」

 チュッ……

「……」

 起きないよね、起きるわけ無いよね……。

「……」

 ……ん?

「……ロイ?! っスヴェン! マッサンとアルさん呼んできて!」

「かしこまりました」

 今、確かにロイの指先が動いた! ……気がする。

 私はこれでもかと言うほどにロイにチュッチュチュッチュとキスをしまくった。それはもう、伝次郎にするがごとく。


「サクラっ、ロイがどうかしたかっ」
「ウィーちゃんっロイ君がなんだって!?」

「あ……」
「「……」」

 やべ、見られた。

 一人は自分の夫、もう一人は患者の主治医。
 身動きのとれない昏睡状態の患者に、無理矢理キスするその図を目撃されたわけである……。
 しかし私はめげない。

「今ね! ロイの指先が動いたのっ!」

 何事もなかったかのように言葉を発した私に、マッサンとアルさんも何も見ていないフリをしてくれた。


 ……そしてついに。


 ロイが目を覚ました。
 昏睡状態から7日目の事だった。

 これはもう、私の奇跡のキス以外に目覚めた理由なんて考えられないな。もっと早くしてみれば良かったな。

 マッサンの診察の限りでは、昏睡状態だったにも関わらず、ロイには後遺症なども一切見られず、腹部の傷もほとんど治っているらしい。
 何故かはわからないがドラガードの謎のミラクルな血のおかげだろうとの事で落ち着いたのだった。


 目を覚ました時のロイは、しばらくの間、ただぼーっと天井を見ているだけだったのだが、すぐさま状況を把握したように、ハッとし、その場にいた私を見つけると、こう口にした。


「……奥様、ご無事で何よりです……」

 弱々しく少しかすれた第一声がこれだ。死の淵を彷徨った奴が言う言葉じゃない。普通は、『あれ、俺、生きてる……?』だろ。

「っロイ……っ……ありがとうっ……護ってくれて、本当にありがとうロイっ生きててくれてありがとう……っ」

 私は涙と鼻水を垂れ流し、ロイをそっと抱きしめた。そっとね、そっと。





 そして翌日、ジェイが一番にお見舞いにやって来た。
 他の皆んなは、目覚めたばかりのロイに騒がしいのも悪いと、お見舞いに来るのも気を使ってくれているのだろうが、ジェイはやっぱりジェイであり、お構いなしのようだ。

 丁度ロイの点滴が外され、お昼はお粥でも食べようかと話しをしていた時だったので、ロイも身体を起こしてベッドにもたれかかっていた。それにしても、ロイはよく考えたら、脅威の回復力である。


「ロイロイ、お前、チェリーのキスで目覚めたとかおとぎ話のお姫様かよ」

 どこから聞いてきたのか、私達の感動の秘話にケチをつけやたのはやっぱりこいつだった、チャラサングラスめ。

 だが、今回ジェイには本当に助けられた。ジェイがいてくれなかったら、私は色々と間違いを犯しまくっていたに違いない。そして問題はもっと重大になっていただろう。

「……(どうせなら起きてる時にしてほしかった……)」

「ん? なんだって?」

『どうせなら起きてる時にしてほしかった、やて! ッキャハァ! アオハルですなぁ~ロイ坊! 甘酸っぱいわぁ~!』

 ここにも空気を読まない奴がいた。

 しかし、今回ドラガードには本当に本当に感謝している。だがしかし、そもそもがあの時、ドラガードが私を護ってくれれば良かった話しなのでは? という事を、私は空気を読んで黙っておく。

