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第一章

15 真実は1つ

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 (アルド視点)
 
 
 エイミーを無事に取り戻した日の翌朝、私はエイミーとの2人のために用意した屋敷で目を覚まし、そして腕の中にはエイミーがいた。 
 
 あまりに不安で一晩中彼女を抱きしめて眠ってしまったせいか、エイミーは身体を痛そうにしていたが、その後イチャイチャしながらこっそりと治癒魔法をかけておいたので、問題ないだろう……。

 ただ彼女は私が治癒魔法を使えることを知らないから、不思議に思うかもしれない。
 
 治癒魔法は普通の魔法使いが使えるものではない、治癒魔法が使える者は、逆に他の魔法がまったく使えないとされるほど、治癒魔法に関しては特別な魔法なのだ。
 
 もちろん、私もこれまでは使えなかった。
 
 しかし、ドラゴン達を召喚し“エスティリアの君主”として認められて以降、突然使えるようになったのである。
 
 
 
 
 
 本当ならば、このままずっとエイミーと屋敷に籠っていたかったのだが、そうもいかない。
  
 父上と母上、そして兄上と……話をしなければならない、そして、マクシにも進退を確認する必要があるだろう。
 
 
 私はもう王子ではない。
 
 “エスティリアの君主”として誰にも邪魔されることのない存在となり、これからはエイミーと仲睦まじくやっていくのみだ。
 エスティリアに留まる理由は特にはないが、ひとまずは屋敷も完成したことだし、少し慣れた土地で生活するのも悪くはないだろう。
 
 
 
 屋敷にエイミーを残していくにあたり、例の護衛を5人、エイミーに紹介すれば、彼女は何やら意味深な様子を見せた後、パッと表情を切り替え、嬉しそうに私に礼を言った。
 そんなエイミーが可愛らしく、たまらずベッドに戻りたくなったが、そこはぐっとこらえる。
 
 腕の立つ者ばかりなので、彼らを嫌だと言われたら正直困ってしまったが、受け入れてくれてよかった。
 
 
 
 そして私は屋敷全体に広範囲結界を張り、屋敷そのものを周囲の目から隠し、城へと向かう。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「っ殿下!? ……いいえ、君主様とお呼びした方がよろしいでしょうか!?」
 
「マクシ、少し見ない間に痩せたか? ……心配かけて悪かったな」
 
 
 突然執務室に転移してきた私に驚き、大声を上げたマクシだったが、すぐに自らの口を押さえ小声で話し始める。
 
 この行動から、マクシも兄上に監視されているのだとわかった。
 
 
「とんでもございませんっ! 殿下が君主様として城を飛び立たれた後、事態の収拾に追われ、この二日間寝ておりませんが、問題ございません!」
 
 
 寝ていないせいか、若干いつもより興奮気味なようにみえる……が、やはりそうだったか……エイミーとダラダラしすぎず、早いうちに戻って良かった……マクシには悪い事をしてしまったな。
 
 
「マクシ、私はもう王子ではない、お前はこれからどうしたい?」
 
「……どうしたい、とは?」
 
「城に残り、私以外の王族に仕えるか、このまま私に……」
 
「もちろんお許し頂けるのであれば地の果てまでもっ君主様、いいえ、貴方様にお仕えいたします!」
 
 マクシは私の言葉を遮り、食い気味に答えた。
 
「……私の言葉を最後まで聞かぬとは不敬なヤツだな……くくっ」
 
「も、申し訳ございません……早くお答えしたくて……私としたことが……」
 
 頭をポリポリと掻きながら、照れた様子のマクシに、私は改めて宜しく頼む、と握手を求めると、これまた食い気味に両手で私の差し出した手を握り、宜しくお願いいたします、といいながら、マクシは涙を浮かべていた。
 
 
 
「マクシ、ひとまず私は父上と兄上に会って話しをしてくる」
 
「それがよろしいかと……王妃様は体調を崩され休まれておりますので」
 
 
 ……出来が悪い子ほど可愛い、と思う人間がいると聞いた事があるが、もしかすると私の母は、かつて、太っていることで他者より劣る私だったからこそ、可愛く思ってくださっていたのかもしれない。
 
 ふと、そんな事が頭をよぎった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「父上、兄上、只今戻りました」
 
