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第一章
6 手紙
しおりを挟む「マリー! リズにティナも! 会いたかったぁ!」
私はファリナッチ公爵家でも私の侍女をしてくれていた3人との再会に、心の底から喜び安堵した。
「エイミーお嬢様もお元気そうで安心いたしました、ですが少しお痩せになられましたか? やはり知らぬ土地にお一人はさぞかし心細かったのですね……もう大丈夫です、私共が参りましたのでご安心ください」
うんうん、本当にそう、こんなにも見知った顔がうれしいとは思わなかった、すごく安心できる。
ここエスティリア城の侍女さん達はみんな塩対応過ぎて若干怖いし、居心地も最高に悪かった……ヴァロワ辺境伯領の宿屋の方が居心地がよかったくらいである。
「そうです、アルノー坊ちゃまと第2王子殿下からもお預かりしているものがあるのですよ」
そういってリズとティナが大切そうに持ってきたのは小さな鳥かごだった。
中には、アルノーの髪色そっくり赤い鳥と、リュシアンそっくりの黄色い鳥がそれぞれ入っており、どことなく鳥たちの雰囲気も二人に似ている。
「え、ナニコレ? 自分達に似た鳥を飼って、忘れるな、的な事?」
「ふふっ、お嬢様、少しご自分の魔力を乗せて、鳥に話しかけてみてください」
魔力を乗せて、鳥に話しかける?
私はマリーに言われた通り、若干滑稽だが2羽の鳥に向かって、アルノー、リュシアン、と声をかけてみた。
すると……。
突然鳥の目が光りだしたかと思えば、衝撃的な事が起こる。
『やぁ姉上、無事にマリーたちと再会できたみたいですね、そちらの暮らしはどうですか? 寂しくて子供のように毎晩泣いていたのではないですか?』
赤い鳥が、生意気そうにアルノーの声でしゃべりだしたではないか。
「あ、ぇ……ぇぇええ?! ナニコレナニコレ! アルノーなの?! アルノー、そこにいるの!?」
『いますよ、その声を聴く限り、元気そうですね』
「アルノーォォォォ! うれしいぃぃ~! 鳥電話とか、めちゃめちゃ可愛いし癒される~!」
心なしか、鳥の顔がアルノーっぽく見えなくもない。
『エイミー、俺もいるよ』
黄色の鳥からは、リュシアンの声がしたので、黄色い鳥はリュシアンとつながった鳥電話のようだ。
「リュシアン! なんだかすごく久しぶりな感じ!」
一体、どういう仕組みなのだろうか、アルノーとリュシアンの方の私はどんな鳥がどんな風にしゃべっているのだろうか。
それにしても、私の弟とその親友、すごすぎない?! 他国に嫁いだ姉の為に、超すごい魔法を作り出しちゃったんじゃないの?!
『こっちの姉上に似た鳥から、姉上のその暑苦しいテンションが伝わってきますよ』
『俺のとこのエイミー鳥は、めちゃめちゃ可愛いぞ、手をばたつかせて必死にしゃべってる』
あ、私の声も鳥から聞こえてるんだ。
『とにかく、鳥に負担がかかるので、あまり長くは話せませんが、こうしてまたに話を聞いてあげますから、暴走しないでくださいね、くれぐれもエドゥアルド王子に失礼のないようにしてくださいね姉上』
うんうん、少しでも声が聴けるだけでどんなに救われることか……。
「アルノー、リュシアン……すっごく心強いよありがとう……なんだか会いたくなっちゃった……抱きしめてあげたい」
『エイミーが抱きしめてくれるなら、俺今から転移して行っちゃおっかな』
『何を言ってるんですかリュシアン、国際魔法法に違反しますよ』
『冗談だよ』
あぁ、本当に立った二週間しか離れていないのに、すごく懐かしい感じがする……リュシアンの軽口もアルノーの小言も、今は凄く暖かい。
『では姉上、また』
『じゃーなエイミー、愛してるよ、いつでも婚約破棄されて戻ってこいよな』
縁起でもないこと言うんじゃねーよ。
でも、今はそれでもいいかな、なんて思ってしまう……思ったより、ホームシックになるタイプだったんだな私。
鳥の目から光が消え、鳥電話は切れたようだった。
鳥電話って、なんかダサいな……“バードコール”にしよう。
ちなみに、着信時は鳥がさえずるらしい……鳥がさえずったら、自分の魔力を乗せて返事をすると、通話状態となるようだ。
発信は、先ほどのように魔力を乗せて相手の名前を呼ぶだけでいいので、簡単である。
「よかったですね、お嬢様」
「うん……」
こうして私は寂しい夜のお供をゲットし、この日から心の平和を取り戻すのだった。
