【R18・完結】結婚はしません、お好きにどうぞ

hill&peanutbutter

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7 そして保留になった‥

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(sideアギット)


 イヴリンの到着前……。


 
「うわ! アギット! どうしたよその傷!」

 コンラート兄さん曰く、鋼鉄のパンツとやらを脱ぎ捨てた数日後、ウッカリして訓練を終えて汗をかいたシャツを脱ぎ捨てた際に、よりにもよって、コンラート兄さんにあの夜の傷を見られてしまった。

「……仮面舞踏会マスカレードで関係を持った女性につけられました。」

「……っ痛がった傷か? 善がった傷か?」

「……前者です……」

「……アギットお前……どんだけ下手くそだったんだ?」


 わかってる……俺は下手くそです。もう、それ以上、傷口に塩を塗らないでくれ。


「だけどお前、その傷、初夜までに治るか? そんな傷見られた日には、下手くそとか関係なしに、嫁さん怒って出てっちまうぞ?」

「……治らないかな?」

「だってお前、明後日だろ? 嫁さんこっち来るの……今、マーベルが迎えに行ってるはずだ。」

 それはマズイ。マーベルならば、道中何が遭ったとしても、間違いなく予定どおりに到着するだろう。


「シュヴァルツあたりの群れが出てきたら、さすがのマーベルも遅れるかな?」

「おい、お前、そんな事したらマーベルが泣くぞ」


 なら、やはり初夜をぶち壊すしかないな。

「おい、何考えてる? 初夜をぶち壊したらお前と嫁さんは終わりだぞ。」

 何故考えている事がバレたんだ?

「……」

 はぁ~、面倒だな……。





 そして傷は治らないまま、マーベルが俺の嫁さんを乗せた馬車と共に屋敷に戻って来た。

 俺は我が家の結婚のしきたり通り、少し身なりを整えて、エントランスで待機し、馬車を出迎える。

 どこの誰か……顔も名前も知らない俺の嫁さん。

 まるで仮面舞踏会マスカレードで一夜を共にした女性と何ら変わらないな。

 むしろ、あの女性だったら、初夜も済ませた事になるし色々気を使わなくて済むのに……。

 あ、でもどっかのデブハゲのおっさんと結婚するとか言ってたな……。可哀想に……何故か嬉しそうだったけど。


 そんな事を考えながら、到着したマーベルとの会話を終え、俺はひと呼吸置き、紳士の仮面を被り馬車をノックする。


 返ってきた声に、何故か聞き覚えがあるような気がしたが、誰だか思い出せない。

 しかし、直後、馬車の中から現れたその女性に、俺は自分の目を疑った。

 ……こ、この特徴的なモスグリーンの髪は……! ……いや、まさかな……。


 しかし、改めて声を聞き、目が合うと嫌でも思い出してしまう……あの夜、仮面マスクの奥に隠されていた美しい金色の瞳……。

 行為の最中、何度仮面マスクを剥ぎ取り、その顔を見たいと思った事かわからない。
 ベールに包まれていたその顔が、今まさに目の前にあるのだ。



 思わず言葉に詰まってしまうが、なんとか動揺を鎮め、仕切り直して、自己紹介をする。

 そして……。

『はじめまして、ヘキシルカノール王国より参りました。チュベローズ伯爵家長女、イヴリン・チュベローズと申します。よろしくお願いいたします。』

 ああ、ヘキシルカノールという事は間違い無いだろう。
 あの夜の仮面舞踏会マスカレードはその国での開催だった。

 ん? でも待てよ……ならデブハゲとの結婚は? 愛人がどうとかも言っていた気もするが……。

 
 ま、まさか俺の親父の事だったのか!?




 案の定、彼女は結婚相手を俺ではなく親父だと思っていた。

 普通に考えたらあり得ない勘違いだとは思うが、彼女は何故かやたらと親父を慕っているようなのだ。

 あんなチビデブハゲの何がいいんだ?

 だがしかし、親父が俺にと選んだ女性である以上は、何かしら理由があるはずだ。
 教えてはもらえないけどな。


 それよりも……これで、初夜問題は解決じゃないか!
 運命かもしれないなっ俺達!


