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21 日記
しおりを挟む(sideイヴリン)
どうやらあのまま朝まで眠ってしまったようだ。
目を覚ませばギルバート様の姿はなく、代わりにこのログハウスの鍵と彼がつけていた精霊石の指輪と、手紙が残されていた。
手紙の内容はざっくり言えばこんな感じだ。
急に呼び出しが入った為、私が眠っている間に去る事への謝罪から始まり……。
このログハウスと指輪はバルナバス様の遺したものだから、私に返す、と言う事。
さらに、この家の書斎にはバルナバスの書き記したエレミ族や精霊に関する書物が沢山ある為、次にギルバート様が来るまで暇つぶしに読んでるといい、と言う事。
そして、このログハウスは“天にもっとも近い森”の真ん中にあるから、絶対に一人で出歩いてはならない、と言う事。
必ずシュヴァルツと行動を共にするように、と言う事。
最後には、困った時は精霊石の指輪に意識を集中しながら、“精霊出てこい”と心で唱えるとあの小さな子供の精霊達が現れて、何でも手伝ってくれる。と……私ならすぐに“呼び出し”に成功するだろう。と書かれていた。
手紙を読み終えた後、寝室を出ると、家の中には生活に必要な物資や新鮮な食料、さらには冷蔵庫や冷凍庫の中などまでビッシリと詰め込まれていた。
あとは、“精霊用の菓子”と書かれたメモが添えられている、山盛りの大量のお菓子。
「精霊はお菓子が大好きなのかしら。」
……それにしても、一体いつの間にこんなに運び込んだのだろう……全く気が付かなかった。
それにしても……このログハウスを私に返す、とは一体……。
知らない男性の物を私が返されるいわれはないので、後でギルバート様と相談しよう。
とはいえ、立地は大変問題あるが、ログハウス事態は状態も良く、よく考えられた住みやすい造りのようだ。
それに、問題と言った立地に関して言えば、シュヴァルツに会える点ではプラスだろう。
ただで貰うのは気が引けるが、購入できるならば、ここに住むのも悪くはないかもしれない。
問題は気軽に出かける事が出来ないことだろう。
ギルバート様はどうやって行き来していたのかしら……。あんな大量の生活物資まで……。やっぱり聞きたい事が沢山あるわ、早くまたいらっしゃらないかしら。
しかし、そんな疑問は書斎で見つけたバルナバス様の日記を読み始めたら解決した。
どうやら近くに、転移門のような“ポータル”が設置されているようだ。
ポータルはラウリルア公国に繋がってるいるが、精霊のチカラで維持されているため、使用時に精霊に頼めば、行き先は自由自在に変えられると書いてある。
「……凄い、精霊のチカラを借りるにしても、まるで魔法使いになった気分ね。」
バルナバス様の日記は、私が知りたかった事全てがつまったエレミ族の参考書のようだった。
私はその日から、何十冊とあるバルナバス様の日記を読みながら、精霊と協力しあい、このログハウスでギルバート様を待つ生活を始めたのだった。
しかし、生鮮食品が無くなりそうになった五日後、再びギルバート様は現れた。
何事もなかったかのように、気さくなその様子になんだか安心する。
私は早速、バルナバス様の日記から知った情報を彼に伝え、日記からはわからなかったポータルの使い方などを彼に教えて貰う事にした。
「なら実際に一緒に使ってみた方が早いな。イヴリンがまだしばらくここで生活するつもりならだが、買い出しに行くか!」
「はい、まだバルナバス様の日記を読み終えておりませんので、ギルバート様がお許し頂けるなら、こちらにお世話になりたいですわ。」
「手紙に書いただろ? 指輪もログハウスも全てイヴリンの物だ。俺はただ、次代のエレミの精霊士が現れるまでの繋ぎだっただけだからな。ちなみに、この森も実はバルナバスの物だ。」
次代のエレミの精霊士……。私がそうだと言うのだろうか。
ギルバート様に聞くのは簡単だが、今はバルナバス様の日記や書物から一つ一つ謎を読み解いていく事が楽しいので、私はきかない事にした。
