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第一章
3 門出と再会
しおりを挟むそれから私は学園を卒業するまでの半年間、アルベール殿下とジュリエットへの一切の関わりを絶ちながら、心を入れ替えたとして、周囲に親切に常識的に接し続けた。
そのかいあってか、ひと月ほど経った頃には、一緒にくだらない噂話や最近の流行などの話をするような令嬢のお友達を作ることに成功し、散々だったエイミーの悪い噂も少しずつ薄れ始めていた。
あんなに私を煙たがっていたアルノーも、少しは私を見る目を改めてくれたようで、今では学園からファリナッチ公爵家に帰ると、毎日夕食までの間に魔法の個人レッスンをしてくれている。
問題があるとすれば、なぜかそのレッスンに、かなりの頻度でリュシアンが顔を出し、私の魔法センスのなさを馬鹿にするように笑いながら、アルノーと一緒に魔法を教えてくれるのだ。
この国の王族に関わると死刑がちらつくので、あまり親しくなりたくないのに、向こうから絡んでくるので、正直困っている。
「エイミー、卒業パーティーには誰のエスコートで行くんだ? 君にはあれ以来婚約者はいないだろ?」
ある日の魔法レッスンの合間に、リュシアンがそんなことを聞いてきた。
ええ、そうですとも、あの……“デブとは結婚しないっ”の婚約解消事件以来、私に婚約の話を持ち掛けてくる貴族などいなかった。
「……我が家には素敵な殿方がたくさんいるから、誰かにお願いするつもり」
父親を筆頭に、兄2人も弟もみんなイケメンなのである、みんな髪は真っ赤だけど。
ああ、そうそう、リュシアンに対して令嬢しゃべりをやめていることは、早々にアルノーにバレてしまった。
小言を言われるかも、と構えたのだが、意外にもアルノーは、リュシアンがいいならいいんじゃないですか、とあっさりしたものだったのだ。
「それなら、俺でもいいんじゃないか? 頼まれれば、エスコートくらいするぞ」
「ごめん、遠慮しておくわ」
「っなんでだよ!」
何故かって?
こいつ、アルノーが私にかけたジュリエットが半径5メートル以内に近づいたらの魔法をいじって、私を自分のところに転移するように設定しやがったのである。
そのせいで、一度ひどい目にあったのだ。
何があったかと言えば、私は男子更衣室にいたリュシアンのところに転移してしまったのである……つまり私は、沢山のお着換え中の貴族令息達の中に突然現れた痴女も同然。
おまけにリュシアンってばその時、転移してきた私を横抱きにキャッチして、半裸の状態にいい笑顔で『着替えも待てないほど、そんなに早く俺に会いたかったの?』っとか言うもんだから、周りにいた貴族令息達に私とリュシアンがそういう関係だと誤解されたあげく、ちょっとした噂になってしまったのである。
「なんでだよじゃねぇ! リュシアンとの噂がやっと消えたのに、エスコートなんてされたら、噂を否定し続けた苦労が水の泡じゃっボケッ!」
「姉上、さすがに自国の王子に向かってボケは駄目です」
「……すみません」
アルノーに叱られてしまったではないか。
「とにかく、私は歳下には興味ないの、エスコートは兄様達がお父様にお願いするわ、どうせ私に婚約者がいないことなんか周知の事実だし」
「それなんですけどね姉上……」
アルノーが言いにくそうに話してくれたのは、私の卒業式の日、イケメンの兄2人はそれぞれが重要な役割を任されているとのことで、父親は来賓として国王陛下の隣に並んでいるのだという。
「なら、アルノーにお願いするわ、弟なら年下もOKよ」
「僕ですか? ……」
アルノーはまんざらでもなさそうにしているが、チラリとリュシアンの方を見て、ため息をついた。
「姉上が僕でいいならいいですけど、リュシアンがせっかくこう言ってくれているのですから、エスコートしてもらったらどうですか?」
アルノーはそんなに私のエスコートをするのが嫌なのだろうか……姉がまたいかがわしい噂の的になるというのに、リュシアンにさせようとするとは……。
「ダメ、私はアルノーがいい! はいっ決まりね、アルノー、一緒にお揃い衣装にしましょうねぇ~」
アルノーは絶対嫌だ、と言っているが、こっそりお揃いの何かを忍ばせてやるんだから。
○○●●
そして迎えた卒業パーティー当日。
「まぁ! エイミー、なんて美しいの!」
母親がこの日のためにオーダーしてくれたドレスを身に纏い、公爵家のエントランスにいた。
真っ赤な私の髪をより映えさせるような、黒と金色のドレスなのだが、背中はザックリと開き、ヒップラインから太もも辺りまではタイトで身体のラインが凄くハッキリわかる。
もちろん胸元もなかなかの露出だ。
年齢的に言えば、高校生の卒業式なのだが、こんなにもセクシーでいいのだろうか……。
しかし、さすがはエイミーの身体、バッチリ着こなしている。
性格は悪くても見た目はピカイチなだけあり、少しメイクをしただけで、すでに夜の蝶のように化けてしまった。
こんな胸と尻を見たら、盛んな男子学生の股間は大変な事になるのでは? いささかパーティー会場の男子トイレが混み合わないか心配である。
「アルノー、お待たせ、行きましょう」
「……は、はい……」
さすがのアルノーも姉のビフォーアフターに困惑しているのか、耳を赤くしながら、手を差し出す。
「アルノーの正装姿、とても素敵ね!」
「……姉上も、今日はお綺麗ですね」
アルノーがデレた!
