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第二章
24 それぞれの事情 R18
しおりを挟む夢を見た。
リスの姿の私が転がっていくドングリを必死に追いかけて、行き着いた先にいたのは、とても大きな白銀の狼だった。
パープルの瞳をしたその狼は、じっと私を見ている。
狼の足元にはドングリの山ができており、喜んだリスの私はその山に突っ込んで行く。
その直後……。
パクりと狼に頭から食べられた。
“号外! 王太子妃御懐妊! コウノトリは新婚の第2王子夫妻?! ”
王妃様に呼び出された数ヶ月後、ローザ様の妊娠が確定し魔法診断により安定したため、それが公表されると、その嬉しいニュースに街には号外が配られた。
ある朝、まだベッドでゴロゴロしていた私に、半裸のままいい身体を見せつけて歩くアルドから、その号外を手渡されたのだ。
「……ねぇ、どうして私とアルドがコウノトリなの……」
「……何でも知っているマクシによれば、義姉上と母上と……兄上までもが記者のインタビューでそう答えたのだそうだ……」
一体どうなっているのか。
実はクリストフさんの写真をローザ様に献上したあの日、劇団を見に行くためにも、予習をと思い、私はローザ様にBL小説を紹介したのである。
するとローザ様もどハマリ。
結果的に布教するカタチになってしまったわけだが……タイミング的にはローザ様がクリストフさんの写真をゲットし、BLにハマり出したあの頃に、王太子殿下と交わったから妊娠したんだと思う。
「エイミー、実はな……あまり気分のいい話しではないんだが、マクシによれば今回の義姉上の妊娠は、仲直りでも何でもなく、当時兄上が義姉上を強引に犯したんだそうだ……まぁ、結果的に今は関係は悪くないようだが……」
「……え?! ……ってか、何でそんな事までマクシが知ってるの! 逆に怖っ」
色々驚きだが、マクシが知っていた理由は、ローザ様付きの侍女からの情報なのだという。
本当に王族ってプライバシーも何もないんだな……。
どうやら、王太子殿下がローザ様の寝室へ行った際に、丁度運悪く、ローザ様がクリストフさんの写真を眺めてあの甘い吐息をもらしていたようで、そんな妻の姿に激怒した王太子殿下が、俺というものがありながら! っと……そういう事らしいのだ。
……何が(気にならない、好きにしたらいい)だよ、嘘つきめ、めちゃめちゃ嫉妬深いじゃないか。
ちなみに私は妊娠兆候が出てから、ローザ様には会えていない。
まぁ色々心配な時期だもんね、仕方ないと思う。
「それから……妊娠も安定したから義姉上が君に会いたがっているそうだ、いい時顔を見に行ってあげてくれ」
なるほど、だから、妊娠の裏事情を私に話したわけね……その件についてのローザ様の感情がわからない状況で、私が話しの流れでうっかり聞いちゃうと悪いから。
「うん、わかったよ」
アルドはベッドでゴロゴロし続ける私の頰に手で触れ、チュッとした。
「エイミー、君も早く子供が欲しいか?」
……まさか、欲しいと答えれば、このままヤルつもりなんじゃ……朝だよ朝……お腹も空いたし、ご勘弁を。
「まだ! まだいいかなっ! アルドとの夫婦水入らずの生活も楽しみたいから……(チュッ)」
私はアルドの首に腕を回し、子供はまだいい、と言う私の答えを、拒絶と受け取られないように、気を使った。
の、だが……。
「……そうか、やはり私達は夫婦だな、私も同じ考えだ……それにしても仕方ないな、エイミーは……もう朝だぞ? (チュッチュッ)」
ん? 仕方ないな?
