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第二章 異世界転移の意味

54 妻のカン

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 ドラガードの話しを聞いてから一時頭がぐちゃぐちゃになってしまったが、ジェイファオのおかげで少し前向きになる事ができた私は、それからしばらく元気いっぱいのいつもの平和な日常を送っていた。

 少し今までと違うのは、避妊魔法をやめたこと。
 生理はまだ復活しないが、マッサンに頼んで基礎体温計のようなものをゲットし、毎朝口に咥えて記録を続けた。


 そしてそれは突然おとずれた。
 
 アルさんと一緒に眠った翌朝、ベッドでアルさんを背にした体勢で眠っていた私は、ある違和感を感じ目を覚ます。
 何も身に着けていない私の腹部には、同様に何も身につけていない素肌のアルさんの温かな腕が回されている。
 
(……お腹痛い)
 
(痛い……痛すぎないか?)

「……っ! ……うぅ……。」
 
「……どうしたサクラ?」
 
(痛い、痛い……痛いよぉ……)
 
「サクラどうした、腹が痛むのか?」
 
 心配そうに上体を起こし私の顔を覗き込むアルさん。
 私は腹部に回されていた温かなアルさんの手が外され、余計にお腹が痛くなる。
 
「サクラ……?」

 アルさんは私のお腹に手をあて、何か魔法を発動しているようだが、治癒も回復も効かないだろう。
 
「アルしゃん……セリアさんを呼んできて……あと、マッサンに『ロキソニン』か『バファリン』か『イブ』を下さいって伝えて……」
 
「ロキソ……バファ……イブ……言えばわかるんだな、よし任せてくれっ」

 
 
 
 そう、私は何年かぶりに生理ちゃんが来たのだ。

 この独特な痛みは間違いないだろう、生理痛は無い方だったのだが、久しぶりだったせいか痛みがひどい。
 
 
 アルさんは光の速さでセリアさんを連れてきてくれて、すぐにマッサンの所にも行ってくれたようだ。
 
 ひとまずノーパン状態だった私は、セリアさんのテキパキとした措置のおかげでホカホカパンツに布ナプキンを装着することができた。これで一安心。ベッドに血がつかなくてよかった。
 
「ウィーちゃん大丈夫? あの品名だと解熱の方? 痛みの方? 一応どっちも持ってきたけど」 
 
 マッサンも駆けつけてくれた、というか、アルさんが心配しすぎて無理矢理連れてきてくれたようだ。 
 
「マッサンごめんね、わざわざ来てくれてありがとう……生理痛の薬が欲しかったの」
 
 マッサンは、あぁそっちねじゃぁこれかな、と言って飲み薬をくれたのだが……げ、粉だ。
 
「アドウェール君がすごく慌ててるからとりあえず二回分しか持ってこれなかったよ、また後で誰かに取りに来てもらってね、アドウェール君、ウィーちゃんは病気じゃないからそんなに心配いらないよ、身体冷やさないように温かくして穏やかに過ごさせてあげてね」 
 
「わかった、トヨタ氏、感謝する」
「マッサン、私も感謝する、ありがちょ」
 
「いつでも呼んで、お大事にねウィーちゃん」
 
 マッサンは、いつの間にか現れたスヴェンと一緒にドランティスの研究所へ戻って行った、頼りになるぜ、異世界人。
 
 
 
 
 部屋に残るは私とアルさんのみ。
 
「サクラ寒くはないか? トヨタ氏は温かくしろと言っていたが何かいるか?」
 
「うん寒くない……アルさん時間あるならこっち来てお腹さすって?」
 
 アルさんはベッドの上の私の隣で横になり、魔法で温めたのかポカポカの手で私のお腹をさすってくれ、その優しい温もりに私の心は落ち着く。
 
 次第に薬が効いてきたのか、私はいつの間にか眠ってしまっていた。
 
 
 