いや、アルノーが私を褒めた!
「……アルノーもレディーに対するマナーは持ち合わせていたのね、良かった、お姉ちゃん安心」
「っな! 僕は本心で! ……もういいです、緊張した僕が間違いでした、見た目は違えど姉上は姉上ですね」
嘘だよアルノー、わかるさ。
ありがとう、嬉しいよ……でも、あんたの方が本当に素敵なの! 冗談でも言って、いつもの冷めたアルノーでいてくれなきゃ、姉弟で禁断の恋が芽生えちゃうの……なんてね。
本当に、この世界は脇役ですら顔面のクオリティーが高いから困ってしまう……もはや、ヒーローすらかすむほどである。
まぁ、それは好みの問題もあるか。
馬車に揺られ、学園のパーティーホールに到着するとドアの入口でアルノーが再び私の手を取る。
「……姉上、ご卒業おめでとうございます……これは僕からのお祝いです……っチュ」
「っえ?」
アルノーが私の手首の内側に軽く口付けると、その場所がポァッと光を帯び、リスの模様が刻まれた。
「アルノー、ナニコレ?」
「運命のリスです」
おい、なんだそれ中二病か?
「そのリスが姉上と運命の相手とを引き合わせてくれるはずです」
要するに、運命の相手察知魔法的なものだろう。
「やめてよ、パーティー中にあんな風に胸が苦しくなったらどうするのよ」
「ククッ、僕が隣にいますから大丈夫ですよ」
あら、頼もしい……ああ、アルノーが歳下で弟でなかったら……クソう……惜しいぜ。
パーティー会場に入ると、なんだかとても注目された気がした。
それもそうか、一応公爵家の令嬢と令息が登場したのだがら、これから学生から社会人となる者達からすれば、挨拶を交わすなりして、どうにか御縁を繋ぐ必要があると考えているのだろう。
ちょっと面倒くさいな。
「アルノー、隠密魔法かけてよ、いつものやつ……」
「姉上、今日くらい我慢して淑女のフリをしてください」
「ちぇっ……」
入場の時間が過ぎ、パーティー開始とともにこの国の国王陛下が登場した。
まぁ、今回は第1王子のアルベール殿下が卒業だしより一層気合いも入るわな。
陛下の横には、ファリナッチ公爵がいる。
そして何故かリュシアンもいた……アイツはまだ卒業じゃなかろうに。
(……ん? 何かこっち見てる? )
リュシアンは、壇上からこちらを見ていた。
そして、何やらニヤリとして顔を伏せている。
「アルノー、なんでリュシアン壇上にいるの? あいつ、私の事エスコートするとか言って、無理だったんじゃ……」
さてはドタキャンして困らせる作戦だったのか?
