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50 品評会
しおりを挟む(sideウンラン、フェイロン)
「なぁ、今日のアレ、見に行くか?」
「行かん。くだらない……あの陛下が、無駄でしかないお飾りの皇后など、立てるわけはないだろう。デキレースだ。」
「でも、シュウ家の姫を拝むチャンスだ、俺は行こうかな。」
「……。」
ウンランとフェイロンは、これまでに一度も“シュウ家の姫”を見かけるチャンスがなかった。
それもそのはず、彼らが宮廷に来る際は、陛下がジュンシーやソンリェンに指示し、レイランを部屋から出さないようにしていたのだ。
「陛下の身体をひっかき傷と噛み傷だらけにするような姫だろ? 俺達みたいなのに抱かれるのが嫌で、抵抗の証なのか、それとも……陛下が激しく抱きすぎて爪を立てられたのか……。いずれにせよ、どんな女なのか興味ある。なぁ、ウンランも行こうぜ。ひと目拝んだら、結果なんかどうでもいいから戻って来ればいいだろ。」
「……わかった。」
なんだかんだ、フェイロンの言うとおりだ、と思い少し気になったウンランは、勝負を見に行く事にした。
「おぉ、こりゃすげぇ人だな……お祭り騒ぎだ。」
「……。」
会場の広場についた二人は、上層部の人間しか立ち入る事のできない二階部分へ上がり、文字通り高みの見物を決め込む事にした。
「お、アレが楊(ヤン)家の姫だろ? 元、後宮の第一番姫殿だ。すげぇ貫禄だな……。」
「……。」
「あれ? 元第二番姫だった黄(ファン)家の姫も参加するみたいだぞ。……シュウ家の姫は大丈夫かぁ? いくらデキレースとはいえ……これだけの人間の前で恥はかきたくねぇだろうな。」
「……。」
「おい、なんか喋ろよ。」
フェイロンは無言のウンランに相槌くらいはしてほしい、という意味で言った。
「……どれもよく肥えているな。」
「っはは! まぁな、俺等はレイランに見慣れたからな、アレが異常に貧相なんだよ。肥えてた方がいい女だろ。」
「……。」
太った女が嫌いなウンランは、この国最高峰と言える二人の美女を見ても、全く美しいとは思わなかった。
「っお! アレがシュウ家の姫か?! ……ん? なんかあの侍女……。」
顔を半分隠したレイランが広場に現れると、会場はその貧相な身体を見て、突然静かになった。
その異常な様子に、何事か、と気になったウンランも、会場に現れたシュウ家の姫を確認する。
「っ! ……レイランだ。」
「は? んなわけ……っあ! 思い出した! なぁ、あのシュウ家の姫の侍女、レイランの禿じゃねぇか?! 確か、“リンちゃん”! 出世したなぁ~。」
と、全く気付く様子のないフェイロンに、ウンランは呆れ返ると同時に頭にきた。
「お前は、馬鹿か! あれは間違いなくレイランだ! あの美しい瞳と華奢な身体を見てわからないのか?!」
「ん? ……。……。……本当だな、貧相な身体もそっくりだ……。顔全部見せてくんねぇかな。……ん? なら、あの禿がいるのも……。」
「陛下がレイランの侍女として妓館から連れて来たのだろう。……クソ……彼女はこんなにも我々の近くにいたのか。」
ウンランは悔しさに、歯を軋ませ、拳を握った。
「待て待て待て待て、つまり、レイランはシュウ家の姫だったのか? なんで遊女なんかやってたんだ? いや、遊女をシュウ家の姫に仕立て上げたのか?」
「後者だろうな! 陛下はレイラン欲しさに、彼女をシュウ家の養子にしたのだ! シュウ家とは……目の付け所がさすがと言えるな……。やはりあの御方は凄い……。」
ウンランが悔しさの中にも、陛下へのリスペクトを混同させる中、フェイロンは未だ混乱していた。
「なら、この勝負、シュウ家の姫が勝てるわけねぇじゃねぇか。あのレイランなんだぞ?」
「……可哀想に……恥をかくだけだ。」
ウンランとフェイロンは、レイランの遊女としての姿以外知らないため、実は彼女が日本で高校まで卒業し、接客のために政治、経済、金儲けなどについてかなりの知識を有している事など、知る由もない。
「……。」
「……。」
「陛下に“反乱軍が現れた”とか言って、中止させるか?」
「先延ばしになるだけだ。可哀想だが、我々には見守る事しかできん。」
「……。」
「……。」
「それにしても……レイラン、やっぱりいい女だな。」
「ああ。いい女だ。」
……((抱きたい……。))
(sideウンラン、フェイロン)fin..
