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第一章
8 近づく2人の距離
しおりを挟む翌朝……。
「お嬢様、なんだか城の雰囲気がおかしいのです……昨夜王子殿下と何かございましたか?」
「おかしいって、どんな風に?」
昨日のあの時間から本当に作戦とやらを練って、侍女達が動き出す前に何かしたと言うのだろうか……。
ちゃんと寝たの?
「それが……」
コンコンッ
「あ、誰か来ましたね」
朝から誰だろうと思っていると、なんとエドゥアルド王子と私の事が大嫌いな王子の側近、マクシさんではないか。
「エイミーおはよう、よく眠れたか?」
イケメンの眩しい笑顔は、起きぬけの目には辛い、でも眼福……。
「うん、お陰様で眠れました……王子は? ちゃんと寝たの?」
「私か? 寝たさ、エイミーに言われた通り、しっかりと眠ったが、エイミーの夢が見たくてずっと君の事を考えていたら、気付いたら朝だった」
それ、寝てないですよね?
「エイミー、突然だが、今夜から寝室を共にしようと思うんだが、どうだろうか? 昨夜のように、エイミーともっと話がしたいんだ」
距離の詰め方、その行動力、えげつないな!
「それと、手始めに君も私を名前で呼んでくれないか?」
「……エドゥアルド? 長くて舌噛みそうだな……」
「アルドでいい」
へぇ、エドじゃないんだ。
「わかりました、アルドねっ! やっと婚約者っぽくなってきましたね、アルドっ(ニコニコ)」
彼は、本当にたった一晩で変わってしまったのだろうか……演技? それともこっちが素?
「っ……(君のそんな笑顔が見れるなら、最初からこうしていれば良かった……)」
「何か言った? 顔に全部書いてあるけど」
私の言葉に一喜一憂するアルドは、これが本当の姿なのではないかと思うほど、憑き物が落ちたように自然に見えた。
「それとエイミー、これまでの城の者達の無礼な態度、本当にすまなかった……今朝全員を集めて気を引き締めさせた、今後は多少でも君の居心地の悪さも改善するといいんだが……」
先ほどマリーが聞きたがっていたのは、この事だろう、一体、何を言ってあんなに大勢の使用人達の気を引き締めさせたんだか……でもなんとなく、知らない方がいいような気がする。
「それと……ほら、マクシ」
「……はっ……ファリナッチ公爵令嬢殿、これまでの数々の失礼な態度、誠に申し訳ございませんでした……心よりお詫び申し上げます……貴女様の発言の裏に隠された意図を理解する事が出来ずにいた自分が情けない限りでございます……」
アルドに促され、私に頭を下げるマクシ。
発言の裏に隠された意図とかって、あれか? デブのくだり? はぁ……また教祖になれって事かな?
「そんな大層な話しじゃないんです、ただの持論というだけで……それと、エイミー、でいいですよ、公爵令嬢とか長いから」
私が頭を上げてくれ、と手を差し出すと、マクシはまだ続けた。
「では、エイミー様と……わたくし、エイミー様のその他のお言葉も殿下から伺いました、大っ変、感銘を受けました! 努力なくして得るもの無し! ……素晴らしい! だって、人間だもの! ……まさにその通り! 人は、目標があると頑張れる! 少しでも近づけるようにと伸びる! 殿下は世界の魔法使いに夢と目標を与えた! ……ブラボー!」
えーっと、これ長くなります?
マクシって、こんな感じだったの? おもしろっ、イジり甲斐ありそうな人だな。
でも、アルドの側近に嫌われてるのはいい事ではないから、私を見る目が少しでも変わってくれたみたいで、良かったか。
私がマクシからアレコレ言われている間、アルドはずっと私を見てニコニコしていた。
……なんだか、変わりすぎて怖いな。
それより私、1番最初のアルドの提案に返事してないんだけど、どうして次から次に話が進んで行くのだろうか。
いくら婚約者とはいえ、未婚の男女が寝室を共にするなんて重要な案件、話の流れでなんとなく、では無理があるのでは?
しかし、アルドの中では決定事項だったのか、返事も聞かずに去って行くようだ。
「ではエイミー、また朝食で……チュッ」
まただ……また額にチュッってしていった。
気に入ったのか?
こうして、アルドの手探り溺愛生活がスタートしたのだった。
○○●●
(アルド視点)
ドンドンッ!
