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31 ジュンシーがキュン
しおりを挟む(sideジュンシー)
「へ……陛下、な……なんとか……やっと……いや、本当にやっとの思いで、勅令を受け、明日でひと月をむかえます前に、後宮内は空にいたしましてございます。」
「ご苦労だった、ジュンシー、そなたなら、やってくれると信じていた。」
ニコニコと笑顔を絶やさない我が国の皇帝陛下は、前帝の御崩御の後、齢22で皇帝となった御方だ。
あれから五年……その見た目から、沢山のご苦労をされてきた事を、ずっとお側で見てきた私は知っている。だからこそ、今回のような無茶な勅令とて引き受けることが出来るというもの。
「もったいなきお言葉を……。さすれば陛下、後宮を廃止され、どうなさるおつもりで……?」
「わからないか?」
ニコニコ笑顔のまま、陛下はじっと私を見つめていらっしゃる。まるで試されているかのようで、おかしな汗が額から頬を流れた。
「ええ……ゴホンッ……陛下は、まだ見ぬ皇后陛下お一人だけを、生涯大事になさる、との認識で間違いはございませんでしょうか?」
私は逃げた。無難に、どうとでも取れる言葉で陛下に返してしまう。
「うむ、35点だな。でも正解ではある。ではジュンシー、私が次にそなたに頼みたいことは言わずともわかるな? 三日以内に頼むぞ。」
なっ……三日以内に何をせよと?! ……こんな無茶ぶりも、陛下の笑顔をみると背筋が凍る思いがすると同時に、こう口にするしかなかった。
「承知いたしました……必ずや、三日以内に皇后陛下の居室並びに両陛下の寝室を整えて見せましょう。」
「うむ、さすがはジュンシーだな、75点だ、おめでとう。」
なっ、あと25点……一体何が足りんのだ!
「寝室に隣接した風呂もつけてくれるかな。あとはそうだな、皇后の居室は私の部屋の隣で、同様に外部からの侵入が一切できぬようにな。あとは、ベッドはこの国で最も大きなサイズにしてくれ。ああ、風呂は間に合わずともよいからな。私も鬼ではない。」
……。
「……承知いたしました。」
私はそれだけの要求をしておいて、三日以内という時点で、貴方様は十二分に鬼です陛下。と喉元まで出かかっていたが、我慢した。
「ああ、言い忘れる所だった。」
まだあるのか!
「朱家本家の当主と奥方とその息子を呼んでくれ、それと、もう一人連れて来てもらいたい者がいる。朱家の件は早急に、もう一人は後でもよい。」
……朱 家を? なぜだ……。
シュウ家と言えば、この国で最も多くの医官を輩出する名家だ。その本家の当主だけでなく、奥方と息子を呼び出すとは一体何を考えておいでなのだ……。
あ、そうか! 後宮後の診療所の件だな。奥方も息子も優秀な医官だと聞くからな。
「承知いたしました、すぐに。」
「頼んだよ。」
あのニコニコ笑顔が、恨めしい。
だが、そんなにも急ぎ皇后宮を整えた所で、そこに住まうお人が決まっていないというのに、一体なんなのだ? なぜそんなにも急ぐ?
「……陛下、最後に一つお聞きしてもよろしいでしょうか。」
「ん? なんだ? 三文字以内なら聞こう。」
……“え”、“む”“り”。三文字じゃ聞けないです陛下。
ここは陛下のいつもの御冗談だと思い、私は普通に尋ねた。
「こんなにお急ぎになられる理由を……皇后の選出も済んではおりませんし……。」
まさかとは思うが、皇后の選出までもを突然急げと私に言われても、困ってしまうぞ。
「……ジュンシー、文字数オーバーだから、答えることはできない、非常に残念だよ。」
「へ!? 陛下、ご冗談だったのではっ?!」
ずっとにこにこしてらっしゃるから、本当にわからん。
「私は冗談は言わないよ。まぁでも、一つヒントをやろうか、私はジュンシーが頑張ってくれて準備が整ったら、逃げてしまった猫を狩りに行かねばならない。」
……猫を狩る? そんなに凶暴な猫なのか……え、つまり私は皇后のペットの猫の為に急がせられているのか?