「姉上が僕を選んだからでしょう? ……全く、姉上はリュシアンが嫌いなのですか?」
「嫌いというか……あまり関わりたくないのよ……」
「え、どうしてですか? 今更?」
珍しくアルノーが私の話しに興味を持ってくれたのだが、私達がコソコソとお喋りをしているうちに、いつの間にか陛下の祝辞は終わっていた。
そして陛下はサプライズゲストとばかりに、壇上にある人物を招いた。
「今宵はエスティリア王国よりエドゥアルド第ニ王子が皆の門出を祝いに駆けつけてくれた! 1年間ではあったが彼は共に皆と学んだ学友だ、是非とも再会を楽しむといい」
陛下がそんな口上を述べた後、壇上に上がったその人物こそ、エイミーがデビュタントパーティーで大恥をかかせたあげく、婚約解消において全ての不敬をなかった事にしてくれた恩人である、元婚約者様だった。
しかし、壇上に立つエドゥアルド王子を見た会場の誰もが同じ事を思ったはずだ。
(……誰っ!? )
エドゥアルド王子がこの学園に留学していたのは、13歳の1年間だった。
私が14歳で婚約を解消した時はすでにエスティリアに戻っていたので、あれから一度も顔を合わせる事はなかったのだが……。
目の前の人物が本当にエドゥアルド王子ならば、エイミーはなんて馬鹿な事をしたのだろうか……。
「……アルノー、あれ誰……? あの超絶イケメン誰なの? ……めちゃめちゃタイプなんだけど……どうしよう」
「……はい? 姉上、それは有り得ないですよ……姉上がとんでもない恥をかかせたにも関わらず、お咎め無しにしてくださった宇宙のように心の広い御方です、姉上、絶対にあの御方に近づいたら駄目ですからね、顔も見たくないはずですから」
大丈夫、確かに超タイプだけど、私だってエイミーが彼に何をしたのかは、よくわかっているので近づいたり話しかけたりはしないとも。
「わかっておりますデス、安心してください、遠くから見て目の保養にするだけっ」
「よかったです、姉上に常識というものが授かっていて……」
常識って、授かるものなの? ……ねぇアルノー?
ぽっちゃりおデブちゃんから、見違えるほどの超絶筋肉イケメンに変身したエドゥアルド王子には、案の定ご令嬢たちが群がっている。
出来る事ならあの時の事を謝罪したいけど、今の状況で彼に近づいたりすれば、あの群がっている令嬢たちと同じで、見た目が変わったから近づいた女だと思われてしまうだろう。
エイミーにせよ、私自身にせよ、それはさすがにちっぽけなプライドが許さないので、絶対に自分からは近づかないと決めた。
「ねぇ、アルノーっ今日はジュリエットの半径5メートルに近づく魔法解除してあるんだよね?」
「はい、さすがに今日は無理でしょうからね」
リュシアンのせいで男子更衣室に転移にしてしまった後、すぐにアルノーから魔法を修正してもらい、その後はジュリエットを察知すると隠密魔法が発動し、他人から私が認識されにくくなるようにしてくれたのである。
察知しても自ら慌てて逃げなくてよくなり、とっても気楽だった。
「あのね……最後に、アルベール殿下とジュリエットの二人に、これまでの事謝罪したいんだけど、ついて来てくれない? 二人のこと祝福しますって伝えたいの……」
「……姉上……大丈夫ですか? 目の前にして、また変な気起こしたりしませんか?」
「だ、大丈夫よもうっ! 半年も大丈夫だったんだから、お願い、アルノー……自分なりにケジメをつけたいの」
アルノーはあまり乗り気な様子ではない……それもそうだろう、エイミーがこれまで何をしてきたか知っているアルノーからすれば、100パーセント私のことを信用することは出来ないのかもしれない。
アルノーが迷っている、その時だった。
「俺がついて行ってやるよ、エイミーの誠意を王族のこの目で見届けてやる」
「「リュシアンっ!」」
ドタキャン嫌がらせ疑惑の男が現れた。
とはいえ、彼がついて来てくれるのなら一番だ、死刑からかなり遠のけるはず。
「リュシアン、いいの?! お願い! 貴方が来てくれるなら、助かるっ! ほら、アルノーも、行こうよ」
リュシアンの後押しにより、急に強気に出る私に、アルノーはやれやれといった様子で、渋々ついて来てくれることになったのである。
会場のほとんどがエドゥアルド王子に注目しているうちに、私達は因縁のこの物語のヒーローとヒロインの元へと向かった。
「兄さん、ジュリエット嬢」
リュシアンが二人に声をかけてくれ、少し場を和ませてくれたあと、スマートに私にその場を譲ってくれたので、私はずっと伝えたかった謝罪の言葉と、これからも一切二人の邪魔はしない、二人の幸せを願っていることを、伝え、最後にゆっくりと美しく頭を下げた。
