【R18・完結】婚約解消した王子が性癖を拗らせて戻ってきた

hill&peanutbutter

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第二章

26 知らない事だらけ

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「おや、また会えましたね私の姫君……」
 
「……マウリッツィオ王子……」
 
 
 アルドが低い声でその名を呼んだ。
 
 
 マリモッコリ、まだこの国にいたのかよ……日帰りにしとけよ、もう……痛いよ。
 
 
「今日はレイノルドのは一緒ではないのですね……あぁ、エドゥアルド王子がご一緒でしたか」
 
 いやいや、普通は真っ先にアルドの存在に気付くだろう……この人、完全にアルドの事も私の事も舐めている、そう伝わってくるほどに、それはそれは嫌な感じの人なのである。
 
 
「マウリッツィオ王子は、これから国へお戻りですか?」
 
 大人なアルドは、さりげなく私の姿を自分の後ろに隠し、何食わぬ顔で通常の王子モードで話しかけた。
 私も痛みに耐え、何とか平然を装う。
 
「いえ、昨日帰るつもりでしたが気が変わりましてね、もうしばらくこちらに滞在させてもらうことになりました……それより……よろしいのですか? だいぶお辛そうですけれど……」
 
「……っ!」
 
 アルドの後ろにいる私の事を指摘するマリモッコリに、さすがのアルドも私が心配なのか、どちらを優先すべきか悩んでいるようだった。
 
 そんなことより、しばらく滞在するとか最悪……今すぐ帰ってくれ……痛みに変な汗を出しながら、私はのん気にそんなことを考えていると、なぜかマリモッコリはゆっくりと歩みを進め、私とアルドの方へ近づいて来る。
 
「それ以上私の妻に近づかないで頂きたい」
 
「ですが、私のせいで・・・・・あのようにお辛そうな姿を見てはいられません……」
 
(お前のせいじゃねぇよ! いや、お前のせいだけども! とにかくあっち行って! ん? でも一定期間離れると痛むんだっけ? もぉっこんな呪い・・、アルノーにさっさと解除してもらわなきゃ! )
 
 私はアルドの上着をぎゅっと掴む。
 
「……王子には関係ございませんので、お気になさらないでください」
 
 
 私の言いたいことを理解してくれたのか、アルドはマリモッコリを私に近づけないようにしてくれる……が。
 
 
「おや、聞いていらっしゃらないのですか? 彼女は私の運命の姫君なのです、今、彼女は私の魔力に反応して辛い状態なのですよ、私が彼女に魔力を流しさえすればすぐに治まりますよ(二コリ)……ね、姫君、あの時もそうだったでしょう?」
 
 姫君って誰、私違うよ……でも、治るなら治すだけ治してもらって、さっさと逃げちゃおうか。
 
 私はアルドに作戦を耳打ちし、駄目だというアルドの手をぎゅっと握り、何の意味もないけどなんとなく無言で頷きそれっぽくしてみる。
 
 そしてそのまま自分の脚でマリモッコリの前へと立ち、左手首を差し出した。
 
 
 
「では、治して頂けますか? ついでに、今後痛みが出ないようにしていただけませんか?」
 
「それは難しいですね……それをしてしまったら、貴女は私から離れて行ってしまう……(チュッ)」 
 
 マリモッコリが私の手首に口付けると、本当に痛みはスッと消えてしまった……しかし、呪い・・を解除してくれる気はないらしい。
 
 私は握られている自分の手首をサッと引き、お礼を告げてそそくさをアルドの後ろへ戻り、帰ろう、と彼に耳打ちする。
 
 
「……感謝いたします、それでは王子、我々はこれで失礼いたします……では……」
 
 
 私たちはそのまま屋敷へと転移した。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「もぉ! なんなのよアイツっ! 妻も子供もいるくせして何が“私の姫君”っだっつーの! 頭の中お花畑野郎かっっての!」
 
