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第一章
17 結末 (第一章 完結)
しおりを挟む翌朝、王室ゴシップの結末が知れるかと楽しみにしていたらしい私の護衛5レンジャー達は、私とアルドの何とも言えない空気に、誰一人として口を開くことはしなかった。
しかし、アルドが登城した後、痺れを切らしたレイが私に尋ねる。
「エイミー様、今朝はずいぶんとご機嫌斜めですね、昨夜レジェンドと何かございましたか?」
「え? ご機嫌? 斜めよ、そんなもん、斜め45度よ、いいえ、50%勾配よっもう!」
レイはその美しい見た目のせいか、とても話しやすい男性だ……18禁野郎だけどね。
未だに姿を見せてはくれない服の中のあの子も、そろそろ出て来てくれると嬉しいのだが……。
「だって、信じられる?! 処女に潮吹かせるとか!」
「ブッ! ゴホッ! ゲホッゴホッ!」
私の明け透けな言葉に、さすがのレイも驚いて飲んでいた紅茶を吹き出す。
「さ、さようでございましたか……レジェンドは、なかなかのテクニックをお持ちのようで……」
テクニック? ……まぁ、そうね、テクニックはあるかもしれないけど、それとこれとは話は別だ。
「ねぇ、レイ……貴方がこれまで見てきた女性は、そんなに簡単に潮なんて吹いた?」
「……え? 私は少し特殊でしたので……あまり参考にならないかと(二コリ)」
それはそうか、アブノーマル好きの令嬢達だったんだろうし、プレイとはいえ、獣姦だもんな……。
「あれ、でも、つまりレイ自身はそんなにしてないの? 魔獣にさせてただけ?」
「そうですねぇ……獣姦に興味があるという前に、私に抱かれたくて近寄ってくる女性達が多かったので、それなりに相手はしておりましたよ?」
レイに抱かれたくて近寄って来た女性たちが、一体なぜアブノーマルプレイや獣姦に興味を持つことになるのだろうか……一体、レイはどんなプレイを?
体験してみたいとは思わないが、少し興味がある……。
ゴクリ……。
「エイミー様も興味が?」
「いいえ、まさかっ獣姦は結構です! ただ、レイがどんな風に女性を抱くのか興味があっただけ」
「……おや、エイミー様もモノ好きですね……僕なんかでよければ、いつでもお相手させていただきますよ? (二コリ)」
美しいピンクの髪をサラリとなびかせ私を誘惑するレイに、思わず見惚れていると、リタが横からコツン、とレイの頭を分厚い本で叩いた。
「エイミー様、この変態に惑わされてはいけません」
「う、うん、リタ、ありがとう、危なかった……」
「リタ、僕は今エイミー様の閨に関するご相談に乗っていたんだ、邪魔するなよ」
「あら、閨に関するご相談でしたら、是非この私に! レイの知識など、動物の繁殖以外役に立ちませんわ」
「リタ、君こそ生身の男との経験なんてあるのかい?」
「あら失礼ね、私は何人もの男を虜にしてきた魔女と呼ばれた女よ?」
「薬を使って、だろう? ドーピングじゃないか」
駄目だこりゃ……リタとレイは、なぜかライバル意識が強く、いつもこうしてすぐに喧嘩をおっぱじめるのである。
こうなると、いつも私を癒してくれるのは……。
「……リタ、レイ、また喧嘩してる……うるさい、脳みそ混ぜる?」
「「……っ結構です……」」
さすがのロンである。
「でもさ、エイミー様、レジェンドと喧嘩したのはわかったけど、昨日のマル対達の続きは聞いてないのか?」
唯一ちょっとまともなリーサルウェポン、オレンジ髪のサムが私に尋ねた、興味なさそうにみえて、意外とサムもゴシップが大好きなようである。
「……聞いてない、だって……」
私は昨日のアルドの言葉を思い出す……。