 しかし……1、2時間後にはすぐに痛みで目が覚めてしまう。

「アルさん……ずっと側にいてくれたの? 仕事大丈夫?」

 目を覚ませば書類片手に私のお腹に手をおいてくれているアルさんの横顔があった。

「大丈夫、そんな事は心配しなくていい……私がサクラの側にいたいだけだ」

 ああ、アルさんは本当に私を大切に思ってくれている。
 私はお腹に置かれたアルさんの手をとり、そっと自分の口元へ引き寄せチュッと軽く口付けた。

「……どうせならコチラにしてほしいな」

 アルさん私の口元に自分の頬を近づける。

「っふふ……」

 私はご希望どうり、アルさんの頬にチュッと口付けたが、アルさんの頬はひんやりとしている。手は温かいから気にしていなかった。

「アルさん寒くないの? 大丈夫? お布団入って」

「大丈夫だ、サクラの隣で横になると私まで眠ってしまいそうだからな……サクラ、薬がきれたんだろう? 痛みを我慢するな、トヨタ氏は4時間も空ければ追加で飲んでもいいと言っていたぞ、薬を飲むか?」

「……うん、飲む……アルさんは何でもわかるんだね」

 アルさんは、私の薬がきれて痛みを我慢している事にすぐに気づいてくれたようだ。

「痛みを我慢している事くらいなら、表情を見ればすぐにわかる……サクラの事は全て知っていたいが、まだまだだ……三ヶ月前もサクラを傷つけてしまったしな」

 三ヶ月前というと、あれか……ドラガードの話しを聞いた日の事だろう。あれからなんとなく、誰もその話しは出さなかった。

「……あれ……ビックリしたよね、あの時は私も自分の事しか考えてなくて、アルさんには知らない男の子供なんて駄目だって、いつかの水の竜みたいに言ってほしかったなっなんて思ったけど……でも、あれから考えたんだ私……」

 愛し子を最初にしないと、他の竜の子が危険にさらされるっていう事は、自分と大好きな夫達との子供が危険にさらされるって事だ。愛し子の父親が誰かはわからないけども、もちろん愛し子だって自分の子供なら可愛いし大事なはず……。

 つまり……何かあった時に後悔するのは私だ。そして、愛し子を最初に産まなかった自分の甘えた考えを後悔して責めて、面倒くさい女になる気がする。

「アルさん……ドラガードの言うとおり、私……愛し子を最初に産んだほうがいいのかも……」

「っ……なぜ、そんな事を?」

 私はアルさんの手を自分の頬にあてて、目を閉じる。

「私はさ、自分が愛し子とか知らなかったし魔法とか何にもない世界で育ったから大丈夫だったのかもしれないけど、この世界は違うもん……ファンタジーに溢れてるから……何が起きるかわからないじゃん……」

「……」

「でもねアルさん……私、アルさんが私になんか隠してる事は、わかってるの……それのせいなのか子供をあんまり急いでないって事も」

「っ!? 違う、サクラそれはっ!」

「っ待って、最後まで言わせてっ眠くなってきちゃうからっ」

 アルさんは私が誘拐されてから、何かを隠してる。最初は、護衛がいらないと言ったのにも関わらず、再びの誘拐が心配で私には内緒で忍者をつけているのだろうと思っていたが、なんだか最近、忍者のレベルが上がっているのだ。

 本当に何かから私を守りたいとしているような、何かを警戒しているような感じがする。

「私ねこの世界に来て、アルさんとサイモンの恋人になってね、初めて自分で自分の事を大事にしなきゃって思ったんだ……それまでは、自分に何かあっても自分の責任だし別にどうなってもいいやって考えだったのに……」

 よく考えれば、その前からも私に何かあれば心配したり悲しんだりしてくれる人はいたはずなのだけど、そんな事考えもしていなかった、地球では平和ボケしていたのだ。

「それに今は、私に何かあれば、私本人よりも怒ってくれて、心配してくれて、心を痛めてくる人達が沢山いるから……だから、私が何かに後悔したり傷ついたりすると私の大事な旦那様達まで苦しむ事になっちゃうのかなって……」

