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第一章 二人の旦那様

32 こども熱 ◇

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 その夜……。
 
「大公殿下、奥様が少し変でいらっしゃいます、よろしければ早めにお部屋へお戻り頂ければと……」
 
「ウィルヘルミーナが変? 今更どうしたロイ、アイツが変なのはいつもの事だろ?」
 
「……ッチ、では勝手ながら少々心配ですので今夜はボスのいらっしゃるドラリトアの屋敷にお連れいたします、お忙しい所大変失礼いたしました(ッパ)」
 
「あ、おいロイ! ……なんだアイツ……ん? 本当に連れてくのか?」
 
 
 そんな会話がサイモンの執務室で交わされているとはいざ知らず……少し変らしい私は今、ロイ少年のはからいでアルさんと一緒にいる。
 
「サクラどうした? 何かあったか? ロイが心配していたぞ? サイモンに言っても、アイツが変なのはいつもの事だ、と言って相手にならなかったから、私の所へ連れて来たそうだ、今日はサイモンの日だが、私と一緒でもいいのか?」
 
「……?」
 
 んー………わからんな。考えらんない……頭が回らない。
 
「……サクラ? やはり少し変だな、会話と表情にいつものキレ・・が無いようだ、いつもならサイモンの発言にツッコミを入れるはずだが……」
 
 アルさんが何を言っているのかよくわからない、なんだろう……頭が痛い。
 
 直後、アルさんのひんやりした手が額に触れた気がする、なんか冷たくて気持ちいい……。
 
「サクラ! 熱があるではないか!」
 
 熱? 私昔から風邪なんかひかないけど……ああ……もしかして知恵熱ってヤツか。
 
「アルさん……抱っこ……」
 
 身体がダルい。動きたくない……。
 
「ロイ、いるか?」
 
「は! ここに」
 
「至急医者を、サイモンにも知らせておけ、私はサクラを着替えさせてサクラの部屋に寝かせておく」
 
「御意」
 
 頭が痛い……。頭だけじゃない。身体中が痛い……。
 
 お母さん……。
 
 
 ○○●●
 
 
(ロイ視点)
 
 
 僕は医者を手配したあと、ドランティス大公の所へ伝えに来た。
 
「何?! 熱?! 初めてだな、大丈夫なのか?! 今ミーナはどこにいるんだ?!」
 
 だから言ったんだ。奥様が変だって。
 そんなに慌てて心配するなら僕が声をかけた時にすぐに行けばよかったんだ。ドランティス大公は少し反省すればいい。
 
「今はドラリトアのお屋敷でボスがお側についていらっしゃいます、熱に気付かれたのもボスです」
 
「ったく……こんな時に父上達は酔っ払ってんだよな……医者のくせに……いや、研究者と言われればそれまでだが……」
 
 そうだった。今、この国には医療関係者が沢山いるじゃないか。
 
 まぁ、僕が呼んだランドラー公爵家の主治医も優秀で有名な人だ。問題ないだろう。
 
「アドウェールさんが一緒なら心配ないだろうが、俺も後で様子を見に行くとアドウェールさんに伝えてくれ……ロイ、すまなかったな、せっかくウィルヘルミーナが変だって教えてくれたのに」
 
「とんでもございません……では」
 
 ふん。反省してるならいいんだ。また次も必要があれば教えてあげるよ。
 
 
 
 
 奥様が熱を出されて2日たった。
 奥様の熱は下がらない。おかしい。
 
 僕はあの日、熱が出る前の奥様の行動をボスに報告しておいた。
 
 海に行って、トヨタというやつと少し話をして、それからデンジロウを温泉で洗って、僕が乾かして……特段、普段と違う行動をされていたわけでは無い。
 
 ボスもそうだなと言っていた。
 ドラリトアの医者もただの風邪だろうと言っていた。
 
 よくは知らないが、ただの風邪で意識がなくなるほどの熱が出て2日も下がらないことなんてあるのだろうか。奥様は時折目を覚まされても、頭と身体が痛いと仰って辛そうな表情でまた目を閉じ眠ることを繰り返している。
 
