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第一章

5 彼の腹の内

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 しまった……そうだった、ここには私の味方がいないんだった。
 
 
 エスティリア城へ戻った私を待っていたのは、超絶塩対応の人々だった。
 
 だが、もうすぐ馬車でこちらに向かっていたファリナッチ公爵家のマリーともう二人、リズとティナが到着するはずだ。
 
 転移門の使用は膨大な魔力を消費するため、基本的に貴族や少人数しか使用できないため、使用人達は地道に陸路を使うしかないのである。
 
 
 
 私がエスティリア城に来て今日で2週間。
 
 そのうち、今日まで10日間はヴァロア辺境伯領の宿屋にお忍びで滞在しながら潜入操作していた。
 今考えると、王城の使用人がこんな塩対応なのだがら、王子の辛い様子をずっとそばで見ていた辺境伯の屋敷の人達は、私の事を相当嫌っているに違いない。
 
 気を使わず滞在出来るようにと、宿屋を選んだ私、本当にナイス判断であった。
 
 
 
 コンコンッ
 
 
 使用人も誰もいない私の部屋にノックが響いた。
 
 
「エイミー、戻ったと聞いたので顔を見に来たよ、ヴァロア領はどうだった? 本当に伯爵には会わなかったのか?」
 
 
 優しいエドゥアルド王子だった。
 
 王子の裏事情を知ってしまった今、なんだか顔を合わせ辛いが向き合うと決めたからには、婚約者としてちゃんとしようと思う。
 
 
「はい、ただ自然に触れて来ただけですわ……とてもいい所で気分が晴れました、ありがとうございました」
 
「いいんだ、本当ならばファリナッチ公爵領でのんびりするはずの君を無理矢理連れてきてしまったのだから」
 
「……そう……ですね」
 
 
 とはいえ、婚約者としてちゃんとするって、具体的に何すればいいの?
 私は私の考えでしか物事を考えられないし、私はエイミーとして死なずに幸せな人生を全うするのが目標だ。
 
 しかも、婚約者ってつまりなんなの?
 結婚相手がいます、他の男と恋愛したら駄目よってこと? それ以外は何しなくていいのだろうか。
 
 というか、もしかして、私が知らないだけで結婚式の準備とかが進んでいたりするのだろうか……王子の婚約者って、問答無用でそのままエスカレーター式に結婚なの? デートとかして愛をはぐくんだりする時間はないわけ?
 
 
「そうだエイミー、先ほどファリナッチ公爵家から侍女達が到着したようだ、荷物の整理をしたらここに案内するように伝えてある」
 
 私があれこれを一人脳内会議を開いていると、王子から嬉しい知らせが舞い込んできた。
 
「本当ですか?! 嬉しいっ! そうだ王子、マリーたちが来たら、早速街に行ってきますね」
 
「街へ? ……何かあるのか?」
 
 え、婚約者っていちいちそんなことまで詮索されるの? めんどくさっ……自由はないわけ?
 
「街に行くのに理由が必要なのですか? 街ブラって知りません? 初めて来た街ではとりあえず街ブラするのが楽しいんです」
 
 
 自分の味方が来たと知り、急に図々しくなりすぎただろうか?
 でも、淑女のフリも大概にしないと疲れてやっていられないし、結婚するならなおさら本当の自分を知ってもらった方がいい。
 
 ちらりと王子の顔色を窺ってみると、彼はなぜか笑顔のままフリーズしていた。
 やっぱり、この世界では淑女らしくいなければ変な子だと思われてしまうのだろうか……実に窮屈である。 
 
「エイミー、君は……本当に別人のようだな……いや、親しみがあっていいんだが……しかし、私以外の前ではそう言った砕けた口調は気を付けてくれ、何か言われて君に傷付いてほしくない」
 
 へいへい、わかりましたよ。
 
 
 婚約者として向き合うって決めたけど、とりあえずこの国の生活を知ってなれるのが先だ。
 
 
 
 私は侍女たちの登場を心待ちにするのだった。
 
 
 
 
 ○○●●
 

 
(エドゥアルド王子視点)
 
 
 