 逆に私を心配しすぎる二人とジェイファオが心配なくらいだ。

「……だからね、ジェイの言うとおりドラガードの言いなりになるのは面白くないけど、ドラガードはあんな奴でも愛し子の守護竜でしょ? 愛し子を不幸な道には導かないような気がするんだよね……」

「……」

「私の笑顔を守るって言ってくれたアルさん達のためにも、私は笑顔でいなきゃっ……今は生理でお腹痛いから笑えないけど……なんだっけ……それで……眠いや……寝る……」

「っ……サクラっ」

「……今はゆっくり休め……私は、サクラを籠の中の鳥にはしたくないんだ……すまない、目が覚めたらきちんと話すよ……私の愛するサクラ……」

 私は話している途中で眠ってしまい、アルさんが私の額に口付けた事にも気づかなかった。


 ○○●●

 
 生理痛は1日目がきついとよく言うが、2日目になってもなかなか痛みは治まらず、薬もあまり効かなくなっていたが、3日目の今日は嘘のように痛みはひいて、あとは貧血気味なくらいである。ちょこっと昔より出血量が多いのだ。
 もしかして、子宮内膜症や筋腫でも出来たのかもしれない……ちょっと心配である。この世界には内診とかエコーとかあるのだろうか?

 あ、でも筋腫や内膜症なら魔法でどうにかなるかもしれないな。神力もあるしね。身体の中の悪い虫はアルさんとジェイファオに退治してもらおう。

 そんなわけで今日もアルさんとのベッドにいる私。

「サクラ、今日も辛そうだな、顔色があまり良くない」

「うん、辛い……辛いよアルさんっ! だから、いつもの1.5倍甘やかして!」

 私はアルさんの腰にしがみつく。

「ククっ……冗談が言えるくらいには元気になったみたいだな」

 え、アルさんや……冗談じゃないよ、本気も本気、生理中ってすごく誰かに甘えたくなるし甘い物が食べたくなるの。



「サクラ、私がサクラに何かを隠していると言っていただろ?」

「……うん、妻のカンよっ」

「……ククっ私の妻はカンがいいな、今から白状してもいいか?」

「……え……そんなあっさり? 妻に言えない秘密の一つくらい許容できる良き妻を目指してるから、無理に話さなくて大丈夫よ、アナタっ」

 私が寝る前に話した事でアルさんが白状する気になってしまったようである。そんなつもりで言ったわけではなかったのだが……

「ククっ……サクラ、違うんだ、私もサクラに隠すべきではないと判断した、サイモン達も呼んであるから部屋に入れてもいいか?」

「私の旦那様ぁズもいるの? うん、別にいいよ」




「ミーナ、大丈夫か? 顔青いぞ……」
「チェリー、大丈夫か? 俺達に言えば痛みの元から消してやったのに」
「いや、ジェイ、チェリーには俺達のチカラが効かないんだから、それは難しいかもしれないぞ」
「でもファオ、チェリーが受け入れるなら、その時はチカラも有効になるって水の竜が言ってたじゃん」
「……そうか、あの話しはそういう事か、試してみる価値はあるな」

「……」

「……皆んな、それぞれが喋ると私が返事をするタイミングが難しい……ご心配おかけしました、今はだいぶ良くなったよ」

 なんだか、こうやってベッドの上からずらりと並ぶ旦那様達を見ると、ドラガードじゃないけど違う意味で圧巻である。

 イケメン、イケメン、イケメン、イケメン、一つもとばずにイケメン、なのだ。
 デレっ……私ってばヤバい、逆ハーレム。



「それで? チェリーが危篤じゃないとすると、アルさんの招集は他になんかあったのか?」

 ジェイ、冗談きついぜ。私はまだ死なんぞ。逆ハーレム楽しまずして死ねるかってんだ。

「サクラ含め夫達全員に知っておいてもらいたい事があるんだが……その前に会わせたい奴がいる……入って来い」

「……御意」

「「っ!?」」
「「……?」」





 その人物の声に、その姿に、私は思わずベッドから飛び出し、一目散に駆け寄り抱きしめた。
 ジェイファオは私のその行動に驚いているかもしれない。
 アルさんとサイモンは、やれやれ、といった表情をしているだろう。
 