○○●●
(エドゥアルド視点)
「殿下……近頃、城の使用人たちの間でおかしな噂が流れております」
エイミーの実家から侍女たちが到着して三日、マクシが神妙な面持ちで私に話を持ち掛けてきた、どうにも言いにくそうにしているようだが、一体なんだろうか。
「おかしな噂とは?」
「それがですね……なんでも、殿下の婚約者様の部屋から夜な夜な男と楽しそうに会話する声が聞こえるとか……」
「なんだと? 気のせいだろ」
どこの世界に、堂々と婚約者のいる城に夜な夜な男を連れ込むと言うのだ。
……いや、エイミーならやりかねないか? 彼女の倫理観念は崩壊していたはずだから。
「今夜、私が見張ってみましょうか?」
「いや、そんなことはしなくていい……」
……と、マクシには言ってはみたものの、気になった私はその夜、エイミーの部屋を訪ねようと、部屋の前に立っていた。
別に見張る意味などない、ただ、ノックしようかしまいか、少し部屋の前で悩んでいるだけだ。
すると……。
本当に、エイミーの部屋から何やら話し声が聞こえてくるではないか。
とても楽しそうなエイミーの声が聞こえてくる。
(くそっ、相手は誰だ? 私の婚約者に手を出すなど身の程知らずめ……一生口をきけなくしてやるっ)
何故だかわからないが、怒りが込み上げてきた私は、思い切ってドアを開けて相手を確認しようと、ドアノブに手をかけた……のだが……。
(待てよ? この噂がもっと広まれば、エイミーはさらに孤立するはずだ……丁度いいではないか……だが気になるものは気になる……こっそり相手だけでも確かめておくか……)
少々女々しいかとは思うが、私はこっそりとエイミーの部屋のドアを開け中の様子を確認する。
部屋の灯りは消され、どうやらエイミーはベッドの方にいるようだ。
(嘘だろ……エイミーは男をベッドに連れ込んでいたのか?! それはさすがに……)
私は、部屋の中に入り、エイミーと間男のあられもない声を聴いてしまうことになろうとも、この私を馬鹿にしている間男が誰なのか気になり、意を決しエイミーの声のするベッドへ向かう。
「それでね、私がおやつが食べたいと言ったら、その侍女が言ったの、“おやつなんで召し上がったら、デブになってしまいますよ”って! で、結局おやつはもらえなかったの! ウケない?! 完全に、私のこと馬鹿にしてるよねっふふふっ……マジで、この城の人塩対応なんだから、二人にも見てほしいわ」
(ふ、二人だと?! 二人も連れ込んでいるのか?!)
使用人の対応について、愚痴を言っているようだ……ひとまずは甘い男女の雰囲気ではないことにホッとし、悪いとは思いつつも相手の男の声が聞こえるまでは聞いていることにした。
『エイミー、お前それ、許してんのか? どんどんつけあがるぞ? ……エドゥアルド王子に言って注意してもらえよ、っていうか、王子はお前がそんな扱い受けてることに気付いてないのか? 信じらんねぇ……』
『……エドゥアルド王子はお忙しいんですよ、仕方ありません』
男二人の声が聞こえてきたが、どこかで聞き覚えのあるような……それにしても、エイミーと呼び捨てにするとは、相当に仲がいいようだな。
それに、私はエイミーが城の者からどんな扱いを受けているかくらいすべて把握している。度が過ぎるものはきちんと注意もしているのだから、間男ごときにとやかく言われる筋合いはない。
『エイミー、やっぱり再婚約なんてまた解消して、俺と結婚しようぜ、愛してる……本気なんだ、俺だって、お前に何不自由ない暮らしさせてやれるぞ』
『あの、そういうのは、二人のときにしてもらますか』
どうなっているんだ、一人は熱心にエイミーを口説いているが、もう一人は違うように聞こえる。
それにしても、エイミーに何不自由ない暮らしをさせてやれるだなんて、一国の王子の婚約者に向かって何を言っているんだ間男のくせに。
「……なんか眠くなってきちゃった、おやすみ二人とも、いい夢見てね、愛してる……」
(っくく……エイミーのヤツ、間男の必死の告白を無視したぞ? ひどい奴だな、やはり、エイミーは私の事を……)
しかし、エイミーが眠ったという事は、男はこの部屋から出ていくに違いない。
私は慌てて部屋から出て、少しの間廊下の曲がり角の影からエイミーの部屋の出入り口を見張った。
しかし、いくら待っても、中からドアが開く気配はない。
(っは! まさかっ、窓から?!)