 奥様はこの2日間、水分しか口にされていない。
 
 医者の処方した解熱剤が効かないようだ。他の医者にも見せたが、同じ診立てだった。
 
 ボスは奥様の部屋に仕事を持ち込んでずっと側で仕事をされている。ドランティス大公も1日3回は様子を見に来る。
 
「アドウェールさん、父上にウィルヘルミーナの状態を話したら、隣で聞いていたトヨタという男がウィルヘルミーナを診察させてほしいと言ってきたのですが……どうしますか?」
 
 トヨタ……あいつか。まさかアイツが、ビーチで奥様に何かしたのだろうか……。
 
「トヨタという男のことはロイから聞いている、診察ということは、その男は医者なのか?」
 
「本人が言うには医学を学んで現場にも出ていたそうです」
 
「そうか……」
 
 ボスはそんなちょっと学んでいたくらいの怪しい男に奥様を見せるのだろうか……。
 
「わかった、サクラをドランティスの公妃の部屋のベッドに移そう、このまま辛そうなサクラをただ見ていてもしょうがない、トヨタという男に診てもらおう、ロイお前も来い」
 
「わかりました」
「御意」
 
 ボス自ら奥様を転移させ、僕には公妃の部屋に結界を張るように命じられた。
 
 どの結界を張ろうか……そうだ。
 
 僕は奥様に悪意や下心を持つものが通れないような結界を張った。もちろん奥様の夫二人は対象外だ。
 
 トヨタという男がドランティス大公について部屋に入ってきた。結界を通れたということは、ひとまずは問題ないだろう。
 
 トヨタという男は奥様の側にいたボスに軽く挨拶をしてから、すぐに奥様の診察を始めた。
 奥様のお顔や胸の近くなど、身体のあちこちに触れて難しい表情をしている。
 
「リンパ節がかなり腫れています……本人もその部分に触れると無意識にも痛そうにしていますのでおそらくはリンパ節炎ではないかと思います、私の妹もなったことがありましたが、症状も似ています」
 
「「リンパ節炎?」」
 
「はい、何らかの細菌やウィルスなどによる感染症です、この下がらない熱とリンパ節の腫れは、身体が外敵と戦っている証しなのです、おそらく、身体中の筋肉や関節に痛みもあるんではないでしょうか、頭痛もあるかもしれませんね」
 
 奥様は頭と身体が痛いと言っていた。こいつの言っている事は当たってはいるかもしれないが、そもそもこいつが奥様に何かした可能性は捨てきれていない。
 
「どうすれば楽にしてやれるんだ?」
 
「通常、細菌感染が疑われる場合は抗生剤と抗炎症剤を服用し、身体を冷やさないようにして安静にして、栄養のあるものをとっていれば快方に向かうはずです」
 
 抗生剤に抗炎症剤はドランティスにもあるだろう。
 栄養のあるもの……。
 
「卵入りのおかゆやフルーツなどで十分です」
 
「「オカユ?」」
 
 ボスも大公も聞いたことがないようだった。もちろん、僕も聞いたことがない。
 
「米を沢山の水で柔らかく煮たものです」
 
「「コメ?」」
 
 コメ? なんだそれは。食べ物なのだろうか……。
 
 大公はドアの外にいた侍従に抗生剤と抗炎症剤の手配と厨房でオカユとコメについて確認してくるように指示を出していた。
 
「ロイ、お前もドラリトアの厨房でとオカユとコメについて聞いてきてくれ」
 
「御意」
 
 
「……皆さんご存知ないのですね……ロータドラスには一般的にありましたのでてっきりご存知かと……」
 
 
 結果的にドラリトアの厨房では誰もオカユもコメも誰も知らなかった。どうやらドランティスでも同じだったようだ。
 
 一度ボスに報告に戻ると、トヨタという男が言うにはロータドラスにはコメが一般的に出回っていると言っていたようなので、僕は一度行ったことのあるロータドラス王宮に転移して、バレないように街へでてみる事に。
 
 危険? これくらい朝飯前ってやつだよ。
 
 ロータドラスの街には、本当にコメが売っていた。小麦などと一緒に並んでおり、少しだけだが、ロータドラス語を覚えていた僕は店の店主に食べ方を聞き、どのくらいあればいいのかわからなかったので、デンジロウくらいの重さの袋を一つ購入し、すぐにボス達の元に戻った。
 
 
「そう、これです、よかったちゃんと精米されていますね、これを米1に対して水8くらいで柔らかくねっとりするまで煮てください、味付けはダシと塩と卵で十分です、あまり濃くしないでください」