「はぁい? 殿下、どうされたんですかこんな時間に……婚約者殿と話はつきました?」
「マクシ、入るぞ」
エイミーと話し合いをした直後、私はそのまま城内のマクシの私室のドアを叩いた。
「……マクシ、今ほどエイミーに、私は変わると約束してきた、いいや、恋愛脳の改革とでも言えようか」
「え……? 一体何故そのような話に?」
私は先ほどのエイミーとのやり取りを、エイミーの素晴らしい言葉をマクシに一言一句違わず伝え布教した。
覚えるのは得意なんだ。
マクシに話せば不思議といつの間にか私の関係者にまんべんなく伝わっているからな、何故か。
こいつは情報の共有力に長けているのであろう。
「なな……なんと……つまり、ご婚約者様は殿下の先々の王族としてのお立場を案じて、わざとあのような仕打ちを?」
「そうらしい、全てはエイミーの手のひらの上だったのだ」
マクシはエイミーヘの考えを改めたようだ。
よし、これで父上や母上、兄上やその他重鎮達ヘの説得は必要ない。
後は……。
「マクシ、私は自分の気持ちに素直になるつもりだ、昔、返事を貰えずともエイミーに手紙を書いていた頃の自分を思い出しながら……」
「それもいいですね、殿下は手紙を書かれている時、とても嬉しそうでしたから……ご婚約者様の事を考えるだけで幸せだったのでしょう」
確かにそうだった。
エイミーの事を考えながら、頭の中では手紙を読んで喜んでくれている可愛いエイミーを妄想しながら書く手紙はとても幸せな気分だったと記憶している。
「私は明日からのひと月でエイミーヘの愛を示す、そしてエイミーの心を繋ぎ止めて結婚する」
マクシはウンウンと頷きながら聞いている。
「ゆえに、もう遠慮はしないつもりだ」
変態とまで言われたのだ、今の私にはエイミーに知られて怖いものなど何もない。
欲求に忠実になるんだ。
「具体的には?」
「まずは早朝、使用人を全員集めてくれ、話をする」
「……かしこまりました」
まずはこの城での生活が、エイミーの居心地の良いものにする必要がある。
あの時のように、間男なんぞに塩対応だのなんだのと、愚痴を吐かせるような事は二度とあってはならない。
「それじゃマクシ、起こして悪かったな、私は寝る、エイミーと約束したからな、自分の身体をないがしろにはしないと……だから、眠るんだ」
「……それは素晴らしい言葉です、おやすみなさい殿下」
今夜は色々あったが、実にいい時間だったな。
エイミーは終始可愛かった。
あの泣き顔など……もう、目に焼き付いて離れない。
可愛すぎるだろう、あのエイミーが私と花祭りに行けなかったからと涙を流すなんて……もはや、ご褒美だった。
怒って私を壁に押し付けた時の、あの上目遣いの表情……思い出すだけでどうにかしてやりたくなる。
どうしてあんなに可愛んだ……。
「エイミー、エイミー……」
私はエイミーの夢を見ようとひたすら今夜のエイミーを反芻しながらベッドに横になったのだった。
そして……。
エイミーの事を考えていたら、気付けば朝だった。
私は……寝たのか? 夢心地ではあったが、寝たのだろうか……しかし、気分は最高だ。
私は、集めた使用人達の所へ向かった。
城のホールには、非番の者も含め100名程の者が集まっており、急な緊急招集に、一体何事かと皆不安そうにしているようにみえる。
「皆、集まってくれて礼を言う、私から皆に伝えたい事があるんだ、手短に済ませるからよく聞いてくれ、そしてこの場にいない者にも必ず伝えて欲しい」
私の言葉に、ざわついていたホールは一瞬で静かになる。
「今、私の婚約者が城に滞在している、私と彼女との過去の出来事や良くない噂のせいで、彼女の滞在を不満に思う者がいる事は私も理解している……」
私は続けた。
その不満は、皆がエスティリアの王子である私を案じてくれたがゆえの感情であると信じていたため、これまでは多少目を瞑っていたが、今後一切、私の愛する婚約者に、これまでのような態度をとることは、この私が許さない、と。
私はいかに自分がエイミーを大切に想い、どれほど自分にとってなくてはならない女性であるかを説き、この城が彼女にとって居心地の悪い場所にしたくないと伝えた。
さらに私は魔法を発動し、エイミーにお礼を言われたりエイミーの喜ぶ事をした者がポイントにしてわかるようにした。
そして、毎月ポイントの上位数名に私のポケットマネーから、特別賞与を支給すると伝えたのである。
すると、ホールの使用人達のモチベーションが一気に上がったように見えた。
(エイミー、人の心を掴むのはやはり金だな……君の言う事はいつも正しい)
おそらく、使用人達も今のエイミーの人となりを知れば、すぐにエイミーを慕うに違いない。
彼女には、人々を惹きつけるカリスマ性があるからな。
こうして、使用人への根回しを済ませた私は、侍女長と侍従長だけを残し、解散させた。
そして、侍女長と侍従長には、今後エイミーに携わる使用人をシュドティリア出身の者を優先するように伝える。
彼女のホームシックを少しでも紛らわせる事が出来ればいいのだが……。
さらに、私は続けた。
「それから、今夜から彼女と寝室を共にしようと思う、私がエイミーの部屋に行くからベッドを大きなものに取り替えておいてくれ」
その指示には、2人とも少し驚いていたようだが私は本気だ。
なぜならもう遠慮はしないと決めたから。
それに、エイミーも私に言った。
“言葉で心に、身体で身体に”私の気持ちを伝えろ、とな。
つまりそういう事だろう?