よく考えれば、堂々と部屋のドアから出入りしていたんでは、誰かに見つかる可能性が高い。
おそらく二人の間男はエイミーの部屋の窓から出入りしているのだろう。
私は翌日、マクシに言った。
「マクシ、庭師にエイミーの部屋のバルコニーにほど近い背の高い木をどこかに植え替えるように指示しておいてくれ、早急に! 多少部屋の中が見えてしまうようになるかもしれないが、構わないと伝えろ……防犯上よくないからな、防犯上!」
「……か、かしこまりました、殿下、なにかありましたか? お顔が怒りに満ちておりますが……」
「別にっ!? 何もないが!」
庭師は早速その日のうちに木を植え替えた。
しかし、使用人たちの噂は消えるどころか二人の男の声がする、とまで広がってしまっていたのである。
(なぜだ……どうやって入ってきている?)
エイミーの部屋には転移防止の結界を張ってあるため、誰かがこっそりと転移して侵入することは不可能だ。
木がなくてもバルコニーに登れるとは、魔法使いか? それとも身体能力がすこぶる高いのか……。
(エドゥアルド視点end)
○○●●
「エイミーお嬢様、使用人たちの間で、夜な夜なお嬢様の部屋から男性との仲睦まじい話し声がすると噂になっております、アルノー坊ちゃまと第2王子殿下だと思いますが、お気を付けください、お嬢様はこの国の王子殿下の婚約者というお立場なのですから……」
「ブフッ!」
いけない、紅茶を吹き出してしまった。
こんなに広い部屋なのに、扉の向こうまで声が漏れるなんてあり得る?! 誰か、壁にコップ当ててわざと聞いてるんじゃないの!?
「ゴホン……わかった……声を抑えるようにするか、頻度を減らすことにする……」
ああ~ぁ~、寝る前の私の息抜きの時間が……。
「それにしても、マリー、退屈じゃない? 王子の婚約者って、なんかすることないの?」
「王子様の婚約者として、学ぶべきことは沢山ございますよ? ですが、エイミーお嬢様はもともとこの国に嫁ぐ予定でしたので、幼少期より奥様が自ら教育されて、すでにすべて習得されておりますので……そうですね、することと言ったら、復習くらいでしょうかねぇ……」
エイミー! 真面目に王子妃教育受けてたんかい! 意外と真面目だったんだな!
つまり、エイミーの脳にあることは私も出来る事なので、マリーの言う通り復習するくらいしかないのだろう……。
私は考えた。
この世界にはスマホもネットもWi-Fiもない……あるのは魔法とか魔獣とか神獣とか、ファンタジーな感じのことだけだ。
“魔法のセンスがあると思う令嬢ランキング1位”は、現実を知ってしまった私にはもう無理だろうことは理解してるし……それに、ここ魔法大国に来て目の当たりにしたのは、この国の人たちは老若男女みんなが当たり前に魔法を使いこなしている。
魔法が生活の一部であり、トイレの水を流すがごとく魔法を使っているのだ。
実際、お湯も魔法を使わないと出せない城なのである。
ホントにファンタジーだわぁ~、アルノーとリュシアンに事前にレッスンを受けていなかったら、私はこの国で生きていけなかったかもしれん……本当に、二人には感謝感謝……足を向けて寝れない。
ちなみに私の侍女3人は、母がこうなることを見越して東の王国から連れてきた侍女3人だったので、当たり前に魔法を使うことが出来る。
「それよりもお嬢様、ご婚約者である第2王子殿下との仲はいかがなのですか?」
「仲ぁ~?」
私とエドゥアルド王子は……毎朝一緒に朝食を食べて、昼は別々、夜も一緒に食べれる時だけ一緒に食べる……それしか顔を合わせることはない……本当に、冗談じゃなくそれだけなのだ。
夜這いにも来ないし。
(いや、夜這いに来られたら来られたで、アルノー達とのバードコールがバレちゃうから困るけどね)