「起きてる時にしてほしかった? キスを?」

 可愛い事を言うロイに、私は再現するように唇にチュッと口付けた。

「っはい、これでいい? あの時はもっとチュッチュチュッチュしたんだけどねっ伝次郎にするみたいに」

 まさか唇にキスをされていたとは思っていなかったのか、ロイは顔を赤くしてフリーズしてしまった。
 可愛い……。

「おいロイロイ~、照れてんのか? でも、デンジロウと同じだってよっ残念だったな!」

 ジェイがロイをからった、次の瞬間……。

「っん?! ……んっんっ!? ……っん……」

 ロイの力無い腕が私に伸びてきたかと思えば、ロイの唇が私に重ねられ、それはそれはビックリな官能的な口付けをお返しされたのだった。

「……んっぁ……ロ……イっ……」

「っストップストップ! おいっ夫の前だっての! チェリーも、何感じてトロンとしてんだよっ」

(あ、いっけね……)

 それより、ジェイに止められなかったら、ヤバかった。ロイのベッドに乗っかる所だったぜ。危ない危ない……。
 なんて末恐ろしいキステクを隠し持っているんだロイめ……アヤツは危険だ。

 ……ムラムラしてしまったじゃないか……。

 つい先日ドラガードに、愛し子は遺伝子レベルでエロいのだと言う事を教えてもらったのだが、私はそれを聞いて妙に納得した。
 そうだったのか、遺伝だったのか、ならすぐにエロい事したくなるのはしょうがない事なんだね、と、今では開き直る事にしている。

 その話しを聞いた夫達も、なんだか嬉しそうにしていたし、良しとしよう。

 何れにせよ、今夜はアルさんに抱いてもらわねば……いや、夜まで待てないかもしれない……。



 私が一人悶々としている横では、キスに対してご馳走様でした、とでも言いたそうなほどにいい笑顔のロイがいた。

 君のその笑顔で私は胸がいっぱいだよ、いつの間にか大人になっちゃってさ……。


 ○○●●


 コン・コココン・コン

「アルさん……? 今いい?」

「サクラ、どうした? ロイの所にジェイが来ていたようだな」

 アルさんは今日も机の端に積まれた決裁書類に目を通している。私はあの書類の山が減った所を見たことがない。裁いても裁いても、ジョエル&ロマーノさんが次々に積んでいくのである。書類のわんこそば状態なのだ。

「……うん、ジェイが騒いでロイが疲れちゃうからすぐに帰らせてロイも休ませてきた」

「そうか、ならサクラも少しここで休むといい、甘い物でも持ってこさせるか?」

「……んーんっいらない」

 私はアルさんの大きな執務机をぐるりと回り込み、アルさんの座る場所までたどり着くと、もじもじと目の前で立ち止まった。
 そんな挙動不審な私に、アルさんは椅子をひき、座ったまま私の方を向くと、優しい表情でこちらを見ている。

(……アルさんには私の考えなんてお見通しかも)

「おいで、サクラ」

 アルさんは両手で私を引き寄せ、ギュッと抱きしめてくれたので、私もアルさんの滑らかな黒髪をそっと撫で、ムギュっと抱きしめた。

「アルさん、私、自首します……先ほど、目覚めた時の再現でロイにチュッってキスしたら、ロイが照れて、それをジェイがからかったことにより、ムキになったロイは私に本気のキスをしました……それでですね、わたくしめは……」

「……サクラ」

 アルさんはわかってる、と言うかのように自身の唇を私の唇に重ね、その口を塞ぐようにして私の話しを遮る。

「っん……っ……ん……アルさんっ……」

 アルさんの舌が私の舌を激しく絡めとり、執務室には甘い吐息だけが聞こえている。

 ジョエルさんやロマーノさんが入って来ないか心配だったが、アルさんが屋敷の全部屋の鍵なのだということ思い出した。きっと遠隔操作で施錠してくれているだろう。


「サクラ……知ってるか? 我々夫達はな、4人全員が自分が一番サクラに愛されていると思っているんだ……凄い事だと思わないか?」

「……んっふぁ……そ、そなの?」

 激しい口付けに息も絶え絶えになる中、アルさんが私の心のわだかまりを優しくほぐそうとしてくれている。

「つまりだな、今後サクラが新たに誰かを好きになろうと、我々に悪いと思う必要はない、今まで通り、サクラがサクラらしくいてくれればそれで十分……きっと夫達は皆んな同じ気持ちだ、きっとサクラは4人だろうが5人だろうが、今のように平等に愛してくれるはずだからな」