「……んっ……んん?! ……っ」
先ほどまでの軽いキスから一変……アルドの舌が私の唇を割って入ってくる。
ねっとりと舌を絡ませる濃厚な口付けをしながら、アルドは当たり前のように私のパジャマを脱がしてしまう。
(おかしいな……この流れを避けるために子供はまだいいと言ったんだけどな……)
「はぁ……エイミー、何故私はこんなにも君の身体を我慢する事が出来ないのだろうか……」
「ん……っ……ぁっ……」
胸の先をパクりと咥え舐めながら、そんな事をしみじみと呟くアルドに、私は何も答える事が出来なかった。
「……わかっている……エイミーが可愛いから悪いという事は……だからと言ってだな……君に関しては私の理性や忍耐が全く機能しないのだ……」
いや……私、何も答えてませんけど……誰と会話してるのアルドさん……。
「っぁ! ……んんっ……」
1人で話し続けるアルドだったが、その手と口は私への愛撫を続けており、ツプッと指が中へと挿し込まれた。
「ああ……ほら、朝からこんなに濡らしている妻を、どうして放おっておける?」
「……んぁっ! ……んん……ぁっぁっ……っ!」
指が増やされ、突起と中を一緒に刺激されてしまえば、正直にその快楽に喜ぶ私の身体は仰け反らせる。
指が抜かれ、いつの間にか準備されていた彼のソレが、ゆっくりと私の秘部に当てられ、ヌルヌルと前後すれば、早く入れて欲しくてたまらない気持ちになる。
「っ早く頂戴……」
「ん? ……ならば、自分で入れてごらんエイミー」
このタイミングでそれは酷い……酷い夫だ。
しかし背に腹は代えられない……私はヌルヌルしたアルドのソレの先を自分の中心に当て、そのままアルドの腰に脚を絡めてグッと引き寄せる。
「っぁ……」
「……っ」
にちゃり、と音をさせながら彼のモノが私の中に押し入るように挿ってくると、そのままさらに脚にチカラを入れ、一気に奥へと誘導した。
「っエイミー、チカラを抜いて……」
脚にチカラを入れていたせいで、中まで締めてしまっていたようである。
脚と中のチカラを同時にフッと抜くと、そのままアルド自らの動きで一気に腰を進め、ズンッと私の最奥を突く。
「ぁあっ! んん……っ」
止まることなく抽挿が続けられ、水音と肌と肌がぶつかる音、そして私の喘ぎとが、朝の寝室に響き渡る。
恥ずかしい気持ちを感じた私は、アルドにしがみつき、顔を彼の鎖骨付近にうめ、少し声を抑えてみた。
しかしすぐに顔は引き上げられ、唇を奪われてしまう。
上も下もアルドで埋め尽くされてるその状況に、もはや私のなけなしの理性はなかった。
「ぁっぁっ……っ駄目っ……もう……イッ……」
「私もだ……っ!」
ズンッと最奥に、アルドの温かな物が出される。
「……言ってる事とやってる事が違いますけども……」
中に出しまくってますよね、貴方……。
「安心してくれ、避妊魔法を施してある……」
……そんな魔法あるのか、いや、いつの間に……いつから?
そんな事で朝から寝坊した私達に、レイからおきまりの軽口が飛んでくる。
「おそようございます、レジェンド、エイミー様……まだお顔が赤いようですが……今朝もお盛んだったようで……その調子なら、“コウノトリ”夫婦にもすぐにコウノトリが来そうですね!」
レイ、それはセクハラだからな……世が世なら、訴えられるからな!
「護衛対象が増えたら面白くな……いや、気を引き締めないとな!」
サム? 面白くなるって言おうとした? 君は私達の子供をおもちゃか何かと思っているのかな?
でも……。
「そっかぁ、サム……今の業務じゃ退屈なんだ?」
「と、とんでもない! 十分でございます!」
アルドのドラゴンの散歩をさせられると思ったのか、サムは逃げ腰になっている……ただでさえ多めな彼らには、魔力の枯渇はよほどキツかったのだろう。
「……遠慮するなよサム? (ニヤリ)」
面白がるように、アルドがニヤリとサムに笑みを向ける。
冗談はさておき、リーサルウェポンサムとロンには頼みたい事があったのである。
「サムとロンに頼みたい事と言うか、アドバイスを貰いたい事があるの」
私の発言に、何故か護衛5レンジャー全員が不思議そうな表情を見せている……当の本人達ですら、何故自分達? といった顔だ。
「……俺とロンにですか?」
「……僕達の共通点……ウェステリアしかない……」
「ロン、するどい! ウェステリアに関して聞きたいの」
実は近々、ローザ様の懐妊を祝う為に西と南、北のお偉方が来るそうなのだが、私とアルドは今回、西のお偉方の対応を頼まれてしまったのである。
私はウェステリアに行った事がないので、食の好み味つけの好み、宗教的なタブーとかその他もろもろがあれば知りたかったのだ。
一つの国である日本でさえも、西と東で大きく違うのだから、国が違えば違う事もあるはず……。
「……誰が来るかは、まだ知らされてないのですか?」
「ああ、だが……王族か近しい公爵家の誰かが来るだろうな」
サムの質問に、アルドが答える。
「……サム、その日は行かない、大丈夫」