「私なんか、放置よ放置……愛してるとか言っといて、所詮は釣った魚には餌をやらない男だったのよ……太ってた頃の方が沢山手紙もくれてたし、マメだった……人間、見た目が変わると中身も変わっちゃうのね」
「そのお手紙に、一度もお返事を書かなかったお方の言葉とは思えませんねっふふ……あ、失礼しました」
マリーの言う通りである。
エイミーはひどい奴で、エドゥアルド王子からの熱烈なラブレターをただ読んで放置していたのである。
それでも、手紙は1通たりとも捨てはせずにジュエリーボックスのしたのスペースに隠しているのだ。
きっと、エイミーのジュエリーに触れる機会のあるマリー達にはバレているだろう。
「そうだ! 暇だからエドゥアルド王子がくれた手紙、読み返してみようかな? 確か、この国のいいところとか、どっかになんかを一緒に見に行きたいとか、とにかくなんか色々書いてあったよね!」
「私共は読んでおりませんので存じ上げませんが、読み返されるのもいいと思います、また違って見えるかもしれませんよ」
ふふふ……10代前半のラブレターを読み返されてるなんて知ったら、王子はどう思うだろうか、相当恥ずかしいだろう。
ところが、私は幼い王子からの手紙を読み返したことを心底後悔する……なぜなら、罪悪感で胸が締め付けられてしまったからである。
『大好きなエイミーへ
今日は転移魔法の訓練があったんだ、僕はエイミーのピンチにすぐに駆け付けられるように、沢山練習したよ。
そうしたら、先生に褒められたんだ、僕はきっとすぐにエイミーのところまで転移できるようになると、お墨付きをもらうことができたから、待っていてね』
『僕の可愛い婚約者エイミーへ
エイミー、今日はこの国の花祭りだったんだ、エイミーに似合いそうなお花の髪飾りを見つけたから贈ります。
いつかエイミーが僕の国にお嫁に来てくれたら、この髪飾りを付けて一緒に花祭りに行こうね、とてもきれいなんだよ、でもエイミーの美しさには負けちゃうけどね。』
『真っ赤で綺麗な髪のエイミーへ
エイミー、今日はおじい様がお亡くなりになったんだ……おじい様は僕をとても可愛がってくれたから、すごく悲しい。
エイミーは大切な誰かを亡くした経験はある?
でも、ないといいな……エイミーが悲しむ姿は見たくない……悲しい時は僕が君の側にいてあげたい。
もう、転移魔法をマスターしたから、呼んでくれればいつでも飛んで行くよ、あ、その前に国に転移許可の申請をしておかないとだから、早めに言ってくれると嬉しいな』
『返事をくれないツレナイ僕の婚約者エイミーへ
エイミー、寒くなって来たけど体調を崩してはいない? 南の王国は冬でも暖かいのかな? 東の王国は、冬になると真っ白な雪が降るんだよ、すごく冷たいけど、すごくふわふわでいろんな形に押し固めて遊べるんだよ。
兄上と雪合戦をしたんだ、エイミーともしたいな、でも僕はエイミーに雪玉をぶつけるなんてできないから、僕の負けだね。
負けでもいいから、いつかエイミーと雪合戦がしたいな、大好きだよエイミー……』
『もうすぐ一緒の学園に通えるエイミーへ
もうすぐエイミーと同じ学園に留学するんだ、本当は突然行って驚かせたかったけど、きっとエイミーはそういうの好きじゃないと思ったから、先に手紙で知らせておくね。
13歳のエイミーに会えるのを心から楽しみにしています、エイミー大好き』
『もうすぐデビュタントを迎える僕の美しい婚約者エイミーへ
エイミー、君のデビュタントは是非とも僕にエスコートさせて欲しい、当日は転移魔法で君の所へ行くからね。
きっと、パーティー会場の誰よりもエイミーが一番美しいんだろうな、僕はそんな美しいエイミーの婚約者でいられて本当に幸せ者だ。
エイミーに恥をかかせないように、ダンスのレッスンも頑張ったよ、そうだ、僕は身長も伸びたんだ。
エイミー、デビュタントを迎えた君に伝えたいことがあるんだ、パーティーの後でいいから僕の話を聞いてくれる?