「「エドゥアルド!」」
 
 
 さて、2人は私を息子と弟として接するのか、それとも“エスティリアの君主”として接するのか……それによって、私も対応を考えねばならない。
 
 
「貴様! 何と言う事をしてくれたのだ!」
 
 
 兄上は私の胸ぐらに掴みかかり、恨み辛みの感情をぶつけてきた……どうやら、兄上は前者……私をとして扱ってくれるようだ。
 
 
 (都合がいい……)
 
 
「私は……兄上が私の話しをまったく聞いてくださらないので、自らの出来る最善を選択したまでです」
 
「ドラゴンを召喚し、エスティリアの君主として覚醒する事がお前の最善だったと?!」
 
「ええ、ドラゴンであればシュドティリアへの入国も可能ですから……兄上に閉じ込められたあの部屋からの脱出とエイミーの救出には、ドラゴンが最適でした」
 
 
 悪びれもせず、ひょうひょうと語る私に、さすがに頭にきたのか、兄上は拳を握り私に振りかざそうとした。
 
 
 
 パシッ


 
「やめるんだクロード」
 
「父上!」
 
 
 兄上が振りかざそうとした拳は、父上によって止められる。
 
 
「エドゥアルド……いや……“エスティリアの君主”……か……だがお前は私の息子だ、それは変わらん……クロードのした事、すまなかったな……」
 
 
 父上は兄上とは違い、冷静に考えた上で私を息子と扱ってくれるようだ。
 
 
 父上が兄上のした事を私に謝った事で、兄上も自分に非があったと理解したのか、今、この場では大人しくなった。
 
 
 私は父上に、現在の状況の把握とこれからについて2人と話し合いたいと伝え、すぐに話し合いの場が設けられることに。
 
 
「最初に確認だが、お前がドラゴンでシュドティリア王宮へ乗り込み、第2王子の妻を奪ったと噂になっておる……事実か?」
 
 父上が私に確認してきた。
 
 それにしても、“奪った”とは穏やかでないな……あんなに平和的に解決してきたというのに……それに、そもそも私からエイミーを奪ったのはリュシアン王子の方だしな。
 
 
「はい、事実です、エイミーは私が連れ戻りました、今は安全な場所にいます」
 
「……安全な場所……か」
 
 
 私はこの城は安全ではない、そう遠回しに伝える。
 
 
「エドゥアルド、その令嬢はシュドティリアの第2王子の子を宿している可能性はないのか? 仮にも2ヶ月以上婚姻関係だったのだろう、確認したのだろうな」
 
 兄上の言葉は、見えない何かで頭を殴られたかのようだった。
 
「……確認しますが、可能性ないでしょう」
 
 そう答えはしたが、自信はない……エイミーはリュシアン王子と初夜を済ませてしまっただろうか……
 私とカトリーヌ嬢との事を誤解し、当てつけに……なんて事もあり得る……。
 
 
 (駄目だ、今は考えるなっ)
 
 
 私は気持ちを切り替え、再び話し合いを進めた。
 
 
 
 
 まず私は、事の発端であるモロー侯爵の娘カトリーヌの子の件について、父上に事実を伝え、腹の子とは無関係であると主張した。
 
 
 だが……
 
 
「しかしな、実際の所、覚えておらんのだろう? ……お前も男だ、もし催淫系の薬を盛られていたとしたら、気持ちとは関係無しに事に及んだ可能性は否定出来んぞ……」
 
「っ……!」
 
 
 父上の言う事はもっともだ。
 
 だが、それなら私にも言い分はある。
 
 催淫剤の使用によって意識のハッキリしない状態で射精したとすれば、朝、俺の息子は何かしら違和感を感じたはずでは? ……一人で2度諌めるだけでもダルさを感じるのだから……と、そこまでは言わないが。
 
 
 まぁ、いい、この件に関しては、これ以上、話し合っても無駄だ、答えは出ないだろう。
 
 
「ですから私は、腹の子が生まれるまでは・・・・・・・カトリーヌ嬢が城にいることに、なにも言わずにいるつもりです……不本意ながら、私は容疑者ですので……」
 
 だが……
 
「しかし、結婚式を挙げるとなればまったく話が変わってきます、私はカトリーヌ嬢とは結婚しません、結婚はエイミーとします、そして彼女に本当の・・・私の子を生んでもらうつもりです」
 