「……ああ……そうだな、俺は屋敷にいるわ」
なんだなんだ? なんだか変な空気……。
「なんかよくわからないけど、当日の対応はさせないから大丈夫だよ、オ・モ・テ・ナ・シのために、色々事前に話しを聞きたいだけなのっ」
「はい、俺達で答えられる事なら何でも聞いてください」
「……僕、よくわからない……」
前向きなサムに対して、ロンはずいぶんと後ろ向きである……まぁ、もしかするとロンは、世間一般とは関わる事なく、ずっと寝ていたのかもしれないな……うんうん。
と、ここで私はサムに関して、原作中のとんでもない裏事情を思い出した。
しかし、それはアルドも同様だったようだ。
「……あぁ、そうだったなサム、すまない」
「……え? (もしかしてアルドも知ってたの? )」
そりゃそうか、雇用主だし身辺調査はしてあるよね、マクシがしたんだろうけど。
「お前もウェステリアの王族の1人だったな」
「「「ぇえ?!」」」
驚き叫ぶ、ロン以外のノルディリア出身の護衛3人。
そう、サムはウェステリアの王子だったのだ。
ウェステリアの王様は、それはそれは女好きで有名で、側室が10人もいるのだが、サムはその側室の1人の子で、第7王子だったのである。
何故だったのかというと、サムは色々とやらかして捕まる前に王位継承権を放棄し、臣籍降下することも無く、爵位も得ずに城を出たのだ。
ゆえに、出自は変わる事はないが、現在では王家とは無関係、となっている。
「元、だけどな! はははっなんだ、見直したか?」
驚きを通り越し、ポカンとしていたノルディリア出身の3人だったが、サムの言葉にリタが答えた。
「……ウェステリアの王族のくせに、品も無ければ教養もない残念な奴だな、って……違う意味で見直したわ……あんた、生まれてすぐに平民になったの?」
「ふざっ、んなわけねぇだろ! 18まで王子だったわ! 他の普通の王子となんも変わらねぇイケてる王子だったよ!」
私はサムをじっと見た。
確かに、今はボサボサの髪なんかの小汚さのせいで王子の面影は全くないが、顔は整っているし、口は悪いが、サムはこれまでに護衛の誰よりもアルドの話に対して頷く事が多かったかもしれない。
つまり、難しい政治や複雑な貴族間の話しなんかをきちんと理解していたからだろう。
「……エイミー様? そんなに見つめないでくださいよ、レジェンドが妬いちゃうじゃないですか」
何故照れているんだサム……アルドをチラチラ見るな。
「お前には妬かぬ……エイミー、君はあまり驚いていないな」
「え? ぁあ、知ってたからね、いや……アルドと同じタイミングで思い出したと言った方が正しいか」
私が知っていた事に驚いていたのは、なぜかサムよりもアルドだった。
「何故知っていたんだ? エイミー、君は他国になど全く興味がなかったではないか! まさか、私との婚約を解消した後、他の国の王族を物色していたのか?!」
どうしてそうなるの……面倒くさい話しになってきたぞ……。
「あ! そうか、エイミー様は俺達のファンだったとおっしゃってましたもんね! 色々知ってて当然ですね」
黙れサム! 余計な事を言うんじゃない!
「……ファン? だと?」
ヤバい……私に関しての自分の把握していない事だらけで、アルドがイライラしてまた魔力が漏れ出ている。
本当に私に関しては心が狭いんだからっ!
「アルド! 後で説明するからっ! ほら、マクシが待ってるから、早く仕事! 仕事行かないと! ね!」
「エイミー……今夜、たっぷり話しを聞かせてもらうからな……行ってくる……(チュッ)」
本当に時間がヤバかったのか、意外にもアルドはすぐにパッ! と、転移して消えた。
お怒りモードでも、ちゃんと妻にキスして仕事へ行くのはさすがとも言うべきか……。
「ロンは知ってたの?」
「……はい……ウェステリアでオレンジの髪、王族しかいない」
そうだったかもしれない……そんな設定があったわ。
ロンでも知っているのだから、社会の教科書に載ってるくらい凄く有名な事なのだろう。
「サム、私の髪と一緒だねっ私の赤毛も何故かファリナッチ公爵家にしか出ない色って言われてるの」
名乗らずとも、“その髪の色は……”ってよく言われたもので、もはやお名刺代わりだ。
「大迷惑ですよねぇ、何度染めても生え際がオレンジになってくるんすもん……」
なるほど、いくら魔法染めとは言え、1日髪色チェンジとかでないと、やっぱりそうなるのか、面倒だな。
とはいえ、王族出身のサムがいれば、来訪者の好みや礼儀作法なんかはバッチリ把握できそうである。
こうして、私達はウェステリアの来訪者の来る日に備えるのだった。
数日後、私はいつものようにレイとロンと共にローザ様の所を訪れた。
もちろん……アルドと馬車でね。
「エイミー様、レジェンドと喧嘩でもされました? 今日はやけに馬車が揺れずに真っ直ぐに走っていましたけど……心配しておりましたよ、なぁ、ロン」
「……はい」
え、ロン、そこは“僕は別に”とかじゃないの? “はい”なの?!