 トヨタという男はオカユとやらの作り方を口にしたため、僕はメモをとる。
 
「ロイ、サクラはウチの屋敷の味付けが好きだ、至急厨房に頼んで作らせろ」
 
「御意」

「あ、ロイ! うちの調理師も一人連れて行って作り方を覚えさせてやってくれ!」
 
 ドランティス大公がそう言うので、僕はドランティスの厨房から一人適当に連れて行った。

 
 僕がコメを持って戻った時にはすでに奥様はトヨタによって点滴をしながら抗生剤と抗炎症剤を投与されていた。
 
 奥様、僕がコメを用意しました。オカユもフルーツも用意します。早く元気になってくださいね。


 ○○●●

 
「ほらミーナ、あーん」
 
 あー。
 
 旨い、旨いよお粥! 懐かしいよお米……泣きそうだよお粥! いや、泣いたけどね。
 
 私の発熱事件から6日が経過した。
 
 どうやら私はリンパ節炎という細菌感染症になっていたようだ。
 
 私を助けてくれたのはなんとトヨタさんだと聞いた時は、心臓が飛び出そうになった……り、はしなかったが、それなりに驚いた。
 
 この世界では子供がなりやすいものだったらしい。
 
 いい年した私がなったため、ドラリトアのお医者さん達は気付く事が出来なかったとアルさんに堂々と言い訳をしたそうだ。
 
 いやいや、それじゃぁ駄目だろドクター! 
 
 アルさんは私を診察したドラリトアのお医者さん達に、現状で満足せずに日々多くを学ぶようにと叱咤し、さらにドラリトアの医学研究所からやる気のある若者数名を選出し、ドランティスの新設する研究所で学ぶようにと命じたそうだ。
 
 そして、ドランティス医学研究所はドラリトア竜王国ランドラー公爵より寄付という形で出資を受ける事が正式に決まった。国立の研究所に異国の公爵が寄付をするなど、前代未聞だと大臣たちは大喜びだったという。
 
 国立なのにいいのだろうか……寄付だからいいのか……? 
 
 これにより、ドランティスの医学研究所の知名度は増し、業界から注目を受けることは間違いない。
 
 
「これも全て公妃様がお繋ぎくださったご縁! 感謝いたします!」
 
 毎日毎日、私のお見舞いと称して入れ代わり立ち代わり大臣たちが感謝を伝えにくる、正直うんざりである。
 むしろ、私はまだ婚約者の分際で、いや、この公妃のお部屋を使わせて貰っているのでそこはあえて何も言いませんがね。
  
 もはや私の表情筋は真顔の状態からピクリとも機能していない。 
 
「ほら、感謝の気持ちは伝わったそうだから早く出て行ってくれ、ウィルヘルミーナは食事中だ、お前がいたらゆっくり食べられないだろ」 
 
「またまた閣下、お美しい公妃様を独り占めなさいますな! ハハハ!」
 
 そういう事ではない。早く出て行け。私は部屋にいてくれるロイ少年に目配せした。ロイ少年はコクリと頷くと、すぐさま大臣をパッと廊下に転移させる。
 
 こうして追い出すのも何人目だろうか。ロイ少年グッジョブである。
 
 
 
 
 
「ほらミーナもう一口、あーん」
 
 あー。 
 
 サイモンはこうして毎食毎食私にお粥を食べさせにくる。
 
 どうやら、ロイ少年の言葉を冗談半分に聞いてしまった自分が許せないようで、ずっとこんな感じで甘々なのである。
 
 そして……このお粥。オカユ。おかゆ。
 意識がハッキリしてから、この世界にお米があると知った時、私は泣いて喜んだ。
 
 あまりの喜びようだった為、アルさんもサイモンも私のために定期的な輸入の手配をしてくれたようだ。アルさんなんてさらに、ロータドラスから生産者をアドバイザーとして招き、ドラリトア国内での農地の選定、さらには生産者の勧誘を始めたらしい。
 アルさんは竜王国で米作りを始めるようだ。
 
「ロイ少年がミッションインポッシブルしてお米を入手してくれたんだってね、本当に本当に感謝しているよ、ありがとう」
 
「いえいえ、あんなに喜んでくださるとは思いませんでした。」
 
 ロイ少年による事後調査によれば、どうやらロータドラスではお米を家畜の飼料として生産しているようで、人間はあまり食べないらしい。
 ロイ少年が見つけたお店がたまたま食用にきちんと精米した米を売っていただけだという。何たる偶然。やっぱり私は何かの物語のヒロインかもしれない。
 