『姉上、義兄上の前でそのような汚い言葉を使っているのですか? 少し控えては? もう少し恥じらいというものをですね……』
 
 
 屋敷へ戻った私は、すぐさまアルノーとバードコールを繋いだ。
 
「アルノー! 今は小言は無しっ! 今(マクシから)そっちに転移許可申請してもらってるの、許可が出次第アルドとそっちへ行くから! この“運命のリス”とやら、とりあえずアルノーの魔法だけでも解除して!」

 さすがに我慢ならない……毎回毎回マリモッコリに遭遇するたびに痛むなど、面倒極まりない。

 しかし……。

 
『……そうしたいのはやまやまなのですが……』
 
 私の要請に、アルノーは煮え切らない返事をする。
 


「まさか……解除条件を付けたのか? ……まったく、有能すぎるのも考えものだな……」
 
 アルドが何やら不穏な発言をしている……解除条件? とは……もしかして、条件を満たさないと解除できない、とかそういうやつでしょうか?
 
『はい……申し訳ございません……』
 
 アルド、アルノーを叱らないであげて……アルノーは、当時やらかしまくりでモテなかったポンコツな姉を想ってしてくれたことなの!
 と、私は無言でアルドに目で訴える。

「アルノー、最悪の場合、私が強制解除・・・・させてもらう、すまないがその時は耐えてくれ」

『はい! もちろんです! 今すぐでも問題ありません!』


 強制解除……とは? なにそのパソコンの強制終了みたいなシステム……それに、アルノーは一体、何に耐えるの?! アルノーに何が起こるの?!


 私がわからない単語の数々に動揺を隠せずプルプル震えていると、アルドがぎゅっと抱き寄せて額にチュッとしてくれる。


「アルノーに何かあるなら、私が耐えるから……強制解除はしなくていいよ」

「大丈夫だ、心配するな……(チュッ)」


 ……でも、何が起こるのかは教えてくれないんですね? 心配に決まってますよね?


『姉上、通信を切りますから、必ず今夜、義兄上から強制解除して貰ってくださいね』
 
「え?! チョチョイ! ……プツッ……」

 切られてしまった。





 私はすかさず再びバードコールに話しかける。



「へいへいへい! リュシアーン! 聞こえてるよね!?」

『聞こえてるよ、うるせぇな……』

 良かった、今日は聞こえてるらしい。



「OK.リュシアン、“魔法の強制解除”ってなに?」

 グー◯ル先生ならぬ、リュシアン先生である。

『はぁ? 強制解除……そんな事、アルノーに聞けよ』

「アルノーが私にかけたちょっと厄介な魔法を、これからアルドが強制解除するんだけど、アルノーもアルドもアルノーの身に何が起こるか教えてくれないの!」


 もしも、アルノーの身に何か辛い事が起きるなら、リュシアンにはアルノーの側にいてあげて欲しい。

『アルノーが? ……何したんだよあいつ』

「話せは長くなるから後で話す! で、強制解除って何?!」


 私の大事なアルノーに何が起きるの? ……痛いの? 苦しいの? 辛いの?


『……“魔法の強制解除”はな、術者よりも魔法師階級が3階級以上、上の者に限り有効な方法で、強制解除が行なわれると、術者にはその反動というかペナルティーとして魔力の枯渇状態が三日三晩続くらしい』


 なんだぁ……魔力の枯渇状態が3日間? それだけ? ……アルドめ、意味深に見せかけて、私をからかったんだな?

 ……なぁんて事を私がホッとしながら考えていると……。


『それと……』


 まだあった!

