【R18・完結】結婚はしません、お好きにどうぞ

hill&peanutbutter

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19 ラッキーすけべ

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(sideギルバート)


 
 俺の秘密基地に知らん女がいた。
 
 久しぶりに休暇をもぎ取って数ヶ月ぶりに一人でゆっくりしようと思ったと言うのに。
 
 
 雨に濡れたのか、色気のないくしゃみを三度もするその女に、風呂を貸してやる事にしたのはいいが……そうだった。
 
 ここに来るのは数ヶ月ぶりだ。
  
 キッチンにはカビの生えたパンがある。
 
 風呂は大丈夫か?
 
 
 
 俺は女に少し待つように言い、キッチンから風呂に続く部屋に籠もり、あいつら・・・・を呼んだ。
 
 
 
『なぁにギルバート! 呼んだ? 呼んだ? オヤツ頂戴!』
 
「おぅ、呼んだ呼んだ。なぁ、家ん中綺麗にしてくれないか? 取り急ぎ風呂場を頼む。菓子は全部綺麗にしたら、山盛り食わしてやるぞ!」
 
『オヤツ山盛りぃ~! ひゃほぉ~い!』
 
 
 小さくて実体のハッキリしないそいつらは、すぐに掃除に取り掛かり、風呂場は一瞬で新品のように綺麗になった。
 
 俺は湯を張りながら、タオルが無いか確認するが、当然だが、数ヶ月前のタオルしかない。
 
 ……これでいいか? いや、駄目だよな……どっかの令嬢だもんな。面倒くせぇな。
 
 
『ギルバート、はいコレぇ~! 僕、気が利くぅ~オヤツ山盛りぃ~! ぴゃ~!』
 
 妙なハイテンションの一匹が、綺麗なタオルと着替えのような物を俺に手渡した。
 
「……ああ、最高に気が利くぜ。ありがとな。」
 
 
 こいつらは俺にしか見えていないので、傍かられば、俺は独り言を言う変なおっさんだ。
 
 この山小屋では、周りを気にする事なく、こいつらと話しながら遊んでやれる。だから、俺は定期的に息抜きも兼ねて、一人でこの森に来ていた。
 
 
 
 そうこうして湯を張り終えると、俺は女を風呂に案内してドアを閉める。
 ドアが閉まった途端に、隠れていたあいつは、家中に散らばり掃除を始めた。……女が風呂に入っている間には、大方全体が綺麗になるだろう。
 
 
 それにしても……何なんだよあの女。
 ここは“死の森”だぞ?
 どっかの国じゃ、“天にもっとも近い森”、なんて言ってるようだが、間違いなくここは“死の森”だ。
 
 俺は玄関に出て煙草に火をつける。
 
 なんとなく目に入ってきたのは、あの女が乗って来たであろう馬車だったはずの乗り物・・・・・・・・・だ。
 
 よく見れば、屋根部分に大きな穴がいくつか開いている。そういえば、シュヴァルツがどうとか言っていたが……・
 
 ……まさかな……。
 
 その時だった。
 
 
 
『グルルゥ゙ゥ゙……』
 
 
「っと……まじか……あの女、本当に……?」
 
 黒のシュヴァルツ……ドラゴンの中でも、もっとも危険とされている色が、よりにもよって俺の目の前に降り立った。
 
 ドラゴンの足元には、トントンと言われる、肉がすこぶる美味い珍獣が転がっている。このドラゴンが狩って来たようだ。
 
「よ、よぉ? お前さんの連れ・・は今風呂に入ってる、大丈夫だ、安全だから安心しろっ、な? 唸るなよ……。」
 
 ……目の前のシュヴァルツはおそらくまだ幼体だ。
 
 だが、幼体とはいえ黒のシュヴァルツには違いない……ましてや、シュヴァルツは何よりも同族を大事にする……幼体を一人で出歩かせるわけがない。
 
 ……どこかに成体がいるかもな……。
 
 唸り声を上げながら、俺をじっと見ているシュヴァルツ。
 
 さすがの俺もドラゴンと戦ったら死んじまうだろうな……。
 
 
 と、その時だった。
 
 
「キャアァァァ!」
 
「『っ?!』」
 
 風呂に入っているはずの女の悲鳴が聞こえてきた。
 
 目の合ったドラゴンに背を向けて動く事など、普通であれば自殺行為だが、俺が今対峙しているシュヴァルツの幼体は、威嚇こそしてはいるが、攻撃してくる様子はない。
 
 それどころか、女の悲鳴にオロオロしているようにすら見える。
 
 結構な賭けではあったが、俺はそのまま後退りで素早く家の中ヘ入り、風呂場に駆けつけた。
 
 
「おい、どうした?」
 
「な、なんですの? この達は!」
 
 頭に泡がついたままのびしょ濡れの裸の女は、恥ずかしげもなく仁王立ちで空中を指差している。
 
 
 