「それにしても、やっぱりお前とあのトヨタさんは同郷かなんかか?」
 
 どうやら、私の一件からアルさんもサイモンもロイ少年もトヨタさんをトヨタさん・・と呼ぶことにしたようだ。トヨタという男・・・・・・・からかなりの大出世である。まぁ、あの人年上だしね。
 
「えー、わかんない……」 
 
 記憶喪失とは便利なものである。お米の事は覚えているのに他が思い出せなくても誰からも疑われない。
 むしろ、可哀想な子を見るように、無理に思い出さなくていい、と言われるのである。ちょっぴり罪悪感。
 
 でも、トヨタさんとはいずれきちんと話してみないといけない気はする。今回の件もきちんとお礼を言いたい。
 
「まぁ、トヨタさんの事はいいとして……ミーナ、結婚式どうする?」
 
 どうするってなんだ?! どうする選択肢があるんだ?! その聞き方は、どうする? やめる? のノリに聞こえるぞ。
  
「お前の体調次第では無理に挙げるつもりはないからさ」
 
 なんだ、そうゆう事か。びっくりした。
 
 現時点で、結婚式まで10日をきっていた。そろそろ招待客がここドランティス公国に入国してくる頃だろう。きっと、サイモンも大臣たちも忙しくなるはずだ。余計な心配をかけるわけにはいかない。
 
「サイモン、大丈夫だよ私! 結婚式は絶対するから安心して!」
 
 私がそう口にすると、サイモンは嬉しそうに微笑んで、私の口にフルーツを詰め込んだ。
 
「それならまた太らないとな! この数日で痩せたみたいだ」
 
 ウエディングドレスを着た花嫁のポロリは笑えない。
 
 安心したまえ、お米があるとわかったからには食べたいものが沢山ある。すぐに太る自信がある。
 
 まずはおにぎりが食べたい。
 
 あとは、オムライスにエビピラフにチャーハンに……。
 天丼、カツ丼、親子丼……おっといけない、よだれが出てきた。いずれにせよ厨房に相談しに行く必要がありそうだ。もしかして、私も飯テロってやつしちゃうかもしれない。ワクワクである。
 
 が、しかし……飯テロしようにも、レシピがわからん。こんなことならたまには料理の本でも読んで覚えておくんだった……
 
 
 
 3日後……
 
 
 私、完全復活! 
 
 私はロイ少年と共に迷惑をかけたあちこちにお礼を言って周り、ようやく残すはトヨタさんのみとなった。
 
 一番に行けよって? 行ったけど朝はいなかったんだよ。
  
 ジェフリーさんとトヨタさんはここドランティスでは、ジェフリーさんの実家であるコリガン家のお屋敷に滞在している。今はサイモンのパパもだ。なぜか、クラウスさんも宿に帰らず居候しているらしい。
 
「ウィリー! 体調は良くなったのかい? 心配したよ、ずいぶん痩せてしまったようだね……」 
 
 コリガン家で私を出迎えたのはなぜかクラウスさんだった。
 
 クラウスさんによれば、トヨタさんはまたハスキーの散歩に出たという。トヨタさんは1日に2回散歩に出て、1時間以上は戻らないそうだ。やっぱりハスキーは相当な運動量が必要なのだろう……。
 多分、ビーチの方だろうとの事だったので行ってみる事にした。
 
「奥様、いたっすよ」
 
 ロイ少年がトヨタさんとハスキーを見つけてくれたようだ。
 
 そこにはロングリードで走り回るハスキーとボールを投げるトヨタさんがいた。
 
 私達が行くと手を止めてくれたのだが、ハスキーに悪いのでボールの投げ手をロイ少年に交代してもらった。ピッチャー交代である。
 
 私達はどちらからともなくビーチにあった乾いた丸太に腰を下ろし、ハスキーと黒髪美少年という大変尊いペアを見ながら少し話をする事にした。
 
「体調はもう大丈夫そうだね、よかった、若さだね」 
 
 若さ……そうね、私ってばまだ18歳。数日後の結婚式の日には19歳になるんだった。
  
「トヨタさん、この度は助けて頂き、本当にありがとうございました、それと……お米についても教えて頂きありがとうございました、私のこれからの食生活が一気に明るくなりました」
 