『解除された魔法は二度と使えなくなる』

 まぁ、あんな不思議な魔法、使い道ないし別にいいよね? “運命の人探し手伝います”なんて胡散臭い副業でもしない限り……。

『それと……』

 まだあるの? 厳しい世界なんだね……。

『アルノーは二度とエイミーに魔法をかけられなくなる』

 ……え、それは……なんか……なんだろう……寂しいな……隠密魔法とか、ジュリエット探知魔法とか、色々かけてもらったけど、あんなやり取りが一切出来なくなるのは、とても寂しい……。

 リュシアンの言葉に対する私の表情をすぐ隣で見ていたアルドは、私が考えている事や感情を察したのかもしれない。

 私の手を握り、自分がそばにいるよ、寂しくないよ、とでも言いたげにじっと優しい眼差しで私を見た。

「……ありがっ」

『それと……』

 まだあるんかい!

『魔法師階級が……下がる……アルノーは、これが1番キツイだろうな……これだけだ』


 これだけ、じゃねぇよ……どんだけ強制解除、極刑なんだよ!

 アルノーが魔法師階級を上げる為に努力していた事を私はよく知っている……。

 魔法師階級はそう簡単には上がらないもので、年に1度しかない試験なのだが、受験資格を得るためには受験者よりも2階級以上、上の魔法師の推薦が必要で、二度、同じ人物からの推薦は受けられない。

 アルノーは今、7階級のうちの下から4番目の特級魔法師で、もうすぐ3番以内の階級になれる、と喜んでいた。

 4番目までは、“初、中、上、特級魔法師”と呼ばれ、3番以内になると、マスターやグランド、マキシマムといったカッコいい称号が与えられるのだ。

 しかし、マスターやグランド、マキシマムへの壁は厚い。

 1年以上、マスター、グランド、マキシマム以上の魔法師の下で修行が必要であり、かつ、その際の師匠の推薦は受けられないのだ。

 なんだか、コネと金さえあればなんとかなりそうなシステムだが、そこはちゃんとしている。
 じつは、推薦者にも、自分が推薦した者が不合格となると階級が下がるというペナルティーがあるため、本当に実力を見いだせない限りは、推薦しないのだ。

 逆に、実力はあるのに階級上げに興味のないやる気のない人を発掘するために、推薦者には階級を問わずボーナスがある。

 発掘を生きがいにしている変わり者もいるらしいので、なかなかに嬉しいボーナスなのだろう。



「アルド……マリモッコリの階級はアルドより上なの?」

 マリモッコリの見た目とあの自信たっぷりの私達を馬鹿にした態度を見るに、アルドよりも上なのかもしれない……。

「エイミー、私を誰だと思ってる? 私は魔法師のさらに上の魔導師のグランドだぞ」

 自信たっぷりにドヤ顔するアルドだが……で? マリモッコリは?


『エイミー、悔しいがそうなんだ……エドゥアルド王子は凄い人なんだよ、魔法に関してはな……』

 リュシアンまでアルドを褒めている……アルドが凄いのはわかったよ……で? マリモッコリは?


「うん、で、(マリ)モッコリは? ……(もうめんどくさいから、モッコリでいいや)」

「……」
『……』

 急に黙り込む2人。


『……エイミー、さっきから、マリモッコリだのモッコリだの、一体誰の事だ?』

「ああ! 言ってなかったね、ノルディリアの第1王子で王太子のマウリッツィオ王子? とかいう、言いにくい名前の人」


 そうか、リュシアンには詳細話してなかったっけ。

 にも関わらず、リュシアンもアルノー同様に頭がよく回る方なのか、どうやら何かを察したらしい。


『つまり……お前は、自分がアルノーにかけられた魔法の強制解除と、誰がかけられてるんだか知らないが、マウリッツィオ王子の魔法の強制解除も考えてるのか?』

「ま、大体そんな所!」

 冴えてますねリュシアン君。


 で、モッコリの階級はアルドより上なの? 下なの? アルドはモッコリの魔法を強制解除出来ないの?


