【R18・完結】結婚はしません、お好きにどうぞ

hill&peanutbutter

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45 月日は流れ

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 (sideイヴリン)
 
 
 アギット様に好きにしろ、と言った夜からあっという間に半年が経過した。


 
 私は今、ギルバート様とアギット様と、三人で一緒に生活している。もちろん、兄様もちょくちょく来てくださる。
 

 ……何故かって?

 私のお腹の中には今、赤ちゃんがいるからだ。







 発覚したのは三ヶ月前。

 精霊達が突然私に言ったのだ。


『イヴリン、イヴリン、小さいギルバート! イヴリンの中、小さいギルバートいる!』

「……え?」


 精霊達は、同じ頃にギルバート様にも伝えていたらしく、ギルバート様が文字通り、飛んできた。


「どういう事だイヴリン!」

「……私も何が何だか……。」

 ギルバート様は、行為の度に避妊薬を私にくれていたので、私もきちんと毎回服用していた。

 しかし、大きな落とし穴が存在していたのである。


『イヴリン、王様の石、浄化! お薬浄化!』

「「……っ!?」」


 私が肌身離さず持っていた精霊石のチカラで、避妊薬は害とみなされ、浄化されてしまっていたようなのだ。

 つまり、私が口にした避妊薬はただのプラセボでしかなかったのである。





「……イヴリン、お前はどうしたい? 俺の事は気にするな、お前が決めていい。もちろん今すぐに結論を出す必要も無いからな。」

「わ、私ですの?!」

 そんな事を言われても……と、一瞬パニックになりかけたが、思いのほか、私の結論はすぐに出た。


「一人で産みますわ。」

 私はエレミの血を繋ぎたかった。途絶えさたくない。


「……。」

 直後、私はギルバート様の大きくて優しい腕に包まれていた。

「……馬鹿言ってんじゃねぇよ、一人で産ませるわけねぇだろうが。俺を誰だと思ってんだ?」

「大公代理殿ですわよね。」

「そうだ、ただの代理だ……今は補佐だけどな。イヴリン、産んでくれるんだな?」

「私の子でもありますから。ギルバート様にはさしあげません。」

「っはは! こんな時でもお前はお前だな。わかった、お前の子でいい、俺はただの種馬だからな。」

 ……とんでもないサラブレッドですわね。

「だがなイヴリン、俺にも可愛がらせてくれよ。お前も、腹の子も。」

「……。」

 可愛がるくらいなら……。

「ええ、構いませんわ。」




 しかし、私はすぐに、自分のその言葉を後悔した。


 ギルバート様は、そのまま私を大公家の医師のもとに連れて行き、すぐに妊娠が確定する。

 その時すでに妊娠四か月ほどだろう、とのことだった。


 そして、彼はその足でラウリルアのテオ兄様のレストランへ行き、妊娠を報告。

 兄様その場に倒れる。


 そしてその後すぐに、ギルバート様の兄でありラウリルアの大公であるハルトムート様に私を紹介。

 ハルトムート様は、私を見るなり“女神様?! ”と叫び、こちらも卒倒してしまう。

 最後に、森の家にノワール経由でアギット様を呼び出し報告。

 アギット様もその場に倒れた。





「いやぁ~、ひと通り終わったな。」

「……。」

「疲れただろ? ……安心しろ、お前はもう誰にも会わなくていいぞ。後は俺に任せて、この森で身体を大事にしてろ。」

「……ありがとうございます。」

 そうしてもらえると、正直助かる。

 まぁ、でも、間違いなく、兄様は目が覚めたら、来るだろうな。アギット様もまだ床に倒れたままだし。


「……イヴリン、ほら。」

「……?」

 ソファーに座るギルバート様が、両手を広げて待っているので、なんとなく近づくと、手を引かれ、彼を背にして包み込まれるように脚の間に座らされた。

「……信じられねぇな……赤ん坊がいるなんて……」

 ギルバート様は後ろから手を伸ばし、私のお腹に触れる。

「私も信じられません。実感もありませんし。」

 私の肩の上にギルバート様の顎が乗せられ、二人でただただ、“信じられない”と口にしていた。



「イヴリン、嫁に来るか?」

「私は結婚はしません。」

「……そう言うだろうと思ったぜ。」

 ギルバート様は、あちこちに妊娠を報告した時、“結婚する”とは一切口にしなかった。
 ……おそらくは私の事を考えて下さったのだろう、とすぐに理解でき、少し嬉しかった。

「でもなイヴリン、父親は俺だ。口と手と金は出すからな。拒否権はないぞ。」

「……わかりました。」

 私の返事に満足したのか、ギルバート様はチュッと私の肩に口付けた。

「……なるべく、毎日顔を見に来る。」
 
「結構ですわ、今までのように適当にお越しください。」






 ……と、そう言ったのに。

 ギルバート様は結局、仕事が終わると毎日森へやってきて、私を抱きしめ眠り、そのまま森から仕事へ行く生活を送っていた。

 おまけに、精霊達と一緒に家の増改築にまで着手し、私の森の家が大変な事になりそうな予感である。
 
 ギルバート様は、子供部屋に夫婦の寝室の拡張にゲストルームだの、彼は張り切っており、とても生き生きとして、楽しんでいらっしゃるようなので、まぁ、いいか、と私は見守る事にした。