 トヨタさんは、それはよかった、と笑った。 
 
「……今なら話しても大丈夫?」 
 
 おっと……いきなり本題か。ロイ少年には会話は理解できないない事がわかっている、大丈夫だろう。
 
「はい、先日はしらばっくれてすみませんでした」 
 
「いや、あのロイ君に聞かれたくないんだろうなって思ってたから気にしないで」
 
 トヨタさんはこちらこそ配慮が足らずごめん、と謝ってくれた。大人だ。
 
「……私はサクラが本名で、アメリカ人の父と日本人の母のハーフです、ですが、サクラと呼ばれるのはマズイので、ウィーとかでお願いします、トヨタさんは年上ですし、敬語も不要です」
 
「……それはありがとう、じゃあ、ウィーちゃんかな、俺の事は好きなように呼んでくれていいよ」 
 
「……マツノジョウとはどんなを書くんですか?」
 
「松之丞だよ、豊田松之丞」 
 
 豊田さんは砂に指で自身の名前を書いてくれた。 
 
「……何時代の人ですか?」

「ハハハっよく言われたよ、平成生まれのつもりだけどね」
 
「私も東京生まれ品川区育ちです、ヒップホップ育ちでも悪そうなやつは大体友達でもありませんが」
 
 豊田さんは笑った。 
 
「はははっ、それ、ウィーちゃんのご両親世代の歌じゃないの? よく知ってるね」
 
「いいものは世代を超えるのです」
 
 私は、この世界に来て初めて自分が異世界から来た人間だという事を誰かに話した。 
 私と豊田さんは、自分達の境遇を語り合った。
 
 豊田さんは、愛知県生まれの半分東京、半分アメリカ・メリーランド州育ちだという。豊田さんが10歳の時に医師をしていた両親と妹と4人でメリーランド州に移住したのだそうだ。その後も日本には毎年祖父母に会いに遊びに来ていたという。
 
 当時、豊田少年はとても頭がいい子供だったそうで、SATやらMCATやらよくわからんが、色々な適正テストを経て……
 とにかくなんだかよくわからないが、人より若くしてメリーランド州のメディカルスクールに入学し、22歳でこちらに転移するまでずっと医学を学びながら、実際に医療現場で研修などもしていたのだという。
 
 23歳を目前に控えたある日、豊田さんの愛犬である雄のハスキー犬のワルドの散歩に出た所で、突然こちらの世界のロータドラス王国に転移してきたのだそうだ。
 
 そして、転移後ワケがわからず数時間フラフラしていた所で、ワルドに興味を持って近づいてきたジェフリーさんに文字通り拾われて、現在までずっとお世話になっているという事らしい。
 
 ……あのハスキー、ワルドって言うらしい。カッコいい名前。 
 
 豊田さんも、私と一緒で転移後から自動翻訳機能があり、言語に困ることはなかったそうだ。 
 
「その……ジェフリーさんには……出身地なんかはどう話してますか? 会う人会う人に髪の色を見て竜王国出身だろうとか言われませんか? 私はボロが出ると困るので記憶喪失だという設定にしてあるんですけど……」
 
 どうやらトヨタさんも、誰かに出身を聞かれるとあやふやに答えるか、頭をぶつけて記憶が所々抜けているという事にしているそうだ。やはり、髪の色を見て竜王国の人間だろう、ともよく言われてきたらしいが、わからない、どうでしょうかね、ニコニコ……で通してきたという。
 
 ちなみにジェフリーさんは基本的にあんな感じで細かい事は気にしない人なので、出身も年齢も何も聞かれた事はないらしい。
 ……色んな意味ですごいなジェフリーさん……。
 
 
 と、ここまで話した所で満足そうな表情のワルドとヘトヘトな様子のロイ少年がこちらに走ってきた。
 
 ロイ少年がヘトヘトだなんて初めて見たな。ボール投げるだけでヘトヘトになるって一体どんな投げ方してたんだ……。
 
「豊田さん私、まだまだ話足りないので、よかったらまたここに来てもいいですか?」
 
「ウィーちゃん、俺のことはマツでいいよ、ジェフリーさん達もみんなそう呼ぶんだ……俺も話し足りないと思ってた、大体毎日この時間はこのビーチにいるからいつでも歓迎するよ、って大公妃に言う言葉じゃなかったね」
 