「殿下っ! こちらにいらっしゃいましたかっ!」
 
「ああ、すまない……婚約者殿のご機嫌を伺いに来ていた」
 
「殿下……出過ぎたことを申しますが、なぜあの令嬢と再び婚約されたのですか? 私には全く理解できません……あんなひどい仕打ちをされたと言うのに……」
 
 エイミーと再度婚約を結びなおして二週間……エイミーは城に来るなりコソコソと私の女性関係などを嗅ぎまわっていたかと思えば、挙句ヴァロワ辺境伯領に行くと言い、すぐに一人で転移魔法を使い飛び出して行ってしまった。
 まったくもって公爵令嬢とは思えないその行動に、正直驚かされた。
 
 そして、明らかに私と婚約していた頃とは全くの別人である。
 
 私のこの再婚約に不満を持つ者は、今隣にいる私の側近のマクシだけではない、言ってみれば私の関係者は全員がエイミーとの再婚約を反対しており、結婚についても大反対だ。
 
 もちろん、この城の使用人達も少なからず私と彼女の噂を知っているため、皆エイミーを良く思っていない。
 
 先ほどファリナッチ公爵家の侍女が来たと聞いて急に元気になったところ見てもわかるように、彼女にとってこの国での滞在は針の筵であるはずだ。
 
 そうなるとわかっていた上で、私はエイミーを早々にこの国に連れてきたのである。
 
 
 
「マクシ、そうだ、私は彼女にひどい仕打ちを受けた……だがあの時は私は本当に太った醜い姿だったから彼女は悪くない」
 
「ですがっ! 婚約を解消するにしても、あのような場であのような暴言で殿下を傷つけていいはずがありません!」
 
 マクシの言う通り、もちろんそうだ……そもそも彼女は人を外見で判断するような女だったのだろう……自分がどれほど美しいかわかっているがゆえに余計に、性格が歪んでいたのだ。
 
 それでも私は……彼女の事が本当に好きだった。
 9歳の時に婚約者だと言って母上からエイミーを紹介された時、本当に一目惚れだった……彼女の燃えるような赤い髪は、まるでレッドドラゴンの鱗のようだし、ブルーグレーの瞳はブルードラゴンの瞳のようで、一瞬で心を奪われてしまったのである。
 
 しかし、彼女が初めて私を会った時の第一声は……“太ってるのね”であった。
 
 さすがに面と向かって太っていると言われたのは後にも先にはあれが初めてだった私は当時、ショックを受けて寝込んでしまい、その結果、余計に食に走り、さらに太ってしまったのだ。
 
 周囲からの太ってなどいない、仮に少し人よりもふくよかだとしてもそれが私のチャームポイントだ、という慰めを真に受けた私はそのまま痩せることなく成長した。
 
 
 初めてあった日以降、私はエイミーに何度も手紙を書いたが、返事が来ることは一度もなく、そのことからも私はエイミーに好かれていないという自覚はあったのだが、どうしても自分から婚約を取り消すことはしたくなかったのだ。
 
 彼女は、私がシュドティリア王国の同じ学園に留学していた1年間の間も徹底的に私を無視し続け、ひと言も口をきいてはくれなかった……。
 
 そしてあの悲劇の夜が訪れたのである。
 
 留学期間を終えた私は、エスティリアに戻っていたが、デビュタントを迎えるエイミーのエスコートをすべく、覚えたての遠距離転移魔法で転移し彼女のエスコートをした。
 
 公爵家へ迎えに行った私を見たエイミーは、一瞬で表情を暗くし、その場にいた自分の兄に、エスコートを変わってくれと頼みだしたほどに、私のエスコートが嫌だったのだ。
 
 それでも何とかなだめてパーティー会場に到着するも、ヒソヒソと聞こえてくるエイミーと私を噂する周囲の声に、とうとう我慢できなくなったエイミーは、突然壇上へ上がり、私との婚約を解消すると堂々と宣言したのである……王家主催のパーティーという沢山の貴族たちが集まる会場で……。
 
 私の従者は怒りのあまり魔法を暴発させそうになっていたが、私はある程度予想していた結果だったため、何となく受け入れることが出来たのである。
 
 
 やはり、自分のこの太った容姿ではエイミーには好かれない、ハッキリと理解した夜だった。
 
 
 