 ……この人はどうしていつも私の心を軽くする言葉をくれるのだろうか……アルさんは絶対に、私よりも私の事を知っていて、いつも一歩も二歩も先をよんで最善を与えてくれている。
 愛さずにはいられない、私の大事な大事な旦那様。

 というか、もしかしてこの世界は愛し子にとっての人生イージーモードな世界……つまり愛し子がヒロインの18禁乙女ゲームの世界とかなのではなかろうか……乙女ゲーム、やっておくんだった……。


「……っアルさん……好きっ、私アルさんが大好きっ! 私、アルさんと結婚出来て幸せだよっアルさんがいない世界では生きていけないくらい、私にはアルさんが必要っ! 私、アルさん中毒、アル中だよ」

「……」

 私はこれでもかというほどにアルさんを抱きしめた。


 私の胸がアルさんの顔を押しつぶしてしまい、苦しかったのか、ポンポンと背中を撫でられ、少しチカラを緩めれば、アルさんはおもむろに机の上の書類をバサッと端によせ立ち上がると、私を抱き上げ執務机の上に乗せた。

 そして向かい合いゆっくりと私の胸元をはだけさせながら、チクリチクリと首すじから下へといくつも印を残していく。
 アルさんはどうせすぐに魔法で消してしまうのだが、時折こうして花びらを散らすように私の身体に印を残すのだ。

 大きく温かな手のひらで私の胸は優しく包み込まれ、やんわりともみほぐされる。しっとりとしたアルさんの唇が胸の先を口に含み、舌先で転がすようにそれを味わっていた。

「っんぁ……っ……」

 アルさんは私の両脚を膝をおり持ち上げると、そのまま机の上で左右に開く。乱れたワンピースのスカートを腰上までたくし上げ、下着をぽいっと引き抜くと、そこに顔をうずめ舌を這わしていった。

「っふぁ……っん……っあ、っダメそれっ……っやっあぁっ」

 舌先が突起を這う刺激と蜜が溢れている私の中を出入りするアルさんの指からの刺激とが合わさり、それがしばらく続けば、私はあっけなく達してしまう。

 ビクンビクンと身体全体がはじけるような感覚の直後、少し脱力しているとアルさんは自身の前をくつろげ、大きくなっているソレを取り出した。
 そしてそのまま蜜があふれる私のソコに当て、ぬるぬると滑らせながら潤わせていく。
 そんなわずかな刺激さえも、今の私にはたまらなく気持ちがいい。

「アルさん、もう中っ中に欲しい……っ」

「ああ」

 待ち望んだアルさんの大きく硬いソレが、私の入り口からすべるようにして中へ、そして奥へと入ってきた。

「っあぁ……っんぁあっ……そこ、奥、気持ちぃっ……んっ」

 アルさんは机の上に座る私の腰を抱き寄せ、より奥を突こうとしてくれている。強請らずとも気持ちよくしてくれるので、今日は意地悪焦らしdayではなく、たっぷり甘やかしdayのようだ。