アルドも別れ、ローザ様の部屋へ向かう途中、いつものようにレイにからかわれる。
「喧嘩なんかしてないよ? さっきもアルドは機嫌良さそうだったでしょう?」
「あ、確かに……」
そう……レイとロンの言うとおり、今日馬車は一切揺れていないはずだ……なぜなら今日は、アルドには私に手を出させなかったのだから。
でも、喧嘩などではない、もちろん今日もアルドはやる気まんまんで私にチュッチュと仕掛けてきたのだが、毎回やられっぱなしの私ではない。
今日は……。
私が口でしてゴックンしてやったからな!
フッ……はぁ、歯磨きしたい……。
その時だった。
「痛っ!」
突然、私の左手首に激痛が走り、私は思わず手首を押えて前かがみになる。
「っ!? どうされましたエイミー様!」
「……?」
「ロン! 魔法妨害の結界を張れ!」
「うん……でも、魔法じゃない……エイミー様、凄く古い鱗、持ってるはず……」
ロンの言うとおりだ、私に外部からの魔法攻撃は一切効かないと言ってもいいほど、古く強いドラゴンの鱗を私は首からぶら下げている。
もちろん今も。
念の為、小範囲結界を張るロンの傍ら、レイは私の手首を確認している。
「っ! ……エイミー様っ……コレは……いつ誰に?」
「え? どれ……」
レイが深刻そうな声で尋ねてきたが、なんのことだかわからず、私はレイの視線の先にある、痛む自分の左手首を見る。
「ぁあ……アルノーが……弟が2年くらい前に、運命の人に出会ったらわかるだか、引き合わせてくれるだかって……おまじない的な……なんだっけ……“運命のリス”」
思い出した……アルノーがエスコートしてくれた、卒業パーティーの前にチュッと掛けてくれた魔法だ。
「エイミー様、見てわかるとおり……その“運命のリス”が反応しています……凄まじく……」
「……え? なんで?」
アルドが運命の相手だったのではないのだろうか?
だから、あの日、彼とパーティーで再会したのだと勝手に解釈して、今の今まですっかりその存在すら忘れていた……それに、リスの絵も、薄く見えないほどになっていたのだ。
しかし、レイの言うとおり、リスの絵が再び濃く浮き上がり、赤く晴れ上がり、反応している、と言われればそう思えなくもない。
「……あ、私がさっきアルドの精子飲んだからかな?」
「「……」」
あ、やだわっ、私ったらこんな場所で……。
「……馬車が揺れなかったのに、レジェンドの機嫌が良さそうだったのは、そういうことでしたか……っではなく! コレは違います、子種を飲んだからと反応する魔法の類いではありません」
「……呪いみたいなもの……相手が近くにいるか……ここにいるエイミー様に届くほどに相手のチカラが強いか……多分、後者……」
ロンが難しい事を喋った。
「ああ、実は僕もさっき、少し嫌な気を感じたんだ……気の所為であって欲しいけど……」
しばらくすると、ジンジンはするものの、痛みに慣れてきたので、ひとまずローザ様に挨拶だけして、体調が悪くなったと言ってすぐ帰る事にしようと2人と決め、先を急ぐ事に。
「あら、大丈夫? 本当ね、顔色も良くないわ……気をつけてね……レイ、ロン、エイミーさんをよろしくね」
「はい……ローザ様、つかぬ事をお伺いいたしますが、本日転移門による他国からの来訪者はいらっしゃいますか?」
レイが突然ローザ様にそんな事を尋ねた。
「……秘密よ? 今日は確か、ノルディリアのどなたかが私のお祝いにいらっしゃると聞いているわ、そろそろ着いているのではないかしら」
「……そう、でしたか……ノルディリアの……誰か……」
いつも笑顔のレイの表情がみるみる暗くなっていく。
レイの様子は気がかりだが、ひとまず早くアルドの所に行って相談しなければ……あと、アルノーにも……。
痛みには慣れたが、痛むのは痛む……こんなのが続くのは耐えられそうにない。
「ではローザ様、すみません、失礼いたしますね」
「レイ……変」
アルドの執務室へと向かう途中、珍しくロンが自分から話しを振った。
そのくらい、レイが変なのだ。
変な汗かいてるし、ローザ様の話しを聞いてから、ずっと顔が怖い。
「レイ、なんか悩ましい顔してるけど、なんかチカラになれる事があれば、なるから言ってね、って、ロンは言いたいんだと思うよ、もちろん私もね」
「あ……ありがとうございます……」
やっぱり変だ。
その時だった。
ズキンッ!