○○●●
私より先に、皇后候補のリンファさんとミオンが会場に姿を現し、まるでアイドルでも現れたかのようにその場は歓声と熱気に包まれた。
……うわぁ、あの中登場するの、超やだなぁ。
「リンちゃん、私、帰りたい。」
「レイラン様、ここまで来たのですから、皆様にレイラン様の素晴らしさを認めさせましょう!」
リンちゃんは何故かやる気に満ち、私以上に闘志を燃やしていた。よって、私は帰る事を許してはもらえず、二人に遅れるようにして、最後に会場に入る。
私の登場に、先ほどまでの歓声はピタリと止み、静かになった。
……会場の皆様、露骨すぎやしませんか? 私、泣いてもいいでしょうか。
やはり、わがままボディではない貧相な私は、見た目からしてマイナス評価であるようだ。
でもそんな事は初めからわかっている。
候補者が全員が揃うと、ジュンシーが音頭をとり、私達の“品評会”が始められる事となった。
うちわで顔を半分隠しているからか、周囲を見る余裕はある。
私の家族、シュウ家の皆んなも応援に来てくれていたので、私は笑顔で小さく手を振る。
直後、凄い熱い視線を感じたのでその方向を見れば、陛下が羨ましそうに見ていた。
仕方ないので、陛下にも笑顔で投げキッスを飛ばす。
ようやく満足気な笑みを浮かべる陛下……もぅ、可愛いんだから。
なんか、おかげで緊張も解れたな。
そして、あの二つの条件について、それぞれが一つずつ、フリーでパフォーマンスの時間が与えられる。
何でもいいのだろう。スピーチでもプレゼンでも、実演でも……。
まずはリンファさんからだ。
リンファさんはスピーチ。
“皇帝陛下を尻に敷き膝の上に乗る”など、とんでもない、と条件そのものを否定するという荒業を出してきた。
まぁ、自分は皇帝に従い陰ながら支えます、的な事を言っていたようだ。
会場のウケはよく、拍手喝采だったが、正直私は、つまらないなぁ。と、思ってしまった。
続いて、ミオンだが……彼女はあのまメタボパパに言われたのか、あえて“皇帝陛下”には触れずに、良き妻とは、と、なんだか趣旨の違うスピーチをしていた。
それでもメタボパパが金をまいたのか怖いのか、会場からはそれなりに拍手が起きていた。
そして私の番だ。
ひと晩考えた末に出した結論は、“私らしくいこう”という事だった。
私はうちわをリンちゃんに渡し、顔をさらけ出し、陛下のいる高座へ上がり、椅子に座る陛下の膝の上に横座りに腰を下ろし、彼の首に腕をかけた。
会場は、私の行動が信じられない、と、批判的な声のどよめきが起こるも、その後は、なんだかんだ私の言葉に注目しているのか、シーンとしている。
「陛下、私はシュウ家の娘、レイランにございます。私は――……。」
私は、スピーチではなく、陛下に自分の意見をはっきりと伝えた。
まず、この国の人々の生活習慣について、早急にどうにかしないと、今後蔓延する三大生活習慣病について説明してあげた。
シュウ家の娘らしくていいだろう、と考えたのだ。
その上で、陛下の意見を聞く。
「――……と、私は思うのですが、陛下はどう思われますか?」
陛下は私の目を見て微笑み、頭を撫でた。
「実に良い意見だと思うぞ。民の健康を思うその心もさることながら、このような場で私と状況に憶せず堂々と意見を述べる事が出来るとは、実に素晴らしい。」
と、お褒めの言葉をくださった。
それを聞いた、アイドルのファンクラブ以外の真面目な役人達は、陛下の意見に賛同するように、頷いている人達もいるようだ。