 
「……お前……こいつらが見えるのか?」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「……まぁ、なんだ……さっきは悪かったな。」
 
「……お気にならさず、悲鳴をあげた私が悪いのです。」
 
 
 先ほどの風呂場での事態はあの場でなんとか収拾し、直後、女も自分が裸である事を思い出したのか、再びその場に悲鳴がこだました。
 
「ところで、色々と話しをする必要がありそうだ。……まずは、疑って悪かったな、外にシュヴァルツの幼体が来ているぞ。」
 
「戻ってきたのですね。」
 
「お嬢さんの悲鳴を聞いてから、ずっと心配そうにしている。顔を見せてやれよ。」
 
 俺は女とシュヴァルツの関係を探る為にも、そう提案する。
 
 そうですわね、と軽く口にした女は、臆する様子もなくすぐに玄関へ向かったため、俺も後に続き、そこで見た光景に驚かされる。
 
 
「……っ!」
 
 これは驚いた……。
 
 あの獰猛なシュヴァルツが、まるで主人を待っていた犬かのように、女に甘え、顔を舐めているではないか。
 
 あんな事が可能だとしたら、俺の知る限りではデシルテトラのオスマンサス辺境伯の直系だが……ドラゴンを使役するのはオスマンサスでも男系のみだと聞く。
 
 後は……。……いや、それはあり得ない。
 
 聞いて正直に話すかどうかだが……。何を考えているか分かりづらい女だからな……誘導方式でいくか。
 
「……お嬢さん、オスマンサスから来たのか?」
 
「ええ、そうですわね。出発地点は。」
 
 
 ……なんだ、その出発地点・・・・って……つまりは、オスマンサスの人間じゃないって事か?
 
 ……面倒くせぇ、ハッキリ聞くか。
 
 
「お嬢さん、何者だ? シュヴァルツが人に懐くなんて、聞いた事も見たこともねぇ。」
 
「何者かと聞かれましても……そうですわね。まずは礼儀として……私はイヴリンと申します。家名はなく、ただのイヴリンです。先ほど質問するな、とおっしゃいましたが、お名前だけでもお聞きしても?」
 
 シュヴァルツを撫でながら、凛として俺に話しかけるその女は、利口なんだか抜けているんだかわからない奴だった。
 
「そうか……ただのイヴリン・・・・・・・、俺はギルだ、ギルバート。それで? ただのイヴリンになる前はどこの国の家のご令嬢だったんだ? 俺はそっちが知りたいんだが。」
 
「……。」
 
 普通の平民があんな名乗り方するわけないだろ。話し方だって、貴族のお嬢さん丸出しだしな。
 
「申し上げるわけにはいきません。」
 
 答えないか……なかなかに強情な女だな。
 
「そうか……なら質問を変えようかイヴリン。さっきお前が風呂場で見た奴らはな、精霊だ。何故見えるのか自分で心当たりはあるか?」
 
 あの驚き様からして、この女が精霊と知らずとも、あいつらを初めて目にしたことは言うまでもない。問題は、なぜ見えるか、だ。
 もし髪の色がただの偶然ではないなら、イヴリンはもしかして……。
 
「……精霊? あの小さな子供たちが精霊なのですか?!」
 
 小さな子供たち? あれらは実態が無くぼんやりと見えるだけのはずだが。
 
「……子供たちの姿に見えたのか?」
 
「ええ、色とりどりの髪の色をして耳の少しとがった小さな人間の子供でしたわ。私には三人見えました。」
 
 
「……っは、ははははは!」
 
 駄目だ、驚きのあまり笑いがこみ上げてくる。
 ……疑いの余地はない。この女は間違いなく、バルナバスの血筋だ。
 
「な、なんですの……? 突然笑い出したりして。」
 
 
 俺は笑うのをやめ、一呼吸置いた後、ゆっくりと彼女に近づき、目の前で片膝をついて跪き、そして手を取りその甲に口付け、見上げた。
 
「……お会いできて幸栄にございます。エレミ・・・。私はエレミ族最後の精霊士、バルナバス・エレミのその最期を看取り、すべてを託された者にございます。」
 
 突然の俺の行動に、彼女は眉をひそめ手を引き抜いた。
 
「ギルバート様……お立ちくださいませ。エレミ族の血を引いていることは否定はいたしませんが、“姫”とは少々難解ですわね。バルナ……という方についても存じあげませんし。」
 
