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第二章

30 夢は叶った 【完結】

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「……イミー様! エイミー様! ……ぁ! 良かった! エイミー様ぁ~!」

 
 目を開けると、泣きべそをかいたマティが、木の隣に横たわる私に抱きついていた。

 結構長い時間ユノンとおしゃべりしていた気がしたけど、私が気を失っていたのはほんの1、2分だったという。


「マティ、屋敷に戻ろう、が枝を折ったのだから責任を取らなくちゃ……」

「え?! エイミー様?!」




 と、その前に……。

 私は先ほど聞いたラタトスクのチカラを試してみるためにも、エスティリアの屋敷の庭にある小さな木を思い浮かべながら、チビ世界樹に触れる。

 そのままイメージしながらゆっくりと魔力を流す……と……。

「わぁ! 樹がっ樹が、変わりました!?」

 マティが驚いているが、私も驚いた……どうやらチビ世界樹の植え替え・・・・は成功のようである。








 屋敷へ戻った私達は、すぐさまドラゴンに乗り込みエスティリアにとんぼ返りした。

 アルノーとリュシアンには、落ちついたら説明する、と離陸しながら叫び伝えるだけとなってしまったが、今は一刻を争うのでご理解頂きたい。











 エスティリアに到着するも、屋敷には誰もいない。

「まだ皆王宮にいるのね! よし、このままドラゴンで行っちゃお!」

「ぇえ!? 大丈夫ですかぁ?!」

「大丈夫大丈夫~」

 心配するレイ達をよそに、ドラゴンで王宮に着陸した私達だったが……。





 ……全く大丈夫じゃなかった。


 王宮の警備兵達は、突然のドラゴンの登場に色んな意味で大騒ぎ……しかもそこにアルドはいない。

 あ、一応私も王子妃なので王族の端くれでして……無断侵入では決して……。


 魔法大国であるがゆえに、本人確認が慎重かつ厳重であるのは仕方ないが……今は急いでるんだってば。

「会議中の私の夫を呼んできて! 証明してくれますから! エドゥアルド第2王子が私の夫です!」

 私がそう叫ぶと、警備兵達は一斉に“え、知ってますけど”といった顔をして私を見る。


 すると……

「エイミー! 戻ったのかっ早かったな! (チュッチュッ)」


 あ、そうだ、3泊4日とか言ってたんだった。

 どこからかアルドが転移して現れ、私をぎゅっと抱き締めたかと思えば、これでもかというほどにチュッチュッと熱烈にキスしてくるので、それを見た警備兵達はサァッと散って行く。


「んっ! ……アルド、今はそれどころじゃないの……んっ、大事な話しがっ! ……んん!」

 私はアルドの腕からすり抜け、話しがある! と言って屋敷へと転移してもらった。








 私は取り戻したエイミー自分の記憶を辿り、世界樹の枝を折った事からチビ世界樹でユノンと会話した事から何から何まで、アルドに包み隠さず話した。

 夫婦の間には隠し事はないほうがいいからね。


 最後まで黙って話しを聞いてくれたアルドは、長い長い話しを全て伝え終えて疲労困憊の私に、とどめを刺すかのように言う。



「すまない……エイミーが一生懸命私に説明している姿が可愛すぎて……私の息子が元気になってしまった」

「……は?」

 コイツ、ナニイッチャッテルノ?

「先ほどまでの会議で私も疲れてしまっているようだ……話しをする前に癒やしてはくれないかエイミー……(チュッチュッチュッ)」


 いや、話しをする前に、って……私今、全部話しましたけど、話し終えましたよ?


 とか、思っている間に、良しと言っていないにも関わらず、アルドは私の服を次々と脱がしてしまい、しまいには私の胸に顔を挟め、すぅ~っと大きく深呼吸を繰り返してはもみもみと、形を確かめるように両手で揉み込んでいた。


「……もう……こんな大変な時に……1回だけだからね」


「いや、エイミー……最低でも・・・・3回は必要だ! これ以降、いつ出来るかわからないからな!」


 私の夫は人差し指、中指、薬指を3歩立て、私の前にかざし力強く口にしたのだが、私は回数よりもその後に続いた言葉が気になってしまった。

 これ以降、いつできるかわからない? とは? ……

 もしかして、アルドも魔物退治に行ったりするのだろうか……それとも対策本部にカンヅメなのだろうか……。
 まさか、アルドが魔物退治の前線に立つなんて事はないよね?