 
 父上は目を閉じ腕を組み、うーん……と悩みはじめた。
 
 
「エドゥアルドの気持ちを尊重してやりたいが、モロー侯爵がな……」
 
「モロー侯爵は一体、何のチカラもない第2王子である私を陥れ、何を企んでいるのですか?」
 

 父上は、目を開け困った顔で私を見た。
 
 
「それがな、モロー侯爵は何も企んでなどおらん……ただ、娘を想う父親に過ぎんのだ……だから私も困っている」
 
「っな!」
 
 そんな事あるわけが……いや……わからない。
 
 シュドティリアの王やファリナッチ公爵の件を考えれば、この一件で手のひらを返したように私を排除しようとしていたからな……。
 
 
「つまりモロー侯爵は、娘の言葉を信じて、私の子であるから、ただ責任をとって欲しい、と?」
 
「そうだ……自分は娘がお前の妃になった所でこれまで通り国政に口を出すつもりもないと……ただ娘と孫が幸せになってくれさえすればいいと、そう言っておる……」
 
 
 何と言う事だ……もっともやりづらい相手ではないか。
 
 しかしそうなるとつまり、鍵を握るのはカトリーヌ嬢本人、と言う事だな……。
 
 
 とは言え、モロー侯爵の言葉も100パーセント信じるつもりはない。
 
 
 (女性目線で、エイミーからも意見を聞いてみようか……)
 
 
 そんな事を考えていたのだが、なんやかんやと私はそのままこき使われ、連日朝から晩まで仕事をし、話し合いの続きは空いた時間にしよう、といった調子で、父上と兄上には上手くに逃げられている……。
 
 せっかくエイミーのいる屋敷に帰っても、毎晩エイミーが眠ってしまった後である日が続き、やる気を失いそうであった。
 
 
 



 
 
 しかし昨晩、エイミーからリュシアン王子と初夜を行っていないと知った私は、再びやる気を取り戻す事が出来たので、早速父上と兄上、そして母上を捕まえ、話し合いの席に着かせたのだった。
 
 
「まず兄上……本人に確認した所、彼女はシュドティリアの第2王子とは初夜を済ませておりませんでしたので、子の心配は無用です……それから……すでに動き出してしまっている結婚式ですが、せっかくですので挙げようと思います」
 
 
「「いいのか!?」」
 
 
 私の言葉に、喜びと驚きの表情が一斉にこちらに向いた。
 
 
「ええ、私とエイミー・・・・の結婚式にすり替えます、3ヶ月後でしたか?」
 
 
「っな!」
「何を馬鹿な事を言っている!」
 
 
 昨夜、エイミーにカトリーヌ嬢の事を相談してみると、彼女は何か思うところがあったようで、私にこう言った。
 
 
『アルド、近いうちに私が、カトリーヌ嬢のお腹の子の本当の父親をアルド達の前に引きずり出してあげるね(二コリ)っだからこの件はもうすぐ解決するから安心して(ウィンク)』
 
 
 エイミーのその言葉を聞いた私は、胸が高鳴った……惚れなおした、とでも言おうか……
 今でも彼女のあの自信たっぷりのウィンクが忘れられず……もう、すでに早く彼女に会いたい……。
 
 
 彼女が本当の父親を引きずり出してくると言っているのだから、本当にしてくれるのだろう。
 
 そのために早速今日から色々動くと言っていたので、護衛も同行する事を条件に了承した。
 
 
 結婚式の件はエイミーには話していないが、20日後、リュシアン王子との婚姻届にサインなんて、絶対にさせるつもりはない。
 
 そのためにも、私は早々に基盤を作る必要がある。
 
 
「モロー侯爵とカトリーヌ嬢の一件は、こちらにお任せください、解決してみせます……それと父上、私をこのまま“エスティリアの君主”ではなく“第2王子”として扱うのであれば、私の王位継承権放棄の件、早々にお願いします」
 