 今度は、彼女が俺の事を信じていないようだ。
 
「ま、形だけな。バルナバスに敬意を表しただけだ。お前に跪くなんぞこれっきりだ、安心しろ。いくらエレミの姫とは言え、俺がお前を敬ういわれはないからな。……ほら、これを見てみろ。」
 
 俺は立ち上がり、自分の指に嵌めていた指輪を彼女に渡す。
 
「あら、この石……私の持っている物と似ていますわね。」
 
 指輪に埋め込まれている石を見て、そう口にした彼女は、服の中から首にぶら下げたネックレスの先を俺に見せた。
 
「っ! まさか、この大きさの精霊石・・・をずっと持ち歩いていたのか?!」
 
「……精霊石? ええ、そうですわ。亡くなった母から、エレミ族の宝珠だと言われましたの。形見みたいなものです。」
 
 なんて女だ……無知とは恐ろしい。
 宝珠だって? いやいや……これは間違いなく“精霊石”だ。この大きさの精霊石なら、精霊王だって呼べるだろうよ。それよりも……。
 
「あのな、精霊石は触れる人間の欲を増幅させるチカラがあるんだぞ? 意思の弱い者はとてもじゃないが身に付けられない代物だ。俺のその指輪のサイズの石でも相当なのに、イヴリン……お前のこれ……とんでもないぞ。っくそ、近くにあるだけであてられちまうな。」
 
 ……俺もまだまだだな。
 
「そうなんですの? ……だから私の父はあんなに強欲だったのですね……納得ですわ。」
 
 ただの石ころでも持ち歩いているかのような彼女の平気そうな様子が、俺は信じられない。この女、まさか欲が無いのか? そんな人間いるはずはないだろ。
 
「とにかくまぁ、そういうことだ。詳しいことはまた今度な、じゃあな、俺は今日はもう行く。」
 
 駄目だ、今すぐ女をめちゃくちゃに抱きたい。忙しくて何か月もやってねぇからな。
 
「どちらへ行かれるのですか? ここはどこなのでしょう? どうやって帰ればいいのか教えてくれませんか?」
 
「あん? シュヴァルツに聞けよ、俺は行くから!」
 
「お待ちください! こちらに用があっていらしたのではないのですか? 私が出ていきますので、どうぞごゆっくり。」
 
 別の急用が発生したんだよ、お前のせいでな。
 
「いいから、お前こそゆっくりしてろ。まだ話すことあるから、俺が戻るまでここにいてもいいしな!」
 
「ですから、まだ話すことがあるのなら、なぜ急にどこかへ行かれるのですか? 私のせいですわよね? おかまいなく!」
 
 ああーー、もうめんどくせぇな。
 
「お前のその精霊石に当てられたんだよ! 女がいるところに行くんだ! ほっといてくれ。」
 
「……女がいるところ? ……私も女です、ここにおりますが?」
 
 不思議ちゃんか! どうして引き留めるんだ! 帰り方がわからないなら、ここにいればいいだろ!
 
「……お嬢さん、オジサン行かないとなの、今すぐ女抱きたいの、いい? 言わせないで? もう引き留めないで?」
 
 よし、行くぞ。
 
「女を抱きたいのですか? 私でよろしければお好きにどうぞ。」
 
 ……。何言ってんのこの子。おつむ大丈夫?
 
「お嬢さん、この場合のね、抱くってね、ぎゅってハグの事じゃなくってね……」
 
「性行為のことですわよね? 承知しております、私も確かめたいことがございましたので、丁度良かったですわ。とはいえ、好みもあるかと思いますので、無理強いは出来ませんが、ギルバート様が私でこと足りるようであれば、お好きにどうぞ。」
 
 ……なんなのこの子。そういう子なの? 最近の若い子って皆こんな感じなの? おじさんびっくり。

 でも……これは…据え膳じゃないか……。

 
「こと足りる。足りすぎる。お金払ってもいいくらい。え、いいの? おじさん本気にしちゃうよ?」
 
 俺、気持ち悪いな。精霊石怖いよ……。
 
「そうですか、よかったですわ。私はお風呂を頂きましたので、ギルバート様もどうぞ汗を流してきてくださいませ。」
 
 え、本当にいいの? 俺、いいの? バルナバス……あんたの親戚大胆素敵だぞ。
 
「わかった、よし、すぐ戻ってくるから、寝落ちとかやめろよ? 寝室で待ってろ。」
 
「わかりましたわ。」
 
 
 
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