 さすがのアルドでも危ないんじゃ……。


 そんな事が頭を過ぎれば、ついつい私だってアルドと離れたくないと、思ってしまう……。


 結局私達はそのまま、何度も何度も夢中で愛し合った。














 事後……。


 あれだけ夢中で何度も愛し合ったのに、何故か話しをする元気があるのは、きっとアルドがこっそりと治癒魔法をかけたに違いない。

 ベッドの上で、アルドの腕に抱かれながら、私達は話しの続きを始めた。


「それでエイミー、まさか本当に君がやらかしていたとはな……いや、昔のエイミーが、だが……」

「アルド……もう、私でいいの、がやらかしたの」

 私はもう、エイミーが過去に犯した過ちも全て、自分が責任をとると決めたのだ……私がエイミーだから。

「……わかった」


 しかしアルドは言った……今回の件については全てを我々で秘匿する事にした、と。

 私が枝を折った事に始まった世界樹が実をつけないというボイコット事件については、その理由はアルドとドラゴン、マティがいなければ知り得なかった情報であり、人間は予期せぬ災いに対応する術を持つ必要がある、というアルドとラクランさんとサムの意見が一致したらしい。

 王宮での会議でも、原因は不明であるといい通したのだそうだ。



 それに……。


「必ずしも事実を公にする事が良いとは限らない……エイミーを真似る愉快犯も出てきかねないからな……まぁ、よほどの実力者でない限りは普通は世界樹にたどり着く事さえできないから、その心配はほとんど無いが……」

「……愉快犯……模倣犯とかね、確かに最悪だわ……」


 私としても、私を真似て世界樹に挑み、帰らぬ人となる馬鹿どもが増えるのは目覚めが悪い。



「それよりエイミー、我が屋敷に世界樹を植え替えた、と言っていたが……」

「そうなの、ファリナッチ公爵邸の裏に魔物が集まると困るしさ、ここならもし魔物が来てもドラゴン達の遊び相手・・・・になるかなって(ニコニコ)、サムも退屈そうだし!」

 それに、今回はすでに大量の実を収穫したが、病気に効くのならば、不治の病に困っている人に秘密裏にあげてもいいと思っている。




「……我が妻の考える事は、いつも私の想像を超えてくるな……」

 アルド曰く、普通は魔物と聞けば怯えるのが普通であり、自らの庭に魔物を呼び寄せようとする妻はいない、と断言された。

「ちゃんと剪定して、小さいままにすればそんなに魔物も来ないでしょ」

「……まぁ、ドラゴン達が退屈しない程度には、下級の魔物くらいなら来てもいいが……中級や上級が来るとなるとエイミーの身が心配だ」

 私が心配?

「大丈夫、私には高位の護衛が6人もいるんだから!」

 朝からセクハラをかます余裕のある護衛達には、いい刺激になるだろう。
 マティの魔法の練習……いや、もはや実践訓練かな……うん、丁度いいはずだ。








 こうして、我が屋敷の庭が、魔物退治の訓練場となるのは、もう少し先の話し……。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 



 
 
 魔物の大量発生の件は、翌日、一斉にエスティリアから周辺各国へと通達された。

 ある程度予想していた通り、各国の有力貴族達はこぞって1番安全であろう魔法大国エスティリアへと避難を開始し、転移門は大混雑となり、一時は転移門を閉鎖せざるを得ない状況に……。




 エスティリアの魔法師と騎士達は、どの国よりも先行して討伐部隊を編成し魔物の討伐へと繰り出した。
 もちろん、周辺各国も自国の隣接する魔物の森に向け、討伐隊を送り出したと聞いている。



 アルドは、エスティリアの討伐部隊の総指揮官としてドラゴンに乗り上空から指揮をとっていたのだが、なんとサムとラクランさんまでドラゴンに騎乗し、アルドの補佐につきたい、と志願したのである。

 ……2人とも、一応ウェステリアの人だけど、エスティリアで活躍してくれて嬉しいよ。


 世界樹の実を食べずに、巣で大繁殖を遂げていた魔物達だったが、繁殖スピードに森の餌が追いつかず、飢餓状態に陥っており、とても凶暴化していた。
 こんな状態の魔物と出くわしてしまえば、陸路の騎士達には大変厳しい戦いとなってしまう……はずだったのだが……。