アルベール殿下とジュリエットは、公爵令嬢であり、さらにはエベレストよりもプライドの高い私が頭を下げたことに、とても驚いたようで、その場ですぐに私の謝罪を受け入れてくれ、チャラにしてくれたのだった。
私は心の広いヒーローとヒロインの二人に感謝し、二人と別れ、リュシアンとアルノーと共に、緊張で火照った身体を鎮めるために飲み物を持って、バルコニーに出ることに。
「はぁーっ! ちょっと緊張しちゃった! ありがとう、リュシアン、アルノー! とっても心強かった!」
「立派だったよエイミー、本当に変わったんだな」
「ええ、無事にお許しいただけてホッとしましたね」
本当に、二人がいてくれなければ、私はあの二人に近づくことさえできなかっただろう、二人には本当に感謝しなければ。
「ところでエイミー、今夜のファーストダンスの相手を俺に任せてくれないか?」
「……え……今日の私のエスコートはアルノーなんだけど……それになんかもやり切った感いっぱいでダンスって気分じゃ……」
こいつこの前から何なんだ? 私の事、馬鹿にしたり揶揄ってばっかりだけど、本当は好きな子イジメちゃう的なやつなのではないだろうか……。
「姉上、いいじゃないですかっせっかくリュシアンが誘ってくれているのですから今夜くらい」
それに、心なしかアルノーも私とリュシアンをくっつけようとしているような気もしてきたぞ。
「エイミー、こう見えて俺はパーティーで令嬢とダンスをしない王子で有名なんだ、そんな俺と手を取り踊るという事は公爵家としても箔がつくし、汚名の令嬢としても、払拭できるぞ」
「つまり、この国での(金持ちのイケメンとの)結婚も夢じゃないって事?!」
「ああ、そういう事だ」
そういう事なら仕方ない、公爵家のためにも自分の為にも、踊ってやろうじゃないか。
私はリュシアンに差し出された手をとり、バルコニーからダンスホールへと向かった。
私達の登場に、人々はなぜか道を開け、さらになぜかホールのど真ん中の最も目立つ場所にスタンバる羽目になってしまう。
しかもタイミングの悪いことに、流れ始めた音楽はゆったりとした恋人同士がイチャイチャしながら踊るようなもので、私は早速後悔する。
リュシアンは、歳下のくせに私の細い腰を抱き寄せそっと背中に腕を回す……彼のシャープな顎が私の目の前に近づき、思わず見惚れてしまう。
(私は俳優よ、ここは舞台……動揺せずにかっこよく踊りきらなきゃ、私はエイミーなんだからっ)
気持ちを切り替えた私は、エイミーに演じることにし、堂々とした態度でリュシアンと妖艶にロマンチックに踊り切ったのだった。
最後のポージングでリュシアンが、私にキスしようとしていたような気がしないでもなかったが、私の笑顔で彼は一線を越えることもなく、拍手喝さいで私達はホールを退出する。
その後リュシアンは、私とダンスを踊ったせいで令嬢達から、卒業祝いにお願いします、と、脅迫のように誘われまくり、渋々片っ端から踊ることとなってしまうのだった。
そんなリュシアンの事はお構いなしに、私はアルノーともアップテンポの音楽で一緒に踊ったあと、再びバルコニーに出て一息つくことにした。
なんだか今夜は疲れた。
「ねぇアルノー、そろそろ帰らない?」
「もういいのですか? まだリュシアンと僕としかダンスを踊ってませんよ? リスに反応はないですか?」
あ、忘れていた……運命のリス、だったか。
「リスはもういいよ、とりあえず卒業できたし、今後はファリナッチの領地で少しのんびり魔法の練習したりしながら花嫁修業でもして誰かからの気まぐれな求婚状でも待つさ」
「ニートになる気満々なのですね……」
うっ……。
「姉上がそれで満足ならば別に僕はいいですけど……そんなことで、“お金持ちの美丈夫”でしたっけ? 捕まえられるといいですね」
「……アルノーってば、ツンが強すぎる……お姉ちゃん返す言葉がないわ……」
公爵家を出る時に、私に綺麗だと言い耳を赤くしていたアルノーが恋しい……。
「……しょうがないですね、こうなったら僕が魔法省のエリートになって、姉上が年老いても養って差し上げますから」
前言撤回……アルノーってば、ツンデレが今日も絶好調である。
「本当?! ありがとう!! それ、最高! アルノー大好きっ! 私、一生アルノーに寄生するね!」
私は可愛くてイケメンな弟に抱き着きセットされた髪をわしゃわしゃとこねくり回す。
その時だった。
「っぶはっ!」
ん? ……私たち姉弟の素敵なひと時に、品のない吹き出し笑いで水を差す輩が現れたようである。
「その暗闇でもわかる燃えるような赤い髪は……エイミーだろ? 久しぶりだな」
私達のいるバルコニーの扉の所に立つその声の主である男性は、室内の灯りが逆光となりよく見えない……誰だ?