しかしそうか、陛下の中では皇后選挙は済まれているのか。後宮にいらっしゃった妃の中の誰かだろうか? 猫が好きな妃がいたような、いなかったような。
だがそうかそうか、うんうん、後宮を廃止だ、などとおっしゃった時には、ついに気が狂ったかと思ったが、前向きにお考えくださっているんだな。
きっと、私が後宮に遊女などという、暴挙に出たがあまり、お気持ちを入れ替えて下さったのだろう。なんだかんだ、陛下は私に優しい。キュン。
「かしこまりました、そういう事であれば、猫殿の為にも必ずやご希望のとおりに。」
「頼んだよ。費用はいくらかかっても構わない。あ、あとそれから、探してほしい者が一人いる。その者については後で話そう。」
「かしこまりました。」
(sideジュンシー)fin..
○○●●
「レイラン! 昨日はほんっとにごめんね! 私、上座のお二人ほんっと怖くて……。」
翌日の露天風呂晩酌で、ミンミンに謝られたが、正直、ソウハに会えたことですっかり忘れていた件だったので、拍子抜けだった。
「全然! 結局私も途中で逃げちゃったし、迷惑かけちゃったよね、ごめんね。上の人に、今回の日当はいりません、って伝えておいてくれる?」
「レイラン……貴女若いのにしっかりしてるのね。」
え、してませんけど。欲望のままに生きてきたつもりですけど。でも、異世界ではそうなのか。なんか得した気分。
「それよりミンミン、今日は月見酒だね~お酒がより美味しく感じない?」
昨日は欠けていて不完全だった月は、今日は目視でいい形をしている。完全なまん丸ではないのかもしれないが、とてもきれいだ。
「……ねぇレイラン、なんかいいことあったの? 昨日あんなことがあったわりに、なんか……可愛くなってない? いい女フェロモンが出てる気がする!」
「っえ!? な、なんにもっ?! なんにもないよ、今日だって、一日寝てただけだし!」
「いーや、女の勘を舐めないで、むしろ勘なんか必要ないくら、顔がつやつやしてるよ。さては、昨日いい男でも捕まえたの?」
……昨日いた男は、上座の二人以外、みぃんな小太りでしたので、絶対にありえませんね、タイプじゃございやせんっ。私のタイプは……ソウハみたいな……(ポッ)
「あぁぁぁ! やっぱりそうじゃない、何その顔! 頬なんて染めちゃって、可愛いぃ~恋してる顔してるぅ! いやぁ~、私もレイランにあてられそうだわ、恋したくなってきた。」
恋してる顔してる? そんなこと、生まれてから初めて言われた。店長に恋してた時ですら、誰にも言われたことないのに……。
「ねぇミンミン、遊女でも恋、してもいいよね? もう辞めたから、元遊女だけど。」
「っ! レイラン、恋なんて、して、いいも、悪いも、ないの。恋は自分の気持ちとは関係なく、落ちるものなの。byミンミンよ。元遊女とか関係ない、私だって、元遊女で今は芸者よ、だから、芸者を名乗ってる。レイランは今、食堂で働く女の子でしょ?」
食堂で働く女の子と言うには、ドスケベだけどね。
「それにさ、遊女じゃなくても身持ちの軽い女なんていっぱいいるんだから、お金のために仕方なく身体を売ってる遊女の方が幾分か、理解してもらえる余地はあるわよ。惚れた女のそれが理解できない男なんか、こっちから捨ててやりなさい!」
ミンミン……ごめんね、私は朝昼晩の食事を抜いてもいいからセックスをしていたいって程にセックスが好きで遊女してたんだ……。なので、どちらかと言えば、前者で……っま、それは今、言わなくていい事だよね、うん。
「ありがとうミンミン。身体を売ってきた自分を卑下するわけじゃないし、自分が汚れてるとも思ってないけどさ。なんか、今更いいのかなって思う時あるんだ……。」
「何が?」
「心はさ、顔を見るだけで、声を聞くだけで心臓が飛び出しそうなくらいドキドキしてるのに、身体は手が触れ合って耳元で囁かれるだけで濡れちゃうような開発済みのエロイ身体なくせして、相手には自分以外を見て欲しくないとか、そういう事思っちゃってもいいのかなって……。」
ソウハはきっと仕事が忙しいからひと月以上も音沙汰がなかった、とは思うんだけど、もし他にも私みたいな相手が沢山いて、気まぐれのローテンションだったら嫌だな、って。まぁ、この世界の価値観的にあんまりその心配はないだろうけど。
「レイラン……あんた、今いい顔してる。めちゃめちゃいい恋してんのね……それは嫉妬よ、独占欲よ! 恋したら芽生えるごく当たり前の感情よ! うぎぁーー! 羨ましい! 今日は飲むわよぉ! 付き合いなさいぃ!」
その夜は、遅くまでミンミンの絡み酒に付き合う羽目になった。
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