 臣籍降下の件は、エイミーが“君主の妃”ではなく普通の“公爵夫人”を望むようであれば、その時に好きな国から爵位を貰えば済む話であるため、どうでもいい。
 
 
「それから母上……エイミーがこれを母上にと……」
 
 私はエイミーから預かった花束を母上に渡した。
 
「……まぁ、青い薔薇? 本物?」
 
「さぁ、私には……今度会って直接聞いてみては?」
 
 
 この薔薇は、エイミーの護衛のビルが作った・・・薔薇でエイミーが作った花束である。
 
 魔法植物に詳しいビルは、もちろん通常の植物にも詳しく、青い薔薇が欲しいというエイミーの頼みに、何と一晩で用意して見せたのだ……王族には魔法で何か細工した花などは基本的に贈ることはできないため、魔法で染めたわけでもないだろう。
 
 初めは元犯罪者の護衛など、少々不安もあったが、結果的に個性豊かな面白い護衛を雇ったおかげで、エイミーも毎日退屈していないようだし、良かったといえよう。
 
 
 
 
 こうして私は、エイミーとの幸せな結婚に向けた根回しを着々と進めていくのみとなった。
 
 
 
 
 
 
(アルド視点end)
 
 
 
 
 ○○●●
 
 
 
 
 昨夜アルドに私の処女について確認を取られて機嫌が直った後、アルドは私の乳に埋もれながら、カトリーヌ嬢について相談してきた。
 
 どうやら(オ)モロー侯爵は貪欲な人間ではなく、ただ娘を想う良き父親であるとのことで、すべては娘であるカトリーヌ嬢の仕業であるようなのだ。
 
 
 私の乳を幸せそうに頬張る悩める子羊ならぬ、肉食子ドラゴンアルドのために、私は必死に原作を思い出そうとした。
 
 
(カトリーヌカトリーヌカトリーヌ……モロー侯爵……東の国……エスティリア……王子……子供……妊娠……恋人……)
 
 
 ん、待てよ……カトリーヌの愛称って……。
 
 
「……カティ、そうか、カティってカトリーヌのことか!」
 
「……どうしたんだエイミー?」
 
 
 私の少し大きめの声に、何事か、と、もぞもぞと私の胸の間から顔を出すアルドに、私は言った。
 
 
「アルド、近いうちに私が、カトリーヌ嬢のお腹の子の本当の父親をアルド達の前に引きずり出してあげるね(二コリ)っだからこの件はもうすぐ解決するから安心して(ウィンク)」
 
 
 


 
 
 翌朝……
 
 
「アルド、昨日の夜の話の件で今日から外に出たいんだけど、いい?」
 
 いや、駄目とか言われたら何もできないから、アルドの許可なんかいらないんだけどね、一応さ、なんかこの屋敷、おかしな魔力が漂ってるし、もしかしたらいつぞやの私の脱走未遂の時みたいに警報がなるとアレだしね……。
 
「ああ、必ず護衛を何名か連れて行くならいい、無理はしないでくれ、私は君に何かあれば何をしでかすかわからない……(チュッ)」
 
 
 そうですよね、それは重々承知しております、何せあなたは前科持ち。
 
 
「わかってるって、そだなー……今日はビルとロンと一緒に出掛けるよ」
 
 
 私が名前を出すと、ビルとロンがシュタッとその姿を現した。

 いったいどうなってんだこのシステム……OKグー○ルよりも反応がいいぞ。
 

 
「ビル、ロン、今日は初めてのお出かけなの、護衛を頼める?」
 
「「もちろんでございます」」
 
 
 
 そしてビルから私に、頼んでおいた例のモノが渡された。
 
「エイミー様、どうぞこちら……昨日ご所望された青い薔薇にございます、魔法で染めたわけではございません」
 
「おぉ! 完璧な青い薔薇! さっすがビル! アルドっちょっと待ってて!」
 
 
 私はビルから貰った青い薔薇で、王妃様に花束を作り、アルドに託した。
 
 
(ちょっとは嫁として認めてもらえるように、私も少しはゴマすっとかなきゃね)
 
  
 アルドは魔法で花束を隠し、そのまま城へと向かった。
 
 
 
「よーし、ビル、ロン、私達も城に行くわよ」
 
「え、城へですか?」
 
「ええ、エスティリアの悪役令嬢に会ってくるの」
 
「「……??」」
 
 
 