 抽挿はどんどん激しさを増していき、私は揺れる自分の身体を支えきれずにアルさんにしがみつく。

 アルさんの耳元で小さく遠慮がちに喘ぎながら、ほんの少し耳を舐めてかじると、アルさんの何かにヒットしたのか、思いがけず果ててしまったようだ。

「っ! サクラ、今のは反則だっ……くっ」
「っあ……っんあっ」

 ピクンピクンと私の中でアルさんのモノが出されているその刺激で、私も再び達してしまう。

 そういえば、こうしてアルさんと寝室のベッド以外の場所で肌を重ねるのは結構久しぶりかもしれない。以前はよく所かまわずヤッていたのだが、それもめっきり減った。

「……すまない、もう少し保つと思ったんだが……満足できたか? なんならまだできるぞ」

 やはりアルさんは私が抱かれたくてアルさんに会いに来たと察してくれていたようである。やだ、恥ずかしい。

「……大満足でございました……お仕事中にごめんなさいアルさん……ついでに、夜まで待てないど淫乱妻でごめんなさい……」

「私の前でなら大歓迎だ、いつでも来てくれ」

 一体、私達夫婦は何の会話をしているのだろうか……でも、なんだか私達らしい。

「っあはっ! アルさん、なんか私達ってば変な会話っあはははっ!」

「……」

 アルさんは笑う私の目元をそっと指先でなぞる。

「やはり笑っているサクラを見るのが一番嬉しい、心が満たされる」

 アルさんはデススマイルを私に向けた。
 その笑顔を見たら、死ぬ、と噂のアルさんのとびきりの笑顔である。私が一人で命名したので噂にはなっていないが。

「私も! アルさんの笑顔が大好きっ! 私以外には見せたら駄目だけど(死人がでちゃうからね)」

 こうして、アルさんとの仲が深まる昼下りの情事となった。


 ○○●●


 ロイが目覚めてから10日程が過ぎたある日。

 今日も今日とて私はロイのベッドの横で魔導書を翻訳し、たまに訳した古代魔法をロイと一緒に試したりして、ここ数日のいつものように遊んでいた昼下がり。

 そこに、アルさんとスヴェンコーチが現れる。

「……サクラ、クラウスがドランティスに戻ったそうだ」

「本当っ!? クラウスさん戻ってこれたの?! あ! クイーンをお風呂に入れなきゃっ! ロイっ、じゃ、またね!」

 慌てて伝次郎のハーレムに向かった私は、すぐさまクイーンを攫いシャンプーをした。
 そしてドライヤー魔法で乾かし、ふかふかの美人わんこになったクイーンを連れてアルさんと一緒にドランティスのサイモンと合流し、クラウスさんと対面するとの話しだったのだが……。

 案内されたのは厳かな感じの謁見の間のような場所。
 サイモンは2、3段高い位置にある豪華な椅子に座り、低い位置で片膝をつき礼をとるクラウスさんを見下ろしている。

(え、ここって謁見の間とかいうやつ……サイモン偉そうだな……まぁでも一応偉いのか)

 という私も、ドランティス大公妃としてサイモンの隣の椅子に場違い極まりない感じで座らせられていた。

 どうやら今回、クラウスさんは帝国からの特派大使として遣わされたらしいのだ。つまり、いつもの内輪な感じではなく、公式訪問だという事。

 クラウスさんがなにかの書状を読み上げているが、なんだか難しい遠回しな言葉を使っていたので私が首をかしげると、すかさず隣にいたアンヘルさんが通訳をしてくれる。
 ちなみにアンヘルさんはダッヂ族の中でもトップ3人に入るイケメンで(私調べでね)、大人な感じの物腰柔らかな超紳士である。

 話が逸れたが、要するに、帝国はドランティスに公式に謝罪してきた、という事らしい。
 何についての謝罪かと言えば、ドランティス大公妃殺害未遂について。
 ロイの殺害(未遂)についての謝罪ではなかった。クラウスさんが説明したかしなかったかはわからないが、私をかばった護衛が瀕死の状態だとは伝えてくれただろう。
 ロイは普通であれば本当に死んでしまっていたので、もはや未遂ではない、殺害といってもいいくらいだ。ドラガードという万能の存在がいなければ、今頃帝国の皇帝は私の手によって炭になっていたことだろう。

 そもそも、ドランティス大公妃である私がドラリトア竜王国のランドラー公爵の妻である事は有名な話しであるようなので知っているはずなのだが、あえて帝国はランドラー公爵夫人の殺害未遂ではなく、ドランティス大公妃殺害未遂という肩書の方を選択したらしい。