話したいことは沢山あったらしいが、それよりも私を補充したかったようだったので……私も聞かずに好きにさせてしまったのだ。
好きにしてくれ、と言ったのは自分であると思い出した私は、何となくアルドに悪いことをしたな、と若干反省の気持ちが湧き、今夜はちゃんと話を聞いてあげないと……。
「……エイミー様のそのお顔見たらなんとなく状況はわかりました」
「レジェンドってば、疲れマラだったのね」
「ほう、それでエイミー様に潮を吹かせた、と、あっぱれですね、さすがレジェンド!」
サムの気遣いをよそに、リタとビルが水をさす。
もうヤダ……この人達、デリカシーって言葉を知らないみたい。
……でも結局のところ、面白いからやっぱり大好きなのである。
○○●●
(アルド視点)
まずい、まずい、まずい……エイミーを怒らせてしまった。
彼女は昨夜から今朝まで一言も口をきいてはくれなかったのだ。
今日も帰りが遅くなるようなことになれば、このまま丸一日、口をきいてもらえないことになってしまう……。
「殿下? 殿下? 聞いてますか?」
ッハ! ……私はマクシの声にハッとする。
マクシは結局、私を殿下と呼ぶところに落ち着いたようだ、私もそれでいい……呼び方など、王位継承権を放棄し無事に王族では無くなれば、閣下などに変わるだけの話だ。
「すまない、なんだっ?」
「ですから、昨夜の件ですが……現在、国王陛下、王妃陛下、クロード王太子殿下、王太子妃殿下、リドー侯爵(王太子妃の父親)、モロー侯爵、カトリーヌ嬢の面々で、話し合いが行われております」
……そうだろうな。
散々私を巻き込んでおいて、結局は兄上の子だったとは……バカバカしすぎて、へそで茶が湧きそうだ。
モロー侯爵は兄上を許さないだろう、既婚者である身で、自分の娘を妊娠させたのだから。
しかし、昨日の様子を見る限り、カトリーヌ嬢は兄上に惚れ込んでいるようだ……。
娘の幸せを願う父親であるのならば、恐らくはカトリーヌ嬢を兄上の側室として召し上げ、そのまま腹の子を第一子として出産させることを求めるだろう……男児であれば、第一王子となる。
しかし、それを王太子妃である義姉上のローザが許すはずがない……そしてその父親、リドー侯爵も……。
「カオスだろうな……想像するだけでゾッとする……二度と巻き込まれたくない……」
「ええ、本当に……」
「だが、兄上はカトリーヌ嬢の事を“カティ”などと呼んでいたが、そんなに親しかったのだろうか? それに不思議なんだ、なぜ生まれたらバレるとわかっていて、私と結婚させようとしたのか……そうまでして、カトリーヌ嬢の出産までは城に留まらせたかったのか? つまり、心配で?」
私は独り言のように疑問を口にしたのだが、そんな私の疑問に、今回もマクシが答えてくれた。
「実は、カトリーヌ嬢とクロード王太子殿下は幼馴染で、婚約の話も上がっていたほどの仲でございました……当時12歳ほどの殿下はエイミー様に夢中で気付いておられなかったかもしれませんが……」
ああ、気付いていなかったさ、兄上の恋人など全く毛程も興味がなかったからな……あの頃、私の頭の中は、エイミー一色だった。
「それなのに、どうして兄上はリドー侯爵の娘と結婚したんだ?」
「それは……クロード王太子殿下が、現在の妃殿下と先に関係を持たれてしまったのです……」
あの堅物の兄上が、婚前交渉に及んだことは知っていたが、そういう事だったのか。
「つまり兄上は、婚約すらささやかれていた幼馴染ではなく、ポッと出のリドー侯爵の娘を抱いたと?」
「そういう事ですね」
まぁ、兄上が幼馴染のカトリーヌ嬢を愛していたかは定かではないので、何とも言えないが……。