 衝撃の公開婚約解消劇は、瞬く間に噂になり、エスティリアに帰国した私を待っていたのは、周囲からの同情、慰め、エイミーへの怒りなど様々な感情の数々。
 
 しかし、それでもなお、私を太っている、痩せてはどうか、と言う者は一人もいなかったのである。
 
 
 
 好きな子に容姿のせいでこっぴどくフラれたにもかかわらず、落ち込む暇もないほどに、周りは私を放っておいてはくれず、やれ次の婚約者候補だなんだとお茶会やら見合い写真やらと騒がしかった。
 
 果たして私の婚約者候補の令嬢たちは、それを望んでいるのだろうか、エイミーのようにハッキリとは言わずとも、私の事を太っていると思う令嬢もいるかもしれない、本当は太った者との婚約などいやなのに、我慢して婚約するのかもしれない、と……そんなことばかり考えてしまい、当時の私は心身共にとても疲弊してしまっていたのである。
 
 
 そして、少し放っておいてほしい、といってヴァロワ辺境伯領へと逃げ込み、三年間王都へは戻らなかった。
 
 ヴァロワ辺境伯領では自分を見つめなおすとてもいい機会を得ることが出来たと思っている。
 
 
 
 私は、ヴァロワ辺境伯領ではただの貴族の息子として滞在していた為、誰も私が第2王子だとは思ってはおらず、騎士達は容赦なく厳しい訓練に私を混ぜてくれ、共に汗を流す日々を送ること約一年……。
 
 魔獣退治に参加したことで、騎士達と親交を深めることが出来、ようやく人の本音というものを聞くことが出来たのである。
 
 
「なぁ、正直に答えてくれ、私は太っていると思うか?」
 
 一番なんでも気軽に話をしてくれる騎士に思い切って聞いてみた時の事だ。
 
「そうですねぇ~……坊ちゃんは今はだいぶお痩せになられましたけど、ここにいらっしゃったときは、結構太っていらっしゃいましたよね、本当に貴族のぼんぼんと言う感じでしたね」
 
「そうか……そうだよな、やっぱり、私は太っていたんだ……太った男は女性にとっては嫌悪する対象だよな?」
 
「そうですねぇ、人によるでしょうけど、自分の嫁さんなんかは少し自分の腹が出てきただけで、ちくちく文句を言ってきますよっははは!」
 
 
 それを聞いた私は、決意した。
 エイミーに言われた言葉……“鏡を見て出直せ”を実行しようと。
 
 そして三年の月日を経て、私は誰が見ても太ってなどいないむしろ逞しい身体を得て、王都へと戻ったのである。
 
 
 
 しかし、私の容姿が変わった途端、周囲の様子が変わったことに気づいた。
 
 まず、あからさまだったのは令嬢達からの視線だ。
 
 初めは三年ぶりに姿を現した私に興味を持っているだけかとも思ったが、無駄に近い距離感と色欲を含んだねっとりとした視線、しまいには私に自分の胸を押し付けてきた令嬢もいたな。
 
 さらには、男たちからの羨望のまなざしだ。
 
 ヴァロワ辺境伯領での私の活躍が噂となり、王都へも届いていたようで、どうやら私をただのぽっちゃり無能王子と見くびっていた貴族たちが、私を見直した・・・・と言って、はやし立て始めたのである。
 
 見直した、という事は、よほど以前の私は見る目も当てられなかったという事だろう。
 
 
 しまいには、議会の連中の一部は突然私を兄の対抗馬として推し始めたのだ。
 
 私は兄上を差し置いて王太子になどなる気はさらさらなかったので、もちろん断り否定し続けたが、それでも未だに私を次期国王としようする者たちがいるのは確かで、非常に面倒な問題なのである。
 
 
 
 
 私は最終的に、外見が変わってから近づいてきたものは、信じないことにした。
 
 側近であるマクシは、私が太っていたころから何ら変わらずに接してくれている数少ない信用できる人間だ。
 
 
「マクシ、私はエイミーのおかげで変われた、そう思わないか?」
 
「……思いたくありません……殿下はいずれ自分で今のお姿になられたと思いますし……」
 
 今の姿……か、果たしてそうだろうか……エイミーに“デブ”と言われフラれなければ、傷つくこともなくヴァロワ辺境伯領へ行くこともなく、私は今もぶくぶくと太り続けていたのではないだろうか。
 