「わかりました、では気にせず使わせて頂きますわ。ですが、私、家の管理などしたことがありませんので伺いたい事が沢山出てくると思うのです。ギルバート様さえよろしければ、いつでも好きな時にいらしてくださいませ。お茶でも頂きながら、お話しいたしませんか?」
私の提案に、ギルバート様は図々しい奴だな、と笑い、私の頭を撫でた。
「だが俺は忙しい身だ、来れても二、三ヶ月に一度だけだぞ」
「構いませんわ。もちろん、貴方様のご身分も聞く事はございませんので、ご安心くださいませ。」
知ってしまえば、きっと、今のように気軽に話が出来る方では無いだろう。
「ははは! 利口な女だよ全く! いくつだ? 末恐ろしいな。」
「18歳になりました。」
「ま、まじか!」
「ギルバート様のお年くらいはお聞きしても?」
「俺か? 俺は32だ。」
おじさんおじさんと言うから、いくつなのかと思ったが、全然おじさんではなかった。
オスマンサスのルドルフ様もそのくらいのお年ではなかっただろうか。
「……。」
「おい、なんだよそのリアクションは! ゲェッおっさんだ、とか思ったな?」
「……その逆ですわ。」
その後、私達はポータルでラウリルアの街へ移動し、街で買い物をすることにした。
活気のあるオスマンサスの街しか知らなかった私にとって、全く雰囲気の異なるラウリルアの、幻想的で美しい街並みはとても興味深いものであった。
さすがは、精霊都市と言われているだけある。
普通の人には見えないらしいが、アチコチに精霊が飛んでいたのだ。
私は自分の下着や衣類などの日用品を購入し、持ちきれない分はギルバート様が荷物を持ってくださったが、帰る頃には二人の両手両腕が私の荷物でいっぱいとなっていた。
ギルバート様が支払いまで済ませてくださりそうになったので、私はきちんとお断りし、昼食以外は自分で稼いだお金で支払った事は言うまでもない。
「大満足です。ありがとうございました。ポータルの使い方もわかりましたので、次からは一人でどこへでも行けるかと思いますわ。」
「ああ、気をつけて使うんだぞ。」
ギルバート様は仕事があると言い、私と荷物をログハウスへと送ってくださった後、すぐに帰るとおっしゃったので、私は見送りの際に、彼から渡されたバルナバス様の指輪をギルバート様に手渡した。
「……ギルバート様、こちらはやはり貴方様がお持ちください。私には母の形見がございますから。」
「おい、なんだよ俺はもう……」
「精霊達が言うのです、“ギルバートは? ”、“ギルバート、オヤツ山盛り頂戴! ”……と。あの子達の為にも、貴方様が持っていてくださいませ。」
私がそう伝えると、彼はなんとも言えないぎこちない笑みを浮かべ、わかった、と言い、帰って行った。
ログハウスを本格的に自分の家として生活する場所として決めた私は、早速翌日から、家の外の生い茂る雑草を、精霊達のチカラを借りながら綺麗にした。
そして、昨日購入した野菜の苗や様々な野菜や花の種を植えたのだ。
バルナバス様の日記の情報だが、精霊には色々な属性がいるので、植物の精霊が手伝ってくれると、その場でニョキニョキと芽が出始める。
一人だけど、一人じゃないその暮らしは、寂しさを感じる隙もないほど楽しい日々だった。
そんな生活も二週間ほど経ち、なかなか板についてきた頃、毎日顔を見せにくるシュヴァルツの幼体と一緒に庭でじゃがいもの収穫をしていた時だった。
急に空が陰ったかと思えば、大きなシュヴァルツの成体が二体通り過ぎ、少し離れた場所に降り立った。
シュヴァルツの幼体の様子から、いつものご両親だろう。
私は気にせず引き続き、じゃがいもを掘り起こす。
しかし……
『グルルゥゥ……』
私の隣で、土遊びをしていたシュヴァルツの幼体が急に唸り声をあげた。
両親が来ただけなのに、何故唸っているのか少し不思議になった私は、幼体の視線の先を確認する。
「っ?! あ、アギット様?」
「や、やぁ、イヴリン! 久しぶりですね……早速、家庭菜園かな? 精がでるね!」
何故この人がここにいるのだろう。
何故シュヴァルツの成体を後ろに引き連れているのだろう……幼体は、何故威嚇しているのだろう。
疑問だらけだった。
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