『ならエイミー、エドゥアルド王子じゃ無理だな』

「なんでよ! まさかアルドより上なの?!」

 だから、アルドは言わないの? ……何が“私を誰だと思っている”だよ……。

『違う……マウリッツィオ王子は魔法師の最上級のマキシマムだから、エドゥアルド王子なら、強制解除は可能だ』

 なんだぁ! さすがアルドっ私のスパダリ様っ!
 疑ってごめんなさい、でも、なら最初からアルドに解除して貰えば、万事解決だったのでは?

 ……ん? 待てよ……でもさっき、リュシアンは、アルドじゃ無理って言ってのは何故?

「エイミー……王族が王族に対して強制解除を行うと、害をなしたと判断されて国際問題になるんだ……」

 なんじゃそりゃー!
 戦争にでもなるってかぁ? そなアホな!

 いやむしろ、その理屈でいけば、一般人が王族に害をなすのはいいのだろうか……?

 そんな私の素朴な疑問の答えは、イエス、であった。

 “国は民のために、民は国のために、王族は民と国のために”という“エスティリアの君主”の思想により、民から王族にはわりと何をしても許されているらしい。
 だからこそ、王族には近衛や軍隊、騎士団を動かす権限が与えられているのだという。

 でも、なんかそれを聞くと、王族ってめっちゃ損じゃないか? 誰か、王族のために、って人はいないのかしら?


 でも、やっぱり国の頂点というポジションなだけあって、そこはやっぱり魅力があるからいいのか……。





「アルドは“エスティリアの君主”だから、いいじゃん治外法権なんでしょ?」

 そうそうそうだよ、国際魔法法もガン無視で、シュドティリアにドラゴンで乗り込んで来たもんね。

『馬鹿だなエイミー、“エスティリアの君主”がエスティリアの王子の妻にかけられた魔法を強制解除したら、いちゃもんつけてくるに決まってるだろ?』

 さらにリュシアンはくどくどと私を馬鹿にし始める。

『大体、治外法権なのはドラゴンな、“君主”自体は普通に国際法に従わないと駄目だろ、むしろ、法を作ったのが何代目かの“エスティリアの君主”なんだからな』

『それにな、強制解除はとてつもなく魔力を使うし難しいんだ、アルノーの魔法を解除すれば、さすがのお前の旦那でもすぐに次は無理だろうよ』

 え、そうなの?! それは知らなかった……いや、最初から最後まで、全部知らなかったけどさ。

 それにしても……。


「えー! じゃぁ、どうすればいいの?!」


 私は叫ぶ。



『マウリッツィオ王子の強制解除はもはや魔導師の上級クラス以上にしか出来ないからな……それも王族以外となると、かなり限られるぞ? ちなみに、シュドティリアには魔導師の上級クラス以上は存在しないからな』

「ぅぇえ?! 存在、しない?!」

 存在すらしないとは? 大げさな……1人くらいはいるのでしょう……?

『最近、亡くなったんだよ……高齢で』

 ちーん……。

「リュシアン! あんた、飛び級とかしてなれないの?」

「『なれない』」

 アルドまで即答である。

「私がしたように、確かに飛び級は出来るが、相当な実力と見合った階級の師が必要となる……1年の修行も免除はされないんだ」

 まぁ、普通に考えれば、そうですよね……。



「……リュシアン王子、後はこちらでなんとかする……時間を取らせてすまなかった……では……」

『はいはい~』

「あ、リュシアンっ……プツッ……」



 アルドは、リュシアンとの通信を切ってしまった……。


「どうして勝手に切っちゃうの!」

 私はアルドの勝手な行動に頬を膨らませ、苛立ちをアピールする。

「十分、知りたい事は知れただろ?」


 それはそうかも知れないが、また別の問題が浮上したわけで……。



「……アルド、アルノーの解除はちょっと待ってくれない?」

 アルノーの階級が落ちるのは、なんとか避けたいのだ……姉として、弟の頑張りを無駄にはしたくない。


「……それはいいが……まさか、マウリッツィオ王子の魔法を解除をしてくれる者を探すのか?」

「うん……少し心当たりがあるの」








 私の心当たり……それは、原作に登場していた、とある人物だ。


 その人物は、世界最高峰の魔導師なのだが、周囲にはその事を隠して生活しており、さらには弟子は取らないと有名な変人なのだ。
 しかし、全く知られてはいないが、そんな変人にも、過去にたった1人だけ弟子がいたのである。


