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1 プロローグ
しおりを挟む(sideイヴリン)
「あの……ここまで来て騙したようで申し訳ないのですが、私……その……経験が無くて……」
広く豪華なベッドに押し倒されている私の目の前には、仮面で顔を半分隠した男性がいた。
その男性の目の前にも、仮面で顔を半分隠す私がいる。
「……」
この期に及んでの私の突然の告白に、男性が何を思ったかは、表情が仮面の下に隠れており、全くわからない。
しかし、仮面の奥に見えるブルーの瞳がほんの少し揺らいだような気がした。
「あ、でも、やめましょうとか、そんな事を言うつもりは全くありません! ただ、少しだけ手加減を……して頂ければと……」
「……何故、初めてをこのような仮面舞踏会で行きずりの相手に?」
ドレスを脱がせかけていた手を止めた男性は、そのまま会話をしながら優しく私の腕を引き、身体を起き上がらせた。
落ち着きのある男性の声が、耳元に近く聞こえ、頬が熱くなる。
「っ……実は私、親ほど歳の離れた方のもとへ嫁ぐ事が決まっているのです。……大きなお腹に立派な二重顎……髪の毛は申し訳程度に残っているだけのお方なのですけど……。噂では数年前から若く美しい女性ばかりを集めて屋敷に囲っているそうでして……」
男性はじっと私に視線を向けたまま、黙って話しを聞いてくれていた。
「……つまり、そんな男に初めてをやるくらいならば、仮面舞踏会で素性を隠し出会った男と、後腐れなく、初めてを捨てようとした、というわけか……なんと言っていいか……」
まるで同情でもするかのように、仮面ごしにじっとこちらを見つめたまま、男性は自分の両手を私の肩に置き、俯いてボソッと何かと呟いた。
「……どうかされましたか? あと、少々誤解されているようですが私はっ……」
「っすまないご令嬢……実は……」
男性は顔を上げ、少し気まずそうに言った。
「……実は私も経験がないんだ」
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