「……(小声)レイラン、今すぐ口吻たいのだが、ダメか?」
「(小声)……今はダメっ! でも、付け毛姿も素敵だから、今夜はそのまま……ねっ。」
「……(小声)わかった。」
と、私達が二人の世界に入りかけていると、ジュンシーの重たい咳払いが聞こえた。
「……ゴッホンッ!!」
リンファさんとミオンは、自分達は怖くて仕方ない陛下に対する私の大胆な行動は、目を疑うものだったようで、少し焦りを見せている。
そして、二つ目の条件――……。
“気性の荒い皇帝の愛猫が懐く者”
これについては、本当に猫が現れると思っていたのか、リンファさんは猫じゃらしやおもちゃなど、猫グッズを持参し、ミオンは食べ物でつる作戦だったのか大量の魚の切り身などを手に持っていた。
一方で私は、“気性の荒い猫”とは、自分の事なわけなので、悩みに悩んだ結果……。
私が一番喜ぶ事を準備した。
それは……。
“猫”だ。
私はリンちゃんと一緒に野良猫の兄弟二匹を保護し、綺麗に洗って乾かした。
さらには沢山の食事を与え動きを鈍らせ、首にリボンを付けて連れてきた。
ジュンシーが用意しておいてくれた、私用の猫グッズが役にたった。
またもや会場は、私とリンちゃんの腕の中にいる猫に驚き、二人の候補者もギョッとしている。
陛下はそれぞれに、準備してきたアイテムについて理由を尋ねた。
リンファさんは遊んで仲良くなる。
ミオンは餌付けして仲良くなる。
私は……。
「陛下の猫が今、一番欲しいであろう“仲間”を用意しました。名前は――……“オニちゃんとトラちゃん”です。これで、少しは寂しさからくるストレスなどで、陛下を襲う事も無くなるかと思われます。」
知らない宮廷に連れて来られて、心の拠り所は愛する人とリンちゃんだけだ。
私は、仲間が欲しい。ってか、猫が飼いたかっただけだけどね。
“オニちゃんとトラちゃん”は黒猫と白猫の兄弟だ。
ソウハとライギから名前のネタをお借りして、鬼ちゃんと虎ちゃん、である。私の仲間として最強の可愛さを誇っている。
「っははは! 私の可愛い猫は、“仲間”が欲しかったのか! よくわかったなシュウ家の姫、レイランよ。」
私の事ですからね。
会場は少し変わった私の変化球に若干興味を示し、楽しそうな陛下に空気を読み始めた。
こうして、私達候補者のパフォーマンスは全て終了し、あとは陛下の言葉を待つのみ、となる。
しかし、ここで、陛下の態度や会場の空気から自分の娘が不利であると焦ったらしいリンファさんの父親がある提案をしてきた。
「恐れながら陛下! 一つご提案がございます。」
「なんだ、ヤン家当主。発言を許そう。」
「感謝いたします。ここに集う皆は、正直な所、そちらのシュウ家の姫が、まことにシュウ家当主の血を引く娘であるか、疑う者もおりますゆえ、勝手ながら私の方で呪術師を手配いたしました。この場で親子である事を証明させて頂きたく……。」
何じゃそりゃ!
まぁ、確かに怪しいよね! 突然異世界から戻ってきた娘なんか!
……でも、本当に私は、娘なのかな? ただ見た目が似てるってだけで、ソンリェンが間違って連れてきたって事ない?
しかし、陛下は答えた。
「……よかろう、ちょうどシュウ家の当主も来ておるしな。それで皆が納得するならば、ハッキリさせようではないか。」
――言っちゃったぁ!
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