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37 兄と義弟(仮)
しおりを挟む(siseアギット)
『アギット、アギット、起きて、起きて!』
……聞いた事のない声がする。
いや、違う、これは……ノワールだ。
『アギット、アギット、僕、もう大丈夫だから、起きて! 僕、早くイヴリンに会いたい! カッコよくなった姿、見てもらいたい! アギットが起きないと、僕も動けないよ!』
……ったく、自由だな、誰のせいでこんな事になったと思ってんだ。
だが、俺はどうなったんだ? あの時すでに、身体はもう駄目だったはずだ。
兄さん達の治癒で治ったのだろうか……。
ぼんやりとする意識の中で自分の身体に意識を集中させてみる。
……お、動くぞ?
そして、瞼を持ち上げ目を開ければ昨日と同じ天井が目に入った。
ゆっくりと周囲を確認すると、俺の胸の上に、モスグリーンの頭が見える。
「っえ?! イヴリン?!」
……あ、声も出た。
俺、生きてる? ……生きてるんだ。
身体はなんともないし、気分も悪くない……いや、それどころか……。
「……イヴリン? ……寝てる……のか?」
イヴリンは眉間にシワを寄せたまま眠っており、目を覚ます気配はない。
俺は起き上がり、ベッドから降りて彼女を抱き上げベッドに寝かせた。
それにしても……俺、なんで半裸なんだ?
「……俺の服……服……。」
その時だった。
『グオォォォ!!』
……ノワールだな、そうか、俺が起きたからアイツも起きてテンション爆上がりなんだな。
しかし、今の爆声で、イヴリンが飛び起きてしまった。
あ、俺ったら、まだ服着てないのに……まぁ、いか、どうせ半裸のまま寝てたんだから、どうせ見られてるか。
飛び起きたイヴリンは、目眩がしたのかもう一度倒れるように枕に頭を乗せた。
しかしその後すぐに、俺の名を口にする。
「っそうだわ、アギット様はっ……?」
イヴリンの寝起き開口一番が俺の名前だなんて、最高すぎないか?
俺、やっぱり死んだのかな。
「イヴリン、おはよう、目が覚めた?」
「……?」
イヴリンは、少しきょとんとした後、目を見開き驚いた表情を見せた。
「……お、あ……おはようございます。アギット様こそ……いつ、お目覚めに?」
珍しく、イヴリンが動揺している気がしたが、どうしたのだろうか。まさか、俺が死んだと思っていたのかな?
「今さっきだよ。俺、生きてたね。なんだか色々迷惑かけたかな? ごめんね。」
「……いいえ、お元気そうで何よりですわ。体調はいかがですか?」
「体調はいいよ、スッキリしてる。何だか、身体が生まれ変わったみたいだ。そうだ、ノワールが君に成長を遂げた姿を見せたくて、咆えてるよ。」
「ノワールも目覚めたのですか?」
イヴリンは、すぐに起き上がり、ベッドから出て外に見に行ってしまった。
「お! おはようイヴリン! 見ろよ、ノワールがでっかくなってかっちょ良くなったぞぉ!」
……ん? 今の男の声はなんだ? 誰だ?! 大家さんじゃなさそうだぞ?!
