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20 謎が解けたので帰ります!
しおりを挟むなんやかんやと迎えた、第二回房中術講座当日。
「さぁ~て、今日は生徒さん、いるかなぁ~?」
前回はゼロだったことから、どうせ今回も部屋は空なのだろうと思い、饅頭だけ頂戴して帰ってリンちゃんにあげようと考えていた私。
ガラッ!
「はいっ! 誰もいなぁ~い……く、ない……。」
講座を行う部屋の扉を馬鹿みたいに陽気に開け放つと、中には二人一組の女性達が、数組いた。一人は座り、一人が立っているところを見るに、それぞれ、妃と侍女なのだろう。
「こんにちわぁ、私の名前は“マリリン”です、よろしくお願いします!」
……ジュンシーの提案で、私は外国からやってきた講師として振る舞うことになったのだ。そのため、ジョルジュ風のウィッグに伊達メガネを付けている。
私が遊女だとバレると、うまくないらしい。
「「「……。」」」
私の元気いっぱいの挨拶に対し、部屋の中は静まり返っている。
オーケーオーケー、そういう感じなら、私もそういう感じで行きますね。
私はひと呼吸置き、部屋を見渡した。
どうやら、三名の妃とその侍女が来ているようだが、揃いも揃ってわがままボディの美女たちだ。
おまけに、私に向ける視線がそれぞれ違ってなんだかおもしろい。
明らかに胡散臭いものを見ているかのような人。
私の貧相な身体に同情しているかのような人。
そして、ちょっと怖いのが、顔を半分隠した笑顔の人。
「えーっと、私は外国から来ました、この国に来て日が浅いので、失礼な言動があってもご了承くださいね。」
私はあらかじめ予防線を張っておく。
「では、いきなりですが何か私に意見や要望がある方はいらっしゃいますか? ここにお集まりいただけた、ということは、皆さんこの国の御世継をその身に宿す覚悟をお持ちで、かつ、皇帝陛下の寵愛を受けたいと願っていらっしゃる素敵な妃様方とお見受けいたします。」
私のこの言葉は、本音だったりする。
いいとこのお嬢様が、エロ本と官能小説を配るような下衆な講師の講座に参加するなんて、よほどの覚悟が必要だっただろう。しかし、彼女達がここにいる本当の理由は、まだわからない。
ただの冷やかし、文句を言いたい、ただの興味本位というだけかもしれないので、それを見極めるためにも、少し話をしてみたいと思ったのだ。
「まずは自己紹介からお願いできますか? えーっと、では右の方から。」
右の妃は、私を胡散臭そうに見ている人だ。
自己紹介などしてくれるだろうか、と思ったら、口を開いたのは横に立っている侍女だった。
「こちらの御方は第六番妃、美帆(メイファン)妃にございます。」
はい、六番さんねぇ~、六番は自分で口がきけないっと……メモメモ。
「ありがとうございます。では次……」
「私は、第九番妃の桜綾(ヨウリン)にございます。」
お、九番さんは、自分でしゃべれるんだね、偉いなぁ~。でも私の事、そんな同情の目で見ないでねぇ。
「ありがとうございます。では最後に……」
「第一番妃、凛風(リンファ)よ。先生、よろしいかしら?」
おぉ、後宮ナンバーワンだったのね、笑顔が怖かったのは、ナンバーワンたる威厳だったのか。相変わらず、うちわで顔を半分隠しているけど。
「はい、なんでもどうぞ。」
「閨を共にせず、子を授かることは出来ないのかしら?」
……は?