 場所が森という事もあり、先行してドラゴンで森の警戒に当たっていたビルの触手魔法が魔物の足止めに多いに役立ったのである。

 さらには世界樹が実をつけないとわかった直後から、リタに頼んで作ってもらった世界樹の実に似せた毒入り果実により、魔物達は討伐隊が到着する前にはすでにかなりの数まで減っていたのだ。

 それは、見事なまでの影のチームプレー。



「なんかさ、討伐隊組まなくても私の護衛達で解決出来ちゃった感じしない?」

 上空の1番安全な場所でドラゴンに乗りながら、呑気な事を言う私に、すかさずロンが言う。


「僕らの仕事……国、護るじゃない、エイミー様の護衛……」

 ロンが正論で私を諭す。


「……はい、間違いございませぬ……今回は皆に私の尻拭いさせちゃったから、アルドから特別ボーナスを支給してもらいましょ!」






 こうして、各国が私の護衛達の手柄により、犠牲者を出すことなく、魔物の討伐を終えるのだった。




 ちなみに、ぷんぷん状態だった世界樹だが……私がチビ世界樹を育てはじめた事を察知したのか、後日再び蛇君が遣いとして我が屋敷にやってきたのである。
 
 何かと思ったら、“我が子をよろしく”との伝言を預かって来たというではないか。

 世界樹は“我が子”といったが、どうやら御本尊の世界樹と我が屋のチビ世界樹は繋がっているようで、世界樹からしたら視える世界が広がり、いい退屈しのぎになったからか、ご機嫌がなおり、花を咲かせているそうなので、直に実もつくだろう、との事。

 ……まぁ、ファリナッチ公爵邸の裏の丘じゃ、退屈しのぎにはならなかっただろうね……世界樹、なかなか人間っぽいな。

 さすがは小説の世界。




 こうして、私のやらかしはなんとか無事に収束する。









 私は、多大なる迷惑をかけた護衛6レンジャーとラクランさんには事の真相を話したい、とアルドに願い出て、お許しを頂いた。




 そして今夜は今回の騒動の慰労と私の謝罪を兼ねた豪華ディナーパーティーである。
 



「いやぁ~皆様、この度は私の過去の行いにより大変ご迷惑をおかけいたしました!」


 皆には、私の失っていた記憶がチビ世界樹に触れたら思い出した、という事にして、ユノンと入れ替わったくだりは話さなかった。
 エイミーの特殊能力であるラタトスクのチカラについても、一応簡単には説明しがてら、いかにしてか弱い私が世界樹に辿り着いたのかなどを話したのだが……。

 皆はさほど興味もなさそうで、そんな事よりも、と、口々に私にこう言った。

 “お願いだから、もう二度と馬鹿な真似はしないでくれ”と……。



「……私は記憶を取り戻した事で、過去の数々の悪事を悔い改め、生まれ変わりました! これからはニューエイミーとして、模範生のように生きますので、ご安心ください! (ニコニコ)」

 声高らかに決意表明をするも、向けられる眼差しは……疑いの眼差し……解せぬ。

 完全にヤバい奴認定されてしまったようだか、もはや仕方あるまい……やるべき事はただ1つ!
 必殺、ご機嫌取り、である。


「ゴホンッ……ぇえ~、つきましては、護衛の皆様には10日間の特別休暇と、2.5ヶ月分の特別ボーナスを支給させて頂きます! 特別ゲストのラクランさんにも金一封を贈呈させて頂きます! ……皆様、明日から素敵な10日間をお過ごしくださいませ! ……そして今夜は無礼講です、沢山食べて沢山飲んで、楽しんでくださいっ! ……ご清聴、ありがとうございました! (ペコリ)」



 この言葉の直後、ワッと会場は盛り上がりを見せる。

 私の護衛達もラクランさんも皆、酒が好きである事は調査済だ。


 その夜、皆リラックスしながら楽しそうに食べて飲んで……宴会は朝まで続いたのだった。


 
 
 
 
 
 ○○●●
 
 
 
 
 
 
 それからしばらくの後、私はアルドの目を盗んでは度々庭のチビ世界樹に触れていた。
 
 何故そんな事をしているかって? 