私の身体でエイミーの身体に、私のこの溢れんばかりの気持ちを伝えろという。
まさかエイミーから誘ってくれるとは思わなかったが、痩せて良かった。
初夜までは本番はお預けだが、初夜に向けて今夜からゆっくりとエイミーの身体をほぐしてやらねば。
女性は初めては痛いと言うからな。
……いや、待てよ……。
エイミーは本当に初めて、なのか? もしかすると、あの間男ともう……。
私は再び黒い感情が芽生えて禍々しい魔力が漏れ出てくるのを感じたが、深呼吸をし、気持ちを落ち着かせる。
(その件については今夜聞いてみよう)
そして私はマクシを連れて、そろそろ起きたであろうエイミーに会いに行くことにしたのだった。
朝食の前に早く彼女の顔が見たい。
私は一体今までどうやって、エイミーへのこの決して満たされる事のない欲求を抑えていられたのだろうか。
エイミー、放置プレイだなんて言葉、二度と言わせないからな、覚悟していてくれ。
(アルド視点end)
○○●●
「ねぇアルド……使用人さんたちどうしちゃったの? なんか朝から皆おかしいんだけど……」
「ん? 嫌か? 皆エイミーと仲良くしたいのではないだろうか」
「いや、嫌ってわけじゃないけど……」
マリーが朝私に話そうとしてくれた事が、朝食の席に着くまでのわずかな時間で私にも理解できた。
なんだか、今まで超絶塩対応だった使用人さんたちが何故か、超絶砂糖対応に変わったのである。
しかも、私の部屋に来ていた人も代わり、見ない顔ぶれだったので少し話してみると、シュドティリア出身だと言うではないか。
これも全て、アルドの指示なのだろうか。
私を喜ばせたいから? 何それ……こんなに簡単に変わるなら、もっと早くしてくれよ。
「何か不都合があればいつでも私に言ってくれ、マクシでもいいし、侍女長を直接呼び付けてもいいからな」
「……アルド、ありがと」
「もっと早くこうすべきだった、悪かった」
アルドは手を伸ばし、私の頬を撫でた。
少しひんやりとしたアルドの指先が心地良い……。
……ッハ!
スキンシップ! 増えたな!
でも、アルド触れ方は嫌な感じはしない。
イケメンアルドの、そんな甘々な言動に、リズとティナがうっとりしている。
アルドが変わろうとしてくれているなら、私だっていつまでも意地張る必要はない、素直に恋愛してみようと思う。
「アルドっ、はい、あーん! (ニコニコ)」
「っ?!」
私は手元のパンをちぎり、アルドの口元に運ぶ。
驚いた表情のアルドだったが、まんざらでもなさそうに小さく口を開けたので、私はグイッと口に押し込む。
「アルド、しっかり食べて、今日もお仕事頑張ってね、私は今日、街の書店に行ってみようと思うの」
今までは自分の行動をいちいち把握されるのは嫌だったが、なんだか今のアルドになら、把握ではなく共有と言う意味でしてもいいかな、と私なりに考えを改めた。
「書店に? 何か欲しい本でもあるのか?」
「別にないけど、今この国ではどんな本が流行ってるのかとか、市場調査みたいなものだよ」
「そうか、面白そうな物があれば購入するといい、夜、ベッドで一緒に読もう」
やはりあの話は決定事項だったのか。
まぁ、いいけどね、私だって生娘ってわけでもないし……あ、エイミーのこの身体はまだ処女なのか。
「ねぇ、アルドって、寝る時ちゃんと服着る人?」
「ゴホッ! ……コホッ、コホンッ! ……なんて?」
「だから、アルドは寝る時服着て寝る?」
王子とかってたまに裸族の人とかいるイメージなんだけど。
「寝間着を着て寝ているつもりだが……エイミー、君はまさかっ!?」
いやいや、ご期待にそえず申し訳ないけど私もパジャマ着てますよ。
というか、つもりって何よつもりって……ウケる。
「良かった、今夜いきなり裸で現れたら勘違いしちゃう所だった」
「……安心してくれ、初夜までは私は裸にはならない、私は」
わあ~、なら私は裸にされちゃうのかしらぁ~、ってか皆聞いてるけどいいのぉ? スケベ王子様~。
リズとティナは耳まで真っ赤にしている。
「なるべく、本が必要みたいね」
「無くても私は困らないぞ」
こうして、これまでの無言の朝食風景からは想像も出来ないほどにハートが飛びまくった朝食のひとときとなったのであった。
○○●●
(アルド視点)
今日の朝食は凄く幸せな時間だった。
まさかエイミーから“あーん”をしてもらえる日がこんなにも早く来ようとは……私が変わったから、エイミーも変わったのか?
