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第二章

23 一件落着

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 (アルド視点)
 
 
 
「お久しぶりでございます王太子殿下、本日はお忙しい所お時間を頂戴いたしましてありがとうございます」
 
 
 目の前で偉そうに椅子に座り、目も合わせようとしない無表情の堅物男に対して、我が愛しの妻エイミーは、凛とした態度で淑女の挨拶をした。
 

(兄上め……立つくらいしたらどうなのだ……)


 そんなエイミーの挨拶に対して、うむ、と頷く事しかしない兄上の態度に、私は怒りが込み上げ、拳を握る……しかし同時にエイミーの美しい手がその握った拳の上に重ねられ、兄上にひと言物申したい私の感情を思いとどまらせる。


「……」
「……」
「……で、なんだ、話しとは」


 そうだろうとは思ったが、話しはまったく弾まない。

 どう切り出そうか、単刀直入に母上に頼まれたと言うべきか、今日までに、何度となくエイミーと2人で話し合っておいたのだが、兄上の高圧的で無愛想な態度を前にしたせいか、エイミーにしては珍しく、口数が少ない。


 私がチラッと彼女の方を見ると、エイミーは何やらゴソゴソとカバンの中から書類を探しあて、取り出した。


「王太子殿下、こちらをご覧ください、そして全てにイエスかノー、もしくは2択から選択して回答頂けますか? 2択から選べない場合は、好きな回答を書いて頂いても問題ありません」


 エイミー、なんだソレは……私はそんな物の存在は聞いてないぞ……。


「アルド、せっかくなので貴方も一緒にやってみて? 」


 そう言われ、彼女から数枚の紙の束とペンを渡された私と兄上は、見た事のない内容の書かれたその紙を、ついつい興味深く目を通していた。

 紙には1から10まで、質問事項が書かれており、全てイエスかノーや2択から選択して答えられる内容となっている……それが1人5枚もあるのだ、つまり50問。


「ご回答頂いた結果は私が持ち帰り精査いたします……それを意識した上で答えるか否かは、お2人の自由ですが……正直に答えなければ、後々御自分が困ることになりますのであしからず」


 な、なんだそれは……精査して何がわかると言うのだ……エイミー、いや、ユノンの世界の知識なのだろうか……と、いうことは、やはり私も全て正直に答えた方が良さそうだ。


 私はじっと内容を読むだけの兄上を横目に、黙々と記入し始める……すると、しばらくして、兄上もペンを持ち、記入し始めた。


 私達が集中する事……約2時間。


「お、終わったぞ」
「私もだ」


 なかなかに悩ましい質問も多く、つい時間がかかってしまった……私は顔を上げ、終わりを告げエイミーを見る。


「……エイミー?」


 彼女は寝ていた。


 可愛い……昨夜も無理をさせてしまったからな。


「……兄上、彼女は起こさぬよう私が連れて帰ります、今日の所はこれで終わりにしましょう、結果が気になるようでしたら、また時間を作ってください、では」

「……ああ」


 私は兄上の回答を受け取り、自分の回答と共にエイミーのカバンにしまうと、彼女を抱き上げ私の城の執務室へと転移した。




「っ?! (ムグッ)……!!」


 突如現れた私達に、マクシが驚きの声を上げそうになっていたので、すかさず魔法で奴の口を閉じる……エイミーが起きたらどうするんだ、バカモノめ。

 私はそのまま執務室のソファにそっとエイミーを寝かせ、チュッと口付けたあと、ブランケットを掛け、しばらく彼女の寝顔を見ながら仕事を続けた。


(……可愛い……一生眺めていられそうだ)







(アルド視点end)





 ○○●●



 ……ハッ!! ……(ガバッ)


「え!? 寝てた?! ここどこ?!」



 私とした事が、緊張のあまり男2人が心理テスト・・・・・を記入している間に眠ってしまったようだ。

 でも、言い訳をさせてもらうなら、王太子殿下の威圧感ったら半端じゃなかった……あんなに威圧的に振る舞って、おまけに無愛想ときた。
 ……私は数分一緒の空間にいただけで息がつまって……疲労とストレスを感じて眠くなってしまったよ、ありゃないわ……。