 
 
「とはいえ、私がエイミーを恨んでいるのも確かだ、あんな大恥をかかされたのだからな……」
 
「やはりっ! では、近く婚約は殿下から・・解消されるご予定なのですね?!」
 
「いや、彼女は今の私の容姿をとても気に入っているようなんだ……ならばそのまま私を好きにならせ、大いに反省してもらおうと思っている」
 
「……と言いますと? とことん惚れさせてから、婚約を解消されるおつもりですか? 殿下もなかなかお人が悪い……でも、あの令嬢にはそれもいい薬かと」
 
 マクシは本当にエイミーの事が嫌いなようだ、実に悪い顔で笑っている。
 
 
「まぁ見てろ、私をデブだなんだと散々コケにしたあの・・エイミーが私に頬を染め、捨てないでと縋り付く姿を見たいだろ?」
 
 そう、あの日公爵邸の庭でエイミーが弟であるアルノーに縋り付いていたように……。
 
 
 私は卒業パーティーで成長しとても女らしくなったエイミーの姿を見た時、すぐに彼女だとわかった。
 エスコートが弟のアルノーであることもすぐに気付いた、なぜならエイミーと同じ髪の色をしているのはあの一族だけだからだ。
 
 私との婚約をあのような形で解消したエイミーに、新しい婚約の話があるとは思ってはいなかったが、本当に彼女には婚約者がいないらしい。
 
 
 そう思うと、なんだか喜ばしかった。
 
 しかし彼女は、あろうことかファーストダンスをシュドティリアの第2王子と踊っていたではないか……それも、すごくいい雰囲気で身体を密着させ、ほんの少し頬を染めて女の顔をしたエイミーを見た時、私の心に初めての感情が芽生えた。
 
 そもそも、あんな傍若無人で性格の悪いエイミーが、実は第1王子よりも優秀であるとささやかれているが決して表には出てくることはなく、令嬢とも一切ダンスなど踊らないとされていた第2王子とダンスを踊っているのかが、私には不思議でならない。
 
 
(私をあんな風に傷つけたくせに……自分はアッサリ次を見つけたというのか……)
 
 
 何よりも気に入らなかったのは、変貌を遂げた私の姿に令嬢たちが群がる中、エイミーはちっともこちらに興味を示す様子はなく、それどころかシュドティリアの第1王子とその婚約者に頭を下げていたではないか、あのエイミーが他人に頭を下げるなど信じられない私は、それとなく群がっていた令嬢たちに、最近の私の元婚約者について尋ねてみた。
 
 令嬢達からはさぞエイミーの悪評が聞こえてくるかと思いきや、半年ほど前から突然別人のようにいい人になったと言うではないか。
 
 一体彼女に何があったと言うのだ? 人間、そう簡単に心を入れ替えることなどできないはずだ、演技か……それともなにか企んでいるのだろう……そう考えた私は、ダンスを終えて弟のアルノーとバルコニーへ向かうエイミーを追いかけた。
 
 そして、ドアをそっと開け聞こえてきたのは、エイミーがアルノーを抱きしめ頭を撫でながら、“アルノー大好きっ! 私、一生アルノーに寄生するね・・・・・”という衝撃的な言葉だった。
 
 
 こんなプライドの無いようなことを軽く言うような女性だっただろうか……と耳を疑いたくなったが、それよりも色々な感情が混ざり、私は思わずおかしくなり、声をかけるよりも先に吹き出して笑ってしまったのである。
 