 まず俺は、彼女がいつ勘違いに気付くのか、会話をしながら様子をみる事にした。

 しかし、いつまでたっても気付く気配がない。

 親父と会っても気付かない。
 俺がグイグイ攻めた会話をしても、気付こうとしていないのか、その件には触れてはこない。

 そして、俺達のデパンダンスに入って、ようやくその時はきた。



『アギット様、私の口からお伝えするのは心苦しいのですが、私は辺境伯様の妻となるために参ったのです。まるでアギット様のお相手であるかのような言動はおやめくださいませ。』


 まさかの、自分の勘違いを信じて疑わないタイプ。

 俺は少し間を置き、頭を整理しながら考える。

 そして、優しく事実を諭し、俺と結婚する事を了承するように持っていく事に決めた。



 ……のだが。


 なんて気が強くて頑固なんだ!

 思えば、あの夜もそうだった……“下手くそ”だの“最低男”だの……。

 何故親父は彼女を俺の相手に選んだんだ!

 俺よりも親父がいいと言って聞かず、もはや取り付く島もないほどに俺を拒絶する彼女に、少々言葉が過ぎた部分もあった気はするが、結局、再び親父の所へと行く羽目になってしまった。










 その後……。



「っぶ、ははははは! なんだよそれ! お前、もってるな!」

「……コンラート、そんなに笑うな、アギットが可哀想だろ。」

「でも、僕達の結婚が始まって以来の前代未聞の事態だね……どうするのさ?」


 俺は、今日の出来事を長男のルドルフ兄さんと五男のエルンスト兄さん、何故か現れた六男のコンラート兄さんに話し、相談してみることにした。

 コンラート兄さんは、ただただ面白がって、ずっと爆笑しているが、ルドルフ兄さんとエルンスト兄さんは深刻そうな表情で真面目に話を聞いてくれている。



「でもよ、良かったじゃないか、結婚が保留になったって事は、お前の背中と腕の傷も、見られる心配が無くなったなっ! っぶはははっ!」

 ……傷を見られたとしても問題のない、唯一の相手だったんだよ! ……とは言えず……。



 結局あの後、彼女は本当に親父に直談判し、勘違いした自分が悪くはあるが、俺と結婚するつもりは全くなかった、とハッキリと言って、俺達の結婚は兄弟で初めての“保留”となった。

 親父は慌てふためき、見かねた母上が、彼女と話をすると言ってそのまま連れて行ってしまったのである。

 もちろん、“保留”である以上、彼女は俺達のデパンダンスではなく母屋敷のゲストルームへの滞在となるだろう。




「だが、父上は彼女を愛人にも側仕えにもするはずはないのだから、そうなると、彼女はどうするつもりなんだ? 国へ帰るのか?」

「……それが……」


 なんと彼女は、親父の側にいる事が叶わないのなら、貴族籍を捨て、平民となりすぐにでもオスマンサスを発つというのだ。


「わぁ……さすがは父上の選んだ女性だね、考え方が独特過ぎる……普通の貴族令嬢の発想じゃないね。」

 エルンスト兄さんの言う通りだ。

 俺も、聞いた時は耳を疑ったが、彼女はそんな突拍子もない話を、本気で口にしているようだった。


「っ……! よっぽどアギットと結婚したくないんだな! ぶはははは! 初対面のくせに、何したんだよお前! ははははは!」

「コンラート、お前は黙っていろ! 笑いたいだけなら出ていけ。」

「……」

 ルドルフ兄さんに叱られ、黙るコンラート兄さん。



「だが、アギット、お前は彼女と会って、どうだったんだ? 父上の選ぶ相手は、兄弟みんな、第一印象からすでに惹かれ合ってたろ?」

 ……そう、そうなのだ。

 しかし……俺は第一印象もなにも、いつが初対面かもわからず、複雑すぎて自分の気持ちもわからない。

 美しい女性だとは思うが、考えれば考えるほど、あの夜の“下手くそ! ”がチラつく。

「容姿は……嫌いじゃない……けど、性格が……合わないかもしれない……」

「そっかぁ、なら、今回はハズレ・・・だったのかぁ? 父上、初めてのハズレかな。」

 ……ハズレ……?