ドクン……ドクン……ドクンッドクンッ……
「いっ……! (痛い痛い痛い! )」
再びの手首の激痛に加えて、心臓までうるさいほどに鼓動しだした。
これは、あれだ……ジュリエットが近づいた時に胸が痛む魔法に似ている……さすが同じアルノーの魔法だ。
「っエイミー様!! っロン! レジェンドをお呼びしろ!」
「うん」
私はレイの膝枕で回廊に横たわり、ロンが走り出す姿を胸の痛みに耐えながら見ていた。
しかし、ロンが立ち去ってすぐに、ロンの去った軌道をなぞるように、1人の男性が現れた。
「で……殿下っ!」
レイが震えながら、小さな声でそう口にしたのを聞き、私は痛みに耐えながらも、ただならぬ関係らしい2人の様子を観察することに。
「……おや、誰かと思えば……レイノルドじゃないか……どこへ行ったかと思えば……こんな所に……(ニヤリ)」
嫌な感じのするその男性は、恐らくだが……ノルディリアの王太子だろう。
レイは本当はレイノルドと言うのか……へぇ、ファンなのに知らなかったぜ。
「で……殿下は……なぜ……こちらに……」
「私か? 私はこちらの王太子妃殿下の御懐妊を祝いに来たのさ、だが……到着した途端、思いもよらない人の気配を感じてね……つい引き寄せられた先に、お前がいて、私の姫を護るナイトをしていた、というわけだ」
は? この人何言ってんだ? 姫? ナイト?
「レイノルド……私がお前に預けたアレは元気にしているか?」
「はっ! ……お元気であります!」
この王太子が言うアレ、とは私が一度も会えていないシャイなあの子の事で間違いないだろう。
そうだった……原作でも、こいつがレイに預けたんだ……。
「それは良かった、それにしても、お前はアレだけでなく、私の姫までも護ってくれていたんだなぁ……驚いたよ」
そう口にした目の前のノルディリアの王太子は、横たわる私の前に跪き、私の左手首を手にとり、いつぞやのアルノーのようにチュッと口付けた。
「私の運命の人やっと会えましたね……私の魔力に響鳴してさぞお辛かったでしょう、どうです? 少しは楽になりましたか?」
「……なった、ました……」
うん……嘘みたいに痛みが消えたよ、ありがとう! 嫌な感じがする人だけど、今は、素直に嬉しい!
しかし、そんな私とは真逆に、レイは、言葉では言い表せないほどに酷い表情をしている……拳を握りしめ、普段のレイからは想像もつかないほどに複雑な感情に精神を病んでいる感じだ。
私は立ち上がり、ノルディリアの王太子に頭を下げて、治療のお礼をする。
(この人、きっと治癒魔法が使えるんだね……いいなぁ~)
「治して頂きありがとうございました(ペコリ)貴方は……」
その時だった。
「マウリッツィオ王太子殿下! 良かった、こちらにいらっしゃいましたか! 急にお姿が見えなくなり、心配いたしましたっ……(っひぃ! )」
慌てた様子でカトリーヌ嬢が現れた。
どうやら、彼女がノルディリアの来訪者を任されていたらしい……移動中にこの王子が勝手にはぐれたのだろう。
カトリーヌ嬢は私の存在に気付き、一瞬だけ凄く嫌そうな顔をした……あの一件からどうも怖がられているのである。
そのまま一行は、私の事なんて無視して、その場からいなくなるのだが、ノルディリアの王太子だけは、私にウィンクを投げて行ったのだった。
そして、またまたその直後……。
「エイミー! 大丈夫か!」
アルドがロンと共に、ものすごい形相で転移してきたが、その場に立っている私はケロッとしており、逆にレイがヤバい顔をしている状況に、なんとなく、その場に気まずい空気が流れる。
しかし、アルドの姿を見てホッとしたのか、なんとレイが、その場で気を失い、バタッと倒れてしまったのだ。
「レイ?! っレイ?!」
「何なんだ一体!」
「アルド! レイとロンを屋敷に転移させて! 私は許可ないから出来ない!」
城を出入りする転移には、許可が必要となるのだが、幸いな事に、今はアルドがいる……彼が一緒に転移するならば、許可はいらないのである。
「ああ、行くぞ」
こうして、私達は屋敷へと転移し、すぐさまレイを医師に診てもらうのだった。
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