 そして……何を隠そう私の護衛5レンジャーの中に、その弟子がいるのだ。

 本人に話しを聞いみてからではあるが……もしかすると、交渉の機会くらいは作ってくれるかもしれない。


 私はすぐに、その護衛の1人を呼び出した。



















「……遅くにごめんね、ロン」

「……大丈夫」

 今、私とアルドの前に座る、いつもと変わらない無気力な表情のロン……彼は、原作によれば現在世界で最も上位の魔導師とされているラクラン・ウェイン・ペイトン氏の最初で最後の弟子とされていた。

 ロンはラクランにより拾われ、育てられたのである。


 ラクランはロンに魔法を教え、ロンはメキメキとその魔法の才能を開花させるも、ロンは少しだけ、欲深さや物事への興味、人を思いやるといった感情に対して冷めているフシがある。

 自分の意思に関係なく、言われた事だけを完璧にこなすロボットのようなロンに、ラクランは少し彼の未来に危機感を覚え、ロンが14歳になると行動にでた。

 彼は、我が子を崖から落とすように、ロンに言ったのである。

 “ロン、金の稼ぎ方は教えたな? お前はこれからここを出て、俺以外の人間と関わりを持って暮らすんだ、人間らしさを知ってこい”

 そう言って、当面の生活費を渡し、見送ったのだ。



 しかし、ロンは“金の稼ぎ方”を間違えてしまい、悪い奴らにいいように使われ、捕まってしまう。

 原作では、ロンの逮捕を知ったラクランは何度もロンを刑務所まで迎えに行こうとするが、自分の素性を公にするのが躊躇われ、行く事が出来ずにいた。

 ロンは刑務所から出て、マクシに勧誘されるまでの5年間、ただただ寝て起きての生活をしながら、お腹が空いたら捕まらない魔法・・・・・・・を使って、お金を得て生きていたのである。