「……っ!」
「っ?!」

 伸びた背、逞しくなった体躯、低くなった声、それでも私にはわかる。

 黒髪にゴールドの瞳……ロイ少年だ。

「っ……おかえりっ! おかえりっロイ少年っ!」
「……奥様」

 私はもう離さないとばかりに、ロイ少年をギュゥッと抱きしめる。ロイ少年も、少しの躊躇を感じられたが、初めて私を力強く抱きしめ返した。

 私の護衛……忍者はもういらない、私はロイ少年しかいらない。


「おいおい……夫達の前でずいぶんだなチェリーちゃんっ……妬いちゃうぜ、そいつが例の元護衛のロイか?」

「「……」」

「……あれ? 俺の声って聞こてない? なぁファオ?」

「まぁまぁジェイ、約一年ぶりの再会だ……黙って見ててやれよ」

「でもよ、サイモンっ」
「ジェイ、黙って見ててやろう……チェリーのあの顔を見ればわかるだろ……大事な奴が戻って来て、嬉しそうだ」

『ほら言うたやろ、愛し子はんはロイ坊の事想っとるって! キッスでもしてやりなはれ!』

「「「「ドラガード!」」」」

 胡散臭い関西弁が聞こてきた。そうか、ドラガードはロイ少年にくっついてたから、一緒に戻ってきたのか。
 ドラガードはロイ少年の頭の上に着地して、羽を閉じる。


「サクラとロイの仲直りが済んだようなので話しを始めるが……」

「いやいやいやアルさん! 俺達に会わせたい奴の紹介をしてないよ!」

「ああ、そうだなジェイとファオは初対面か……」

「いいえ、誘拐された奥様がお戻りになられたあの日に、ドランティス城で顔を合わせています」

 身長が一気に伸びたらしいロイ少年は、私の肩にそっと手を添え身体を離すと、パッと魔法を発動したらしく、私は再びベッドの中だった。

「あ! 思い出したっ! 俺達の事をめちゃくちゃ警戒してたあの時のガキか! 偉く成長したなっ!」

「ロイ・ウェイン・オハラウッド改め、ロイ・ウェイン・ドラニェッリとなりました、以後お見知り置き下さい」

「「ドラニェッリって!?」」

「アルさん! どういう事?! ロイ少年を誰かの養子にでもしたの?!」

 私とサイモンはその名前に驚き声がシンクロする。しかしドラニェッリ? 言いにくな。

「そうだ、ドラニェッリは私の兄、ドラニェッリ公爵家だ、ロイは兄の養子に迎えてもらった」

 公爵家……つまりアルさんと同じ公爵家……あの、竜になれないけど筋肉ムキムキで人間なのに竜みたいなお兄様の養子……

 お兄様、良かったのか……結婚もまだじゃなかっただろうか。

「だが、ロイが実際にドラニェッリ公爵家に入る事はない、兄の養子とはなったが、これまで通り私が預かる事になっている、ロイの家は今日からこの屋敷だ、そして、今日からサクラの護衛として復帰してもらう」

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 そうか、ドラリトアの公爵家の名は印籠みたいなものなのか。これが目に入らんかっ! ってやつね。
 だがしかしっ!

「……ま、待ってアルさん! ロイ少年はそれでいいの?! 護衛を辞めたのにも理由があるんじゃ……なのに……っアルさん! 勝手に養子縁組なんかしてっ! また無理矢理ロイ少年に私の護衛を命じたの?!」

 嬉しいけど、すごく嬉しいけど、アルさんが命じたのならロイ少年は断れないはずだ、本当はどう思っているかわからない。一年前、私の護衛を外れた理由が、私の事がウザくなったからかもしれないし、私の護衛が面倒で嫌になったからかもしれない。