 カトリーヌ嬢もローザ様もよくあんな人と一緒にいて平気だな……それとも、好意のある相手には違うのだろうか? そのギャップが萌えなのかもしれない……。

 まぁ、そんなのも心理テストの結果を見てみればわかるだろう。



「……エイミー? 目が覚めたか? ……君の可愛い寝顔のおかげで、仕事がはかどったぞ(ニコリ)」

 声のする方に視線を向けると、少し離れた場所にある執務机で、アルドが仕事をしているようだった。
 その右斜めの机には、マクシもいる。

 どうやら私は城の中にある、アルドの執務室に連れて来られたようだ。

 ……いいソファだな。



「……ごめんなさい、2人は仕事してるのに私だけ寝てて……」

 ペコリ、と頭を下げてみる。


 そんな私にマクシが言った。

「先ほど殿下がおっしゃったとおり、妃殿下のおかげで殿下の仕事のスピードが倍以上に上がりました、毎日ここで眠っていただきたいくらいです」


 おい、アルド……普段どれだけサボっているんだ……マクシを困らせるでないぞ。


「アルド、さっきのあの紙は?」

「ああ、カバンの中の封筒に2人分入れてある」


 早く見たい……が、本人の前で見るのは気が引ける……だって絶対笑ってしまうから。


 心理テストとは言ったが、実際はアルドのお兄さんと会話が成立しなかった時のために、私が興味本位で聞きたい事を並べただけの紙である。

 アルドが同席すると言い出した時から、日々コツコツと考えて、全50問の超大作を作ったのだ。



 しかし、その回答次第で、大体その人物がどんな人かが私なりにわかるような内容になっているのだ。

 こう見えて私、心理学も勉強していたりする。


「アルド、まだ仕事あるなら私先に屋敷に戻ってるよ」

「いいや、丁度終わった所だ……昼は一緒に外で食事でもして帰ろうか」


 外で食事!? 

 ……私は驚いてしまった。

 アルドが私と2人で外食しようと言うなんて、耳を疑うレベルのお誘いなのである。

 ……さっきの心理テストで、何か彼の考えが改められるような内容でもあっただろうか?


「珍しいね……アルドがいいなら私は嬉しいけど……いいの? 外で食べるの嫌いなんじゃないの?」

「嫌いではない……苦手なだけだ」


 やっぱり苦手なんかい。

「無理しなくていいんだよ? どうしたの突然」

 苦手なのに無理されてもね……うん……正直、申し訳なくてあんまり楽しくないよね、気持ちは嬉しいけどさ。

 私の質問に、アルドは視線をそらし、頬をポリポリ掻きながら小さな小さな声で教えてくれた。



「いや……“愛する人の為に、何か自分の苦手を克服した事やしようとした事があるか”、という問いに、イエス、と答える自信がなくてな……」



 なんとっ! ……やっぱり、心理テストが原因だったのか……影響されすぎでしょう、まったく。

 アルドってば本当にチョロくて可愛いんだからっ。




「克服したことなかったっけ? あるでしょ、何かは」

「それがあまり思い浮かばなくてな……」


 そもそも、ダイエットした事は違うのだろうか、と聞けば、痩せた事は苦手を克服したわけではない、あの頃は痩せる気がなかっただけであって、決してダイエットが苦手だったわけではない、と言い張るアルド。

「なら、アルドって苦手がそんなに無いんじゃない?」

 彼には食べ物の好き嫌いも無いようだし、勉強も運動も魔法も剣術も武術も得意とくれば、苦手とは? 一体何ですか? それは美味しいのですか? の、状態かもしれない。


「いや、だから外での食事が苦手だ」

「なんで外食が苦手なの? その認識は本当に“苦手”であってるの?」

 アレルギーがあるとか、そんな理由であれば、それは苦手とは言わないと思う。


「……」

「……ゴホンッ……割って入るようで申し訳ございません……妃殿下……実は殿下は昔……」

 話そうとしないアルドの代わりに、マクシが話しをしてくれた……アルドもマクシを止めないので自分の口からは言えないが、別に知られてもいいのだろう。


 マクシの話しによれば、アルドは幼い頃、初めて街のレストランで食事をした後、温かい料理に感動し、さらに街の屋台で片っ端から様々な物を買い食いした結果、食べ過ぎにより腹を壊し、お手洗いから半日出て来れなくなったのだという。
 
 しかし、アルドは買い食いして腹を壊した事実を、王妃様に隠すため、毒を盛られた、と嘘をつき、大騒ぎになった事があるのだそうだ。

(クソガキだな……)

「つまり、レストランの店主や屋台の店主には多大なるご迷惑をかけたので、“苦手”ではなく“気まずい”が正確でしょうね」

 もちろん、王子毒殺未遂の捜査が始まれば、最終的には食べ過ぎだとバレたため、王家からレストランの店主や屋台の店主には謝罪して、たっぷりのお詫び・・・も渡したのだというが……。