それにしても、エイミーのパンは私のパンと違うのだろうか? とても美味かったな。
それに、自分の行動を詮索するな、監視するな、命令するな、と毛を逆立てた猫のようだったエイミーが、自分から今日の予定を教えてくれるとは……。
市場調査か……
私もエイミーと一緒に街へ行けたらいいのだが……。
だが、エイミーの方から夜の話をしてくれた事にも驚いたな。
今日は驚きと幸せと忙しい朝食だった。
本当に私はエイミーを城に招いてからのひと月、無駄にしてしまったのだと、心底後悔している。
もっと早くから今のように接していれば、今頃私とエイミーは……。
「ゴホンッ! ん、ん、んーー!」
「……なんだ、マクシ……人がせっかく幸せな妄想に浸っているというのに」
「幸せな妄想タイムが長すぎです、仕事に集中なさってください! 今日中にこの書類が片付かないと、エイミー様と夕食をご一緒できませんからね」
それは困るな、夕食でエイミーから今日の市場調査の話を聞きたいのだから。
私は仕事の手を進める。
「それにしても、あの夜な夜な男性の声が聞こえるという噂は一体何だったのでしょうか? ……あ、独り言ですので、お気になさらずそのまま手を動かしてくださいね」
マクシの言う通りだ、木を植え替えた後も噂は進化して広がっていた。
謎の間男2人……だが、あの時、男の声に聞き覚えがある気がしたのも確かだ。
エイミーは話してくれるだろうか。
いや、私がエイミーを信じなくてどうする、エイミーは私の婚約者であり妻となる女性だ、真実がどうであれ私は過去を受け入れ、私とのこれからを改めて貰えればそれでいいではないか。
その夜。
私がエイミーのベッドルームに入ると、エイミーは可愛らしい寝間着姿でベッドの上にうつ伏せで本を読んでいた。
スラリと伸びた長い膝下をパタパタと交互に動かしている。
緊張している様子はなく、可愛らしい。
「夕食の時に話していた今日購入した本か?」
私はベッドの上のエイミーの隣に上がり、尋ねた。
「うん、男性同士の恋愛を書いた小説なんだけど、キュンキュンしちゃう! ……どうしようアルドっ! 私、新しい扉を開けちゃったかも……」
男性同士の恋愛だと? なんという物を読んでいるのだエイミーは。
しかし、私の名を呼びはしゃぐエイミーが可愛らしいから好しとしよう。
「その……男性同士の恋愛小説が、今街では流行っているのか?」
「うん、そうみたい、一部の令嬢に熱狂的に流行ってるって言ってた」
良かった、一部の令嬢の間だけの流行ならばそれほど問題はないだろう。
「今度、騎士団の練習とか覗きに行こうかなぁ……イケメン✕イケメンのカップルを生で拝めるかも……(ジュル)」
なんだかすでに男性同士の恋愛小説にどっぷりはまってしまった様子のエイミーは、小説に留まらす、現実にも探そうとしているようだ。
「エイミー、それは本人達の暴かれたくない秘密であるかもしれないだろ? そっとしておいてやろう」
「っえ! アルド! 意外とそうゆうの理解あるんだ?」
理解があると言うか、ヴァロア辺境伯領の騎士団では男性同士のカップルも実際にいたので、さほど何とも思わないというだけだが……。
しかしエイミーは何故か私を見直した、とでも言いたげな目で私を見つめている。
「理解があるなどと偉そうな事は言えないが、周囲に迷惑をかけなければ民の恋愛は個人の自由だとは思っている」
「じゃぁ、じゃぁ、この国で同性同士の結婚を認めてくれって法案が議会に声が上がったら、アルドは可決しちゃうの?」
同性同士の結婚か……。
「政治と私個人の考えは切り離すべきだが、私個人としてはそうする事で私の国民が一人でも多く幸せになれるなら可決したい所だな」
私の答えを聞いたエイミーは、突然身体を起こし、ぎゅっと私の腕にしがみついた。