 シュドティリアの悪役令嬢が私であれば、きっとエスティリアの悪役令嬢はカトリーヌ嬢だろう。
 
 
 私はカトリーヌ嬢に会うため、舐められないためにも気合を入れて支度を整えてほしいとマリー達に頼んだ。
 それを聞いたマリー達は、負けられぬ女の戦いとばかりに、私以上に気合を入れてそれはそれは念入りに支度をしてくれ、結果私はとんでもなく美しいご令嬢に仕上がる。
 
 リタが作ってくれた基礎化粧品のおかげで、最近肌の調子が絶好調なのでエイミーの美しさにさらに磨きがかかっているのだ。
 

 
「……エイミー様、なんとお美しい……私の触手が……おっと失礼……なんでもございません」
 
 ビル、お前今なんて言おうとした?
 
「うん、僕もそう思う……エイミー様、とってもきれいです……エイミー様を見ておかしなこと考える奴の脳みそ爆発させたくなるな……」
 
 ロン……君もね、出ちゃってるよ、危ない部分が……それに、それをいうなら、ロンの隣にいる緑の頭の人が一番おかしなこと考えてるけど、爆発させないでね。
 
 
 
 
 
 こうして私は、愉快な護衛2人と共に、城へと堂々と乗り込むのであった。
 
 とはいえ、渦中の人物の相手である私がすんなりカトリーヌ嬢に会えるとは思っていない、だからこそロンを連れてきたのである。
 
 一応隠密魔法をかけているにしても、上級クラスの魔法の使い手はバレてしまうので、そんな人に出くわしてしまった際に、ロンにはほんのちょっとだけ催眠魔法をかけてもらい、なんなく私達はカトリーヌ嬢の部屋へとたどり着いたのだった。
 
 
「よし……ビル、いい? 入ったら、カトリーヌ嬢の侍女達をなんとかしてね、いい? 変態要素は出しちゃ駄目、触手も出しちゃ駄目よ」
 
「……エイミー様、私をなんだと思っているのです……」
 
 え? 18禁の変態野郎?
 
「いいでしょう、侍女の一人や二人を虜にするなど……朝飯前です」
 
「(ボソッ)……ちゃんとがっつり朝ごはん食べてたけど……」
 
「ロン、モノの例えです」
 
 この二人、なかなかいいコンビだな。
 
 
「ロンは私から離れないでね、側にいてね」
 
「もちろんです、エイミー様(ニッコリ)僕、エイミー様から一生離れるつもりありませんから」
 
 あ、一生? いや、ひとまず今だけでいいんだけどね……その笑顔の裏の感情が少し怖い気もするから、触れないでおくね……。
 
「……あ、カトリーヌ嬢がエイミー様に何かしようとしたら、護衛として、脳みそ爆発させてもいいですか?」
 
「ダメです、ひとまずは、私を遠ざけるなりして護ってくれればそれでいいです……」
 
 
 大丈夫だろうか……ちょっと、親しくなりすぎたのか、最近みんな、少しずる本性が漏れ出てるんだよな……まぁ、本当に何かしたりはしないし、面白いからいいけどね。
 
 
 
 
 こうして私は、カトリーヌ嬢の部屋のドアをノックする。
 
 
 
 
 
 ○○●●
 
 
 
 
「モロー侯爵令嬢、はじめてお目にかかりますね……私はシュドティリア王国のエイミー・クリフォード・ファリナッチと申します」
 

「貴女っ突然何?! どうやってここにっ!」
 
 茶色い髪にグリーンの瞳……カトリーヌ嬢は、原作でかかれていたカティ、そのままだった。
 
 
 部屋にいた侍女が人を呼びに慌てて外に出ようとしたので、私はビルに視線を送り、侍女達を優しく捕まえてもらう。
 
 話が済むまでは人を呼ばれると困るのだ。
 
 
 さすがビル、慌てていたはずの侍女ズが、すでにビルに頬を染めている……やるではないか……ビルは潔癖なので、女性に触れようとはしない、そこも少しポイントが高いのである……触手を出さなければね。
 
 
 そして、そんな使えない侍女ズに苛立ちを見せるカトリーヌ嬢は、すぐに開き直り、偉そうにソファーへ座り直し、で、何かしら? と言った態度で私を睨みつけた。
 
 
「(ボソッ)……なんかむかつく……爆発させちゃう?」
 
「(小声)……駄目よロン」
 
 


「モロー侯爵令嬢、私の事はご存知で?」
 
「ええ、もちろん嫌でも耳に入ってきていたわ、の夫となるエドゥアルド王子に付きまとっている蛇みたいな女だって」
 
 蛇? ……初めて言われた! そうか、これが本物の悪役令嬢の嫌味かっ! 勉強になります!
 