マイスイートエイミー、パーティーの夜、会えるのを楽しみにしているよ。』
バサバサバサッ……
私はその最後の手紙を読んで、涙がこぼれ頬をつたう。
涙を流す資格などないのだが、泣かずにはいられなかった。
ついでに開きっぱなしのたくさんの手紙たちも机から崩れ落ち、床に散らばってしまい、マリーがハンカチを差し出しながら丁寧に手紙を拾いたたんで封筒にしまってくれている。
エドゥアルド王子は、デビュタントパーティーの後、エイミーに何を伝えようとしていたのだろうか。
これは原作にも書いていなかった内容だ……気になる。
「マリー、この国の花祭りってもうすぐなのかな? この手紙の日付を見るとそんな感じがするんだけど……」
「確認しておきますね、その時の手紙と一緒に贈られた髪飾りも、ちゃんとここに取っておいてありますよ、お嬢様は一度もつけられたことはありませんでしたが、捨てようとはされませんでしたもんね」
マリーの手には、可愛らしいゴールドの花の形の髪飾りがあった。
私の真っ赤な髪に映えるだろう。
「王子、花祭り誘ってくれるかな? 誘ってもらえたら、その髪飾りつけて行ってみようか……」
「誘ってくれますとも、初めてのデートですね」
マリーの優しい言葉に、ほんの少し心が弾んだ。
しかし、現実は残酷だった。
「お嬢様、花祭りは3日前に終わったんだそうです……」
は?
「はぁ!?」
待って待って待って……3日前って、王子と朝も夜も一緒にご飯食べたよね? え? どいう事? どういう事ー?!
これは……釣った魚に餌やらないどころか、酸素……いや、水替えすらしてないんじゃないか?
もうさ、なんか思ってたのと違うんだけど……。
溺愛とまでは言わないけど、せめて再婚約の申し込みしてきた時のあの熱い気持ちが嘘じゃなかったって、思わせてくれてもバチは当たらないと思うが……。
本当に、嘘だったんだ……つまり私、まんまとざまぁルートに乗っちゃってるって事?
こりゃいかん……。
「マリー! リズ、ティナ! 大変だ! 私はアルノーに誇りに思われたいがために、選択を誤ってしまった! 今すぐシュドティリアに帰ろう! うん、そうしよう!」
「っえ?! お嬢様?!」
まんまとざまぁ、されてからでは遅い。
いいや、むしろ私がアホだったんだ、もっと早く気付くべきだった。
使用人たちの冷遇に気付いていないわけないし、それでも放置するような奴だ。
きっと、太ってた頃の優しさはヴァロワ辺境伯領に穴を掘って埋めてきちゃったんだろう。
そして、彼の原動力は私への憎悪!
計画的に私をこの城で孤立させて、ざまぁ、して捨てるつもりだったに違いない。
この国から立ち去ることを、王子以下もはや私の敵であるこの城の人間にバレてはならない。
しかし、馬車で2週間も移動は嫌だ。
かくなる上は……てんいまほ~!
でもアルノーが散々言っていたように、国と国とを気軽に転移することは許されていない。
許可申請とやらをする必要があるのだが、そんなことしたら、バレバレなので、どうにか不法出国不法入国を成功させる必要がある。
いや、不法という時点で駄目なんだけどさ……。
幸い、王子は食事の時間以外顔を合わせる必要はないので、最も時間があるのはやはり夜間……。
私の魔力なら、侍女3人を連れて転移することは可能だろう。
国内なら、自由に転移できるので、国境付近まで転移して、歩いて国境を渡り、シュドティリアに入ったら、また公爵家まで転移すればいいんじゃ……。
でも待てよ……国境ってどうやってわたるんだ……パスポートとかあるのかな?
マリーに尋ねると、南から東に入国するときは厳しい入国チェックがあるが、東から南への入国は国境で通行料を支払えば基本的に簡単に通過できるという。
なんてガバガバなんだシュドティリア! 心配になるぞ!
だが、今はそれが有難い。
「マリー、リズ、ティナ、今夜国境まで転移魔法で連れて行くから、そのままシュドティリアに帰ろう、もうこんな城に、1秒たりともいたくない!」
「お嬢様……」
心配そうにするマリーの声も、その時の私には届いてはいなかった。
そして夜……少量の荷物を持ち、外出着に着替え外套を着込んだ私達4人は、手をつなぎ転移魔法を発動する。
しかし、転移魔法を発動した瞬間、けたたましい警告音が城中に鳴り響いた。
「っえ?! 何っ?! どうなってんの?! こわっ!」
直後、鍵をかけたはずの部屋のドアがブチ破られた。
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