(……胸が……エイミーの柔らかな胸が当たっている……落ち着け、落ち着くんだ俺)
「アルドのそゆとこ素敵だと思う、見直した」
エイミーの胸の感触もさることながら、聞こえてきたエイミーの私を褒める言葉に、私の胸は高鳴る。
今なら、間男の件を聞いて答えてくれるだろうか。
「エイミー、せっかく見直してくれた所に心が狭い男だと思われてしまうかもしれないが、聞いてもいいか?」
「何?」
「君のあの噂……真実が知りたいんだ」
「噂? ……ぁあ! 夜な夜な男の声が聞こえるってやつ?」
「ああそれだ、2人いるとか……」
良かった、そう深刻そうでもない……話してくれるかもしれないな。
「気にしてくれてたんだっ? 大丈夫、浮気なんかしてないよ、見てて?」
エイミーはそう言うと、ベッドの脇に不自然に置かれた2羽の鳥が入った鳥かごに向かって、魔力を乗せた言葉で話しかけ始めた。
「おーい2人ともぉー」
すると、鳥達の目が光だした次の瞬間……。
『おーエイミー、昨日はどうしたんだよ? 待ってたのに』
『姉上、毎晩毎晩我々とばかり話していますが、エドゥアルド王子との仲は大丈夫なのですか?』
私はすぐに気づいた。
「リュシアン王子とアルノー……か?」
『そ……そのお声はまさかっエドゥアルド王子殿下でいらっしゃいますか!?』
アルノーが興奮した様子で話している。
「ああ、私だ……君達は毎晩これで会話をしていたのか……」
『あ、はい、姉上が知らぬ土地で心細いだろうと思い……勝手な事をしたようでしたら申し訳ございません殿下……』
「いいや、いい、問題ない、しかしよく思いついたな、この魔法はいくらでも応用がきくだろうに……」
『そうなのですよ! わかってくださいますか?! さすが殿下だ!』
『ちょいちょい! アルノー、そこら辺にしとけよ……エドゥアルド王子、今エイミーと一緒なのか?』
リュシアン王子の声に若干の嫉妬が含まれているように感じた。
「ああ、エイミーと沢山話し合ってな、城での待遇も改善したし、今夜から寝室を共にする事になったんだ、だから今はエイミーと一緒にベッドの上だ」
少し意地が悪かっただろうか。
リュシアン王子はあの時エイミーを口説いていた男だろう。
『……っおいエイミー! 聞いてないぞ!』
「だって、昨日の今日なんだもん、話す暇なんてなかったし、今こうして話してるじゃん」
『仲がよろしい事でっいやぁ、喜ばしい限りです、殿下の事を義兄上と呼べる日を心待ちにしております! どうぞふつつかな姉ですが、間違いなくまっさらな新品未使用品でございますので、安心してご堪能ください! それでは我々はこれで失礼いたしますね!』
『は!? おいアルノー、俺はまだ話がっ! ……プツッ……』
アルノーの何かのセールスマンのような口上に若干ニヤけそうになったが、通話が切られ、鳥達は目から光が消え、突然静かになった。
「噂の真相は、こういう事でした(ニコニコ)」
私に笑顔を向けてアルノーの魔法を自慢するかのようなエイミーの様子に、思わず胸をうたれる。
「アルノーは本当に優秀な魔法使いだな、是非我が国に魔法留学したらいい」
とは言ってはみたが、本当にアルノーが来たらエイミーをとられそうで少し寂しいのだが、私の提案にエイミーは自分の事のように喜んでいた。
彼女にとって、アルノーは本当に可愛い弟なのだろう。
リュシアン王子の事は少し気掛かりではあるが、今、エイミーの最も近くにいるのは、私だ。
リュシアン王子には悪いが、エイミーの心は私がもらう。
結局、この日の初めての共寝は、本当にお喋りをしながらいつの間にか2人とも眠ってしまっただけに終わったのだった。
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