 それはもちろん……向こうの世界のユノンとおしゃべりするためである。
 
 
 
 あれから何度か試してみると、チビ世界樹に魔力を流すことで、百発百中でいつでもユノンの精神にアクセスする事が出来る事がわかったのだ。
 

 もちろん、アルドだけは私がチビ世界樹に触れて何をしているのかを知っている。

 
 私とユノンは思いの外気が合い、ユノンとのおしゃべりの時間は楽しくて仕方がないのだが、どうやらユノンとおしゃべりしている間、私は意識が無い状態であるようで、チビ世界樹に魔獣が集まってしまう事を考えると、長時間のおしゃべりは危険すぎる、とアルドから禁止されてしまったのだ。

 ユノンの存在を知らない護衛達に、チビ世界樹の横で気を失うから見張っていて、なんて頼めるわけにもいかず……。

 だがしかし! 私はユノンとのおしゃべりを我慢出来ない……世界樹が実をつけていないタイミングを見計らい、私はこっそりとおしゃべりを続けているのであった。

 ちなみに、数年実をつけなかったからか、世界樹はふた月おきという脅威の速さで実をつけている。
 実の前に花の咲かせるのだが、その花の香りでも魔獣が誘われて寄ってくるため、危険なのだ。


 つまり、私がユノンとおしゃべりするチャンスは、チビ世界樹の実を収穫し、次に花を咲かせるまでの僅かな一時だけなのである。






 今日も今日とて私はアルドが仕事へ行ったのを見計らい、護衛を何も言わないロンとマティに頼み、こっそりと庭へ出る。

 そして……。


「ユノン、私だよ~」

『エイミー! 待ってたわよ!』


 こうして私達は、こちらの世界とあちらの世界の近況報告し合う。


『ねぇエイミー、私、一つ思い出した事があるんだけど……ファリナッチ公爵邸の私の部屋の肖像画の裏に、隠しスペースがあるのわかる? その中を見てみてくれない? 面白い物が入ってるから』


 その日のおしゃべりの終わりに、エイミーが突然そんな事を言い出した。

 私は嬉々としてその話しを引き受ける。


 一体、何が隠されているのだろうか。


 私はユノンとのおしゃべりを終え、スッと目を醒ます。


 しかし、目を開けると目の前には怒り顔をした、私の旦那様がいた……何故バレた……これはマズイぞ……お仕置きセックスコースかもしれません。


「あ、あれ!? 私ってばこんな所で居眠りしちゃってた? ……」

「……エイミー、またユノンとおしゃべりしていたな? 危険だから辞めろと言ったはずだ」

「ち、違うよ! いや……違うくないけど……実も花もないから大丈夫かなって……」

「……」

 アルドはそういう問題ではない、という表情で腕を組み、無言の圧をかけてくる。

「……ごめんなさい……(しょんぼり)」

「……次からは私がいる時にしてくれ、いいな?」

「……はい……え?」


 ん? アルドのいる時ならおしゃべりの許可が出た、という事だろうか? 禁止だった事を考えれば、かなりの規制緩和である。


「ありがとうアルドっ、大好き(チュッ)」

「全く……君はこんな時ばかり……(チュッ)……だが、嬉しい……(チュッチュッ)私も愛してるよ(チュッ)」

 機嫌がなおった様子のアルドに、私はついでとばかりにファリナッチ公爵邸に行きたいと話してみた。

「ファリナッチ公爵邸へ? 何をしに? ……まぁいい、これからドラゴンで行くか? 私は今日はもう休みなんだ」

「うっそ、やったぁっ行きたいっ! さすが私の旦那さま」



 こうして、私達はドラゴンに乗り、またもや入国審査をスルーして帰省するのだった。


 もはや見慣れた光景とも言える突然のドラゴンでの帰省には、ファリナッチ公爵邸の誰もが驚かなくなっていた。



「ただいま~今日はアルドも一緒だよ~」

「義兄上! ようこそいらっしゃいました! どうぞ中へ!」

 アルドも一緒と言う私の言葉に、部屋から飛び出してきたアルド大好きアルノーは、私をスルーしてアルドも屋敷の中へと案内する。

 ……あれ? アルノーさん? お姉ちゃんもいるのよ?
 まぁ、いいや、隠しスペースから何が出てくるかわからない以上、アルノーにアルドを接待してもらっていたほうが都合がいい。


「アルド、私、ちょっと自分の部屋に寄ってから行くねぇ、アルノーとおしゃべりしててあげてっ」

「ああ、わかった」



 過保護なアルドだが、比較的ファリナッチ公爵邸の屋敷内であれば別行動を取れるようになっていた……なぜなら、この屋敷全体にアルノーが結界を張り、侵入者や転移での出入りを制限している事を知っているからだ。