 マクシの身辺調査書には、ロンは、捕まる前の情報はほとんど無く、孤児となっていた、とアルドは言っていた。

 ロンは捕まった際の事情聴取で、ラクランの名前は一切口にしなかったので、彼とラクランの関係を誰も知る事はなかったのだ。




 ……それなのに、私が知っていて大丈夫なのだろうか……が、しかし背に腹は代えられない。


「ロン……あのね、お願いがあるの……」

「……イエス、エイミー様、何でしょうか」

 ロンは仕事モードのようだ……つまり、命令・・は断る事が出来ずに従ってしまうかもしれない。


「ロン、これは仕事じゃなくて、私の個人的なロンへのお願いなの、だから、嫌だと思ったら断っていいんだからね」

「……はい……?」


 少し首を傾げるロンの仕草が可愛い。



「ロン……私、ラクランさんに会いたいの……何処にいるかわかる? ……ラクランに、王族にかけられた魔法の強制解除を頼みたいんだ……」

「……」


 ロンは、その名前が私の口から出てきた事に驚いたのか、珍しく目を大きく開いていた。

 そして、しばらくして彼はゆっくりと話し始める。


「エイミー様……知ってた……ラクラン、僕を育ててくれた……魔法、教えてくれた」


 私の隣でロンの話しを一緒に聞いているアルドは、ラクランの名前に凄く驚いているようだったが、アレコレ質問はするな、と伝えてあるので、我慢しているようだ。


「ラクラン、仕事・・ならする……素性はバラさない、約束すれば、やってくれる……」


「つまり、お金を払えば引き受けてくれるって事? ……でも、どうやって依頼すればいいかわからないの……ロン、わかる?」

 ロンはコクリと頷き、話しを続けた。


「ウェステリアのギルド……“モブ”……ラクランの仕事の名前……依頼する……ウェステリア内、いれば……ラクラン、転移して会いに来る……」

 ……“モブ”って……ウケるな……モブキャラかよ。


 私はアルドと視線を交わし、頷き合った。


「ロン、私とラクランさんに会いにウェステリアに行ってくれる?」

「……」

 やはり、嫌のだろうか……? ロンはじっと床に視線を置いたまま動かない。



「ロン、仕事だ、エイミーの護衛としてウェステリアへ行け」


 その時、アルドが雇用主として命令してしまった。


「……イエス、サー」


 命令されたロンは、すぐに返事をする……これでいいのかはわからないが、原作の中のラクランの印象では、ラクランはロンを本当に大切に思っていた。
 きっと今も、ロンが何処で何をしているか心配していると思うので、2人を会わせてあげたい……。

 まぁ、ロンが一緒ならラクランも王族への強制解除なんてヘビーな依頼でも断らずに引き受けてくれるかな、なんて邪な感情をある。

 お金はアルドが惜しまず払ってくれると言うので、とりあえずロンに相場を聞いて、その10倍の額を用意して行く事にした。








 話しがまとまった翌日の朝、私は護衛5レンジャー全員に今回の一連の騒動について説明し、ラクランの名前は伏せて、ウェステリアへ高位の魔導師に強制解除を頼みに行く事も伝える。

 マリモッコリの目的はわからないが、理由のわからない“運命”の魔法さえ解除してしまえば、私とマリモッコリは他人だ。


 チラッとレイの表情を見ると、少しホッとしているようである……レイの口からは何も話しは無いが、彼なりに私の事も心配してくれていたのだろう。



「はい! レジェンド、質問!」

 サムが挙手した。

「なんだ?」

「エイミー様の護衛はロン1人なのですか? いつもは2人ペアですよね?」


 そう、その件も考えていたのだが……サムを見ると、自分が行きたい、と言わんばかりだ。
 しかし、転移門を使うので、ウェステリア王宮に着いちゃうけど、いいのかサム?


「別にいいですよ! どうせ、俺がここにいる事はバレちまったんだし」

「っえ!? 何で知ってるのサム!」

 あっけらかんと笑うサムだが、何故バレている事を知っているのだろうか……ウェステリアのあの馬鹿2人の件は昨日の今日で、話すつもりはなかったが、話していないのに。


「俺、兄弟の中で1人だけ連絡取り合ってる奴がいるんですよ、そいつから昨日の夜中に魔法レターがきました、リカルド達が国へ戻って大荒れだったと(ニヤリ)」


 サムはニヤニヤしながら、私とアルドを見た。

「いやぁ~俺も生で聞きたかったなぁ~“血統書付きの野良ちゃん”に“私達の家族を侮辱するな”……感動しちゃいました! ありがとうございます、レジェンド、エイミー様っ(ニコニコ)」

 ……誰だ……サムに手紙を書いたブラザーって……絞め殺してやる……。

「ですがレジェンド、俺は復権する気はありませんからね! その命令だけは聞けませんよ? (ニヤニヤ)」


 なんだろう、なんかサムのニヤリ顔が凄くムカツクぞ。




「サム! “おすわり”! 決めた、あんたはウェステリアには連れて行かない! “ステイ”よ! ……そうね……レイ、一緒に行ける? ……」

 レイにも事の顛末を見届けてもらおう……私の手首に刻まれた魔法が解除されるのをその目で見れば、少しは気が楽になり、以前のように彼の軽口が聞けるようになるかもしれない。

「もちろんです、“野良犬”よりお役に立てるかと(ニコリ)」



 良かった。





 こうして、私達はウェステリアへ行く為、(マクシに頼んで)転移許可申請をあげたのだった。


 
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