「奥様……図々しくも、私がボスに願い出ました、再度、奥様をお護りさせて頂きたい、と」

「……へ?」

「そうなんだサクラ、ロイはある情報と共に数日前に戻ってきていてな……相談もせずに悪かった」

「そ、そなの? なら、本当に私の護衛として戻って来てくれるの?」

「はい、どの面下げてと罵られる覚悟は出来ております」

 ロイ少年は私のベッドのすぐ横の床に跪き、頭を下げている。

 本当に……いいのかな……?
 私はアルさんをチラ見する。

 アルさんは優しい表情でコクリと頷いてくれる。

「……コホン、ロイ少年……いや、もう君は少年ではない、もう可愛くないから、ロイだな! いい面構になったじゃないか、しっかり私を護ってくれたまえよ」

「……御意」

 私はロイを手招きする。

 立ち上がり私に近寄るロイは、やっぱり背が高くなり男らしい顔つきになっていた。魔法に頼ってばかりでひょろっとしていたのに、どういうわけかアルさんみたいに美しいしなやかそうな筋肉までついている。

 私は腕をのばし、再びロイを抱き寄せた。

「おかえりロイっ……戻ってきてくれてありがとう……もうどこにも行かないでね……私の護衛はロイだけ」

「……御意」

 私の心にぽっかりと空いた穴が埋まったよう気がした。




「あっれれー! ロイロイの頬がぽぽぽって色づいてるー!」

 ジェイめ……水をさすんだから。でも、ロイロイって可愛い呼び方だな。

「……ジェイ様、私はドラガードから対神力の訓練を受けました、私には貴方達の特殊能力は効きませんよ」

「「なんだとっ!? やっぱりそうか!」」

 ……試してたんかい。



「よし、本題に入るがいいか?」

 あ、そうだった。アルさんの白状が残ってたんだった。

 私達は皆んなでアルさんとロイの話しを真面目に聞く体制をとる。

「帝国が一方的に我がドラリトアを敵視している事は以前のドラクロアへの特使の一件で知っていると思うが……帝国は私をどうにかすればドラリトアが崩れると勘違いしていてな……そんなワケはないのだが、全く困った奴らなんだ……」

 いやいやいや……アルさんがいなくなったら、崩れる一歩手前くらいまでいくんじゃないかな? 
 SBDSだっけ? いつだったかスヴェンから聞いたけど、アルさん直属部隊とか持ってるんでしょ? 私、ビックリしたよ、ブラックシールズとかさ、ヤバい部隊いっぱいあるみたいだけど、それら全部を取りまとめてるのって、アルさん、貴方ですよね?

「それで今、帝国がサクラを狙って動き出した」

「「「「……」」」」

 何故私……。

「帝国って、ただの人間の集まりの国だろ? 俺達は何を警戒すればいいの? 秒で俺達の圧勝なのに」

 さすが生粋の竜であるジェイ、帝国をただの人間の集まりと言い放つ。いっそ清々しい。

「そうなんだが、帝国は何名か魔力持ちを引き入れ、対魔法戦の訓練や魔法の無効化の研究をしているようなんだ、ロイが調べに入ったらしいが、結界を張れるほどの魔法の使い手がいるそうだ」

 結界を張れるほどの魔法の使い手……つまり、ブラックシールズレベルの魔法使いが帝国側にいるということだ。

「魔法の使い手って事はドラリトアから裏切り者が出てるって事かよ」

「……そうは思いたくないが、そうかもしれん」

 え……どこ調べかわからないけど国民の満足度99パーセントのドラリトアから裏切り者……? そんな事ある?

「何かで脅されてるとか人質取られてるのかも……帝国って血も涙も無い卑怯な奴らだから……」

 ダッヂ族にした事なんかはとてもじゃないが許せない。

「ですが、帝国に張られていた結界がどうも我々の魔法による術式とは全く異なるように見えたのです、なぁ、ドラガード」

『せや、あんな古代魔法使うんは精霊やないかと思うねん、ワイ』

「「精霊?」」

 あんなに小さくて可愛い精霊が帝国の悪事を手伝っていると言うのだろうか……

『精霊にも色々おるんや、イタズラ好きな奴、人を不幸にするのが好きな奴、人の負の感情を好んでチカラを増すような変な奴』

『ちなみにな、精霊が帝国についてるとなると厄介やで……精霊は竜と同じくらい古い奴らや、竜の弱点も知っとる可能性があるやないかと思うんや……』

「「つまり、竜の弱点である愛し子の存在を、か」」

 あら、アルさんとファオがハモった。あの二人は頭いい組だな。ちなみにロイ少年も頷いてるから、頭いい組だ。

「なら、チェリーはドランファリーナにいればいいだろ、でも、そもそもチェリーが愛し子だと帝国は把握してんのか? 俺達ですら最近知ったってのに」

 あれ、ジェイも頭いい組?