「私はてっきり、兄上は義姉上を心から愛していると思っていた……」
「それは愛しておられると思います、ですが、ご結婚されて三年、子を成すことが出来ず、クロード王太子殿下も不安になったのではないでしょうか?」
「不安? 自分に子種がないかもと?」
マクシは、それだけではないですが、と言葉を濁したが、要はそういうことだろう、それで、他の女と試したと……。
「……我が兄ながら、最低だな……あんな堅物そうな顔して……」
マクシは、兄上を庇うつもりはないのだろうが、それだけ王位を継ぐ者として責任感がおありだったのでしょう、と私に言った。
そして、長い長い話し合いの末、ようやく結論がでたのか、はたまたひとまずこうしよう、という折り合いがついたのか、疲れ切った顔をした兄上が、話し合いの後のその足で私の元を訪れ、頭を下げた。
「エドゥアルド……すまなかった」
「許しませんからね兄上……」
「……ああ、許さなくていい……ファリナッチ公爵令嬢にも謝っておいてくれるか、私はしばらく謹慎の身なんだ」
謹慎程度で済んでよかったな、弟の結婚をめちゃめちゃにしようとしておいて……。
「兄上、兄上は義姉上とカトリーヌ嬢、どちらを愛しているんですか?」
私の直球の質問に、兄上は少し考え、答えた。
「……わからない……どちらの事も大切には思っている……だが……エドゥアルド、私はお前が羨ましかった、ファリナッチ公爵令嬢をあんなにも盲目に愛することが出来ていたお前が……」
あんなに無視され続けた挙句、婚約解消を突き付けられた私が羨ましいだと? 嘘を言うな。
「エドゥアルド、愛されることだけが幸せではない、心から人を愛することが出来てこそ、そしてその相手からも愛されてこそ、本当の幸せと呼べるのかもしれない……」
まぁ、それは一理あるな、一方的よりもエイミーからの気持ちを感じられる今の方が、数万倍幸せだ。
「兄上、まだ遅くはありません……義姉上のこともカトリーヌ嬢のことも、二人ともを愛せばいいのです、私には無理ですが、兄上なら可能でしょう、腹黒いですからね」
「はっ、なかなか言うようになったな、ファリナッチ公爵令嬢の影響か?」
「さぁ……もともと私はこんな性格だったのだと思います、太っていたころから何も変わっていませんよ、誰も私の本質なんて見ようとはしてくれませんでしたからね」
兄上こそ、なんだか憑き物が落ちたように……いや、逆に憑かれたようにヨボヨボしているな、何も言わないでおこう。
翌日、正式に私達に公表された内容では、カトリーヌ嬢はそのまま城へ残り、予定していた私との結婚式はそのまま兄上との結婚式と代わることとなった。
カトリーヌ嬢は兄上の側室としてこのまま子を産み、万が一それが王子だった場合は生まれた第一王子を義姉上へ養子に出すようにとの話になったのだという。
モロー侯爵は納得していないようだが、カトリーヌ嬢本人が、兄上の側にいられるならばそれでいい、と承諾したのだそうだ。
っと、いう事を、私はエイミーに報告しがてら、一日遅れではあるがすぐに仲直りをしようと、家路を急ぐ。
(昨夜は帰りが遅くなり、エイミーは先に眠ってしまっていたからな……今夜は起きていてくれるといいんだが……)
しかし……。
「何?! エイミーはまだ帰っていないだと?!」
時刻は20時22分……護衛のうちの一人が私に告げる……こいつは確かレイ、と言ったか? ピンク色の髪をした優男だ。
それにしても、何という事だ、エイミーはまさかまた家出を?!
「レジェンド、ご安心ください、エイミー様は少し古いお仲間にお会いになるとのこと、ビルとロンも一緒についておりますのでまもなくお戻りになるかと……」
古いお仲間、だと?! まさかっ!