 お詫び渡したって言っても……王子に毒を盛った、なんて冤罪かけられた方はたまったもんじゃないだろう……その後の仕事にも影響するかもしれない。


「殿下は罪悪感からそうなっておりますが、レストランの店主も屋台の店主も、殿下が美味しそうに自分達の料理を食べる姿を覚えていて、大変喜んでいたのです、ですので、すぐに子供のした事だ、と笑って許して下さったのですよ」


 それは良かった、なら、何にも問題ないではないか、むしろ、通いまくってお金使った方がよっぽど喜ばれるんじゃ……。


「アルド、若気の至りだね……食べる事が好きだったアルドらしいけど(ニコリ)」

「……民に冤罪をかけるなど、王族のする事ではなかった……反省している(しょんぼり)」

 本人がこれじゃダメか。


 それならば、と、私はアルドがご迷惑をかけたそのレストランも行こう、と誘った。

 アルドも渋々だが了承し、2人で食事をしてきたのである。

 “エスティリアの君主”であり、結婚によって街に潤いを与えているアルドが、ひとたび街に現れれば、大歓迎されるに決まっている、と考えた私の予想は大当たり。

 レストランの店主はアルドと私の来店に大喜びで、握手を求めてきた後、特別に、と言って当時アルドが食べたという料理を再現してくれ、今では例の騒動も笑い話となっている、と話してくれたのだ。

 アルドもどこかホッとした様子で、笑顔を見せながら、また来る、と言い店主をさらに喜ばせていた。


 その後はいくつかの屋台へ寄り、護衛5レンジャー達へのお土産を買い込み、私達は屋敷へと戻ったのである。








「「「「いっただきまぁ~す!」」」」
「……(もぐもぐ)……あ、いただきます」


 屋敷へ着くと、どうしてわかるのか本当に謎なのだが、すぐに手土産の匂いに気づき集まってきた護衛5レンジャー達に、私達が外で食事をして来たと話すと、ロン以外の4人が驚いた表情を見せたが、すぐに興味を失い、土産をあさり始めた。

 本当に、いっそ清々しい奴らである。

 ロンにいたっては、いただきますの前にすでにかじりついており、皆のいただきますに遅れをとっている……可愛い。


 ちゃんと、食事をとっているはずなのだが、屋台フードが別腹であるのは異世界共通のようだ。


「レイ、リタ、後で一緒に書類審査に付き合って」

「「(もぐもぐ)(もぐもぐ)りょーかいれふ!」」


 私は、レイとリタと共にアルドのお兄さんの心理テストの結果から、その考え方は人物像を考える事にしたのだった。

 もちろん、アルドの回答は夜にでも、私が確認するつもりだ……アルドの隣で本人の話しを……いや、言い訳を聞きながら確認するのも楽しそうである。







 その後……。



「っ……ドン引き……なんですけど……王太子殿下……」

「これは……同じ男目線でも最低レベルの不モテ男の考えかと……」


 リタとレイがそれぞれそんな感想を述べたアルドのお兄さんの心理テストの回答だが……もちろん異世界人視点の私から見ても同意見だ。


「だって、信じられます? この問7の答え……」

 リタの言う、問7とは……

 問7.
 愛する人の誕生日、貴方はどちらを選ぶ?

 ① 仕事を休んで祝う
 ② 仕事が休みの日に合わせて祝う


 王太子殿下の回答は、もちろん②だ……忙しいのはわかるが、実際はどうであれ、選べるのだから是非とも①を選んで欲しいものである。
 正直過ぎるというか何というか……。

「もうこれ、誕生日とは言わないじゃないっ」

 確かに……。



「リタ、こっちのがヤバい……問13……」

 レイの言う、問13とは……
 
 問13.
 愛する人に自分以外の男性の影が……貴方はどちらの対応を選ぶ? (別回答可)

 ① 寂しい思いをさせてしまったのかもしれない、と反省し、対応を改める
 ② ふざけるな、今すぐその男を消し去ってやる
 ③ 別回答(気にならない、好きにしたらいい)



 王太子殿下の回答は、なんと③、わざわざ別回答での回答である。

 ……私は最初、②でも有りかもしれない、その怒りこそ愛というか独占欲というか……と思ったが、でもやっぱりないなと改めた。
 ……だって、②は自分の事しか考えていない回答だ。