「サクラがイコール愛し子だとは思ってはいないかもしれないが、我々からしたら愛し子であろうとなかろうと、サクラを奪われるわけにはいかない」

 奪われても私、今なら自力で戻ってこれるけどね。意識さえあれば。

「ドランファリーナなら水の竜の結界の中だ、それに入出国管理も厳しいからな……いや、むしろしばらくの間制限をかけてもいい、それくらいなら俺達で出来るからな、何なら転移魔法だって弾くようにも出来るぞ」

「ファオの言うとおりだ、私もそれは考えた、だが……」

「つまり、私はドランファリーナから一歩も外に出れないって事?」

「「「「「……」」」」」

 一同無言である。

「ねぇ、イジワル精霊がどんな子かわからないけど、精霊にも王様っていないの?」

 よくあるじゃん、ファンタジー系ラノベでさ、精霊王に好かれて無双するやつ。

『精霊王か? おるで』

「その精霊王に人間を引っ掻き回すのはヤメなさいって、言ってもらえないの?」

『……精霊王はなぁ……属性によるが下手したら面白がって帝国側に付くかもしれへんで』

 ぎゃっ! それはアカン。

「ジェイファオに名前つけてくれた精霊さんは?」

「あれは光の精霊王だ」

 いるんじゃん、精霊王……あれ? なら私とアルさんが呼んだ光の精霊さんはやっぱり下っ端だったのか。

『光の精霊王に会ったんか?!』

「会ったも何も……リュミエールは俺達を育ててくれた親みたいなもんだ」

『リュミエール! そうやそうや!』

 ジェイの言葉に、ドラガードのテンションが上がっています。どうしたのでしょうか。

『光の精霊王は闇と並ぶかなり古参の王や、リュミエールなら話のわかる奴やからワンチャンあるかもしれへんで』

 ドラガードって、ちょいちょい地球の言葉使うのよね、おもろ。

「闇の精霊王は? なんかめっちゃ強そう」

『オプスキュリテはなぁ……まさに闇やからなぁ……リア充嫌いやねん、アイツは面倒な事には手出さん奴やから下手に絡まんほうがええで』

 ……リア充嫌いって、ウケるなドラガード。

「リュミエール、今の話し聞いてたか?」

 ジェイが突然、何もない空間に向かって話しかけた。

(え、怖いんですけどっ。)

『……話しは聞かせてもらいましたが……』

「「えぇ!? いたの?!」」

 私とサイモンいいリアクションするでしょ。アルさんもロイもポーカーフェイスのノーリアクションだからさ。

『あ、はじめまして、私はリュミエールです、光の精霊王やってます、以後お見知り置き下さいね、皆さんの事は知ってますので自己紹介は結構ですよ』

「はじめまして……」

 リュミエール、なかなかに濃いめのキャラである。

『今の話、オプスキュリテに話した方がいいかもですね……あちらの仔精霊が絡んでいる気がします』

 闇の精霊の仔精霊の仕業かもしれないと?

