【R18・完結】結婚はしません、お好きにどうぞ

hill&peanutbutter

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36 姫のキッスで

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 (sideイヴリン)
 
 
 ……お姫様の口付け……か。
 私はお姫様でも何でもないけど、キスくらいでアギット様が目覚めるなら、いくらでもする。命を救って頂いたのだから。
 
 
 
 その夜、ギルバート様はお仕事が残っていると言って帰って行かれたので、私はテオ兄様と夕食を済ませた。
 
「おお! ベッドがある!」
 
「アギット様のお兄様の三男のフリードリヒ様が、アギット様が私のベッドを使っているから、と魔法で転送してくださったの。空いている部屋があると言ったら、オスマンサスのお屋敷の使っていないベッドを二つも贈ってくださったわ。一つはお兄様の部屋にして、自由に使ってね。」
 
「オスマンサス家三男、いい男だな……ありがとうイヴリン、そうさせてもらうよ。イヴリンと二人で寝るのも、良かったけどね。」
 
 お兄様と同じベッドでおしゃべりしながら寝るのも楽しかったが、アギット様にもギルバート様にも、成人した兄妹が同じベッドで寝るなんてありえない、と言われたので、どうしようかと思っていたところだったので、丁度良かった。
 
「寝るまではまた以前のように一緒にお話ししてましょうよ。」
 
「イヴリンっ! そうだね、そうしよう!」
 
 私とお兄様は、離れていた18年間を少しずつ二人で振り返り、夜通し話しをしていた。
 
 テオ兄様は今、24歳で私の六歳年上だ。たった六年違うだけで、レストランを経営し、成功するまでに至っている。きっと、並大抵の努力ではなかったことだろう。六歳違うだけでそうなのだから、14歳年上のギルバート様は、一体どれだけの壮絶な人生を経験されてきたのだろうか。
 アギット様は、私より三つ上だが、あの方は私と同年代と言われても納得してしまう。
 
 
 
 深夜をまわり、テオ兄様がおやすみ、と言って部屋へ入って行ったので、私も自分の寝室へと向かった。
 
 
 昨日まで眠っていた私のベッドには、アギット様が人形のように横たわり眠っている。
 
 昨日の夜は、アギット様と一緒にノワールの体温が上がった、などと話をしていた。
 ……それから……そうだ。好きだ、と言われたのだった。
 
「……これから死ぬまで毎日、“好きだ”と伝えてくれるんではなかったのですか? ……死んでしまっては、あれが最後になりますわよ……。」
 
 眠っている人を相手に、何を言っているのだろうか。
 
 その時、魔が差した、とでも言えようか、モノは試しにと、私は彼の唇に、触れるだけのキスをしてみた。
 
 
 すると、どうだろうか。
 唇が触れた瞬間、首から下げている精霊王の石がじんわりを光を帯びたのだ。
 
 見間違いではないかと、確かめるためにもう一度キスしてみる。
 
 やはり、光った。
 
 しかし、アギット様に変化はない。
 
 そこで、もう少し長めに唇を触れ合わせてみる。
 
 
「……。とんだ痴女ね。ごめんなさい、アギット様。」
 
 
 アギット様の唇はとても暖かく、まるで最後に森に埋めろと告げられ、触れ合った時のようだ。
 
「……あら? そういえば……」

 確か、最後に様子を見に来て、生存確認のために身体に触れた時には、アギット様の身体はひんやりとは言わないが、とても人間の体温とは思えないほどに低い温度だったはずだ。
 
 それなのに……おかしい。今一度、その身体に触れてみれば、熱いくらいだ。
  
「……どういう事? ずっと、低体温だったのに……。」
 
 もしかして、精霊石のチカラだろうか?
 
 確か今、アギット様の身体にはノワール急成長によって溢れ出るチカラが流れ込んで来ていると言っていたが、アギット様が眠ったままでは、アギット様の身体からは溢れないのだろうか? アギット様からも、放出してあげる必要があるのでは?
 
 もし、この体温の変化が、ノワールの時のようにそのせいだったなら、危ないのではないだろうか。
 しかし、意識のない人から、良くわからないチカラを抜き出すには、どうしたらいいのかわからない。



 ……きっと、精霊石でどうにか出来るはずなのに、方法がわからない。



 ギルバート様が言っていた。

 精霊のチカラは、思いやりのチカラだと。

 精霊がオヤツを強請るのは、相手の為に何かをしてあげたい、と思った時……相手の役に立ってあげたい、そんなとき、精霊はオヤツを強請るのだという。
 無報酬では相手のためにならないからだと。

 つまり、ギブアンドテイクの精神って事よね。

 それなら、私がアギット様を助けたい、代わりに何かを差し出す?

 ……わからないわ。


 とりあえず、もう一度、精霊石を握りしめたまま、アギット様にキスしてみる。

「……っ?」

 ……熱い……熱いわよね、これ……。
 アギット様にキスしている間、石が熱を持っていた。

「アギット様、すみません。実験のために、もう少し、唇をお貸しくださいませ。」

 私はひと言添えて、その後も何度かキスをしたり、石を直接唇に当てたりと、色々と試してみるが……。

「……やっぱり、唇と唇とが触れ合った時だけ、精霊石が熱を持って、光るわね。」

 ……もし、精霊石が私の唇を通してアギット様からチカラを抜き取っているならば、これを続ければ、彼の体温も下がるだろうか?

 私はその夜、ひと晩中ずっと、アギット様にキスをし続けた。
 


















 翌朝……。


『グオォォォ!!』


 ……っえ!? な、何?! 今度は何なの?!

 地響きのするような、けたたましい声量の咆哮に、私は目が覚めた。
 
 しかし、驚きのあまり急に飛び起きたからか、目眩がし、そのままベッドに逆戻り……。


 
 ……あら? 私、いつの間にベッドに……?
 
 
 確か昨夜はアギット様に……。
 
「っそうだわ、アギット様はっ……?」
 

 









「イヴリン、おはよう。目が覚めた?」




 
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