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32 ウンランの失態

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「レイランちゃん、中央から来たと言っていたわよね? ちょっとおつかいを頼めるかしら?」
 
「おつかいですか? いいですよ!」

 ミンミンとの酒盛りの後しばらくして、食堂の女将さんであるミンユーさんに、突然頼まれた。

「ソンリェンを護衛代わり頼んでおいたから、あの子が着いたら出発してくれるかしら。」

 え、あの謎の無言忍者男と……? なら、ソンリェンがパパッと済ませて帰ってくればよくないか?

「ちなみに、どこへどんなおつかいですか?」

「先日宴会でいらした軍部の方々が、うちで作ってるあのお酒を気に入って、沢山購入して行ってくださったから、集金をお願いしたいの。品物はあの日に持って帰られたから本当に集金だけよ。高額だから、気を付けてね。」

 なるほど、つまりソンリェンは護衛兼見張りってわけね。

 さすがに集金してそのまま持ち逃げなんてしないけど、悪い人もいるからね。変に信用されすぎるのもなんか重いから、ミンユーさんの対応は正しいと思う。

 それに、無言忍者のソンリェンに集金は難しいもんね。
 また買ってもらえるように、愛想よくして来なきゃ。

 軍部とはいえ、お金の出し入れは経理部みたいな所だろうから、ウンランとフェイロンに会うこともないはずだ。


 私はソンリェンを待って、食堂を出た。



「あ! 言うの忘れちゃったわ! 先方から、“レイラン”という女を集金によこしてくれって言われてるから、ちゃんと名前を名乗ってねって……。」

 私が出発した後、女将さんがこんな事を叫んでいた事もつゆ知らず……。












 ○○●●
 
 
 (sideウンラン)
 
 
 その日、ウンランは宮廷の門の男に指示を出した。
 
「おい。近いうちに“レイラン”という貧相な身体の女が、“軍部が買った酒の集金”に来るから、来たらそのまま俺の所に通せ。いいか、絶対に、直接、お前が! 俺の所まで、送り届けるんだぞ。」

「っは、はい! 承知いたしました!」

 門の男は、軍部の高官である天才軍師に話しかけられ、さらには直接指示をうけた事に、歓喜した。
 しかし、あまりの嬉しさに、皆に自慢してしまう。

 ……。

 そしてそれは、レイランの話しに敏感な、フェイロンの耳にも入ってしまった。



「おい、職権乱用男。」

「……なんの事だ? 頭を使っただけだ。」

 しかし、門の男の口の軽さとバカさ加減だけは、ウンランの想定外だった。

「レイランが来たら、俺も同席させろ。」

「断る。」

「なら、今日からずっと俺とお前は四六時中一緒だ。仲良くやろうじゃねぇか。」

「……。」

 ウンランは一つ深くため息をついて、渋々フェイロンの要求をのむ。

「いつ来るかはわからない。お前が近くにいれば、声をかけてやる。」

「いるさ、明日も明後日もな。」








 そして翌日、いつもの皇帝陛下を交えた軍部の会議の最中、それは訪れた。


 会議の最中、部屋がノックされ、ウンランが扉の前に呼び出される。

「ウンラン殿! ご指示のありました酒の集金が来ましたので、貴殿のもとへ、自分が、直接、お連れいたしました!」

 と、会議室の中に響くほどのバカでかい声で言った。


 門の男の背後には、間違いなく、レイランが不機嫌そうな顔をして立っている。

「確かに……お前はもういい、下がれ。」

「は!」

 ウンランは会議室へ向けて声をかけた。

「失礼、私は先日の酒代の支払いがございますので、少し席を外します。」

「なんだウンラン殿、集金など、待たせておけばよかろう、なんなら、別の者にでも……」

 高官の一人が余計な事を言った。



 しかし……。


「なんだ、酒代の集金が来たのか? 待たせては可哀想だ。その酒代は私が皆に振る舞った事にして、今払ってやろう。丁度いくらか手持ちがある。」

 ウンランは思った。
 何故、皇帝陛下は今日に限って手持ちなどがあるのだろうか、と。普段、金など持ち歩く事のない御方であるはずだ。


 いいや、ソレよりも……マズイだろ。




「ウンラン、せっかくだ。陛下のご厚意に甘えたらどうだ?」

 フェイロンがニヤつきながら言った。

 フェイロンは、レイランが陛下をこの国の皇帝だとこの場で知る事になる事を望んでいるのだろう。

 だが、本当に大丈夫か? こんな場で知る事になって、レイランは平気なのだろうか……。
 彼女の傷つく顔は見たくない。

「あの、帰りが遅くなると悪いので、今お支払い頂けるなら、待つより嬉しいです。」

 レイランがウンランに言った。相変わらず不機嫌そうだが、あの門の男は、一体彼女に何を言ったんだ、とウンランは少しイラついた。


「……レイラン、俺はお前と話しが……。」

「ウンラン? 何をコソコソとしているんだ? ほら、集金の者をこちらに通してやれ。」

 ウンランがレイランに話しがしたいから、少し時間をくれ、と言おうとした所で、この国で最も高貴な御方なら指示が入ってしまう。


(……もう、俺は知らんからな! )

 ウンランは、収拾のつかない状況に、仕方なくレイランを会議室へと入れ、支払いをすると言ってニコニコとしている陛下の所へと案内した。

 普通ならただの集金の女が皇帝陛下の御前になどと、到底考えられない状況であるにも関わらず、誰も興味がなさそうだ。

(……どうなっているんだこの国は。)

 陛下のストッパーであるジュンシーも、忙しいようで今日は不在だった。

















 そしてレイランは、ウンランの失態により、この場で陛下と顔を合わせる事となってしまった。
 
 
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