「リュシアン王子ではないだろうな?!」
あのような性格のエイミーに仲間などいるはずがない、しいて言えば、リュシアン王子くらいだ。
あの男、まだ20日経っていないというのに……約束が違うではないか。
「レ、レジェンド、落ち着いてください、恐ろしい魔力が漏れ出ております……リュシアン王子というのが、シュドティリアの第2王子の事であれば、違います!」
レイの言葉に、私の漏れ出た魔力は少し引っ込む。
「……ならばいい……だが、エイミーに私の知らない仲間がいるとは……聞けば話してくれるだろうか?」
む、私は護衛に何を相談しているんだ……この男、つい話をしてしまう、不思議な雰囲気の男だな……。
「ええ、話してくださると思いますよ? エイミー様は隠し事が出来るタイプではございませんから」
あっけらかんと悪びれる様子もなく、失礼なことを答えるそのピンク頭のレイに、私は少し好感を持った。
エイミーには、この者のような腹の探り合いの必要のない人間が側にいるから、あんなに素晴らしく素直な性格なのだな……。
そして、レイのいう通り、ほどなくしてエイミーは帰ってきた。
「アルド! お帰り、早かったんだね!」
「ああ、今夜こそエイミーと話がしたくてな、急いで帰ってきたんだ……エイミー、君は……酒を飲んできたのか? 珍しいな、誰と飲んできたんだ?」
エイミーのその機嫌の良さからもうかがえるように、よほど楽しかったのだろう……一体誰だ、彼女をこんなに楽しませることができる者とは……
「んー、シュドティリアの時の街の知り合い達が結婚式に便乗して稼ぎにこっちに来てるの」
達? つまり、一人ではないという事か……エイミーにそんな複数人の友人がいたことにも驚きだが、まぁ、特定の何者かでなければ、問題ないだろう。
「……そうだったのか、エイミーお腹は? 空いてないか?」
「うん、みんなと食べてきちゃったから空いてない、アルドが食べるなら付き合うけど」
「いや、私も軽く済ませてすぐに寝室へ行くから、先に風呂に入っては休んでいてくれ……寝るなよ? (ッチュ)」
酒の入っているエイミーは初めて見るが、さほど眠そうにしている様子もいつもと違う様子もない……もしかして、酒が強いのだろうか?
「大丈夫、アルドの話聞くの楽しみにしてたから起きてるよ……それと……この前は怒っちゃってごめんね」
なっ! ……何という事だ! エイミーが、エイミーが自分から謝った、だと?!
「……エイミー、やっぱり少し酔っているみたいだな、水を飲んで、ゆっくり休んでいろ、長湯はするなよ?」
「え? 全く酔ってないけど……でもまぁ、いいや、じゃまた後でね」
エイミーの後ろ姿を見送った後、私はビルに尋ねた。
「ビル、エイミーの今日会っていた者たちに危ない者はいないのか? (本当に複数人なのか? 男か? 下心はなさそうか?)」
別にエイミーの交友関係に口を出そうとかそういう事ではないが、知っておいた方がいいこともあるかもしれん。
「はいレジェンド……先日偶然街で再会されておりまして、どうやらシュドティリアではエイミー様の素性すら知らぬ者たちだったようですが、突然姿を消されたエイミー様を心配していたと……エイミー様は自分が突然姿を消した理由も会わせて、その素性もすべてお話になられておりました、その上で、現在も友好関係が続いております」
「(本当に複数人です、中には男性もおりますが、エイミー様は女性とばかり話しておられました、男性も女性もエイミー様をカモにしようだとか、手籠めにしようだとかと言った下心もないかと)」
ビル……お前、気に入ったぞ、私の心の声にまで答えてくれるとは……。
「わかった、今後もしっかりと護衛を頼む」
「イエス、サー!」
「(ボソ)……レジェンド、僕には聞いてくれない……」
ん? 今、何か聞こえたか?
(アルド視点end)
○○●●
珍しくアルドが早く帰ってきたので、今夜はようやく王室ゴシップの結末を話してもらえる。
ちゃんと例の件も謝ったし、一切のわだかまりはなし!