「ありがとうございます! ……じゃあ……またねマッサン」
 
 ウィスキーでもつくりそうなニックネームだ。
 
「うん、またねウィーちゃん」
 
 私は豊田さん改めマッサンに手を振り別れを告げ、ロイ少年と共にドラリトアの屋敷に転移した。
 
 
 ○○●●
 
 
(マッサン視点)
 
 
 この世界に転移してきて2年、毎日が楽しい。
 
 地球にいた頃はひたすら勉強して日々進歩する医療を学ぶ毎日だった。両親ともに医師の家庭に生まれ育ち、俺もそんな両親に憧れて医療の道に進んだが、出来る事が増えるにつれて、知識が増えるにつれて医療機関の闇や組織の裏も見えてきた。
 
 くだらない制約に縛られ、自由な医療行為が出来ない現実に医師免許取得後の自分の将来に目的が見えなくなっていたそんな時に、突然この世界に来てジェフリーさんと出会った。
 
 あの人は自由だ。
 
 頼まれれば人間も診るが、基本的には動物の診療をしている。
 
 この世界は地球に比べたら様々な部分で劣りはしているが、ある程度の医療技術はあると思う。
 
 地球にいた頃は獣医学なんてまったく興味はなかったが、ジェフリーさんについてあちこち回るうちに様々な動物の様々な症例に出くわし、その都度俺も人間に置き換えて考えて、治療方法を意見したりした。
 
 ジェフリーさんと意見交換をするのは本当に楽しい。
 
 2年なんてあっという間に過ぎていった。
 
 今回、ジェフリーさんは生まれ故郷であるここドランティスで、新設する医学研究所の獣医学研究部門のリーダーにとの依頼を受け、意外にもすんなり引き受けていた。
 
 ジェフリーさんは俺に研究所に入れとは言わなかった。
 
 お前はすごい奴だ、なんにでもなれるだろう、好きなように生きるといいと言うだけだった。
 
 ゆっくり考えろと言ってもらい、自分がこの異世界で何が出来るのか考えていた時に、この国の大公の婚約者の熱が下がらないと耳にした。
 
 その婚約者の事は、少し気にはなっていた。
 
 俺と同じ黒髪でハーフのようにメリハリのある美しい顔立ち、名前に入っていたサクラ・・・というミドルネーム、おまけにバーニーズを連れていて、犬をデンジロウと独特な名前で呼んでいたこと、ワルドをみてすぐにハスキーと言ったこと。
 海坊主は……聞き間違いかとも思ったが、きっと海坊主は海坊主の意味で口にしていたのだろう。
 
 思わず、医師免許もないくせに診察・・したいと申し出てしまっていた、地球だったなら違法行為だ。 
 
 しかしそれが縁となって、今回こうして打ち明けてくれたのだろう。夫や婚約者にさえ告げていないという彼女の重大なその秘密を共有した気分だ。
 
 優越感と共に、俺の胸の奥で初めて感じる何かが芽生えた気がした。
 
 ウィーちゃんか。
 
 19歳になると言っていただろうか、俺の妹と同じ歳だがまったく見えないな。ハーフだという彼女はどこか大人っぽいというかなんというか……色気がある。
 
 彼女の夫だというランドラー公爵も婚約者だというここの大公も私よりも年下らしいが、みんな美形で大人っぽい。
 
 この世界が一妻多夫婚が当たり前だと知った時、最初はとても不思議だった。
 
 恋人を誰かとシェアするなんて感情論的に可能なのだろうか……。俺は童貞ではないが、今迄に誰かと真剣に交際したことがないかもしれない。ゆえに愛するなんて感情は知らないが、浮気されて殺人に走る人もいる時代だ。
 恋愛に夢中になったり恋愛脳になると人間どうなるかわからないので、恋愛にのめり込むのはなんだか恐ろしい。
 
 だが、考えてみたら妻に自分以外にも夫がいれば夫は自分の趣味や仕事を優先しても奥さんに寂しい思いをさせなくていいかもしれない。それに、金銭的にも余裕がうまれていいかもしれない。
 