 それにしたって……気にならないとは……1番悲しくて寂しい回答ではないだろうか。

 王太子殿下に問たい……そこに愛はあるんか? と。


「ぅわぁ……何その回答……見てみて! 鳥肌が立った」

 リタ、鳥肌って……ウケるな。




 いつもは仲の悪い2人が、王太子殿下の回答の酷さに意気投合している……面白い。


「エイミー様は? どれが気になりました?」

「そだなぁ、私は……問23かな」

「あ! それっ! 私も気になりました!」


 問23.
 愛する人・愛していた人を本当に愛しているかわからなくなった、貴方はどちらを選ぶ? (別回答可)

 ① 愛する努力をして、それでも無理なら別れる
 ② そもそも愛なんて関係ない、面倒だからそのまま
 ③ 別回答(必要ならばもう1人見つければいい)


 王太子殿下は②を選ぶかと思ったが、これも③別回答を書いてくれている。

 ②だったとしてもヤバいけどさ。


「王族らしい回答ですよね~実際に見つけてますしね」

 レイが言う。

 

 以前アルドに聞いた話しでは、カトリーヌ嬢の件については、お兄さんは自分に子種があるのか不安になったのではないか、との事だったが、本当にそれでカトリーヌ嬢を利用・・したのだろうか。

 だが、アルドはこうも言っていた。
 
 兄上は、義姉上を愛している、と。


 だがしかし、王太子殿下の今回の回答からは、愛なんてくだらない、興味はない、とすら思っている気がしてならない。


 そもそも、なぜ王太子殿下はカトリーヌ嬢を差し置いて、ローザ様を抱いたのだろうか?

 カトリーヌ嬢がタイプではなかっただけ?
 酔った勢い? ……というやつにしては、ローザ様のようなタイプはそんな事で簡単に身体を許しはしない気がする。

 つまり、あの2人は初めこそちゃんと愛しあっていた?


 が、子種流出事件により、亀裂が入った……。

 少し、アルドにも過去の2人の話しを聞いてみようか。

 私は1人で考えこんでいると、レイとリタがまた盛り上がり、勝手に結論を導き出していた。


「エイミー様、結論は出ましたね! 王太子殿下は、ナルシストの強がり、完全なる王様思考のクズです! 女なんて、所詮子供を生む道具にしか思っていないんですよ!」

 リタが両手を腰に当て、鼻息荒く語った。

「しかし……ローザ様の前では、申し訳なさそうな態度かつもじもじしている、と……それが、王太子殿下のこの回答からは想像がつかないんですよね……同一人物なのでしょうか? 実は双子とか?! 二重人格とか?!」

 レイまでおかしな事を言い出す。

 だが、レイの前半の話しは、確かに私も思っていた。

 今日の王太子殿下の私に対する態度からも、もじもじした姿など、まったく想像がつかない。


 やっぱりアルドに聞いてみようか……。

 そして、次回の女子会ではローザ様にとっておきのブツ・・・・・・・・を持参して、そろそろ本題に入ってみよう。


 私は一旦、今回の心理テストの回答については参考程度に留め置くことにし、レイとリタにお礼を言ってその場は解散した。



 ちなみに、とっておきのブツとは、そう……届いたのだ。
 リュシアンから、例のブツが!








 その夜……。


「テステステス……マイ(ク)テステステスッ……リュシアンさぁん? いらっしゃいますかあ?」


『……いません』


 いるじゃねぇか!


「リュシアンさぁ~ん、届きましたよぉ~貴方様からの例のブツがっ」


『……エイミー、まだ中見てないのか?』

「え、うん、リュシアンにお礼言いがてら、話しをしながら開けようと思ってさぁ」

『……そうか、泣いて喜ぶと思うぞ』


 なんと……ずいぶんと自信が有りそうだな!
 隠し撮りじゃなくて真正面のカメラ目線とか、とにかく凄くいい写真なのかもしれない。


 ガサガサッビリビリッ

 私は届いた封筒を破って開ける。

「えー、楽しみっ! ではっ……お初にお目にかかります~クリストフさぁ~ん、兄がいつもお世話になって……」



『……』


「……ん?」


 中には10枚ほどの写真が入っていた。












「ん? リュシアン……これは、全部クリストフさん?」

『クリストフ1枚・・入ってるだろ?』

 え、10枚もあるうちのたった1枚なの?!
 なら、あとの9枚は……


「気の所為かな? ……クリストフさんはなんとなくわかった、あと、全~部、リュシアン、あんたが写ったミスプリント・・・・・・が届いてるんだけど」


『ミスプリントなんかじゃねぇよ! 全部俺だからな! エイミーが寂しがらないように、俺の様々なショットをだな……プツッ……』




 私はバードコールを切った。


 あいつめ……ゴミを送りつけてくるとは! 許せんっ!