 まぁ、場所がドランティスだったしね、リリアンナ嬢もドランティスに捕まってるしね。それはいいとしよう。帝国も、ランドラー公爵夫人殺害未遂なんてことを認めれば、アルさんからの恐ろしい報復があるかもしれない事を恐れているのだろう。私は一人しかいないので、同じことなんだけどね。

 それにしても、まさか帝国が謝罪してくるとは思わなかった。

 私はてっきり、リリアンナ嬢の終身刑ともいえる海底牢獄ヘの即日投獄というドランティス側の有無を言わさない暴挙に、これ幸いにとばかりに攻め込んでくるか、やった事を棚にあげて引き渡しを要求してくるかを予想していた。

 何か心境の変化でもあったのだろうか。

 私の抱いた疑問の答えは、クラウスさんが書状を読み上げる事でもたらしてくれたのだった。

「我々ドラバント帝国は、この度のドランティス大公妃殺害未遂における全責任は帝国側にあるものとし、リリアンナ・ダルク・ミュラーの命を持って償うこととする、ドランティス公国の法の元に、裁きを……」

「ちょっと!」

 なんだそれは、帝国はリリアンナ嬢を死刑にしていいから今回の事は大目に見てね、と言っているようだ。

「話しを遮ってすみませんっ! でも、そんな話しは到底納得出来ない!」

 リリアンナ嬢だって、赤の他人である私を初対面で『あ、コイツ殺そう』なんて思わないはず。
 帝国がアルさんを狙っていてそれで何故か私を狙っていたからこそ、リリアンナ嬢は国の為に私を刺そうとしたのだ。
 国の為に動いた人間をこうも簡単に切り捨てるなんて、本当にクソ野郎だな皇帝! 自分の右腕の娘だろう!

「ミーナ、最後まできけ、この場では感情的になっては駄目だ」
「……はい」

 サイモンに諌められた。

 リリアンナ嬢が正しいとは1ミリも思ってはいないが、それとこれとは別の話だ。

 クラウスさんの読み上げた帝国の書状の内容はそれだけで、あとは詫びの品を読み上げただけ。詫びの品とか用意するの早すぎだろう。往復の日時を考えても早すぎる。

 そして、サイモンはクラウスさんに対して、検討し回答する、としてその場は締めくくられた。






「サイモン、それでどうすんの?」

 謁見後の別室には、私達夫婦5人とクラウスさん、アンヘルさんが集まり、話し合いが行われた。

「ドランティスの法律で裁くとなれば、終身刑だろうな」

「それはわかってるよ、でもさこのままだと第2、第3のリリアンナ嬢が現れるだけじゃない? リリアンナ嬢はあと一歩だったわけだし……私このまま命狙われ続けるの?」

「普通に考えればそうなるよな……」

 その度に本人の命をもって償われたら、海底牢獄が定員オーバーになってしまう。それに、私も命を狙われたままでは困る。

「すまない、私事だがいいだろうか……私はこの特使の使命を最後に、爵位を返上し正式に帝国と縁を切ろうと思う、父上も兄上も私の再三の説得にも聞く耳を持ってはくれなかった……あのような国に尽くすことなど到底できない……ゆえに、どんな対応をとるにしても私の存在は気にしないで欲しい」

 その場にいたほとんどが、うん、それがいいとおもうよ、という表情をしている。
 でもアルさんだけは少し眉間にしわを寄せていた。きっと、祖国を見限ることはアルさんにとって本当に最終手段なのだろう。もしかするとアルさんは、クラウスさんが皇帝になればいいとでも考えているのかもしれない。

 でもクラウスさんには研究という自身の熱い情熱を注げるものがある。今更皇帝になれというのは少し酷だと私は思ってしまう。

「クラウスさん……でも、スフィア皇女達はいいの?」

 犬ほどではないが、若干シスコン気味でもあるクラウスさんにとっては、そんな国にスフィア皇女を残してくるのはさぞかし心配だろう。

「国と縁を切ったところで兄妹の縁が切れるわけではないさ……同じように父上や兄上と親兄弟の縁が切れるわけではない、なにかあれば私が責任を取らねばならないということも分かっている」