エイミーなどと呼び捨てにするとは、そんなに親しい男性が家族とリュシアン以外にいただろうか?
すると、私の胸に顔を埋められていたアルノーが、慌てて姿勢を正し、その男性に挨拶した。
「エドゥアルド王子殿下っ! ご無沙汰しております、ファリナッチ公爵が三男、アルノーでございます! お会いできて光栄です!」
心なしか目を輝かせているように見えるアルノーに驚きながら、私は目の前の人物の登場に、耳と目を疑う。
「お、アルノーか! 大きくなったな、そなたの魔法のセンスについては我がエスティリアにも届いている、これからもしっかりと学ぶといい」
「っはい! ありがとうございます!」
王子とアルノーが会話している様子を横目に、私は一時フリーズしていた。
(冗談でしょ……あっちから私のところに来たって言うの?! どうしよう、仕返しされるの?! あの時の落とし前つけろ、的な?! )
まさかのエドゥアルド王子の登場に、内心動揺しまくりの私は、あれこれと頭をフル回転させていた。
(どうする?! あの時の事謝るべき?! でも今更掘り返すのも失礼かな!? 今はあんなに痩せて筋肉質なイケメンなんだしっ思い出したくもないかもしれないし?! とりあえず、淑女の挨拶だけでもしておくべき?! )
一人脳内会議の結果、私は無難に淑女の挨拶で乗り切ることにした。
「エドゥアルド王子殿下、ご無沙汰しております、今宵は遠方よりお祝いに駆けつけてくださったとのこと、感謝申し上げます、殿下もご卒業されたのですよね、おめでとうございます(二コリ)」
私の淑女っぷりに、エドゥアルド王子は驚いた表情をした直後、ニヤリと笑い、わざとらしくアルノーに話しかける。
「……これは驚いた、人違いだったか? ……アルノー、こちらはそなたの姉君ではないようだ」
「いいえ殿下、間違いなく私の姉のエイミーにございます、半年前に高熱により意識不明の状態が続き、目覚めたら記憶障害があり、今もそのまま後遺症の状態が続いておりまして……以前よりはほんの少しまともになったのでございます」
ちょいとアルノーさんや、それ、本当の事だけど、その言い方……。
「……記憶障害、だと? ……後遺症? ……私の事は? 覚えていないと言うのか?」
「とんでもございませんっ殿下の事は、忘れるどころか、先ほど姉上はお変わりになられた殿下を見て、一目惚れしておりまっ……ムゴッ!」
(アルノー! それ、本人に言ったら絶対駄目なヤツー!! )
「オホホホホ……あら? アルノーったら、酔っぱらってるみたいね、やだ……貴方、未成年なのにお酒を飲んでしまったの? 見つかる前に帰らなきゃだわっ」
「ムゴッ! ……ムガッ!」
私は慌ててアルノーの口を塞ぎ、適当なことを言って今すぐこの場から立ち去ろうと愚策する。
しかし……。
「ぷはっ! 何を言っているのです姉上! 私はお酒など飲んでおりません! 尊敬するエドゥアルド王子殿下の前で、誤解を招くようなことをおっしゃらないでください!」
え、アルノーってば、エドゥアルド王子の事、尊敬してたの? ……どこら辺に?
そう口から出そうになったが、ギリギリのところで我慢した。
「あらまぁ大変、お父様がお帰りになられるみたいだわ、アルノー、私達も一緒に帰りましょうっ……エドゥアルド王子殿下、せっかくですが、私達はこれで失礼いたします、今宵は存分に楽しんでくださいませ……ほら、行くわよアルノー!」
「え? あ、おいっ!」
私はその姿がどこにあるか見えもしない父親を使い、アルノーを引きずりながらその場を離脱し、そのまま本当に公爵家へと戻ったのだった。
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