 その後、リュシアンバードが何度もさえずっていたが、私は応対しなかった。


「……エイミー、クリストフ殿以外は私が燃やしてやろう、かすんだ」


 え? 燃やすの? それは……ちょっと……。

 アルドは、まるでライターでもカチッとつけるかのように、小さな炎を手のひらから出している。


「あ、アルド、いくらゴミみたいとはいえ、知り合いを燃やすのはちょっと……私がアルノー経由で送り返しておくから! ねっ! 燃やすのは止めようか!」

「……」


 若干不満そうだったが、アルドは炎を消してくれた。



 それはいいとして……。

「クリストフさんって、なんだか思ってた人じゃないや……まぁ、髪を短くすれば、アルベール王子に似てなくもないか……ブルーノ兄様はこんな感じがタイプなんだ……(ブツブツ)……」

「エイミー? いつまで他の男の写真を見つめているんだ? 私に対する挑戦か?」


 え?

 挑戦? とは……一体……?

 私が未知の生物を見るかのような目でアルドを見ると、何故かアルドは嬉しそうに微笑んだ。


「……そうかそうか、私の妻はなかなかに欲しがり屋さん・・・・・・・だな……私を妬かせて……寝かせてもらえないとわかった上で、だな……」

 あのぉ、誰かいませんか? 頭の……思考のおかしな人がここにいます。





 その夜、私は頭のおかしな自分の夫の嫉妬を身体で受ける羽目になったのだった。








 その数日後……。


 私はレイとロンを連れて、ローザ様との女子会に来ていた。

 そしてローザ様にクリストフさんの写真をこっそりと贈呈する……もちろん、レイとロンは全て知っている。


「ローザ様、こちら……御収めくださいませ……」

「まぁ、何? そんな悪代官のような……っ!! ……」


 悪代官なんて言葉をご存知だったローザ様にも驚きだが、それ以上に驚いた様子の彼女は、私の渡した写真を目にしたまま固まってしまう。






「え、エイミーさん?! こ、これはもしかして?! く、クリストフ様かしら?!」

 凄い……ローザ様の顔がみるみる真っ赤になり、その視線は写真にくぎ付けである。

「オホホホ! はい、そちら現在のお姿でございます、昔から髪は長い方だったのですか? ……? ……ローザ様?」


 ローザ様は、ガチ恋だったのか、クリストフさんの写真を胸に抱き、はぁ、と甘い吐息を漏らしていた。

 ん? ……ガチ恋と言うよりこれはむしろ……。


「いいえ、以前は短い髪でいらしたわ……長い御髪もなんてお似合いなのかしら……エイミーさん……ありがとう、家宝にするわ……」

 え?! 家宝?! それってつまり、エスティリア家の?! もはや国宝では?

 ……冗談はさておき……。




「ローザ様、あの……王太子殿下の事なのですが……」

 私はローザ様の機嫌の良さそうなタイミングを見て、本題をぶち込む。

 しかし……ローザ様は甘くはなかった。


「エイミーさん、せっかくいい気分なのにアレ・・の話しはしたくないわ……ごめんなさいね」


 スンッと、真顔になり、王太子殿下を……夫をアレ・・呼ばわり……。

 この二人……もう関係修復なんて無理では?


 よぉーし! 諦めよう! すみません王妃様!


「……っと、とんでもございませ~ん! そうだ、ローザ様、実はローザ様と今度演劇を……」



 こうして……結果的に私は今回のミッションを解決出来ないまま、王太子殿下夫妻には時間が必要です、と、王妃様に報告した。
 屈辱であるが、正直、これ以上面倒くさい……王太子殿下もちょっと好きになれないし。


 やっぱり私は、ヒロインじゃないから、国の問題なんて解決できませんでした! (テヘペロ)


 ……これが現実さっ……フッ。



 しかし……ふた月後……私は王妃様に呼び出された。




「エイミーさん! 貴女っ、とても良い働きをしてくれたのねっ! ローザさんに妊娠の兆候ですってっ!」

 内緒よ? とウィンクを私に飛ばす王妃様。



 
 勝手に仲直りしたんかぁい……。

 ぇえ~……私もアルドも……必要ありましたぁ?

 結局は、2人の事は2人しか解決出来ない、これ、今回の教訓である。



 まぁ、まぁ、まぁ……良かった良かった。
 王子だといいですね。




 いまいち腑に落ちないが、めでたしめでたし。



 
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