明日は護衛5レンジャー達に満足のいく報告が出来そうだ、と私は一人入浴を済ませベッドで待っていた。
「エイミー? 待たせたな」
パジャマ姿のアルドが現れ、ベッドに上がってくる。
「アルド、どんだけ急いでたの、髪びしょびしょっ、ほら、私がやってあげるっ」
そんなに私が先に寝てしまうと思ったのだろうか、可愛い奴め。
私は生活魔法の一つ、温風を出す魔法でアルドの濡れた髪を乾かす……柔らかいアルドの髪を、手櫛ですきながら、しっかり根元まで風を当てる。
「……気持ちいい……エイミーは髪を乾かすのが上手だな……」
「そうでしょ」
仕事柄あちこちでいろんなヘアメイクさんと出会って来たけど、やっぱり自分のこだわりってあるから、余計にね……こうして欲しいああして欲しいって考えてたから、自然に上手になったのだ。
「それでアルド、カトリーヌ嬢達はどうなったの?」
「ああ、そうだ、それなんだが……」
私は話し合いを行ったメンバーや、その結果、そして公表された結果を簡潔に聞いた。
そして、アルドのお兄さんがアルドに謝罪しに来た際の話も聞くことが出来、兄弟の仲がそこまでこじれずによかった、とホッと肩をなでおろす。
「良かったねアルド……」
「ああ、すべてエイミーのおかげだ」
まぁ、そうかもね私がカトリーヌ嬢を脅さなければ、こんなに早く解決はしなかっただろうしね。
「功労者にご褒美はないのですか殿下?」
「っくく……そなたの望むままに褒美を与えよう、何が望みだ、申してみよ」
なんだそれ、様になってるなアルドめ。
とはいえ、ご褒美ねぇ~……何がいいかなぁ~……。
あ、そうだ!
「殿下、決めました、私の求める褒美は……」
そして数日後、アルドは私へのご褒美を本当に実現してくれた。
「アルドー! 嬉しいっ! ありがとうっ! さすが私のスパダリ様ー!!」
「……姉上? これは一体……」
「エイミー、どういうことだよ……」
私のご褒美、それはアルノーとリュシアンをこのエスティリアに一年間の魔法留学生として受け入れる事……エスティリアの魔法留学生の受け入れ枠は非常に狭き門で、それこそ各国の上位1名しか入れないのである。
「アルノー、ずっと留学したがっていたでしょ? たった1年だけど、絶対勉強になるから、頑張ってね!」
「だからって、どうして俺まで一緒なんだよエイミー!」
リュシアンが吠える。
「え、だってあんたアルノーしか友達いないじゃない、寂しいでしょ? だったら二人で支え合って頑張ればいいと思って」
「なっ! 俺だっていろいろ忙しいんだぞ……(ごにょごにょ)」
はいはい暇だね君、学園生活も1年半残ってるんだから、学生のうちにいい経験ができて別にいいじゃないか。
「……よろしいのですか、エドゥアルド王子殿下……」
真面目くんアルノーは、申し訳なさそうにアルドに尋ねる。
「いいも何も、これはエイミーへの褒美だからな、お前達への褒美ではない、感謝するなら、エイミーに」
うんうん、その通り、若干面白くなさそうなアルドが気にはなるが、まぁ後でなだめておけばいいだろう。
「アルノー、私はアルノーが素晴らしい魔法使いになって、沢山お金を稼げるようになって、いつか私が結婚に失敗したり離婚されたり、未亡人になってもアルノーに養ってもらえるようにしたいだけなの、だから、遠慮せず受け取って」
いい、なんか、すごくお姉ちゃんっぽいセリフじゃないか? いやぁ~、私もこんなことが言えるようになったか。
「……姉上……まだ僕に寄生することを諦めていなかったのですか……?」
アルノーは、おぞましモノでも見るかのような表情で私を見ている……が、すぐに笑顔を向け、私にお礼を言った。
可愛い笑顔だ……お姉ちゃん、その笑顔が見れただけで満足じゃよ。