 
 私が現れたことで、エイミーは驚いて固まっていた。
 
 弟のアルノーは、私のことを良く思っているのか、目を輝かせて挨拶を交わしてきたため、私も少し先輩風を吹かせたことを言ってしまった。
 
 その間もエイミーは何かを考えこんでいる様子だったが、しばらくして落ち着いたのか口を開いた。
 
 いったいどんな暴言が飛んでくるかと思ったが、なんてとこはない、普通の挨拶であり、少しがっかりしてしまったほどだ。
 
 思わずアルノーに、本人かを確かめてみれば、間違いなくエイミー本人だと言い、さらには半年前に高熱で記憶障害になり、今も後遺症が続いていると語られた。
 
 私は急に不安になり、咄嗟に自分の事も忘れてしまったのかと確認するようなことを口にしてしまう。
 
 
 しかし、アルノーから帰ってきた言葉は、驚くものだった……途中でエイミーに阻まれてはしまったが、ほとんど聞き取れた。
 
(変わった私に一目惚れだと? ……この私に? 鏡を見て出直せと言ったこの私に、一目惚れ……)
 
 
 私は急に愉快な気分になったような気がした……なんだか、エイミーを見返したようなそんな気持ちだろうか、いや、してやった、と言った方が正しいか?
 
 エイミーは、婚約を解消したことを後悔しただろうか、もう一度、私と婚約したいと思っただろうか、とそんな考えが頭をよぎる。
 
 
 
 しかし、アルノーにバラされて恥ずかしくなったのか、エイミーはそのまま訳の分からないことを言いながら、立ち去ってしまった。
 
 
 
 
 
 
 私はどうしてももう一度エイミーと話がしたくて、翌朝エイミーとファーストダンスを踊っていたリュシアン王子と朝食の席を共にし、魔法の話から、自然にアルノーの話を持ち出し、違和感なくファリナッチ公爵家への非公式訪問を取り付けることに成功する。
 
 
 
 そしてそこで目にした、エイミーの信じられない姿が、目と脳裏に焼き付いてしまったのだ。
 
 
 
『アルノー! 私を見捨てないでぇ~! お願いよぉ~!』
 
 
 
 
 あの傲慢で自分を中心に世界が回っていると思っているようなエイミーが、半べそをかきながら弟にすがっている。
 衝撃的なその光景に、私の胸は高鳴った。
 
 
 (私もあんな風にエイミーに縋られたい……)
 
 
 
 その瞬間、私はエイミーともう一度婚約し、彼女を側に置くことを思い立ったのである。
 
 
 エイミーに再度婚約を結ぶことを了承させるために、多少誇張した寒いセリフを口にしてみたりと、私なりに努力した結果、見事エイミーは私と共にエスティリアに移り住んできたと言うわけだ。
 
 先ほど言ったように、エスティリアにエイミーを良く思う者は一人もいない。
 彼女の味方はこの私だけなのだ。
 
 
 
 
 だが、一つ想定外の問題があった。
 
 アルノーとリュシアン王子のせいで、エイミーが地味に魔法を使う事ができることだ。
 
 
 
 この国は魔法が使えないと生活するにも困るのだ。
 
 本当ならば、魔法が使えず困っているエイミーを私が手取り足取り指導しながら、私に依存させる計画だったのだが、それがまず狂ってしまったのである。
 
 おまけに、転移魔法まで使えるせいで城の地図を使い軽々とヴァロワ辺境伯領まで行ってしまうほどの実力と魔力量を持っているのだ。
 
 (アルノーとリュシアン王子はシュドティリアでも優秀な魔法の使い手だからな……指導者がよすぎたか……くそっ……)
 
 
 
 おかげで、ファリナッチ公爵家からの侍女たちが到着するまでの一番心細いであろう時期に、エイミーは城を離れてしまっていた。
 その行動力も驚きだが、私は彼女が時折見せる令嬢らしからぬ話し方が気になった。
 
 まるで心から信頼を寄せるとても親しい間柄でしか使わないような、エイミーのその砕けた話し方には、とても心を乱される。
 
 
「マクシ、エイミーが今日来た侍女たちと街へ行くつもりのようなんだ、こっそり誰かつけてくれ」
 
「えっ、なんて身勝手な……かしこまりました」
 
 
 
 そう、彼女は身勝手なのだ、そこは変わっていない。
 
 だが……なんだろうか、まだ私の事を信用していないような、恋をしている様子も全くない感じのエイミーの態度が少し気になる。
 
 
 
 もっと彼女を追い詰めて、私に頼るしかなくなるようにしなければ……。
 
 
 
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