 俺には、エルンスト兄さんの言葉がいまいちピンとこなかった。

 だが、彼女が平民になると言うなら俺は、結婚相手がいなくなる。つまり、また親父から嫁さんを探してもらわなければならないのか?


「……アギット、お前はどうしたいんだ? 今の彼女と結婚したいのか?」

 結婚したいかと聞かれてもな……。

 すぐに答えの出ない俺に、再びコンラート兄さんが口を挟む。


「もうさぁ、こうなったら、チェンジ・・・・っつって、親父に頼んじまえよ! だはははは! チェンジ! ってな!」


「コンラート、お前は少し黙れ」

「……」

 兄さん達の嫁さんは皆、初めは兄さん達の見た目に惹かれて、一緒に過ごすうちに、さらにその内面に惹かれているからか、結婚後も皆凄く仲がいい。

 もちろん兄さん達も、親父の選んだ相手の第一印象で惹かれている。つまり、俺は一人だけスタート地点がおかしいのだ。


「彼女が父上を慕っている以上は、俺の出る幕は無いと思う。理由はわからないけど、本当に嫌われてるかもしれない……」

「……そうか、お前がそう思っているなら仕方ないな。」


 仕方ない……か、しかし、仕方ないで済むのだろうか。済ませていいのだろうか。


「ったく……アギットお前、親父みたいなチビデブハゲに負けてんなよ……“俺の嫁だ”っつって、奪いかえすくらい情熱的になれねぇのか?」
 
「コンラート! お前はもうしゃべるな!」
 
 ルドルフ兄さんに一喝され、舌を出してふてくされるコンラート兄さん。
 
 
「ねえ、アギット、ひとまずさ、女性の事は女性に任せてみたら? 母上が話をすると言ったんだろう?」

 エルンスト兄さんは、ルドルフ兄さんとは違う観点から助言をくれた。

「俺もそれがいいと思うぜ。そうしろよ、今はお前が何か言っても悪手だ。それよりさ、マーベルに聞いたが、その子、侍女の一人も連れずに来たって言うし、荷物もトランクケース一個だとか? 見送りもなく、一人で屋敷から出てきたらしいぜ? 平民になるとかいう貴族令嬢らしからぬ言動といい、なんか関係あるかもな。俺って名探偵だろ! だははは!」


 それは何かおかしい事なのだろうか?

「え?! 僕の奥さんは嫁入りの日、侍女五人と荷馬車三台連なってきたよ。」

 荷馬車三台分?! 家ごと引っ越してきたのか?

「俺のニーナも侍女三人連れてきたぜ? 荷馬車は二台だったけど」

「私の妻もエルンストの嫁さんと同じくらいだったかな……お前の相手は伯爵家の令嬢なのだろう? 普通じゃ考えられないな……」

 その普通がわからないが、彼女は絶対に普通じゃないので、頷けてしまう。

「単に、ただのミニマリストかもしれないじゃないか。」

「はぁ……アギット、お前はもう少し“恋愛脳”を養え」

「え? 恋愛脳? 突然なんだよ。養えって……どうやって? 兄さん達はどうやって養ったの?」

「おいおいアギット……童貞かよ!」

 童貞だったよ、つい最近まで。悪いか。



「「「それはな……」」」




「恋をして、だ」
「セックスかな?」
「出会った瞬間授かるんだよ!」


「……。」

 三者三様の言葉が帰ってきた。


 一番マトモそうなのは、ルドルフ兄さんの“恋をして”だと思うが……。

 つまり、俺も誰かに恋をしない事には始まらないわけで…… 恋って、したくて出来るものなのだろうか?



