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35 ちゃんと抱かせてもらうよ
しおりを挟む「お部屋のお掃除オッケー! ベッドメイキングオッケー! 部屋の匂いも……(くんくん)っオッケー! ベッド横にエチケットアイテムセットオッケー! いつ来るかわかんないけど、一応パンツとブラも準備オッケー!」
『やる気満々だな、オイ』
集金から戻った私は、近いうちに来ると言ってくれたソウハの言葉を信じ、彼がいつ来てもいいようにと、あれこれ準備し、かなり浮かれていた。
浮かれすぎて、久しぶりにお人形の店長も登場だ。
「店長、私にもこんなに乙女な部分が残ってたんだね……!」
『お前のそれは、ゲスの乙女だけどな!』
「……うるさい黙れ水をさすな……っでもでも! ゲスでもあんなに素敵な人と、お金を貰わずに出来るなんて……キャー! どうしよう店長! お客以外の人と、どんなセックスしたらいいの?!」
『素人童貞のセリフだな。』
「ある意味そうかも! だって私、お客さん以外って、店長しか経験ないし!」
『残念過ぎて何も言えねぇ~。』
「でも、そっか……店長か……。」
『“店長”は別にお前の事を好きで抱いてたわけじゃねぇだろ? それって、客と変わらねぇよ。』
「……だから、うるさい黙れ、私の思い出にケチをつけるな。」
『お前もいつか、誰かに一人の女として愛されて求められるセックスが出来るといいな。……なぁ~んて、俺が言うと思ったか! 馬鹿め!』
「……誰かに一人の女として愛されて、求められるセックスって、どんななの? 気持ちいいの? 自分が好きな相手とのセックスだけでもあんなに気持ちいいのに、相手からも愛されたら……。」
『昇天! だろうな!』
「……昇天。」
ソウハとなら、私もいつか昇天できるだろうか。
そもそもソウハは私のことどう思っているのだろうか……。
“私の猫”とか言ってたけど、それってペット的な感じなのか?
「……。」
うわぁ~! 私今、なんかキモくない?! 少女漫画のヒロインみたいなこと考えてた! ウケる!
少女漫画読んでていっつも思ってたけど、ヒロインって大事な所で臆病になったり、相手の気持ちに鈍感だったりするじゃん? あざといよねぇ~、まぁ、それが愛されるヒロインの定義なのかもしれないけどさ。
私は違うと思いたい。
そもそも相手から性欲とか欲情以外の感情を向けられたことってないから、混同しちゃって愛情に気付けないかもしれないけど、ソウハは違う。むしろ私が彼をエロイ目で見ちゃってるからな。
むしろ、ソウハになら、欲情してもらえるだけで嬉しいし! よく、男は胃袋を掴めとか言うし、それと同じで、私はちんこを掴んでしまえばもうこっちのものだ。ゆっくり私の虜にして、私無しじゃいられない身体に……うひひひ、よし。
『おい、それじゃ客と一緒じゃねぇか!』
「え? 全然違うし! どこにも行ってほしくないから、私だけのものにしたいから、って時点で、全然お客さんとは違うでしょ!」
『……。』
なんか、虚しくなってきたな。
そろそろやめるか。
『……そんな予防線張らなくたって、大丈夫だ。身体なんて関係なくお前を愛してくれる男はきっといる。無理すんな音羽。』
「……え?! “店長”?!」
今、確かに音羽って……。私の名前……。
それに今、私しゃべってない。
「……こ、怖っ……でも……ありがとう店長、そうだといいな。」
なんだか背筋の凍る、それでいてなんだかほっこりする不思議な体験だった。
「ふんふん~ふんん~」
一度も見たことないソウハの寝顔、見てみたいな……朝起きるといっつもいない彼の寝顔は、どんな感じなんだろう……絶対に尊すぎて拝む。
私は露天風呂に入り火照った身体を冷まそうと、窓を開けて、星を眺めながら大好きだった音楽を口ずさむ。
好きな人を待つことがこんなにも楽しいなんて知らなかった。こんな幸せな気持ちでいられるなら、いつまでだって待てそうだ。
いや、でもやっぱり……。
「早く会いたいな……。」
「私にかな?」
「ソウハ様!」
ヤバい、私、今、幸せの絶頂期を迎えてる!
またしても突然現れたソウハは、昼間の豪華な感じの服ではなく、ソンリェンのような軽装をしていた。
宮廷からここまで急いで来てくれたに違いない。
「遅い時間にごめんね。汗をかいてしまったから、温泉に入ってから、そっちに行くよ。少し待っててね。」
「……う、は、はい!」
眩しい。眩しすぎる汗の滴るいい男過ぎる男、ソウハ。
この距離じゃ、汗が見えないのが悔やまれます。
ってか、汗とかそのままでもいいけど! でへへ。
ソウハはキレイ好きのお風呂好きっと……メモメモ。
そ、そうだ! おパンツとブラ! どうしよう! いくらなんでもノーパンノーブラはビビるよね?! あんなの冗談だったのに……って引かれても嫌だし!
よし。今夜はレース君……君に決めた!
一時間ほどして待ちくたびれた頃、湯上がりのソウハが私の部屋へとやってきた。
ソウハがっソウハがいる! 私の部屋に! ソウハが!
「とてもいい湯だった。一緒になったお爺さんに、お酒までご馳走になってしまったよ。遅くなって悪かったね。」
はははっと可愛い笑顔のソウハ。
ズキュン、ブスッブスッブス……
彼は私のハートを撃ち抜き、さらに矢まで打ち込んでくる。
「私も従業員用の露天風呂があって、よく友人と晩酌しますよっ。ハマりますよね。酔いがいい感じに回って……。」
わ、私も少し飲んでおけばよかった! なんか動悸がっ!
「レイラン、ごめんね、水、貰えるかな?」
「あ、はいっ!」
私は冷蔵庫の中から冷えた水を取り出し、グラスに注いだ。
ごくごく、と飲み込む度に動く彼の喉仏がなんともセクシーで、釘付けになっていると、私の視線に気付いたソウハが言った。
「レイランも飲む?」
「あ、うん、はい。」
「……レイラン? 私はもうお客じゃないんだ、言葉は楽にして。」
にっこり笑顔で私の頭を撫でながら、ソウハは言った。
「……ありがとう。」
……嬉しい。
思わず顔が緩み、笑みを浮かべてしまう。
ソウハは直後、私にくれると言った水を自分の口に含んでしまった。
……あれ?
そしてそのまま私の腰を抱き寄せ、唇を重ねた。
「……っ!」
ひんやりとした水が、私の口内に流れ込んできたので、私はコクンッと喉をならし、飲み込む。
目の前にあるソウハの顔を見れば、なんとも色欲を含んだ目をして私を見ていた。
「……レイラン、話しがある。……だが、すまない……君のそんな顔を見たら、私も……もう我慢がきかない。」
ソウハはそう言うと、再び唇を重ね、すぐに私の舌を絡め取る。
「っ! ……んんっ……!」
あまりに濃厚で官能的なキスに、さすがの私も立っていられず、ソウハの浴衣の袖にしがみついてしまう。
「……濡れた。」
唇が解放され、ぽかんとしながらその場にへたり込んだ私の口から思わず漏れてしまったその言葉に、ソウハはくすり、と笑う。
「おいでレイラン……前は何もしてあげられなかったから、今日はちゃんと抱かせてもらうよ。」
「……ひ、ひゃい……。」
前も十分満足でしたけどっ!
ちゃんと抱くってなに? 私、どうなっちゃうの?!
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