俺は慌てて自分の荷物からシャツを引っ張り出して羽織り、イヴリンを追いかけ、声の主を確かめた。
「……っあ!」
「ん? ……お! おお!?」
パジャマ姿でノワールを見ていた声の主は、イヴリンと同じモスグリーンの髪に金色の瞳をしたとても美しい男性だった。
「っお兄様ですね?!」
「アギット君だね?!」
ッガバ! (熱い抱擁)
「良かった! 君も目が覚めたんだね! イヴリンを護ってくれてありがとうね! 心から感謝するよ!」
「っお兄様……! とんでもありません、当然の事をしたまでっ……グェッ!」
……初めてお会いするイヴリンそっくりのお兄様は、朝からとてもパワフルな方だった……抱き絞め殺されるかと思ったぜ……。
「あ、ごめんごめん、改めまして……テオバルトです、イヴリンの兄です。テオ義兄さんって呼んでくれてもいいよ! 君なら許そう! (ウィンク)」
イヴリンと正反対の、明るい性格の方のようだ。仲良くなれたらいいな。
「アギット・オスマンサスです。オスマンサス辺境伯家の七男、なのですが……。すみません、先ほど目が覚めたばかりで、状況が把握出来ていませんが……。お会い出来て嬉しいです、“テオ義兄さん”。」
「アギット君~! 君、絶対いい子だよね! お兄ちゃんにはわかるぞ!」
……どうやら、気に入って貰えたようだ。
テオ義兄さんはそのまま、自分は着替えて朝食の準備をするからイヴリンとゆっくりしていて、と言い、奥の空き部屋だった部屋へ入って行った。
……あ、あの部屋はテオ義兄さんの部屋になったのか。
お義兄さんの背中を見送り、俺もイヴリンと一緒に成長したノワールを見てやる事にした。
「イヴリン、ノワールはどう? ……ってっおい! ……ノワール、お前……デカくなりすぎだろ!」
「……シュヴァルツはこんなに大きくなるものなのですか? 私はてっきり、ネーロほどかと……。」
イヴリンが驚くのも無理はない。
ノワールは、すでに親であるブラックに匹敵する大きさまで一気に成長してしまったのだ。
『あ、アギットだ! アギットのおかげ! 僕のコア、無限容量みたい! アギットもきっとそうだよ!』
「……な、なんだ、その恐ろしい言葉は……“無限容量”?」
『うん! 容量無限!』
……いや、逆に組み合わせただけだろ。
と、その時だった。
「ああああああアギッドォォォ! がぁぁぁあ! 生きてるぅぅぅ!」
嘘だろっ!? どうしてカミル兄さんが!!
「アギッドォォォ! 私の可愛いアギッドォォォ! 良かったですぅ~!」
グェッ! (熱すぎる抱擁)
……重いんだよな……カミル兄さんの弟愛……。
「カミル兄さん、朝からどうしたの?」
おまけにどうしてそんなに大号泣なんだ。イヴリンのお兄さんもいるのに、ブラコンみたいで恥ずかしいじゃないか。
「どうしたもこうしたもないぞアギット、お前、大丈夫なのか?」
「ルドフル兄さん、フリード兄さん、ヴィルさんまで!」
オスマンサス辺境伯家の長男と三男(とその婿)、四男が一堂に会していた。……こんな時でも、やっぱり次男のブルーノ兄さんはどこかへ行っているらしい。
……どうやら俺は、相当にやばい状況だったらしい。
○○●●
(sideイヴリン)
……どうしましょう、まさか本当にアギット様が目を覚まされるなんて……精霊石のチカラとはいえ、皆様にどう説明したらいいの!? まさか、一晩中眠った無抵抗の殿方に一方的にキスしていたなんて、口が裂けても言えないわ!
喜ばしいことには間違いないけど、困ったわ……。
テオ兄様とギルバート様には精霊たちがしゃべってしまうかもしれないけど、オスマンサスのご兄弟の方々には知られてはならない気がする。
しかし、空から現れた四名と色とりどりのドラゴンの登場とともに、私に一時の猶予が与えられることとなった。
「え?! 今から?!」
「そうだ、身体が問題ないなら、屋敷へ戻って顔を見せてやれ、母上の方がお前のことを心配して死にそうなんだ。」
そうよ、それがいいわ!
「アギット様、おかげ様でノワールも私のことを忘れてはいないようですし、落ち着いているようです。ですので、もうアギット様のお力をお借りせずとも問題はなさそうですわ。このままお屋敷にお戻りくださいませ。ゆっくり療養された方がよろしいですわ。……お荷物は私がまとめて、後でポータルでお持ちいたしますので。」
「イ、イヴリン?! せっかく……っ……!」
……せっかく、何かしら?
「ほら、アギット、駄々をこねていないで、早くするんだ。母上が心労で老けるぞ。」
「アギット! 心配だから、私と一緒にヴィオレに乗りなさい、ね? お兄様と一緒だぞ、昔みたいに! な!」
「……イヴリン……(ぐすん)……」
な、なんですの……また、そんな子犬のような顔をしても私にはどうしようもできませんわ。夫人に申し訳ないので、早く行った方がいいですし、絶対に。
こうして、アギット様はそのままカミル様に縛り付けられて、ご兄弟と共にお屋敷へ戻られたのだった。
「朝ごはんできたよ~! さぁ、新しい家族みんなで食べよう! ……って……あれ? 俺の義弟君は?」
「お兄様、新しい家族ってなんですの? これからもずっと、家族は私とお兄様の二人きりですわよ? っさ、頂きましょう。」
一件落着、ですわ。
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