 つまり、ファリナッチ公爵邸はまるで王宮並みのセキュリティなのである。




「さってと……肖像画肖像画……あ、あれか」

 私は可愛らしいエイミーの幼少期の姿の肖像画を外し、壁に魔力を流す。

 すると、ポコンッと壁が引き出しのように飛び出して来たので、私はさらに引っ張り出し、中を覗き込む。


「……何これ? ……手紙?」


 中には、手紙のような封筒がいくつも入っており、手に取ってみるとそれは過去のエイミーが誰か宛に書いた物のようだった。

 私は手紙を開け、読んでみる。




『デブな私の婚約者エドゥアルドへ

 転移魔法なんて覚える前にまずは痩せなさいよ、あんたが痩せるまで手紙の返事は送ってやらないんだから

 でも、一応返事はちゃんと書いてあげるわ』




『まだ痩せてない私の婚約者へ

 だから、あんたが痩せない限り、花祭りにも一緒には行かないわ!
 髪飾りは可愛いからもらっておいてあげる、これをつけた私と花祭りに行きたかったら、早く痩せなさい』




『痩せる気のない私の食いしん坊な婚約者へ

 私を祖父母を亡くしているわ、だから、貴方の悲しい気持ちはわかるわ……だから、今回だけは、特別に優しい言葉をかけてあげる……

 元気だしなさい、エドゥアルド』




『返事が欲しければ痩せたらいい婚約者エドゥアルドへ

 雪なんて、私の国では降らないわ、冷たいのも寒いのも、私は苦手よ、あ、でも、貴方はデブだから寒くても平気そうね、温かそうだわ……

 雪玉を貴方にぶつけるのは少しやってあげてもいいわね、逃げ回ると、痩せるかもしれないわ

 私を好きなら早く痩せなさいよ』




『一刻も早く痩せなさい私の婚約者!

 同じ学園に来るなら、必ず痩せてきなさい、痩せてなければあんたは他人以下よ、私には見えないわ、

 婚約者と同じ学園なんて、ちょっと楽しそうだから、絶対に痩せてから来なさいよね!』


 
『エスコートは痩せてからよ私の婚約者殿

 もうそんな遠距離の転移魔法が使えるのね、そんなに魔法の才能があるのに、デブじゃ格好がつかないわ、痩せなさいよ

 もちろん私は美しいわ、そんな私をエスコートしたいなら、今度こそ痩せて迎えに来なさいよね、デブのままだったら……私も考えがあるわ……

 いい? 最後のチャンスよ?

 痩せて迎えにきたら、一緒にダンスも踊ってあげるし、なんならキス位は許してあげちゃうわ

 どうして私が痩せろ痩せろばかり言うかわかる? 貴方は痩せたら絶対素敵になるわ、だって、エスティリアの国王陛下はとても素敵な方だし、王妃様もとても美しい方だもの……貴方の優しい性格は好ましいわ、だから、早く痩せて迎えに来なさいよね』



 
 
 ……エイミーは、アルドの手紙にちゃんと毎回返事を書いていたのだ。

 しかも……。


「エイミー……貴女、ツンデレが過ぎるわよ……貴女もアルドが好きだったんじゃない……」


 私は幼いエイミーの書いていた手紙を胸に抱き締め、当時のすれ違いまくりの2人の事を思ったら、どうにもこらえきれず、涙が溢れてしまった。





「……エイミー? どうしたんだ? ……泣いているのか?! ……ん? なんだコレは……手紙……か?」


 最悪のタイミングで、私が遅いから心配して迎えに来たのであろうアルドが部屋に現れる。

 私はこの手紙をアルドに見てほしくなかった。

 過去のエイミーも未来のエイミーも自分であると決めたとはいえ、やはりこの手紙は当時のエイミーの気持ちであり、やはり私の気持ちではない。

 なんだか、アルドと元カノとの手紙のやり取りを見てしまったような気分である。



「見ないでアルドっ! お願い、見ないで……!」

 私は涙を流しながら、床に散らばる手紙を拾いあげたアルドに声を荒げてしまう。

 しかし、遅かった。

 アルドは読んでしまっている……しかも、1枚、もう1枚、と拾いあげては全て読んでいる。

 そして最後に、私が胸に抱き締めている1枚を優しく抜き取り、読んでしまった。


「……エイミー、なぜコレを私に見られたくないんだ? ……泣くほど恥ずかしいのか?」

 アルドは涙を流す私の肩をそっと抱き寄せる。


「エイミーも……アルドの事を好きだったみたい……両思いだったんだね……なのに……私が……っ」

 エイミーとして生きると決めた決意が、頭の中で崩れていく音がした。


「エイミー? ……エイミー、またユノンの感情とエイミー感情とかごちゃごちゃになっているんだな……エイミー、思い出してくれ、私は今の君を愛している、過去のエイミーも好きだったが、あれは子供のままごとのようなものだ……今の私は、エイミー、を愛している、君が城から逃げ出そうとしたあの夜、私は君に恋したんだ」