『ワイもそないな気がするんや、せやけどオプスキュリテが動いてくれはるかどうか……』

『おや、ドラガード、久しぶりですね、まだ生きていたのですか』

『生きてたらあかのんかっ! それは置いといてや……オプスキュリテなぁ……』

 なんだかドラガードとリュミエールの漫談が始まりそうだったが、ドラガードがシャッターを閉めてしまった。残念。


「ねぇねぇ、結局の所、私にはロイがいるし大丈夫じゃない? 戦力になるか怪しいけどドラガードもいるし……アルさんは私をドランファリーナに閉じ込めたくないから、だからロイを護衛に戻してくれたんでしょ?」

「……そうだ」

 やっぱりアルさんは私の気持ちを考えてくれていたんだ。

「サイモン、今の所はドランファリーナへの道はドランティスのみだ、最悪の場合はサクラとロイにドランファリーナに待機してもらう事になる、入国時の身元確認を厳しくしていざと言う場合に把握出来るようにしておいてくれ」

 お、アルさんがサイモンにも仕事を振ってくれている。サイモンは先ほどからずっと何か考え込んでいる様子だったので、ちょっとどうしたのかな、と思っていたので良かった。

「わかりました、帝国については伏せてアンヘルとホアキンに話しておきます……アドウェールさん、クラウスさんはどうしますか?」

 あ、サイモンはクラウスさんの心配をしていたのか。いい奴だなサイモン、好き。

「ああ……彼は、母国とやり取りをしているのか?」

「たまに妹さんと母親と手紙のやり取りはしているようですが……今の所、ドランティスからは一度も出ていません、研究に没頭している以外は、デンジロウJr達に会いに行くくらいのものです」

 ……クラウスさん、そんな生活送ってたのね。

「彼が今回の件に絡んでいるかはわからないが、念の為注意しておいてくれ……」

 クラウスさんまで疑わなきゃいけないのか……。
 あ、そう言えば……

「クラウスさんと言えばさ、私意外な組み合わせだなぁって思ったんだけど、ルカと仲良しなんだよね、兄妹みたいにっ」

「「っえ?」」

 何故かアルさんとロイがめっちゃ驚いている。

「……ボスっ」
「ああ……ロイ、スヴェンに言ってルカを見張らせろ」
「御意」

 ロイが光の速さで消えた。

 え? 何、何……? 私、なんか不味い事言った?

「サクラ、ルカは記憶喪失なのだと、ある貴族から紹介されて入団した経緯のある奴なんだ」

 ぎょ……そうなの、記憶喪失って嘘っぽいよね、私とか私とか私とか。
 クラウスさんとルカが知り合いだったとすれば、帝国で会っていたとしか考えられない。つまり、ルカは帝国から派遣されてきた可能性が……ってか、一番怪しいの、ルカを紹介してきたその貴族じゃね?

 そして、ロイがスヴェンに伝えて戻った。速っ……。

「奥様っ! ハーレムにデンジロウの姿がありませんっ!」

「「「えっ?!」」」

 サイモン、ジェイファオがやべぇじゃんっ! みたいな顔で私を見る。







「あ……伝次郎は……ここに……います……」

 私が伝次郎を突くと、ひょこっと私の掛け布団の中から顔を出す伝次郎。

「あははっ……伝次郎抱いて寝てるとお腹が温かくてさっ湯たんぽ代わりに一緒に寝てたの……すみません……なんか……無事です」

「「「……」」」
「……良かったです」






 なんだかよくわからないが、こうして私の周囲が慌ただしく動き始めるのだった。

 
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旧題:ロングヘア=美人の世界にショートカットの私が転移したら推しのガチムチ騎士団長様の性癖が開花した件 異世界転移したアユミが行き着いた世界は、ロングヘアが美人とされている世界だった。 ショートカットのために醜女&珍獣扱いされたアユミを助けてくれたのはガチムチの騎士団長のウィルフレッド。 「…え、ちょっと待って。騎士団長めちゃくちゃドタイプなんですけど!」 でもこの世界ではとんでもないほどのブスの私を好きになってくれるわけない…。 それならイケメン騎士団長様の推し活に専念しますか! ―――――【筋肉フェチの推し活充女アユミ × アユミが現れて突如として自分の性癖が目覚めてしまったガチムチ騎士団長様】 そんな2人の山なし谷なしイチャイチャエッチラブコメ。 ●ムーンライトノベルズで掲載していたものをより糖度高めに改稿してます。 ●11/6本編完結しました。番外編はゆっくり投稿します。 ●11/12番外編もすべて完結しました! ●ノーチェブックス様より書籍化します!

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