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16 房中術講座
しおりを挟む(sideジュンシー)
暴れていたレイランも、そろそろ落ち着いた頃かと思い、ジュンシーはレイランの居室となった十番妃の離れへと向かった。
その途中、後宮内で信じられない人物に遭遇する。
「へ、陛下! 如何なさいましたか! ついに後宮の門をくぐられたのですね!」
途中でジュンシーが遭遇したのは、この国の皇帝であり、この後宮の真の主であるその人であった。
「……ジュンシー、猫が迷子になって宮廷の池の鯉を狙っていたよ。しっかり見張っておかないと……逃げ出すかもしれない。」
「……はぃ?」
皇帝陛下は、意味深な言葉をジュンシーに告げ、ご機嫌な様子で宮廷へと続く道を戻って行った。
ジュンシーは考える。
……猫? ……鯉? ……逃げ出す?
「はっ! まさか!」
容易にその答えにたどり着いたジュンシーは、レイランのもとへと急いだ。
「レイラン殿!」
「……何よ、悪の根源め。」
ジュンシーの予想に反し、レイランはおとなしく部屋にいた。機嫌は直っていないようだが、逃げ出していないことに安堵する。
「レイラン殿、すでに妓館には対価を支払ってきている、逃げ出したりすれば、どうなるか考えるように。」
脅すようで申し訳ないとは思いつつも、ジュンシーは背に腹は代えられぬと、禿とレイランに少しばかりスゴンで見せた。
「っは?! ……に、逃げたりしないわよ(小声:さすがにもう……)……ただ、お願いがあるの。」
逃げないと約束するレイランの願いを出来る限り聞いてやりたいと思うジュンシーは、願いとはなんだ、と尋ねた。
「私、ここにいる間、ずっと誰とも何も出来ないなんて耐えられない! 本当に干乾びちゃう! だから、夜だけ外に出てもいい? 絶対戻って来るから! お願い!」
ジュンシーは、先ほど聞いたレイランのあの信じられないセリフを思い出していた。
“三度の飯よりセックスが好き”
冗談ではなく、本気で言っていたのか、と思い、頭を悩ませる。
「つまり、外で男と会うつもりか?」
「んーん、花街で仕事する。大丈夫、朝には花街を出るから。」
後宮から花街までは遠くはないが、決して近くもない。馬を走らせるならまだしも、女と子供が毎日朝晩と出入りするなど、悪い意味で目立ってしまうに違いない。
「……お前の客は、そんなに多くないのだろう?」
「……失礼ね、人数は少ないけど、頻度はすごいの! 大体、毎日予約は入ってたんだから。」
そうは言っても、妓館はレイランをここへ送り出したからには、その予約はキャンセルとしているはずだ。レイランはその考えに至っていないのだろうか、と思いつつも、ジュンシーはあの二人の事を思い出した。
「……私の知る中に、お前の客が二人いる。」
「っえ?! 誰?! 私、お客様の個人情報って教えてもらえないから、最近聞くのもやめたの! 誰?!」
「……フェイロンとウンランだ。」
「っ!!」
レイランは目を輝かせた。
「……はぁ……では、どうしても我慢できない夜だけ、あの二人のどちらかをこの後宮の近くの部屋に呼んでやろう。それが私のできる最大限の譲歩だ。だが、毎日は無理だぞ。……それでどうだ?」
輝いていたレイランの目は途端に光を失った。なんというわかりやすい女だ、とジュンシーは笑いそうになる。
「“どうしても我慢できない夜”が毎晩だったら? ジュンシー様が相手してくれる? ……あ、ついてないんだっけ……はぁ……。」
レイランは、ジュンシーの股間部分をじっと見て、ため息をついた。
「なっ! 失礼な! 私は、宦官ではない! ちゃんとついている!」
何をムキになっているんだ、と、自分で言っていて、恥ずかしくなるジュンシーだったが、それ以上に、ジュンシーについていると知り、なぜかニヤリとしたレイランの笑みに、背筋がぞっとしたのだった。
「わ、私はお前とは寝ない! 絶対にな! “どうしても我慢できない夜”は最大でも週に二度だ! いいか、これが守れないなら、ここにいる間は、“ずっと我慢”だ!」
ジュンシーはレイランと目を合わせぬよう、まくしたてるように告げた。
それを聞いたレイランは、少し考えるそぶりを見せた後、渋々承諾する。
「……けちんぼ……わかった、って言うしかないじゃない……。」
なんとも背筋の凍る交渉を成功させ、ジュンシーはレイランの離れを後にした。
(sideジュンシー )end..