 医療関係者は激務だ。結婚と離婚を繰り返す先輩を沢山見てきた。
 
 一妻多夫婚……ありかもしれないな。
 
 
 
 ○○●●
 
 
 
「アルさん、おかげ様で私、復活しました」
 
 私は久しぶりにアルさんと一緒のベッドに入っている。
 
「サクラはやっぱり元気なのが一番だな、ほら、こっちにおいで」
 
 私はアルさんに飛びつくように抱きつき、思いっきりアルさんの香りを吸い込む……幸せである。
 
「やはり少し痩せたな……」
 
 私の身体を抱きしめたアルさんが呟いた。
 
「みんなそう言うけど、体重はたった2キロしか減ってないんだよ?」
 
 アルさんはその後も、食べたいものはないか、など久しぶりのベッドインにも関わらずムードのないことを言うので、私は我慢できず、アルさんを仰向けにベッドに押し倒して上に乗った。
 
「サクラ?」
 
「アルさん……私、アルさんとしたい」
 
 私はちゅっとアルさんの唇を奪い、そのままアルさんのローブを脱がしながら美しいその筋肉達にキスをする。
 
 腹直筋のさらにその下の布に手をかけると、アルさんの筋肉が硬くなった。いい……。美しいわれ目だ。
 
 そして、容赦なく下着から取り出したアルさんの立派なそれを優しく握り、たっぷりの唾液でペロペロと舐めまわし、パクリと咥える。
 
「……っ!」
 
「アルひゃんの、いつもよひおっきい」
 
 アルさんの艶めかしい表情を見ていると、もっといじめたくなる……。
 私は扱くスピードを上げてさらに口の奥まで一杯にアルさんのものを咥えた。
 
「サクラ降参だ! 待ってくれ!」
 
 聞こえませーん。私は容赦なく扱きながら舐めては吸ってを繰り返す。
 
「っ! サクラっ……!」
 
 その直後アルさんのモノがビクンビクンとして、私の口の中に温かいそれが出てきた。
 
 もちろんゴックンします。
 
「サクラ……」
 
 私が握るアルさんのモノは徐々にその大きさと硬さを取り戻していった。
 
 と、今度は私がベッドに押し倒された。
 
「サクラ……私は病み上がりのサクラのために必死に我慢していたのだがな……お前が悪いんだぞ」
 
 きゃっ! ブラックアルさんステキ! 
 
 アルさんはそのまま私に貪るような深い口づけをし、チクンチクンと首すじに吸い付いた。
 
 あっという間に私のローブは取り払われ、体重とともに減る事はなかった私の両胸を少し強めに揉みながら、硬くなったその先を口に含んで舌で転がした。
 
「んっ! ……ぁっ……んっ……アルさんっ……」
 
 アルさんの頭は私の秘部へと降りていき、いつもの優しい愛撫ではなく、少し乱暴に私の中心に舌を這わせる。
 それでも愛を感じるその舌の動きによって私の蜜はさらに溢れた。
 
「すごいな……サクラは少し乱暴なのがいいのか?」
 
 そんな声が聞こえた気がしたが、私はもうすでに絶頂を迎えていた。硬くなった私の突起部分がアルさんの唇にはまれ、舐めて吸われてしまえば、イキっぱなしである。
 
「アルさん、お願い……欲しい……早く挿れて……」
 
 アルさんに抱きついて耳元で囁き、その耳をやんわりと咥える。
 
 アルさんがブルリと震えたのがわかった。
 
「っとに……サクラは小悪魔だな……」
 
 そうつぶやくと、アルさんは自分のものをゆっくりと私の中心に挿し込み、先の大きな部分から根元まで、私の中へと入ってきた。 
 
「あぁ! ……んん……はぁ……気持ちいい……」
 
 アルさんは最初から激しめの抽挿を続け、私の奥へ奥へとつき進み、私を喘がせる。
 ゆっくりもいいけど、激しく突かれるのもいい……。
 
 仰向けの状態でアルさんに少し腰を持ち上げられ、挿入したまま突起を刺激されてしまえば、私はまたも達し、中を締め上げてしまう。
 
「っ! サクラ……っ!!」
 
 アルさんが私の奥で果てた事がわかった。
 
 そのまま座位とバックで2回ほど出して、その夜は仲良く裸のままゆっくり休んだのだった。
 
 アルさんもなかなか元気である。

 
 
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