「姉上、エドゥアルド王子殿下、心より感謝申し上げます、お二人の顔に泥を塗るようなことのないよう、与えられた1年間を死ぬ気で学ばせていただきます!」
ああ、立派になってアルノー……お姉ちゃん嬉しい、ぎゅってしたい、ぎゅって。
「まじかよアルノー……」
「リュシアン、お前も留学したがっていたではないですか、素直に喜んだらどうです?」
なんだ、やっぱりそうだったんだ、ツンデレなんだから。
こうして、1年間ではあるが、私の可愛いアルノーと私の夫候補のリュシアンがエスティリアに滞在することとなったのだった。
本当は、一緒にこの屋敷で生活したかったのだが、アルドが絶対駄目だと言い、さらにリュシアンも絶対に嫌だと言ったため、二人は留学生用の寮に入ることに。
「別に僕は姉上と一緒の生活でもよかったのですけどね」
「そうよね、アルノー、何ならアルノーだけでも一緒に住む? そうだ、私の護衛の5人、絶対アルノーも仲良くなれるはず! 今度紹介するね!」
「いいえ、リュシアンが寂しがると悪いので、僕も寮に入ります……護衛、ですか? わかりました、楽しみにしています」
しかし、アルノー達の入る寮は規則がとても厳しい所のようで、せっかく同じ国にいるのに全然会えないんじゃ寂しい、と私が文句を言ったら、特別に週末の外出許可を王子の職権で回数無制限にしてくれることに。
「ところで、エドゥアルド王子は“エスティリアの君主”とかになったんじゃないのかよ、どうして今でも王子やってんだ?」
ある時からアルドに対して敬語を使わなくなったリュシアンが、誰も触れずにいた部分について、ズバリ聞いてしまった。
「ああ……それは……“エスティリアの君主”などエイミーが望んでいないからだ……」
え?! 私?! そんなこと言ったっけ?! いつ?!
「エイミーは、退屈を極端に嫌うだろう、“エスティリアの君主”は何にも邪魔もされずすべて思いのままだ……そんな生活、エイミーがすぐに飽きてしまうからな……」
よくわかってらっしゃる……でも、そんな理由があったのね、ちょっとびっくり。
「……つまり、殿下は姉上の為に“エスティリアの君主”を名乗らず、封印しておくとおっしゃるのですか?」
「ああ、そうだ、それに王子でいる方が何かと面白いからな……エイミーがそれに気付かせてくれたんだ」
確かに、お兄さんの密会現場を押さえた時のアルドの声はとても楽しそうだった、そういうこと?
「それなら、余計に俺はエイミーを諦める必要はないってことだよな? エイミー、もうすぐ約束の20日だ、婚姻届持ってくるからな」
突然何を言い出すかと思えば、リュシアンってばまだ私と結婚する気でいたのか、あんなド派手に連れ去られておいて……強靭なメンタルだな。
でも、申し訳ないけど……。
「あぁ、それね、リュシアン、悪いんだけどサインできないわ!」
「はぁ?! どうしてだよっ!」
「やっぱり、あんたとは今の距離感が一番楽で楽しいからっ実はあんたもそう思ってんでしょ? ねぇ、ほれ、白状しちゃいなさいよ(ニヤニヤ)」
私はリュシアンの顎に人差し指を添え、彼の本音を引き出す。
「うるさいなっ! わかったよ、今回の所はそれで勘弁してやるけどな、エドゥアルド王子! エイミーを泣かせるような事したら、今度は俺がさらっていくんだからな! 覚悟しておけよっ! クソっ」
リュシアンってば、王子らしからぬ悪態である……でも、耳真っ赤にしちゃって、可愛いんだから。
こうして、私とリュシアンは学園にいた頃のように、仲間に戻ったのだった。
ありがとう、リュシアン……。
第一章 fin..
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