 その日の兄弟間の話し合いは、何故か俺が恋愛脳を養うこと、で終わってしまった。





 結局、三日後に俺達の結婚式を挙げる予定で、既に会場の準備やら何やらがすすめられていたが、急遽それらも全て“保留”とされたのだった……。






 
 
 
 
 
 その夜、俺は気分転換に、三男のフリードリヒ兄さんと共に夜のパトロールに出て、フリード兄さんにも軽く状況を説明した。
 
 フリード兄さんのパートナーは同じ男性で、ヴィルヘルムといい、俺はヴィルさんと呼び、兄のように慕っている。


「俺の知らない間に、なんだか大変な事になってたんだな……」

「そうなんだよ……ヴィルさんと兄さんが羨ましいよ、恋人であり夫夫であり、友であり戦友でもあるんだもんな……」

 俺の相手も男なら楽しかったかもしれない。
 でも男を抱けるかな……いや、俺が抱かれるのか? いや……多分無理だ。


「アギット、俺は親父がヴィルを連れて来た時、かなり戸惑ったぞ? なにせ、男だったからな……」

 そう言えばそうだった。
 全員が第一印象で惹かれあったわけじゃなかった!


「兄のこんな話しを聞くのは嫌かもしれないが……俺はヴィルに抱かれる方だかな……なんと言うのか……なんとなく、女性の気持ちもわからないでもないんだ」


 あえて聞いた事はなかったが……やはりそうだったのか……。まぁ、兄さんは美人で、ヴィルさんは男らしい人だからな。むしろ、逆が想像つかない。


「アギット、お前、女性は何もしなくても勝手に寄って来て、いつの間にか勝手に自分を好きになると思ってるだろ?」

「……まぁ、大体いつもそうだから……」

 向こうから寄ってくるくせに、俺が辺境伯の息子だと知ると去って行くか、身体だけを目当てにすり寄って来るかの二通りに分かれる。

 俺はそういう女が大の苦手だ。


「ちなみに、俺が思うに我々兄弟は来るものは拒み、去るものは追わず、手に入らないものを欲する、という三段構えの悪い特性がある。話しを聞くに、お前とその彼女の相性はいいと思うぞ。」

「……確かに言われてみたら、兄さん達の嫁さん皆自由奔放だもんな……」

 まぁ、だからこそオスマンサスでやっていけるという事なのだろうが。

「女性は熱しやすく冷めやすいとも言うからな、寄ってくる女性は離れる時も早いんだ、ルドルフ兄さんの元婚約者達がいい例だ。」

「ああ……それな、聞いた事ある……」

 そのせいで、俺達下の兄弟達にその悪い特性が芽生えたとも言えよう。

「ちなみに俺はヴィルに、いつもこう言ってるんだ……“お前なんかいつでも棄ててやる、俺はお前なんかいなくても生きて行けるからな”ってな」

 え、ヴィルさん可哀想だな……。

 ん? 待てよ、つまり兄さんは、ヴィルさんにとって“手に入らないもの”でい続けてるという事か?

「でもヴィルは必ず言うんだ……“棄てられても、必ずまた振り向かせる。何度だって俺に惚れさせる”ってな……」

 うわ~カッコ良すぎだろヴィルさん!

「……カッコいいだろ、ヴィルヘルムという男は……あいつは正真正銘の男をも惚れさせる男なんだ……っと…ゴホン、つまりだな、何が言いたいかと言うとだな……」

「伝わったよ兄さん……つまり、どんな事情があるにせよ、親父が選んだ相手は間違いないから、俺がイヴリンに好かれる努力をして、振り向かせてみろって事だろ? ……なんだかんだ、コンラート兄さんが言ってた事と同じだけど、フリード兄さんだと重みが違うよ。ありがとう兄さん。」


 イヴリンは、何もしなければ向こうからは俺に歩み寄ってはくれない。もちろん、俺に興味すら持ってはいないから、好きにもなってはくれない。

 つまり、俺達は今、フリード兄さんとヴィルさんみたいに、対等なんだ。

 だがむしろ、彼女があの夜の相手だと気付いている俺の方が、むしろ一歩リードしているのかもしれないが。

 あの様子だと、彼女は全く俺だと気付いてはいない。


「……アギット……お前は可愛い末っ子だからな、全員がお前の味方だ、皆がお前を応援していると思え。」

 フリード兄さんは幼い子供にするように、俺の頭をワシャワシャと撫で回した。


 
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