 妊娠発覚のあの日、突然の報告に倒れた人達がどうなったかと言えばだが。

 まず、目を覚ましたテオ兄様は慌てた様子で森の家に現れ、詳しい事情を説明してくれ、と言った。

 そしてギルバート様が珍しく真摯にきちんとした態度で説明を行い、最終的には理解してくれたのだ。
 私はギルバート様に対して、失礼ながらも、さすがは大公の仕事をこなしていた方だ、と見直してしまったひと幕だった。

 しかし、兄様は私が頑なに“結婚はしない”、と言うので、その点についてはなかなか納得してはくれなかった。
 とはいえ結果的には、“なら俺が一緒に育てる”、と言ってくれたのである。

 やっぱり私は兄様が大好きだ。


 そして……。

 兄様の後で目覚めたアギット様は、無言で森を飛び出すように出て行ったかと思えば、すぐに花束を持って現れ、“おめでとう”と言ってくれた。

 しかし何故か彼はその後、笑顔でこう口にする。

「イヴリンの子は俺の子も同然だから、一緒に育てようね。心配いらないよイヴリン!」

 その場にいた私と兄様とギルバート様は、目が点になったが、すぐに兄様とギルバート様が左右からアギット様の肩を無言でポンポン、と叩くと、アギット様は突然号泣して、“次は俺の子産んでねぇ”と、叫んだ。

 
 
 
 
 
 ギルバート様が我が家で寝泊まりするようになると、何故かアギット様までもどさくさに紛れるように我が家に滞在するようになった。
 それも、ギルバート様が仕事へ行く少し前に現れ、ギルバート様が帰って来るといなくなる。

 まるで、二人で結託して、私を一人にさせないようにしているかのようだった。

 日中、私が少しでも畑にでたりして動き回ると、すかさずアギット様に注意され、昼寝をさせられる。
 もちろん、アギット様も私を抱きながら一緒に寝るので逃げ場はない。

 この人、仕事はどうしたのだろうか。

 と、疑問に思い、聞いてみると、自分の代わりにネーロにパトロールをさせている、としれっと言い放った。
 まぁ、確かに、シュヴァルツに敵うドラゴンはいないので、適任と言えばそうなのだが、なんだかネーロが可哀想である。

 しかし、ネーロもネーロでノワールの子守が終わり、暇を持て余していたようで、思いのほか嫌がってはいなかった。
 彼は彼で、他の色のドラゴンをからかい、楽しんでいるという。






 そんな生活もずいぶんと月日が経過したある日のお昼の最中、アギット様が大きくなった私のお腹を後ろからさすりながら言った。


「イヴリン……お腹の子は、パパが三人もいるんだ、幸せだろうね。」

「……。」


 パパが三人……とは、ギルバート様と兄様とアギット様という事だろうか。


「早く産まれて来ないかなぁ、可愛いだろうなぁ。」

 と、彼は本当に自分の子の誕生を待つかのように、言うのである。
 もしかして、彼のあの時の“イヴリンの子供は俺の子も同然”という言葉は本心だったのだろうか。








「……ですって。アギットパパが、待ってるわよ。元気に産まれてきてね。ギルパパもテオパパも……私も……待ってるわ。」

 私も、その時初めてお腹の子に話しかけた。

「イヴリン……アギット、パパ? 俺もパパを名乗っていいの?!」

「ギルバート様が許可してるなら、いいんではないかしら?」

 さっき、自分でパパが三人と言っていたではないか。







 そして……ついに皆が待ち望んだその日がやってきた。


 産まれてきたのは、ギルバート様にそっくりなレンガ色の髪にグレーの瞳をした男の子だ。

 そして……もう一人。
 私と兄様にそっくりなモスグリーンに金色の瞳の女の子。


 二卵性の双生児だ。

 精霊達が言っていた、“小さいギルバート”、が、まさにそのとおりで、笑ってしまいそうになったが、小さい私も一緒だったので、なんとなく笑うに笑えなかった。

 双子の名前は、ギルバート様によって、男児がベルント、女児がコリンナと名付けられた。




 それからギルバート様は双子を溺愛し、すっかり子煩悩の良き父親となり、アギット様と兄様も動揺に、我が子も同然に父親のように双子を溺愛した。

 私は授乳以外にすることがなかったほどである。

 子供達はギルバート様の戸籍に登録してもらい、ある程度成長したらラウリルアのギルバート様のお屋敷で貴族としての教育を受ける事になった。

 そして、成長するにつれてわかった事だが、双子はどちらもエレミの血を濃く引いたようで、精霊が見えており、さらには赤ちゃん語で会話もできているようだった。

 それを知ったギルバート様は、とても嬉しそうで、何故かその夜私を激しめに抱いた。

 果てる際には、私の精霊石を握りしめ口付け、“また子供作るか? ”と言って……。




 しかし私は言った。


「次はアギット様の子を産むと約束しましたの。」

「ははっ! そうだったな!」



 
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