可愛そうに……後宮ナンバーワンは、馬鹿なのか……。と、思いきや、他の二人も切実そうな顔で私回答を待っているようだった。
「リンファ妃、その質問の意味としては、身体を交えずに妊娠したい、という認識で合っていますか?」
「ええ、その通りですわ。」
人工授精でもしとけよ。
「可能ですよ、男性の精子を取り出して洗浄し、濃縮した後、女性の子宮内に細い管で入れるのです。ですが、その技術がこの国にあるかどうかは、私は存じあげません。」
ないだろうね。後宮のナンバーワンがこんな質問してくるような世界じゃ。
「まぁ、先生のお国ではそんなことが可能なのですか?」
「ええ、可能でしたが、私の故郷は滅びましたので、今となっては出来る医師も設備もありませんが。」
嘘じゃない。私、嘘ついてないよ。多分……。
「……まぁ、御気の毒に……。」
あからさまにがっかりしているのは、リンファ妃だけでなく、六番さんも九番さんもだった。
私はこの三人の様子から、ハッキリとわかった。
この人たちは、皇帝と身体を交えたくないんだ。
それはつまり、私の講義など、どうでもいいと同義ではないだろうか。
「伺ってもいいですか? 貴女方はなぜ、皇帝陛下と身体を交えたくないのですか? 行為自体がお好きではないのですか? (あんなに気持ちいいのに……)」
「無礼な! ここにいらっしゃる御方は皆々様、穢れなきお身体にございます!」
おっと、ナンバーワンの侍女に叱られてしまった。
そうか、処女ちゃんなのね。それなら気持ちよさを知らずとも仕方あるまい。うんうん。
それなら、皇帝自ら彼女たちに気持ちよさを教えてあげれば、万時解決、みんなで楽しいセックスライフがやって来るんではないだろうか。
どうして後宮に来ないんだろう。まさか、皇帝も童貞?! いくつなんだよ、おっさんだろどうせ。
おっさんで童貞拗らせてるとか。ちょっと私も手に負えないなぁ~……頼まれてもちょっと気が乗らないかも。
「先生は、陛下をご存知ありませんの?」
「ええ、お会いしたことはございませんね。」
「この国の皇帝陛下は……」
……皇帝陛下は? ……やけにためるね、ナンバーワン。
「“羅刹鬼”を御身にお宿しなのですわ……。」
「……は? ら、らせつき?」
ああ……あの女子供を食うっていうイケメン鬼のこと?
あ、つまり、皇帝陛下って、私の管轄メンズなわけ? そうなると、おっさんでも話は変わって来るわ! イケオジってことじゃないか。
「なるほど! 謎が解けました! あなた方は、皇帝陛下が怖くて、相手をしたくない。皇帝陛下は、怯える妃達を抱きたくないから、後宮から遠ざかっている、そういうことですね!」
あぁ~スッキリした。初めからそう言ってくれよ、ジュンシー。
「では、今日の授業はここまで! もう二度とお会いすることはないと思いますので、どうぞお元気で! 最後に私から言えることは一つです! 皆さん、コウノトリさんが赤ちゃんを運んできてくれることを祈りましょう! では!」
私は部屋を出た。
「ジュンシーさん、御覧頂きました通り、今日の授業で最初で最後となりました。お疲れ様でした。私は荷物をまとめますね。では!」
ジュンシーは、妃達に怯えられるからと、隠れて今日の授業を見ていた。
「待て待て待て! 待つのだ! どういうことだ!」
「どうもこうも、私ではどうにもできないこの世界の事情があるようですので、無理です。早急に人工授精の技術開発に着手する事をお勧めいたします。では!」
「待て待て待て! 待つのだ! お前、私を見捨てるのか!」
「……え? 見捨てる? 勘違いしないでください。そもそも、房中術だか何だか知らないけど、そんなこと遊女の業務の範囲外です、それでもここまで付き合ったんだから、むしろ感謝して欲しいくらいです。私は花街に帰ります。では!」
「待て待て待て! 待つのだ! いや、待ってくだされ!」
この人、さっきから、“待て”しかしゃべってない。どうした、イケオジ。
「……こうなったら背に腹は代えられん、レイラン、そなたが陛下に女を教え、目覚めさせてやってくれ!」
「……。」
でたでた、言われるんじゃないかと思ったよ。でも私の答えは決まっている。
「お断りします、私に相手をして欲しいなら、きちんとご予約頂いて、妓館にお越しください。出張サービスはもう二度としないことにします。その代わり、お起こしいただいた際には、たぁっぷりサービスしますよって、陛下に伝えてください。では!」
童貞捨てるくらい、お忍びで一晩花街に来れば済む事だろうが、引きこもりの中年おやじめ。
こうして、私は花街へと戻るのだった。
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