○○●●
「レイラン様、よかったですね!」
「リンちゃん……そりゃさ、ゼロよりはいいけどさ……週に二日って……。」
ジュンシーの口からあの二人の名前が出たときは、すごく驚いたが、たまに会えるのがあの二人でよかった。
フェイロンは回数こなしてくれるし、ウンランは私の気持ちを、自尊心を高めてくれる。
私にとっては、心と身体の栄養素でもある二人だ。
「でも、私がこんなところにいるなんて知ったら、驚くだろうね、二人とも。」
「そうですね! 最初はフェイロン様とウンラン様、どちらが来てくださいますかね!」
リンちゃんの何気ない言葉に、私はふと、先ほど再会を果たした私のヒーローの顔が浮かんだ。
あの人も、お客様だったらよかったのに……ジュンシーの知り合いみたいだったから……。
そして翌日から、私は花街で売られているエロ本と官能小説を九名の妃達に行き渡るように準備してもらい、ジュンシーに配ってもらった。そしてあらかじめ妃達にはそれらをすべて読んでもらい、後日、私が質問に答えようと考えたのだ。
やる気のない生徒に教えてやるほど、私は人間出来ていない。
読んで来いと言われた物を読んで来ないような生徒は、一生マグロ女でいればいい。
こうして迎えた、第一回房中術講座の参加者は、なんとゼロ。
「……ちょっとジュンシーさん? 生徒さんが見当たりませんけど。」
「……すまないレイラン殿……配布した書物が少々刺激が強すぎたようでな……俗物だ、と言って結構な数の妃が拒絶してしまわれて……。」
まぁ、そうだろうね、自分たちは男に奉仕する気なんて全くないんだろうから。
あぁ~、私の一番関わりたくないタイプの女の巣窟ってことだよね、ここは。
「……ジュンシーさん、あなたが何をしたいのかわかりませんけど、本人達にやる気がないのに、周りが無理やりやらせたって、上達しませんよ? 骨折り損のくたびれ儲けってやつです。もうやめません? 私、花街に帰りたいんですけど。支払ってもらった代金、返金できないか、シアさんに交渉してみますから。」
と、その時だった。
「おや、先生しかいないようだね。」
講義の部屋に、突如私のマイヒーローが現れた。
「へっ! ッムグッ……!」
「ジュンシー、くしゃみは向こうでしてくれよ。先生に唾が飛ぶではないか。」
どうやらジュンシーさんは、元祖コメディアンのようなクシャミをするようだ。
ジュンシーさんの口をふさぎ、私に唾が飛ばないようにしてくれたらしいマイヒーローの優しさに、ドキがムネムネする。
生徒はゼロでも、マイヒーローに会えたので、良しとするか。
「ジュンシーさん、では、刺激の弱いものを用意して、また後日、集めてください。」
「いいのか? 先ほどまで帰ると言って私を脅してっ……ッムグ……!」
マイヒーローの前で余計な事しゃべるんじゃねぇよジュンシー! 私は、ジュンシーの口に用意されていたまんじゅうを突っ込んだ。
「ははは、ジュンシーは食いしん坊だな。」
はぅっ!! なんて素敵な笑顔! たまんない!
次は名前! 絶対に名前を聞いて、もう少しおしゃべりするぞ!
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