 
「あらあら……モロー侯爵令嬢ともあろうお方の耳には正しい情報が入ってきておりませんのね……お可哀想に……アルド・・・が、私にぞっこんで、私に付きまとっているんですのよ? その証拠に、今朝も彼ったら私から離れようとしなくって……」
 
 私は露骨に首や胸元につけられたアルドのキスマークをアピールした。
 
「アルドは、最近、いつ貴女に会いに来ました?」
 
 
 思いのほか、悪役令嬢ごっこが楽しくてノッてきてしまった私は、予定になかった話までしてしまう。
 
 
「っ……私は、今あのお方の子を身籠っているの……だから、貴女は私の代わりよ、私を抱くことが出来ないから、仕方なく貴女のような下品ではしたない女で我慢しているのだわ……」
 
 ほぉ~、下品ではしたない女? へぇ~……アルドが聞いたら、この部屋も吹き飛ぶんだろうなぁ~。
 
 
「そうそう、そのお腹の子の事ですけどね? ……」
 
「……何よっ」
 
 私は、悪役令嬢らしく演出するため、手に持っていた扇子を広げて、笑みを浮かべながら口元を隠し、カトリーヌ嬢の耳元まで近寄り、言ってやった。
 
 
「(小声)……わたくし、知っていますのよ……そのお腹の子の本当の父親・・・・・が誰なのか……」
 



「っな! なんと無礼な!」
 
 私の言葉に、あからさまに取り乱すカトリーヌ嬢。
 
「まぁ、無礼とは? 先ほどからのモロー侯爵令嬢の失礼な態度に私は・・目をつぶっておりますけど……貴女は侯爵令嬢、私は公爵令嬢、立場をわきまえるべきは一体どちらなのかしらっオホホホホ!」
 

 ヤバい、楽しいぞ悪役令嬢!
 
 
「ふふ、まぁ今日はそれだけ伝えたかったのです……突然押しかけるような真似をして、ごめんなさいね」
 
「っ! 待ちなさい! っ……お待ち、ください……」
 
 
 よし、かかった。
 
 
「この子の父親は、間違いなく王族の子です……私はこの城から出ていくつもりはありませんわっ!」
 
「……ええ、もちろん、そうですわね、よろしいんではなくて? 私には関係ないもの……ただね……」
 
「……え?」
 
 私は再びカトリーヌ嬢に近づき、耳元で伝える。
 
 
「(小声)……私の可愛いアルドを巻き込むなっつうのよ……本当の父親を呼び出して伝えなっ、てめぇのケツはてめぇで拭け、ってな」
 

「っヒィ! ……っ」
 
 カトリーヌ嬢は、私の現代版悪役令嬢……いや、ただのチンピラ令嬢か? にビビッてしまったようである。
 
 
「じゃ、そういう事で、ごめんあそばせっ(ルンルン)っ行くわよ、ビル、ロンっアルドの顔を見てから、街で美味しいものでも食べて帰りましょ~」
 
 
 
 そのまま私は、城にいるアルドの執務室へ突撃サプライズ訪問をした。
 
 アルドは私の突然の登場に驚きと心配をあらわにする一方で、私の戦闘モードの美しさに頬を染めている。
 
 
 そんなアルドに、私は伝えた。
 
 
「アルド、近いうちにカトリーヌ嬢がお腹の子の本当の父親と接触すると思うから、カトリーヌ嬢を見張っておいた方がいいよ(ウィンク)あと、本当の父親が誰でも、驚かないでね、冷静に、冷静にねアルド」
 
「……エイミー? 君は腹の子の父親を知っているのか?」
 
「……え? さぁ~……それより私、これからビルとロンと街で美味しいもの食べて帰るの、じゃ、お邪魔しました(二コリ)、またね、マクシっ」
 
「え?! あ、エイミー?!」
 
 
 
 
 
 
 
 こうして私は、ひと仕事終えたのだった。
 
 
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