 アルドの言葉と身体の温もりが、私の冷え切った心と身体を包み込む。

「エイミー……それに……この手紙の返事を読んでも、全く好かれている気がしないのだが……君はこの手紙の何をもって、過去のエイミーが私を好きだったと思ったんだ? 両思いとは言えないと思うのだが……」


 私は最後のアルドの言葉に、急に涙が引っ込んでしまった。

「……え?」

「……ん?」

「アルド、わからないの? ……最後の手紙なんて、もろ大好きって感じじゃない? きっと、デビュタントの日、痩せた姿で迎えに行っていたら、アルドは傷つくことはなかったはずよ……ダンスを踊って、プロポーズしてキスして……」


 ああ、想像したらまた涙が出てきた。


「……エイミー、泣くな……私はエイミーから手紙の返事をもらっていなかったから、痩せなかった……ありのままの自分で迎えに行って、振られたんだ、それが現実だ……過去のエイミーは私を振ったんだよ」

「でも……痩せたアルドを見れば、今の私みたいにラブラブになってたかも!」

「……エイミー、タラレバを言い出してはキリがないぞ」


 アルドに真顔でド正論をかまされ、再び涙が引っ込む。


「我々に限らず、男女の出会いやその先は縁だ……私と過去のエイミーには縁がなかったが、今のエイミーとは縁があった、それでいいじゃないか……(チュッ)違うか? ……ん?」


 アルドは私を甘やかす天才かもしれない……床に座り込む私を持ち上げ、向かい合うように自分の太ももの上に乗せ抱っこし、そのままギュッと抱き締め、ポンポンの優しく頭を撫でてくれるそのスマートな行動に、私はキュンキュンしてしまう。


「……違うくない……アルドは私のだもん……私が結婚したの……(ギュッ)」

 私もアルドにしがみつき、アルドの首すじを甘咬みする。


「……エイミー、それ以上可愛い言動をすると、実家だと言うのに私の息子が活動を開始してしまいそうだ……」

 アルドの息子は空気が読めないらしい。

「アルドに帰ろう……私達の屋敷に……それで、いっぱいいっぱい抱いて……そのまま、明日も一緒にいて欲しい……(ギュッ)」

「……エイミー……まさか……私に、甘えて、いる……のか?」

「うん……甘えてる……駄目? (スリスリ)」

 私は犬や猫がするように、アルドの顔に鼻先をスリスリとすりつける。

「……」


 アルドは喜びを噛み締めているようだ……私は、もっと喜ばせてあげる事にした。


「アルド、一生私を離さないでね……私はもう、アルドがいないと生きていけない……お願い……愛してるの……(ギュッ)」


「……エイミー! 今すぐ帰ろう!」

 アルドは私を抱き抱えたまま、庭のドラゴンに乗り込み、アルノー達に挨拶もせずに離陸した。

 まぁ、慌ただしいのはいつもの事だ、わかってくれるだろう。


 とにかく急いでいたらしいアルドは、ドラゴンの上でも私にキスをし続けながら、シュドティリアとエスティリアの国境を越えるとすぐに、ドラゴンごと屋敷へ転移してしまった。


 庭にいた獣化状態のマティに、ドラゴンを頼む、と一方的に預けると、寝室へ直行し、私を服を魔法で消し去ってしまう。

 こんなに興奮し性急なアルドは初めてだ。


「エイミー、すまない、私は今理性が飛んでしまっている……君を壊してしまうかもしれない……」
 
「いいよ……ちゃんと治してくれるなら……(チュッ)」

「なんて事だ……こんな夢のような日が来るとは……(ブツブツ)……」





 私達はそのまま身体を重ね続け、丸一日寝室へ籠もりきりとなった。











 
 もちろん、寝室から出た朝にはいつものようにレイのセクハラ発言でからかわれる。
 
 
 
 こんな朝が私には凄く幸せだ。
 
 
 









 
 
 愛して愛されて美しさを保つ幸せな結婚……私の夢はこうして、異世界で叶ったのだった。
 
 



 fin..
 
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