 ごもっとも、私が心配する必要はなかったようである。

「クラウスさん、貴方は好きにするといい、ここで研究を続けてくれるというのならば大歓迎だし、何なら爵位もさしあげますよ」
「感謝する、ドランティス大公殿」

 サイモンも後押しすることを約束し、いい感じに話がまとまったようだ。


 そして、ここで口を開いたのはジェイだった。

 どうやらジェイは、他国民であるにも関わらず、しれっとリリアンナ嬢の尋問を任されていたようだ、尋問と言ってもほぼ一方的にジェイがリリアンナ嬢の頭の中から情報を抜き取っただけに過ぎないが、一番確かな情報が得られ、効率がいい。

 しかし、驚くことにリリアンナ嬢は騎士団長であったにも関わらず、彼女からは重要な情報がほとんど得られなかったという。ジェイやロイが探りを入れて得られた情報程度だったそうだ。

「つまり、精霊がどんな風に関わっているのか、皇帝が何を企んでいるのか、ってのは騎士団長にも秘密ってことらしいな」

「……そんなっ自分のすることで国がよくなると思ってたから、人の命を奪おうとしてたわけじゃないってこと? 帝国の人たちは、目的も知らされずにただ指示されたってだけで人の命を狙ってるの?」


 っと、ここで……。

「精霊? とは?」

 クラウスさんは、帝国に手を貸している精霊の存在をまったく把握していなかったようなので、アルさんとアイコンタクトをとりながら私の愛し子の件は伏せた上で、ルカの件も含めて簡単に今回の一連の話を説明した。

「ならばあのルカという子供は、ルカ本人・・だったのか?!」

 どうやらクラウスさんは、ルカを帝国にいたルカと同じ名前の似ている子だと思っていたようで、あまりにも似ているので懐かしさを感じ、すぐに仲良くなったのだという話だった……鈍感すぎだろクラウスさんよ。

 クラウスさんはすんなりと話を理解してくれたので、先ほどの話を続けることに。

「今の精霊の話なども踏まえて先ほどのウィリーの話に戻るが、残念ながら帝国はそういう国でね、独裁国家なんだ……」

 クラウスさんが何とも言えない表情と声で呟く。

 アンビリーバボー……まるでミサイル発射しまくっている独裁政権のあの国みたいではないか……この世界にもそんな物騒な国が存在していたのか……竜神、しっかり見張っておけよ……。

「サイモン、どう回答するつもりだ? クラウスがこのまま返事を持って帰るのだろう?」

 アルさんがサイモンに一国の主としてどんな決断を下すのかを確認するが、サイモンは考え込んでいるようだ。

「ねぇアルさん、クラウスさん、そんなにすぐに回答しないと駄目なの? 今後ドランティスが帝国にナメられないためにも、しっかりした答えを出さなきゃなんでしょ?」

 それくらいは、ど素人の私にもわかる。

 ドランティスと帝国はこれまで一切の国交がなかったわけで、つまり、初めての公式なやり取りが、今回のこの帝国からの謝罪なのだ。
 すんなりこの謝罪を受け入れて帝国の言いなりになれば、帝国はドランティスを、むしろサイモンを、チョロい奴認定するだろう。

 なので、感情論を抜きにしても、一応のこの国の大公妃として、今回はなんとしてでも帝国よりも上に立ちたいところである。独裁国家にナメられたら、いつ何を仕掛けられるかわかったもんじゃない。

 だがしかし……それならばドランティスは帝国に何を要求すればいいのだろうか……リリアンナ嬢の命は正直いらない。

 今すぐ精霊との悪巧みを止めろ? とか? 止めないよねきっと。

 私が悶々としていると、ホアキンさんが伝言を伝えに部屋にやって来た。どうやら、またまた帝国からの来客らしい。
 その人物の名前を聞いたクラウスさんはものすごく驚いていたので、来ることを知らなかったのだろう。

 その人物とは……。
 
 
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